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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
第八章「大会」
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第二百二十三話

御伽学園戦闘病

第二百二十三話「契約解除」


[遠呂智視点]


須野昌と別れ進む。ある一人の霊力を頼りに。TISに介入したのはただ力が欲しかったからだ、奴に触れておきたかったからではない。ただ自身に足りぬ力を補うため、加入した。

普通なら佐須魔が裏切るかどうかを心を見て判断するが、加入時の遠呂智は力の事しか考えていなかった。だから学園側に付いていると言う事を悟られずすんなり入れたのだ。

そして黄泉の国でひたすらに修業した。ほんの数週間だったが、充分良い期間であった。あいつと戦うぐらい、へでもないぐらいには強くなったのだ。


「さて、やろうか」


相対する二人、剣士、降霊術士。元は一方的な勝負にしかならなかったが、もう違う。良い決闘が出来るであろう。


「行くぞ!素戔嗚!」


『降霊術・神話霊・八岐大蛇』


飛び出す八又の異形の怪物、禍々しい霊力と共に嘲笑ううような闘志を見せつけ飛び出した。


『降霊術・唱・犬神』


それに対抗するようにして飛び出す神格の一強、犬神。犬霊の中で正真正銘の最強、下手な神話霊なら全く手こずる事無く殺すことが出来る実力を持ち合わせている。

二匹の霊は待機している。だがすぐに指示を下される。


「大蛇、あいつを殺せ!」


「分かっている」


大蛇は八つの頭を使って突撃する。だが素戔嗚は刀を抜き、構える。そしてそのまま近付いて来る頭を斬り裂こうとした。だがそれは叶わない、何故なら遠呂智が来ているからだ。

大蛇の体に飛び乗ってから体を伝い、そのまま斬りかかったのだ。ただ素戔嗚にも霊がいる。犬神が刀に噛みつき、無効化した。その間に素戔嗚は大蛇を斬りつける。


「草薙の剣があればもう終わっていたのにな」


今素戔嗚が手にしているのは[妖刀・村正]だ。それでも弱くは無い、実力を合わせれば特に苦戦する事も無いだろう。だがそれは霊に対してだけだ。

遠呂智の実力を考慮していない。


「何処を見ている!」


そう言った遠呂智は犬神を左手だけで振り払い、斬りかかる。あり得ない事だ。犬神は図体こそは普通の犬程度だが力は滅茶苦茶に強い、成人男性数人がいても無理だろう。

遠呂智は訓練をしているので多少強いのは分かるが片手で、しかも利き手ではない左手で引き剥がす事が出来るのは何かおかしい。バフか何かがかかっているのかもしれないと考え、大蛇よりも本体を優先する事にする。


「あくまでも、刀で来るか」


素戔嗚はいとも容易く受け流した。あまり速いとは感じられない、何故なら刀迦は数十倍速かったからだ。彼女は目で捉える事は本当に不可能で、辛うじて霊力感知で位置が分かる程なのだ。

それに比べると遅いなんて言葉で現せない程には楽だ。だが一つ、刀迦と違うことに気付く。鍔迫り合いのような形に持ち込んだのだが、重い。刀が重いのだ。


「まさか!」


すぐに喉元に意識を集中させ、この圧倒的な霊力が溢れる空間全体を霊力感知で調べる。やはりそうだ。刀に降ろされている、オロチが。

それが原因とすぐに分かった。犬神にその事を伝えた後、一度距離を取る。まず犬神に前を出し時間を稼ぐ。そして素戔嗚がやる事は一つだ。


『降霊・刀・スサノオ』


同じことをするだけ、同じステージに駆け上がれば勝機は素戔嗚に傾く。特に難しい事でも無い、ただ淡々と追いつき追い詰めていくだけで良い。限界は、いずれやって来る。


「今回は従ってくれ」


スサノオにそう言い聞かせてから再度刀を握り、動き出す。こいつをやれば終わりなのだから手加減等する必要は無い。犬神が邪魔なので後ろに引かせて自身だけで戦う。

突撃して来る大蛇、そして振りかざして来る刀、その二つを感覚では無く目で捉え腕を動かし受け止める。今は反撃はいらない、無茶する必要は全くないからだ。

ゆっくりで良い、じわじわと追い詰めれば良い。


「なんで攻撃してこないんだ」


「意味が無いからだ。俺は勝てるからな、次はエスケープだ。絶対にラックを殺さなくてはいけない、お前に力を使っている余裕は無いんだ」


それはあまりにも馬鹿にしている言葉だった。一瞬怒りが沸いたがすぐに抑え込み、刀の方に集中する。大蛇は適当に突撃するのが好きなので合わせて攻撃なんて芸当は事は基本出来ない。

だがそれは強みにも成り得るのだ。両者が全く違う系統の攻撃を連発してくるのはやられている側からすると相当混乱する。しかもそれに緩急を付けたりすると何処かで必ずミスが発生する。


「何!?」


素戔嗚は自分が取った動きに混乱する。今までは刀で受け流すだけだった、そう意識していた。だが何故だか思ってもいなかった攻撃に転じたのだ、刀を振ったのだ。

すぐに防御に戻ろうとしたがもう遅い。


「オロチ!!」


叫びながら刀を振る。すると素戔嗚には斬った攻撃と、刀から飛び出したオロチの頭が噛みついた。そして動きを封じた所でオリジナルが最大火力をぶっ放す。

八つの頭全てから炎を吹き出した。避ける術は無い、火あぶりにされる素戔嗚を見つめながら動きを伺う。すると炎の中で動きがあった。すぐさまオロチを戻し、距離を取る。オリジナルにも炎攻撃をやめさせ、すぐに状況を把握する。


「…やはり、ただの武具では無いか」


最初からおかしかった、何故火あぶりにされて声を悲鳴の一つも無いのか。だが納得だ。素戔嗚の姿は無い。だがそこには一本の刀が地面に刺さっている。

蒿里が真波との戦いで行った回避と同じ方法だ、魂の移動。だがそれはアヌビスや他の魂を動かす事が出来る神の特権のはずだ。


「ほう…貴様、凱と接触したか」


八岐大蛇がそう言った。遠呂智は一瞬[空傘 神]の事かと思ったが違うだろう、遠呂智がTISに入った時から既に憑いていたのだから知っているはずだ。となるとまさか、既に死んでいるはずの[天仁 凱]の事なのだろうか。

だが天仁 凱は死んで空傘 神へと変化している。あり得ないはずだ。


「そうだ。彼が残した武具、それがこれだからな」


素戔嗚が刀から姿を現した。本当に一瞬の事だった、体が構成された。そして村正を手に取り、構える。遠呂智は意味が分からないがひとまず攻撃を行うため踏み込もうとした。

だが大蛇の頭の一つによって止められた。理由を問うが「やめておけ」としか答えが来ない。元天仁 凱の持ち霊である八岐大蛇が言うのならやめておいた方が良いのは承知している。だがそれでも、引けない時はあるのだ。


「退いてくれ、俺はこいつを殺さなくちゃいけないんだ」


「死ぬぞ」


「何言ってんだ、俺が死なないつもりで来たとでも言いたいのか」


「…仕方無い。だが無茶するのはお前だけだぞ」


「充分だ」


再び攻撃が始まる。だが先程との違いを実感する事になった。素戔嗚の動きが違う、速くなっている。見違えて速くなっている訳では無い、ただ体感で少し速くなっている気がする。

それは大蛇も同じようで少し不思議そうな顔をしている。それと共に攻撃の手を強めた。遠呂智も合わせる様に攻撃を速くする。


「通じない、何故なら俺の魂は今、こいつと同化している」


素戔嗚がそう言い放った。その瞬間オリジナルが遠呂智を掴んで後ろに下がった。


「どうした」


「今、あいつは言ったよな?『魂が同化している』と」


「あぁ、言ったな。だが…」


「あいつは何か合体や融合をする術を持っているか」


「確か…霊に乗り移って自由に操作できる術を…」


「そうか。俺はやめる」


大蛇は背を向けた。


「どう言う事だ!?」


「悔やまれる、俺はお前を気に入っているし最後まで戦ってやりたい。だが大切なのは我が身だ、すまないな。ただ一つ教えておこう、意味は無いぞ。それと契約は終わりだ」


それだけ言い残して、返答も待たず姿を消してしまった。あまりの出来事に唖然とし、棒立ちだったがすぐに気を入れ直す。刀にはオロチを入れておきたい。ならば刀とその身だけで戦おう。

それでも戦えなくはない。


「…まぁ仕方無いな。あいつだって死にたくないんだろう。今までありがとう、八岐大蛇」


「犬神、還ってこい。後は俺がやる」


「了解した」


犬神は素戔嗚の中へと還って行った。そうして立っているのは二人になった。特殊な刀を携えている二人の剣士、因縁の終わり。覚悟の時だ。


「さぁ来い、俺はいつでも叩きのめす用意が出来ている」


「言われなくても行くさ、お前だけは殺す」


一気に距離を詰める。そして刀を振り下ろした。すると素戔嗚は対抗するように刀を振り下ろす。もう防御なんてしない、それがどんな意味を持っているかは大体察せる。

怖かったのは大蛇であり、遠呂智では無かったのだ。それは言葉ではない態度での侮辱、許せない。遠回しな冒涜ほど簡単に逆撫でする行為は無いだろう。


「俺を馬鹿にするなよ、お前の大好きな師匠に稽古を着けてもらったんだぞ。そして佐須魔からこれをもらったんだ」


そう言って鞘の方を見る。煽り返した。素戔嗚が挑発して来るならばこちらも挑発しようと思ったのだ。素戔嗚は重要幹部の剣士で一人だけ唯刀を持っていない。

それが悩みであり、コンプレックスでもあった。工場地帯で英二郎と戦った際もその事を煽られ、少しムキになってしまったほどだ。そんなレベルの事を持っている張本人に言われてしまったらどうなるかなんて明白だ。


「ふざけるなぁ!!!」


気迫が変わった。霊力放出などは全く変わっていないが完全にキレている。今までの落ち着いていた戦いぶりとは打って変わって乱雑に、叩きつける様な戦い方に変化した。

だがそれだけではない、刀に霊力を流し込んでいる。全力で流している。恐らく唯刀 龍の中にいるオロチにも届くようにしているのだろう。

本当に容赦がなくなっている。完全に殺しに来ている眼と戦い方だ。


「そうやってすぐ逆ギレする所が駄目なんだろ?もっと心を強くすれば唯刀を貰えるのかもしれないな…まぁ無理か、犬神頼りのお前には」


更に攻撃が強くなる。癇癪が伝わって来る雑な攻撃、本来素戔嗚はそういった戦い方ではない。だが怒りに身を任せているのでそんなやり方しか出来ないのだ。

それに比べて遠呂智は冷静に対処して反撃しようする。ただ何故だか回避されてしまう。そこはもっと神経を逆撫でするだけで良いはずだ。

そう思っていたのは、そこまでだった。


『呪・封』


当然の事だ。生みの親、天仁 凱と触れたなら使えるはずだった。完全に失念していた、呪の事を。


「まだ終わらないぞ、遠呂智!!!」



第二百二十三話「契約解除」

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