第二百二十八話
御伽学園戦闘病
第二百二十八話「逆流」
歩いて行く二チーム真正面にいる、相対する事となるが誰も話さなない。緊迫した空気が流れるだけだ。そして移動部屋まで到着した。中ではファストが待っていた。
そして説明する。
「ルール上七対五になる、乱入は一応オッケーだけど…誰も来る余裕はなさそうだから諦めて。こおこにいる人達だけで戦う、良いね?」
「分かってるわ」
「大丈夫~そんなことぐらい分かってるから~」
余裕綽々、少しイラついて来る程の楽観ぶりだ。だがそんな事気にしている時ではない、決戦が始まるのだから。そしてファストが自身の時計を見て位置に付いた。
「まずTISから。掴まって」
先程と同じ様に掴まった、その直後姿を消した。そして次にエスケープだ。戻って来たファストはエスケープに一言残す。
「あいつらは本気で殺す気だ。特にラックに興味があるらしい、気を付けてね」
「分かっている。早く行こう、時間は与えてはいけない」
ラックの一声を聞いたファストは安心したのか発射準備をした。そして五人が触れたその瞬間、走り出した。とんでもない速度で海を渡り、島へ、そして適当な位置に配置していった。
全員の設置が終わったら帰還する。ほんの数秒の事だったが緊張が凄かった。もし走っている間に不意打ちでもされたらたまったものじゃないからだ。
「あとは…頑張ってね」
[紫苑視点]
飛ばされたのは住宅街、あまり得意とは言えないエリアだ。だがどうやら逃げることは出来ないらしい、物凄いスピードで近付いて来ている気配がある。
しかも嫌な気配だ。出来れば戦いたくないので背後に気を付けながら逃げ出す。だがどうやら叶わないらしい、もうすぐそこだ。
このままでは追いつかれる、仕方無いので振り向き、戦闘体勢に入った。するとやはり突撃してきているのは奴だ。
「よぉ紫苑!やろうぜ!!」
健吾だ。とても嬉しそうにしている。そんなに戦えるのが楽しみにしていたのだろうか、そう思いながらリアトリスを出す。そして掴まって宙に飛び立った。
素の状態で殴り合って勝てるはずがない、どうにかして搦手や一発芸のような技で倒すしかないだろう。まずは宙で作戦を、そう思った時だ。
「逃げんなよ!!」
思い切り地面を踏みつけて跳び上がって来た。あまりにも高い飛翔、紫苑たちを追い抜いた。まずいと感じたのですぐさま横に移動したがどうやら遅かったようだ。
落ちて来る健吾の拳は紫苑の頭に直撃した。言葉にできない痛みと感じる脳の揺れ、既に意識が保てなさそうだったがリアトリスが手を放し、落とした。
そこまで高い場所では無かったが普通に痛い、あまり良い方法では無いが手っ取り早くはある。地面に衝突した痛みで無理矢理かき消した。
「いってぇな!!」
それは二人に向けてだ。だが怯まず、立ち上がって距離を取る。リアトリスを背後に付けて再度構える。どう考えても勝ち目はないはずだ。となると何か策があるのだろう。
健吾は楽しそうに笑いながら突っ込む。何の対策もせず、どんな事をしてくるのかが楽しみで仕方無いのだ。すると間合いに入った所で視界が揺れる、リアトリスが触れたのだ。
ただそれだけではない。直後自身が振り子のような動きをしている事に気付く。恐らく平衡感覚が崩され、変な動きになっているのだろう。
「それだけか!?」
「んなわけねぇだろうが」
紫苑がキツイ口調で返したその時、あまりにも酷い一手が撃たれた。醜くも、最善の一手だ。
「バイバイ!!!」
背中を向けて逃げ出した。リアトリスは多少遠くても能力を発揮する。なら逃げるぐらいは出来るだろう、霊力放出を抑え身を隠した。暗い暗い場所、そこに逃げ込んだ。
すると遠くから近付いて来ている音が聞こえる。リアトリスにはバレないように先程の場所に待機してもらっている。するとドンドン近付いて来ているのが分かる。
「…?」
何故近づいて来て居るのか分からない。まるで位置が分かっているかの様な動きだ。そして既に半径数メートルまで寄って来た。焦ることは無く、ゆっくりと立ち上がろうとするがその音を出す事さえもはばかられる。
なので全く動く事は無く、光が差すのを待つだけだ。すると数秒後、光が差した。
「なんでここなんだよ」
すぐにアッパーをかまし、そこから飛び出した。隠れていた場所は床下扉、その収納スペースだ。そこで分かったのは位置が確実に分かっている事、そしてアッパーなんかでは怯まない事。
「弱いな、アッパー如きでやれると思うなよ!!紫苑!!」
再度拳を振り下ろす。だが紫苑はそれをかわした。狭い収納スペースだがギリギリ避ける事は可能だ。ただ完全に回避するのは不可能で少し顔が切れて血が垂れ始めた。
直後紫苑は抜け出そうとする。だが健吾の屈強な体に阻まれ、出る事は出来なさそうだ。ならば、リアトリスを使うまでだ。呼び戻し、触れさせる。
リアトリスは直接触れると効力が強くなる。一秒も経たぬ間に視界が揺れ始める。
「それで何をする気だよ」
「別に何をするわけでもねぇよ、それでいい」
そう言った通り紫苑は抜け出そうとしない。フラフラしてる健吾を無視して収納スペースで待機している。明らかに何かある、これで何もないは通らないだろう。
リアトリスは離る気配が無い、なのでもうゴリ押す事にした。揺れながらも無理矢理拳を握り、放った。するとその拳は紫苑に当たった、と思われた。
実際は床を貫き、収納スペースを破壊した。その瞬間紫苑は抜け出した。だが今度は逃げるわけでは無く、攻撃に転ずる。
「リアトリス!そのままだ!」
リアトリスは頷き、背後から触れている。健吾は眼もくれず紫苑の攻撃に対抗する為か拳を握り、能力を使用した。すると全員部屋の中に放り込まれた。
「これで吹っ飛ばねぇな!!」
「あんがとよ、無駄だけどな」
健吾は殴打、紫苑は蹴りだ。二人の攻撃がぶつかったその時、強烈な風と共に部屋が解除された。健吾が吹っ飛ばせないと判断し、無駄な霊力の消費を抑えたのだ。
そして両者距離を取った。リアトリスも自身の背後に戻し、その内平衡感覚が戻るだろう。ただ問題は無い、そこで始めるんだ。過去に培ったとある戦い方を。
「やっぱ拳と一ヶ月つきっきりで訓練して良かったわ。こういうところで、役に立つ。こい、リアトリス」
真横に付く、本当にすぐそこ、息遣いも完全に感じ取れる至近距離だ。そして全く同じ動きを始めた。ラックと戦った時の躑躅の様に、同じ動きをしているのだ。
そして再度攻撃を始めた。距離を詰め、二人で一気に拳を放った。健吾は始めて見た攻撃だったので何も抵抗せず受ける。すると思っている以上に痛い攻撃だった。
だがそれはリアトリスと同時に攻撃したのと、ガードしなかっただけだ。そこまで強い攻撃とは思えなかった、ひとまず反撃の為に部屋を展開しようとしたその時、殴られた部分にとてつもない激痛が走る。
「これが…その戦法の真骨頂か…」
「そうだ。まぁお前の場合は身体強化じゃないからあんまり効かなそうだけどな。これマジで意味不明なんだよ、その内解明されると良いな。まぁバックラーは弱いし、あんまり進まなそうだけどな」
そう言いながら蹴りを繰り出す。今度はしっかりと腕でガードしたがそれも駄目かもしれない、能力を発動しないと分からないが、したくない。
何故なら外傷ではなく、内側から喰い破られる様な痛みだからだ。健吾はそのタイプの痛みが嫌いだ。耐えられないわけでは無いが機嫌が悪くなる、そうなると攻撃の精度も落ちるのであまりよろしくない。
なので能力の使用を封じられたも同然だ。紫苑は別に痛みの耐性の件を狙ったわけでは無いだろうが奇跡的に噛み合ってしまった。
「そんじゃ次だぜ!!」
今度は殴りだ。紫苑はそこまで速くない、流や拳などに比べたらカメ並みに遅い。だが何をしてくるかが分からない。本拠地急襲時におっさんとの戦いも見た。
あのおっさんは重要幹部では無かったがその理由はムラが酷いから、だ。実質運ゲーだ。だがあの時は滅茶苦茶調子が良いように見えた。それなにも関わらずブラフで突破していた。今回もそう言った事をしてこないとは限らないのだ。
リスクは高いが殴り合うのも良いとは思う。ただ自身への降霊を可能としている時点で警戒すべきなのだ。だから殺しに来た、強い奴だからだ。
「日和ってちゃぁしょうがねぇよなぁ!!!」
ここで待機して何になる。ガードして何になる。突っ込んだ方が面白い。防御は捨てた。思い切り力を込め、能力を発動しながらぶっ放した。
当然腹部と左腕に激痛が走るが構う必要は無い。攻撃に特化する、これ以上攻撃されなければ全くと言っていい程問題は無い。そして両者の攻撃は片方しか当たらなかった、健吾の攻撃だ。
「うっそだろ…」
部屋の壁に打ち付けられた。本来なら吹っ飛んでいる内に体勢を整えることが出来るが、近距離の壁に当たったのでそれすらも出来ない。間髪入れない追撃を行うため一気に距離を詰めて来た。
だが紫苑も負けていられない。顔面を殴られたせいで血だらけで、ヘロヘロだが戦える。何よりラックの元へ行ってやらなくてはいけないのだ。こんな所で、負けてはいられない。
「リアトリス!!」
リアトリスに掴まって反対側の壁まで移動した。だが健吾は目にもとまらぬ超速でドンドン距離を詰めて来る。少しでも余裕がある上空に逃げる事でも出来ない。健吾が能力の発動を停止させるまでこのままだ。
だが紫苑には一つ、道があった。健吾が同時殴りでの激痛をくらうと知った際に決めた、一つの道。
「逃げてんじゃねぇよ!!」
笑いながら突っ込んで来る。既に聞いた事はあったがやはり戦闘病患者なのだろう。ただそこは問題ではない、一番の問題は防御を捨てた事だ。
健吾は体術だけで戦っている。別に部屋を展開しなくとも戦えるはずだ。それなにも関わらず痛みをかえりみないその行動、全てが予測不能である。
「俺は術を使わねぇんだ。それに加えてバックラーってのは霊力消費が少ない。切り札の降霊含めても、100ぐらいなら余裕がある」
そう言いながら部屋に対して霊力を流し始めた。数瞬だった、健吾の体に一瞬何かの異常が発生した気がした。だが何かは分からない。分からないので突っ込むだけだ。
だが次の瞬間、何が起こったか理解した。手が動かない、体が動かない。だが麻痺して倒れるわけでも無い。硬直している。だが紫苑は動いているしギリギリ目に入る時計の時間も進んでいる。健吾だけが止まっているのだ。
「なんだ?これ」
言葉も出る。
「俺の霊力はちょっとだけ特殊なんだよ。能力の発動には問題ないんだけどよ、人に直接流すと逆流しだすんだよ。だからそいつに元々入ってる霊力と対抗しだす。普通なら能力が使えなくなるだけだ…なんでお前能力発動してんだよ?それになんで体が止まってんだよ」
「知るかよ、分からないならやるんじゃねぇよ」
「まぁ良い。能力が閉じなくとも動きが止まるのなら問題はねえな。ぶっ飛ばす」
「やるか!!紫苑!!」
『降霊・リアトリス』
「お前に全てぶつけて、ラックの所に行く。それが俺の、使命だ」
第二百二十八話「逆流」




