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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
第八章「大会」
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第二百二十四話

御伽学園戦闘病

第二百二十四話「天仁」


「うっそだろ…使えるのかよ…」


能力を封じられたので降霊が解除され、ただの刀へと変化した。すると素戔嗚の攻撃がとても重く感じる。オロチの力が無くなったので色々と厳しいのだ。

ひとまず一旦距離を取ろうと考え後ろに下がろうとしたが許されるはずがない。


『呪・剣進』


その剣進は少し特殊であった。本来なら洋風の剣だが素戔嗚が使った場合は刀が飛んで来るのだ。ただ問題は無い、剣進程度なら普通に跳ね飛ばす事が出来る。下がりながら軽くいなした。

だがそれが狙いでは無い事にようやく気付く。刀に攻撃をしている内に素戔嗚が懐に潜り込んできている。そして次の瞬間、下から斬り上げられた。


「やはりその程度だろう、お前なんかが唯刀を持つのはおかしいんだ」


血が噴き出すが止まることは無い。今はひたすら距離を取るだけだ。だが素戔嗚も追いかけて来る。痛みのせいか少しだけ体が鈍くなっているような気がする。そう思うと更に鈍くなっている様にも感じて来て嫌な感じだ。

やはり今は素戔嗚に集中するしかない。逃げて自身の状態を再確認するのもあまり良い手とは言えないだろう。どれだけ違和感があっても無視して視線を常に敵の方へと向けるのだ。


「俺一人でも、戦えるさ」


戦闘スタイルを変えた。今までの連撃でゴリ押しはやめだ。素戔嗚の一撃が重いので体に限界が来る。一発一発を大切にして斬る方が多少だが楽になる。

息を整え一気に距離を詰める。二人の間合いは眼前、両者が刀を振るう。高い鉄の音が鳴り、離れては、鳴る。


「さぁ、撃てよ!」


「言われなくともやるさ、黙って死ね」


『呪・自身像』


その瞬間近辺の霊力濃度が増す。強くて七割程度、それでも充分強い。そして範囲は素戔嗚を中心とした半径約七メートルだ。その原因は当然、自身像だ。

そしてその自身像は思っている以上に面倒くさい奴だった。恐らくコピーや模倣した別の者であるのは確かだが、最悪な人間が出て来た。素戔嗚は奴の置き土産を使用して魂と同化したと言った、ならば一番強く印象に残っているのがこいつでも何らおかしくはないし、むしろ正常だ。


「行くぞ、天仁 凱」


赤茶色の和服、古ぼけた白髪にしわに乗っ取られた顔、そして何よりも右肩にチョコンと乗って強力な存在感を放っている異形の怪物。天仁 凱、そのものだ。


「小僧、わしに立てつくと言う事がどんな事象をもたらすか、分かっておるのか」


「知らないね。生憎俺は元のあんたに憑いていた霊と短い期間契約してたってだけであって呪使いじゃねぇんだよ」


「ふむ。八岐大蛇か、あいつは小心者だからな。わしが集めた神話霊は数多い、その中でも弱い方ではあったな。だが今考えると雑魚霊は少しでも取り込んでおくべきだった。初代ロッドが強くなりすぎた、あいつのせいでわしは地獄に…」


一人で後悔している。だがその姿さえも偽物、気色悪い。遠呂智は耐える事が出来ず突っ込もうとしたその瞬間、右肩に乗っている怪物が声を上げる。


『れま止』


逆だ。明らか逆だ。だが脳はすんなりと処理した。それと同時に体が動かなくなる。それは昔、模擬戦などでルーズにくらった言霊に近しい感覚を覚えた。ただ少し違う、普通の言霊は完全に思考が効かなくなる。

怪物が放ったのは自身の体が、動きを止めた。恐れている、その命令に背くとどうなってしまうのか。未知の恐怖と支配感にもみくちゃにされ、体が動きを止めた。あくまでも自身の意思で。


「ハッハッハ!!!」


これでもかとわざとらしい高笑いをしてから続ける。


「言霊の原型だからな。こいつはわしの言う事も効かない餓鬼だからな、お前がどうなるかなんてわしには分からん。好きにすると言い。

小僧は何もするなよ」


「分かっている」


素戔嗚は刀を鞘に納め、見守る。

そして遠呂智は動き出す。恐怖に何て屈していられないのだ。するとその様子を見た天仁 凱は少し感心してから唱える。


呪・蛙争(のろい・あそう)


直後大量のアマガエルが地面から穴を掘って飛び出してきた。そして遠呂智に向かって行く。そのどれもが今にもはち切れそうなほど体に見合っていない量の霊力を抱えている。

始めて聞く呪だったので対処が分からない。ひとまず近付けてはいけないと感じ刀で斬った。その瞬間、小さ爆発音と共にカエルが爆発した。

大した爆風ではなかった。だが威力が凄まじい、斬った際に飛んで来たカエルの体液も爆発したのだ。当たった部位は右頬だった。そして爆発すると右眼が破裂した。

火傷もしたし血の出方が異常だ。


「…斬ってはならないな」


冷静にそう考え距離を取ろうとしたが背後にもカエルが出てきている事に気付いていなかった。咄嗟に気付き足を上げたが遅かった。既に踏みつぶしていた。

再度爆発が起こる。踏んだ左足が吹っ飛ぶかと思ったが何とかなっている。その代わり痛みは凄まじいし、逃げる程の気力も無くなってしまった。


「その程度か、がっかりだな。八岐大蛇が契約する者と聞いて少しは楽しめるかと思っていたのにな…それともなんだ?狂い病か覚醒でもするのか?」


「残念だが…無いな。俺には適性が無いらしい……」


「そうか。期待外れも良い所だ。終わらせるか、せめて大技を魅せてやろう。小僧、魂を移しておけ」


「分かった」


『降霊術・面・鳥』


鳥の面を着けながらそう唱えた。半霊の目白が飛び出して来る。そこで唱える。


『独術・委託』


すると素戔嗚は魂が抜けた様にがっくりとうな垂れ、逆に鳥が元気付き天高く舞った。それを見た天仁 凱は短い雑談を持ち掛ける。


「わしは何百年も生きている。その中の短い期間、この世に存在していた期間で編み出したのが呪だ。わしは降霊術だけでも強かったからな、ついでに作っておいた。爪跡を残したくてな!

だがこの年になっても使われるとは思ってもみなかったさ。嬉しい事だ、わしも人間だ、神になろうとしたが惨敗だった。悲しかったさ……その時に使った術を使ってやろう。回避は出来ぬぞ、遠呂智よ」


呪詛(じゅそ) 天瀧(てんそう)


すると足元が水で満たされる。それは土を含んでいるはずにも関わらずとても澄んでいる真水だった。そして水は足首ほどの高さになると流れを止めた。綺麗にピタリと、水面すら映す事は無く。

とても心地良い、正に適温、全く不快感は無い。このままずっと浸かっていたいと感じる程に。だがその静寂は一匹の声によって遮られる。


「主を馬鹿にするなぁ!!!」


ハッとして目を覚ます。すると真横には怒りを露わにした八岐大蛇が立っていた。


「邪魔をするな、大蛇」


「「「貴様は主ではない!!消えろ!!消え失せろ!!」」」


八つの頭が全く同じことを言っている。そんな事は初めてだった。それほどに信頼して、頼っていたのだろう。


「わしに逆らうのか、大蛇。今すぐ何処かに行け、命令だ」


「言ったはずだ、貴様は主ではない!!殺す!!侮辱した罪を償ってもらう!!!」


すると素戔嗚も戻って来た様で刀を抜く。


「行くぞ、天仁 凱」


「良いだろう。わしのサポートをしろ」


「あぁ」


先に動いたのは勿論、天仁 凱だ。


呪・凍諦(のろい・とうてい)


放たれた呪は大蛇と遠呂智の足を凍り付かせた。だが二人には関係ない、大蛇の頭でかみ砕く。そして距離を詰めて来る素戔嗚を遠呂智が引き受ける。

両者冷静だ。血が溢れ、限界がそう遠くないであろうはずなのに意気揚々と戦いを挑んでいる。その様子を見た素戔嗚は万が一を取って一度後方に引こうとした。


「逃がすかよ!」


だが逃がさない。今までは違う、圧倒的な攻め。死を厭わぬ戦い方、一番苦手な奴だ。だがそれをカバーするのが自身像の役目だ。


呪・五号(のろい・ごごう)


現れたのは右肩に乗っている怪物によく似た頭のデカい異形の怪物だった。ただ明らかに違う点はある、目が無い。

くり抜かれているわけでも無いしのっぺらぼうのような感じでも無い。真っ白だ、黒目が無い。何故か分かるのだ、目が見えていないのだろうと。


呪・四号(のろい・よんごう)


そいつはそう唱えた。するとやはり、五号から飛び出す異形の怪物。今度は手がおかしかった、指が七本もあるのだ。そしてそのどれもがうねうねとしている、まるで触手だ。

次だ。


呪・三号(のろい・さんごう)


再び呼び出されそうになった所で大蛇が介入する。


「させない!!」


四号の頭を食いちぎった。すると五号、四号は甲高い悲鳴を開けながら塵になった。それと同時に天仁 凱の頭が吹き飛ぶ。


「気分が悪いな。偽物といえども主を殺すのは」


大蛇が言った通り天仁 凱は姿を消した。


「これでさらばだ。また会おう、遠呂智」


それだけ言い残し、八岐大蛇は姿を消した。


「呪を封じてくれた。ありがとう大蛇、精一杯、頑張るよ」


『降霊・刀・オロチ』


再び刀だけの勝負になる。だが先程とは違う点がある。それは遠呂智の傷が深い事だ。素戔嗚にとっては最高だが一つだけ不安点はある、いつ覚醒してもおかしくはない。今までしていないからと言って今後しないなんて事は絶対に無い。

どのタイミングで起こるかなんて結局は運ゲーだ。その運勝負に負けないように、一撃で仕留める。そのためには盤面を作る。そんな大層なものでなくてもよい、即死させることが出来れば良いだけだ。


「一気に終わらせる!行くぞ、遠呂智!!」


「俺もだよ、素戔嗚!!」


二人が一気に刀を振るう。速度は本当に同じ、タイミングもぴったりだった。だが違う点はあった、力だ。傷だらけで弱っている遠呂智と違い、素戔嗚はほぼ万全状態。負けるはずが無いだろう。

鍔迫り合いで負けた遠呂智は狼狽える。そこだ。それだけでいい、素戔嗚が作りたかった場面はそれだ。跳ね除けられ、手を上にしてしまっている状態。無防備な状態。


「俺の勝ちだ、遠呂智」


下から上に、斬り上げた。溢れ出す血、敗北の二文字。体は自然と仰向けになるよう倒れた。息が荒い、体が冷える。一度も体験したことが無かった感覚だ。

そう、溢れ出る力。まだ終わるなと言う神からの天啓、せめて、報いろと言うメッセージ。そう受け取った。

ゆっくりと体を起こし、呟く。そして灯る炎。


「覚醒」


碧い炎。



第二百二十四話「天仁」

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