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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
第八章「大会」
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第二百二十六話

御伽学園戦闘病

第二百二十六話「一回」


加入はあまりにも簡単なものだった。予想通り心は見られたが素戔嗚に対しての敵対心のみ、問題なしと判断されそのまま加入。強くなっているのは容易に分かる為か最初から重要幹部だった。

既に蒿里と素戔嗚、流もいた。だが触れ合う事は無かった。皆同じ気持ちで、触れ合いたくないのだ。今はこの空間に身を置いておきたいだけ、そんな者達なのだから。

そんなある日、玉座の間に呼び出される。


「やぁ、元気してるかい」


「なんだ。俺もやる事がある、早くしろ」


「そんな怒んないで~重要な事さ、君にはある場所に行ってもらう」


「何処だ」


「黄泉の国さ、エンマが呼んでいるよ」


「エンマとは誰だ」


「うーんそこからか」


少し面倒くさがりながらもマモリビトの件を説明した。そして黄泉のマモリビトが現在エンマと呼ばれている人物だと言う事も。すると遠呂智は拒否した。

あまり時間が無いのだ。既に時は十二月後半、やるべき場所は大会だ。やり方は出来ている、後は実践するだけなのだ。そんな状態でわざわざ行く必要は無い。


「良いの?刀迦いるよ?」


誰か分からない。すると佐須魔は心を覗いたのか説明する。


「[神兎 刀迦]、神話霊干支兎を使役していた。そして最強の剣士さ、素戔嗚、矢萩、何なら君の三人まとめてかかっても瞬殺だと思うよ。しかも今は干支兎持ってないからね~それでもそのレベル、って事さ。どうだい?興味は…」


「分かった。行く方法を教えろ」


「おっけ~じゃあこっちも説明しとくね~」


次は地獄の門の事も説明した。佐須魔、蒿里、蒼の三人が所持している特別な能力だと言う事を。そして文字通り地獄の扉を操作出来る能力なので、本来ならその能力を使用して黄泉の国と繋げるのだが今回は正式に呼ばれているので遣いが回収しに来るだろうとの事を。


「じゃあ俺はその地獄の門の前に立ってれば良いんだな」


「そうそう」


「何処にあるんだ」


「まぁ何個かあるけど…一番手っ取り早いのは学園がある島の、禁則地だね。あるだろ?絶対に入ってはいけないところ、あそこにあるんだよ。最近蒿里が開けちゃったけどね」


「分かった。そこに行けばいいんだな、じゃあ行く。俺も時間が無い」


「ほどほどに、ね。あとこれ、持って行きな」


佐須魔は鞘を渡した。それには[唯刀 龍]と記されている。気になりはしたが時間がない、既に姿を消していた。そして向かった場所は現世だ、仮想世界にある本拠地から出て島へと向かう。出た場所は東京の一角、ここから渡るのは少々面倒くさい。

ただ仕方無いので行くしかない、オロチか大蛇を使えばそこまで遅くは無いはずだ。だが時間は無い、一刻も早く到着するべきだ。まず海岸沿いまで全力で走り、誰もいない事を確認してから唱える。


『降霊術・神話霊・八岐大蛇』


出て来た大蛇は何をするか瞬時に察知し、水に飛び込んだ。そして水面に立つ。


「そんな事も出来るのか」


「まぁな。理論は…時間が無いそうだし説明は無しだな。さぁ乗れ、行くぞ」


「あぁ、分かっている」


大蛇の背中に飛び乗った。すると早速動き出す。とんでもない速度で走り出した。コピーではこんな事は出来なかった。だがこいつは成し遂げている、そこに何の違いがるのか分からなかったが最近分かった。

恐らく天仁 凱は未だ(シン)の中で生きているか、暴走によって呼び起されたかで意識を取り戻したのだろう。そしてこの大蛇もその時、常に成長していた。逆に言えばオロチは天仁 凱の元に居なかったので同じように成長していないのだ。

それも遠呂智に霊を鍛える力が無かったからだ。


「さぁ着いたぞ」


たった数分で到着した。とんでもない速度だが気にする事では無い、上陸し、大蛇に還ってくるよう指示を出す。その後禁則地へ向かう、半年以上来ていなかったこの地に足をつけ何処か懐かしい雰囲気を感じた。

だが感傷に浸っている余裕は無い。走り出す。少しでも時間を短縮するのだ。禁則地の鉄柵を乗り越え、進む。中に入った時に感じた強大で吐き気を催すような嫌な霊力、そこに向かうのだ。

すると懐かしい声が聞こえて来る。


「よぉ、レアリーから話聞いたけど、やっぱ嘘だよな。だって黄泉の国に何か異変なんてなかったもんな」


ラックの声だ。そして続くようにして菊の声も聞こえる。


「言うか?」


二人が会話をしているが構わない、冷静沈着、ゆっくりと扉の方へ向かう。あまりにも強大な霊力を前にして少し足がすくみそうになったが気合で歩く。

するとそこで気付かれた、黑焦狐が言う。


「何故、ここにいる」


すぐに刀を抜き、斬りかかる。ラックや菊は絶対に止めて来るだろう、少し心は痛む気がするが問答無用だ。するとラックは振り向きながら蹴りを繰り出して来た。

その時、異常な事に気付く。刀がボロボロになっているのだ。鞘を変えた時は普通だったが、変になっている。これも仮想世界の弊害かと思い、分が悪いので戦闘はやめておく。


「お前、仮想に行ってんのか」


そんな事を訊ねているが全て無視だ。向かうべき場所がある、もうすぐそこだ。振り切ってでも飛び込む。ただ当然ラックは肩を掴んで止めて来る。


「お前らに迷惑はかけない。構うな、まだその時じゃないんだ」


そう言って手を跳ね除けた。だが再び触れようとしてくる。どうせ兵助がいるのだ、問題は無いだろう。無詠唱で大蛇を呼び出し、手を吹き飛ばした。

当然黑焦狐が止めに入ろうとしたが言霊が放たれる。


『やめろ』


ルーズだ。その元へ行き、移動を待つ。ラックが止めようとした直後、瞬間移動が発生した。それは恐らくエンマのものだ。行先は宮殿、その玉座だ。

そこにはエンマが座っていた。


「やぁ、こんにちは」


「何のようだ。俺はお前には興味が無い」


「ま~た尖ってるね~まぁいいや、君に言っておかなければならない事がある」


「なんだ」


「君は天仁 凱から大蛇を授かったね?」


「あぁ」


「分かった。それが聞きたかった、君は死んだら無に送られる。疑う様で済まないが初代ロッドとそう決めているんだ、天仁 凱から何か授かったモノはもれなく全員完全死、無に送るとね。

それが愛しの娘や大切な戦友でも僕は決めたルールに従うんだ。ごめんね」


「……分かった。良いだろう。その代わり、合わせろ」


「はいはい。刀迦ー!」


そう呼ぶと窓ガラスを突き破って飛び込んで来た。紫の髪、黒い軍服の様な戦闘服に白く綺麗な上着、そして背中に背負っている兎のバッグと垂れているウサ耳の帽子、そして何より目立っている刀だ。

鞘には[唯刀]と刻まれている。


「唯刀?」


「誰」


「TIS重要幹部、[山武 遠呂智]だ。見ての通り、刀を使う。時間が無いがお前と戦いに来た。最強らしいからな、手合わせを願いたい」


「別に良いけどちょっと待って」


刀迦は刀を鞘に納め、軽く砂を落としてから部屋を出る。扉を開けながら呟くようにして伝える。


「付いて来て」


言われた通り刀迦に付いて行く。小さな体だがとんでもない圧と霊力、そして気迫を放っている。正直怖い、だが引くことは出来ない。どうせここなら死んでもどうにでもなるのだろう。


「餌、上げる」


そう言って玄関から外に出た。大きな庭には兎が飼われている、刀迦は先程までの不愛想な表情とは打って変わってとても嬉しそうに微笑みながら餌を上げている。

その様子を見ながら一つ聞く。


「何故ここでも訓練をしているんだ、どうせ現世には…」


「私は殺すしか出来ない。あんたと違って本当にそれしか生きる道が無いの、だからやってる。前戦争があった、その時あんたの中と私の仲間も戦ってくれたけど、本土は私一人で墜とした。殲滅、抑止力のために雇われている。

私は筋力が無い。だからこれが転職なの、だからやってる。これ以上の説明いる?」


「いや、いらない。だがにしても何か別の要因がある様な気がするがな」


「あっそ。勝手に思ってれば。私はこのままで良いから。とりあえずやろうか」


餌を上げ終わったので立ち上がった。そして遠呂智の鞘に[唯刀 龍]と書いてあるのが目に入り、追及する。


「なんで唯刀」


「佐須魔に渡された、鞘だけだ」


「…あぁそう言う事。渡せって事ね。まぁいいや、やるよ」


庭から離れる。すると少し先にまっさらな戦闘フィールドのようなものがあった。刀迦はそこで止まり、刀に手をかける。


「おれはこのオンボロで戦えば良いのか?」


「うん。早くして、一秒もいらないけど」


遠呂智が刀に手をかけた、その瞬間刀迦の姿が消えた。それと同時に視界が変わる、逆転した。そして何が起こったのか瞬時に理解する。

首が飛んだ、斬り飛ばされた。動いた事さえも分からなかった。本当に一瞬だった、音もなく消し飛ばされた。そして視界が真っ暗になった。



どれ程時間が経っただろうか、ゆっくりと目を覚ます。するとそこには胡桃とフェリアがいた。


「ん、起きた。後は頼むね、フェリア」


「はい。分かりました、胡桃さんもごゆっくり」


「うん。それじゃあね、遠呂智。頑張って」


それだけ言って胡桃は部屋を出て行った。そしてここが医務室なのがすぐにわかる。フェリアは軽く質問して問題が無い事を伝える。首を跳ね飛ばされたがエンマが治したらしい。

フェリアも別の仕事があるので部屋を出て行く。これ以上ここにいるとあまり良くないので帰るようにと命令された。何か収穫があった訳では無かったがそこに住んでいる者にそう言われたのなら従うが吉、帰る事にした。

ひとまず帰り方が分からないのでエンマに訊ねる事にした。部屋を出て玉座の間へ向かう、道が分からず困ったがそこら中にいる召使に訊ねて到達することが出来た。その時に佐須魔から連絡も来たのでさっさと帰る。


「入るぞ」


扉を開くとやはりそこにはエンマがいた。そしてフェリアもその隣で色々聞きながら仕事をしている。


「ん?どうしたんだい」


「帰り方を教えてくれ」


「分かった。そのまま戻すね、何処が良い?」


「TIS本拠地だ」


「了解。ちょっとだけ待ってね、仮想世界に飛ばすのはちょっと面倒くさいんだ」


そう言ったエンマは目を瞑って、黙り出した。フェリアは構わず仕事を続けている。そして途中でエンマが唸り出した。すると動きを見せた。エンマの手を握り、応援する。


「お父様、しっかり」


その数秒後、エンマが冷や汗をかきながら目を覚ました。


「やっぱ怖いね…あのペット君」


「行けるか」


「うん。じゃあ帰すね、行く…」


「待って」


帰還が止められた。それは刀迦だった。戦ったのだ、そして手合わせをしたいと申し込んで来たのだ、最強と呼ばれる刀迦に。その勇敢な心を評して、少しは訓練を見せてやろうと思ったのだ。

だが渡すのは刀一本と言葉のみだ。


「まずこれ、唯刀 龍、あんただけの刀。大蛇とオロチ、どっちも入れやすくなってるはずだから。感謝して使って」


その刀はギアルで出来ているのが丸わかりな程特別なものだった。あまりにも雰囲気が重く、受け取る事でさえもはばかられる。だがここで貰わなくてはボロの刀で戦う事になってしまう。

小刻みに震える手で受け取り、ボロの刀と交換した。


「そっちは私が貰う」


刀迦はボロの刀を奪い取った。そして最後に一言を送る、それは刀迦だからこそ出た言葉だ。だが適当な言葉だった。遠呂智を想って、などではない。ただ借りを作りたくなかっただけだ。


「刀は炎を宿す、あんたに出来るかは分からない。でも、その素質はあるよ。精々頑張るんだね。殺しは心で、やるんだよ」


刹那、視界は変化した。黄泉の国から仮想世界へ、TIS本拠地へ、玉座の間へ。そこには今回出場するメンバーが全員揃っていた。そして偽りであり、真の忠誠を見せつける。


「帰って来ました、佐須魔様」



第二百二十六話「一回」

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