第二十三話
御伽学園戦闘病
第二十三話「暴走」
素戔嗚の腹に風穴が出来ていた。
「すさ…のお?」
素戔嗚は蒿里の呼びかけにも答えずゆっくりとその場に倒れ込んだ。蒿里が声を上げながら駆け寄る、だが素戔嗚は目を開かずに動かない。
「蒿里!早く素戔嗚を後ろに下げろ!」
蒿里はラックの指示通り指示通り素戔嗚を担ぎ後方へ下げた。前衛はラックと流の二人、後衛に動けない素戔嗚と蒿里、ニアの三人だけだ。主戦力の素戔嗚が戦闘不能になりラックの考えていた作戦は全て水の泡となった。
ラックも直ぐに作戦を立て直さなくちゃいけない、だが素戔嗚の状態が気になり考える事が出来ない。素戔嗚の事に関しては一旦忘れよう、などと考えても直ぐに素戔嗚のあの表情が頭に出てくる、もう何も考えられない。そんな時ふと思い出したポケットに入れている物を思い出した。ラックはすぐさまポケットからグレネードを取り出した。そしてピンを抜き誰にも当たらない様な場所に投げる。
「全員耳を塞げ!」
その瞬間凄まじい轟音と共にグレネードを投げた場所が抉れて鉄壁と塗装が剥がれ、石が剥き出しになった。
「これで素戔嗚は大丈夫だ!流やるぞ!」
「え?…うん!」
ラックと流は同時に踏み込む、クアーリーは地面に触れ素戔嗚も起こした棘を二人に目掛けて発生させた。それだけでは無い、銃口をラックの眉間に向け二発発射した後すぐさま流の方に銃口を向け残りの四発を全て撃った。
ラックは全てをうまく交わしたが流にそんな身体能力はない、棘は避けたが弾丸を一発腰にもらってしまった。流は腰を抑え唸る、ラックは流の方なんて気にせずクアーリーに近付く。
だがそれはいい判断とは言えなかった、ラックはクアーリーが懐から短剣を出しているところまでは確認できたが避ける事はできなかった、足をクアーリーの顔の高さまで振り上げ蹴ろうとする。クアーリーは短剣をラックの右足のくるぶしに突き刺した。ラックは一度距離を取り傷つけられた足を横目で見る、足からは突き刺した面積と比例しない大量の血が出ている。
「すまん流!一度止血をする!なんとか耐えてくれ!」
「分かった!」
今度はラックも後方に下がり、前衛は流一人となった。流は深呼吸をしてクアーリーの方を向き言った。
「そっちから来い!何があろうが僕は倒れない!」
それだけ行って攻撃体勢を取って構えた。クアーリーは言葉すら発さず流に向かって銃を向け躊躇なく六発全てを撃った。その後は直ぐに地面を触り、棘を発生させる。流は動かなかい、弾丸の位置を全て把握してから首を九十度曲げ地面を見た。弾丸が流の直ぐそこまで来た、クアーリーは勝ちを確信したのか力を抜く、だが弾丸は流に当たらず壁に当たった。棘は流のいる地点まで達した瞬間消滅した。クアーリーは驚き、焦って再び棘を発生させる、だが先ほどと同じく流の地点まで行った瞬間に消滅する。
「何故だ」
「お前の能力は『物質を好きな形に変えられる』とかそんなもんだろ、だったら僕が立っている場所を鉄では無い場所にすれば鉄を棘に変えているお前の攻撃は届かない」
流は自分が立っている場所を指差した。流の立っている場所は鉄ではなくグレネードの爆発で抉れた石の部分だった。それに気付いたクアーリーは直ぐに銃を構え流に向かって撃つ。流は弾丸がどのルートを辿るのかを頭の中で考え当たらない体勢を取る。見事に銃弾は流の後ろの壁に当たり、流は無傷だ。
クアーリーは痺れを切らしたのか懐からもう一つ玩具の銃を取り出した。そして二丁拳銃の様に持ち六発ずつ、合計十二発を全て流に放った。流石に十二発全てを交わすのは無理だと思った流は石の部分から出た。その瞬間流の地面は棘に変わり流の左腕を小さい穴だらけにした。だがそれだけで終わるはずがない、再び棘が襲う。今度は天井から左腕を突き刺した。流は上下の棘に拘束され動けなくなってしまう。
ラックはまだ動けない、素戔嗚は目を覚さない。絶体絶命の状況だ。クアーリーは絶好のチャンスを逃さない。銃を一丁持ちの変え確実に当たる様数秒構えた後六発全てを流に撃った。蒿里はその状況を見て焦りからかパニックになりニアはさっきから動けないままだ、ただ張本人の流は諦めて目を閉じた。
弾丸が発射されてから数秒経ったが流には弾が当たらない。恐る恐る目を開けてみると水葉が剣で全ての弾丸を落としていた。弾丸を落とした後は流の拘束を無理矢理解き、一度距離を置かせた。
駆けつけたのは水葉だけではない。後方には小さいポメラニアンがいる。ラックがポメラニアンに指示を出す。
「ポメ、まず俺の足を適当に石で埋めてくれ」
「きゃん!」
ポメは鳴いた。すると剥き出しになっている石が浮いて後方に飛んでいく。石が小さく刻まれラックの足の怪我している部分を埋め尽つくす。ラックは痛そうにするが直ぐに立ち上がりポメにもう一度指示を出した後に前衛に戻る。その指示は目に見えない程小さくなっている素戔嗚の体のかけらを集め元の形にしてくれ、という指示だ。一見無理に思えるがポメは出来るだけのことをやろうと能力を発動し小さい小さいかけらを集め始めた。
「水葉さん血が…」
「これはさっきの戦いのだから気にしないで」
「勝ったんですか!?」
「うん」
「それなら…頑張りましょう」
「黒狐は力出しすぎて使えないから剣と物理だけね」
その瞬間水葉が目にも止まらない速さでクアーリーの顔を蹴った。ラックは足払いでクアーリーの体制を崩す。前屈みに倒れかけているクアーリーの腹に流は肘打ちをした。
クアーリーは連撃まともな呼吸が出来なくなりお腹を抱えてうずくまった。それを見た水葉はトドメを刺そうと近づいた、その瞬間クアーリーは顔を上げ叫ぶ。
『アイアンメイデン』
叫んだ瞬間四方から長い長い棘が三人に向かって飛び出した。後衛はポメが一瞬にして石で球体のバリアを作り無傷だが、前衛の三人は体の至る所に棘が刺さった。だが刺さるだけではない、棘が全て元の壁に戻った。ラックと水葉には相当大きい穴が出来ている。二人は衝撃からか気絶して倒れた。
ただ一人立っている流は数秒俯く、そして途轍もない霊力を放ちながら水葉の剣を手に取り、クアーリーに近づいた。クアーリーはあまりの霊力に動けず腹部に剣が刺さる。流は何度も刺し、抜き、刺し、抜きを繰り返した。クアーリーは口から血を吐き出し、流にもたれ掛かった。
そしてクアーリーは聞く。
「お前は…誰だ」
姫乃 香奈美
能力/降霊術
上級の鳥霊を呼び出し戦う
強さ/生徒会最強
第二十三話「暴走」
2023 6/24 改変
2023 6/24 台詞名前消去




