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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
第八章「大会」
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第二百二十一話

御伽学園戦闘病

第二百二十一話「居合斬り」


近付いて来る矢萩に対して水葉は何も感じていなかった。心が澄んでいる。今はただ、防御に徹するべきだと感じた。無駄な情報なんて一つも無い、全てが大事な情報だ。

ほんの一瞬でも隙を見せたら終わりだ、周囲で動き回っている矢萩の一挙手一投足を見逃さず刀を握りいつでも振り下ろせるようにしておく。


「来た」


本当に一瞬、水葉が速かった。最強の構え、それは攻撃に特化した性能をしている。矢萩はただの超攻撃、どちらが強いかなど明白だ。

この最強の型は速度なども完璧、何故だか一番振りやすい持ち方なのだ。凄まじい速度と威力で振り下ろされたその刀は矢萩の右肩に食い込んだ。


「いった…」


ここに来ての追撃は相当ヤバイ。だが引く訳にはいかない、押し切るのだ。もう一分しか、いやあと一分もある。体は持つ、これ以上斬られなければ。

だがあと一回でも斬りつけられたら限界だろう。だがそれは水葉も同じ、鼓膜爆破はただ聴覚を奪うだけではなく、精神的な攻撃がメインだ。何も聞こえない状態での戦闘のプレッシャーは計り知れないだろう、そこでふと手が滑ったりするのを待つ術でもあるのだ。


「最強の構えには弱点は無い、ある行動以外」


しっかりと発音してそう言った。ずっと鳴っている鈴は水葉に届くことは無いが口の動きで何を言っているかは分かった。そして少し動揺しているようにも見えた。

矢萩は確信した、勝てると。速度は落とさず一気に突っ込む。感知した水葉はすぐに刀を振ろうとしたが気の迷いが生じる。

先程言った弱点、その行動、それが何か分からないまま戦闘して良いのだろうか、と。その迷いが隙を生む、そしてその隙は利用される。


「それだよ」


水葉の右手が斬られる、切断される直前に振り払ったのでギリギリセーフだが恐らく刀を握ってもろくな力は出ない。実質左手しか使えない状況だ。

焦りで呼吸が乱れ、感知も雑になる。すると矢萩は今までとは違う動きを始めた。

一気に頭上まで移動し脳天に突き刺して来るような動きをしたのだ。普通に考えたら斬りつけた方が様々な動きに繋げることが出来て強い、なのにわざわざ跳び上がって突き刺そうとしてくるのは理由があるはずだと深読みし、集中して感知する。


「だから、それだよ」


元々左手だけでは厳しいのにも関わらず自身の動きでは無く、敵の動きに集中してしまった。それが駄目だ、その油断だ。矢萩は思い切りつ突き刺す。

スレスレの所で少し顔を避けたので左肩を刺されるだけで終わった。だがその攻撃は左手の力も弱める、両手が弱くなると戦闘能力はガクッと落ちて話にならなくなってしまう。


「私の勝ちだね、水葉」


残り三十秒、矢萩の勝ちは絶対的なものかと思われた。そしてトドメを刺す為突撃したその時、水葉は見せていなかった新しい戦術を見せた。

刀を鞘にしまい、構える。居合だ。


「どう、居合」


自信満々でそう言った水葉は目を開いていた。だが視覚に頼るわけでは無い、頼る必要も無いからだ。今は突っ込んで来る矢萩に向かって刀を抜くだけだ。

そして自身に刀が刺さりそうなそのタイミングで抜刀、決まったかと思われたがそうは行かなかった。矢萩の姿が無い、刀は弾かれて地面に刺さったが肝心の矢萩はいない。

軽く霊力感知で探すと背後に立っていた。焦り、急いで振り向いたが遅かった。


「刀はいらない、素手でも痛い場所なんていくらでもある」


うなじに衝撃が走る。一瞬脳が揺れ意識が飛びそうになったが何とか持ちこたえ、振り返ったがやはり姿が無い。すぐに正面を向き直すとそこには刀を手に取って迫って来る矢萩の姿があった。

ここで居合は意味が無いと思い超防御の構えを取り、反撃を行う。だが矢萩は最初に三連撃をぶち込み、返された三連撃は軽々とかわし間髪入れずに次の攻撃を仕掛けて来る。

十五秒。


「もう駄目だよ水葉、殺す」


もう殺す事しか考えていない。超攻撃の構えで十二連撃を繰り出して来た。全てを返す事など到底不可能、頑張って九連撃しか返せない。だがこれ以上攻撃をくらうのは駄目だ。

日和った、反撃ですらないただの防御を行った。すると矢萩は一瞬ピクリと反応してから殺意を剥き出しにして襲い掛かって来る。とんでもない速度、一秒で十六連撃、もう反撃など出来ない。

だがただの防御でも刀に限界が来てしまいそうだ。


「もう良いよ、見込み違いだった」


冷たい口調で言葉を浴びせられた。その言葉は心の奥を冷やす、燃えていた闘志を全て凍り付かせるように冷やして行く。だが水葉はそれ以上に怒りを燃やした。

まるで自分が弱いかのように言われた事が許せない、残り七秒、本気で殺す。二分五十三秒、全て意味は無い戦闘だった。ようやく場が整ったのだ。


「おかえり、水葉」


「何処かに行った覚えは無いけどね、殺すよ」


残り三秒、最後の一撃だ。矢萩は今出せる全力を一回の斬撃にかけた。そして最速では無く、いつもの速度で突っ込む。やはりいつもの姿が一番やりやすいのだ。

そして水葉の正面まで距離を詰め、振り上げた。


「私が!」


水葉は刀を鞘に納めた。そして柄に手をかけ集中する。


「私が勝つ」


振り下ろされる一つの最速の刃、そして抜かれるもう一つ最速の刃。

甲高い鉄の音の直後、生々しい肉が断たれた音がした。どちらもが刀を鞘に入れる、そしてどちらもが崩れ落ちる。流れ出て来る血を抑え込みながら呼吸を整え、先に動こうとするがもう両者限界だ。


「居合…苦手なの…」


「やるじゃん…」


そして動けなくなった二人には気まずい空気が流れる。だがそんな事言っている余裕は無い、両者体がボロボロだ。ヘロヘロになりながら時計を操作しようとするが、力が入らないせいでそれも出来ない。

段々と視界がぼやけ始める。頭もガンガンと痛くなって来るし、吐き気もある。最悪の気分だ。だがまだ気絶する事が出来ない、中途半端な状態で戦っていたせいでこんな事になっている。

戦闘した事を半分悔やみながら気絶した。


《チーム〈TIS〉[榊原 矢萩] リタイア > 姫乃 水葉》


《チーム〈生徒会〉[姫乃 水葉] リタイア > 榊原 矢萩》



[漆&香奈美視点]


二人はたまたま近くにいたので合流し、敵を探す。だが漆が動物を集めている内にほぼ全ての戦闘が終わってしまった。そして水葉がリタイアしたとの通知が来た。

すると香奈美は少し眉を寄せ唸るようにして呟く。


「やはり私達では…」


「いや、そんな事無いですよ!遠呂智さんも仲間になってくれたんですから!」


漆の偵察で既に遠呂智が学園側に戻って来た事は知っている。だが今倒さなくてはいけないのが四人、佐須魔、來花、素戔嗚、蒿里だ。

最強格の四人を三人で削り切れるとは思えない。だが何もせずにリタイアするのはあまりにも酷い、死んでしまった二人に対しての冒涜にも近しいだろう。

ならば少しでも次のエスケープへと繋ぐのだ、最強のあいつを殺す為に。


「なぁ漆、今から佐須魔に挑むと行ったら断るか?」


しっかりと目を見ながらそう訊ねる。すると漆は少しだけ困った顔をした後、答えた。


「いえ、僕もやりますよ。全力で」


「そうか、やはりお前は良い奴だ。今後も生徒会を頼むぞ」


まるで今の生徒会が終わってしまうかのような言い草だ。だがその時の漆は緊張で満たされていたのでそんな些細な事気付きもしなかった。そこで気付いていれば違うルートに行っただろう、だがこれも運命だ。敷かれたルートを沿う、それが運命だ。

二人はゆっくりと強大な霊力に近付いて行く。蒿里と間違えないように、しっかりと霊力感知済みだ。もう五十メートルも無くなった所で反応が近付いて来る。


「漆!!」


「はい!」


まずお得意のスズメバチだ、何十匹もの蜂に命令し佐須魔の方へ飛ばした。だが一秒で焼き払われた、そして姿を現す。バケモノの姿を。

佐須魔は見た事も無い炎をまとった武具を手に持っていた。そして二人へ訊ねる。


「やるかい?」


二人が視線を外さずに小さく頷いた。すると佐須魔は浮遊しながら無駄な話をしないかと聞いて来る。


「少しお話ししよう。まだ遠呂智と素戔嗚がやってないからね、良いだろう?」


ここで逆らっても徳は無い、それよりも話している内に隙を見つける事が出来るならばそちらの方が圧倒的に良いだろう。香奈美は戦闘体勢を絶対に崩さず、いつでも鳥霊を呼び出す事を可能な状態で返答した。


「良いだろう。私も少しお前と話したかったんだ、今後の活動の糧にさせてもらうよ」


「先があるとでも?…まぁいいや。何話そっかな~」


「無いのならこちからから聞こう、お前らの目的は何だ」


だがその質問には「ノーコメント」と返され終わってしまった。そして今度は佐須魔が質問を投げかけた。


「君は何故そこまでして僕らを殺そうとしてくるんだい?」


香奈美は鼻で笑いながら答えた。


「お前らが悪だからだ」


すると佐須魔は呆れながら言い返す。


「僕らは正義さ。そもそも何が正義で何が悪なんだい?」


「一般人と平和を守るのが正義、そして正義に対抗する者達が悪だ」


「じゃあ何故悪が生まれるんだい?」


「人にはそれぞれ感性がある、それが悪に特化したものだった。他にも要因はあるだろうが一番大きな影響はそれだと私は考えている」


「そうかい。ならなんでその感性を矯正する事はしないんだい?君らが言う悪だって元々はただの一般人、直す事は出来るだろう」


「いいや、無理だ。現にお前らは諦めようと…」


「君達がもう少しまとまなおつむを持っていたら考え直すさ。だが君達は馬鹿だ、だから僕らがこの役を買って出てやっている。感謝してほしいぐらいだよ。結局僕らが遂行しようとしている事は君達を救う事に繋がるんだよ、それは正義では無いのかい?」


「何を…」


「君がいう正義はただの自分勝手な妄想で、自身を正当化したいだけの免罪符、じゃないのかい?」


言いたい事が多すぎて収集が付かない。一度心を落ち着かせて冷静に言い返す。


「正義とは一般市民に紛れる勇敢な心を持つ者だ。だがお前らは決して一般市民ではない、犯罪を犯し能力者の評判を地に下げた、そんな奴の事を誰が正義だと言う?…あー言うだろうな、パパママなら」


その煽りは佐須魔にしてはいけない。佐須魔は今までとは違う雰囲気で、一気に霊力を放出しはじめた。周囲は五割、霊の力がそこそこ引き出されるフィールドだ。

両者にとっての得となるがそれ以上に武具か放たれる炎が異常だ。熱はあるが動いていない、まるで玩具のように、プラスチックでっつけられているかのように、静止している。


「まぁ良いだろう。行くぞ、漆」


「はい!」


『降霊術・唱・鳥』


被せる様にして唱える。


『降霊術・神話霊・シヴァ』


最強の破壊神、シヴァの降臨である。



第二百二十一話「居合斬り」

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