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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
第八章「大会」
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第二百十三話

御伽学園戦闘病

第二百十三話「信じるべき者」


「ほぉ…そうか。ならTISよ、お前の肉体悪くは無い。能力を貰えば相当強くなれるぞ」


健吾は余裕をかましながら勧誘を始めた。だが光輝は聞く気も無い、今自分がやるべきは戦闘を交え何に向かって進んでいくかを決める。それだけだ。

それ以上の事も、当然それ以下の事もしてはいけない。心をクリアに、落ち着いて、自分を信じて能力を発動する。


「行くぞ」


「まぁ、無理か」


勧誘に失敗したと理解した途端戦闘体勢に入る。だがまだ余裕はあるようで煙草は咥えたままだ。ただそんな事に一々突っかかっている程時間は無い。

限界は目前、ただの足掻きに意味を見出そうとしている状況だ。無茶は出来ない前提だ。相手の動きを見てしっかりと回避をするのが大前提となるだろう。


「来ないのか?」


そう言った直後動き出した。意識はしない、どれだけの速さが出たかなんて。ただ健吾を殴る為に距離を詰める、それだけを考えて。すると普段よりも二倍近い速度が出た。

だが本人はそれを感じていないし健吾も普段の光輝を知らないので多少速いぐらいにしか考えていなかった。実際の所ここで気付かれなかったおかげで舐めプを許していると言っても過言では無い、故に相手が良かった。そう考えるべきだろう。


「多少は速いじゃねぇか。でも身体強化持ってない俺に見切られてたら話にならないぜ」


健吾は拳を片手で受け止め、反撃で膝蹴りを繰り出した。光輝はそれを視界で捉え、回避行動を取ろうとしたが間に合わなかった。攻撃する事に集中し過ぎたのだろう、体が上手く動かなかった。

重厚感のある一撃をくらった光輝はその場に倒れた。意識はあるので戦えるが想定外の痛みで頭が真っ白になっているのだ。その様子を見た健吾は呆れながら溜息をつき、背中を見せてその場を離れようとした。


「…エンマは優しすぎるんだな…フラッグに対してはもっと強く当たってよかった気がした…あの時、あの場所で気付けていればもっと良かったのかもしれないな……」


「立つならさっさと立てよ。人には飽きってもんがあるんだぜ」


「悪いな。その分本気でぶつからせてもらうよ。これで黄泉送りになったって文句は無いからな。お前も来いよ、能力使って本気でよ」


「二言は」


「無い」


その返答には様々な感情は込められていた。ただの詭弁でも無く、はったりでもない。本気で死んでも良いと思っている。その状態の能力者の力はとんでもない事を健吾は知っている。

先程から少しずつ感じていた高揚が更に増して行く。能力を使って本気でぶつかってもこいつなら耐える、本能でそう感じた。ならば手加減する理由は、あるはずがない。


「能力使うぜ」


指を鳴らした。直後二人は謎の一室に飛ばされた。そこは和風でも無く、洋風でも無い。そんな言葉は似合わない、質素な部屋だった。障害物も無いし武器も無い、本当に体術でしか戦う事が出来ない部屋だ。

瞬時に周囲を見渡してその情報をかき集めた刹那、視界が一変する。元の世界に戻り、視界が逆さになったのだ。拳達から聞いていたので何が起こったかは知っているのだがあまりにも無慈悲だ。


「これが俺の叩き方だ」


健吾は既に着地、距離を詰め、拳を放つ。既にその動作を終えていた。一方光輝は未だ落下中。対策はないかと思われたがそんな事は無かった。

無茶は出来ない。なので無茶に到達しなければよい。咄嗟の動きだったが身体強化が功を奏したのか、空中で体の動きを変える事に成功した。普通の人間ならそんな事不可能だ。だが光輝はやり遂げた。

死の間際かつ覚悟が決まっている、その二つの要素だけでも理解できなくはない。だがたった二つでこの偉業を成し遂げたなんて寂しい、もっと大層な理由があった方が面白い。


「じゃあ次だ!」


再び部屋に閉じ込められた。そしてほんの一瞬にして部屋は消滅、先程と全く同じ構図になった。流石に二連続で同じ動きをするのは無理がある。

何とか別の回避方法を考えなくてはいけない。それに避けているだけではどうにもならないだろう、何処かで反撃をぶち込まなくては勝てるものも勝てない。ただそうは言っても健吾のスピードが人間離れで目で捉えるのがようやく、無理だ。


「速すぎる…!」


「これで速いってならちょっと弱すぎるんじゃなねぇか!」


それ以上返答する事は出来なかった。何度も何度も果てしなく飛んで来る攻撃を避け続けるので精一杯だ。頭を回している余裕は無いので完全に反射神経でかわしている。

恐らくだが健吾は手加減をしている。拳からの話だと光輝自身がタイマンで戦える程弱い相手ではないと分かっている。だからといって負ける理由にはならない。

どこかのタイミングで特徴などを見切って反撃の一手を繰り出すしかない。今は目線を敵の拳に、ほんの数ミリの癖も見逃さないように。避け続ける。


「おいおいどうした、避けてばっかじゃねぇか。俺に勝つんじゃないのか」


「だからお前が速すぎるんだよ!」


部屋を生成しなくとも押される一方だ。ろくな攻撃なんて出来やしないし体力が削れていくだけだ。光輝の身体強化は霊力効率は良いので霊力の方は心配いらない。だが体力がマズいのだ、もう僅かにしかない。

自身の目標を設定したのは山々なのだがそれ以前に倒れてしまったら話にならないだろう。急いで解決策を考えるが既に遅い。健吾の蹴りは光輝の顔面へと到達していた。


「これでどうだ」


健吾は何か答えを求めていたのだろうが、今の光輝には無駄口を叩いている余力は残されていない。だが返答したい。強い言葉をぶつけてやりたいが出来ないのだ。ならば行動で示す、それで満足してくれるだろう。

一気に残っている気力を使って殴り掛かった。二連発などでは無い、足も使って四連撃だ。当たり前のようにかわされしまったが健吾は眼を見て何かを察した。

一旦距離を取って動きを止め、語り掛ける。


「お前、本当に正義目指してんのか?」


「…は?」


「今お前が殴って来た時の眼、めっちゃ嫌な感じだったぞ。そうだな…一応仲間だからあんまり例えに出したくは無いが…語 汐の眼に似てたぞ。完全に自分の事だけを尊重して、他の奴は全員雑魚だと思ってる感じ、すげぇ嫌いなんだよあれ。まがいなりにも正義になりたいんだろ?だったらやめろよ、その眼」


煙草を取り出しながらそう言う。すると光輝は大きな声で叫びながら笑い出した。


「勝てる!!俺は勝てる!!」


あまりの変わりように少し驚くが別に気になる事でも無い。健吾も発症しているので大して怖くも無いだろう。ゆっくりと煙草から手を放し、両手で構えて言い返す。


「じゃあやってみろよ、俺を殺してみろよ」


少し前まで高鳴っていた鼓動は更に増している。段々と気分がノって来た。だがここでボコボコにしてしまったら折れてしまうかもしれない、健吾が求めているのは自分と渡り合えて、尚且つ自分より弱い奴だ。光輝はまだ届いていないが何か小さなアクションでも覚醒してくれるかもしれない、本気でやり合うのは限界まで痛めつけてからだ。それが弱い奴だろうが、そうでなかろうが。

ひとまず今は小手調べ、戦闘病にかかったであろう原因と力を見極める事が最善策だ。


「…なんてな」


その声が聞こえたと思ったのも束の間、全身に衝撃が走る。背後からの攻撃だと察知した瞬間回し蹴りを行った。だが何かに当たった感覚は無い。

何が起こったのか一瞬理解できなかったが先程まで立っていた場所に光輝の姿が無い。瞬間移動並みのスピードで移動したのだろうが健吾でも分からない程の隠密力だ。

そして何より今、どこに隠れているのかが分からないのだ。付近で霊力反応はあるので逃げている訳では無い。ただそれが分かるならば位置もおおよそわかるはずである。だが感じ取れないのだ、まるで通信妨害をされているかのように、ぼやけている様な感覚なのだ。


「霊力で覆ってるのか。だがこれ…佐須魔でも…」


何をしているのかは大体理解できる。周囲を霊力で囲っているのだ、一つの部屋のように。そして当然作ったのは光輝なので霊力反応は光輝のものだ。となると周囲全体から光輝の反応がするので詳細が分からない、というやり方だ。

理屈は分からないでもない、だが過程が不明だ。これは重要幹部なら誰もが思いつき、訓練を重なた戦法なのだが誰も出来なかった。佐須魔も出来なくは無いがここまで精度は良くない。

覚醒か戦闘病だとしか考えられないのだが先程の一言「…なんてな」が気にかかる。絶対に細工があるはずだ。


「霊力補給チョコか?それとも類似品…いやこれは霊力の問題じゃないな…にしても霊力操作が半端じゃないな、綺麗な四角形にするのが上手すぎる。才能か?」


未だ姿を見せないので警戒はしながらもどうやってこんな事をしたのか解明したい。こいつは何か違う、今まで感じて来た身体強化使いより頭がきれる、ここまで楽しませてくれた身体強化使いは始めてだ。

拳、佐須魔、蒿里、他にも大量の能力者でもここまで楽しくは無かった。面白い、無茶出来ない場面なのにも関わらず、こんな事をしているのが意味不明で面白すぎる。


「さぁ来いよ!光輝!」


「もうちょい静かにしてくれよ、俺は今、アリが触れるだけでも倒れそうなんだ」


再び背後からだ。すぐさま振り返ろうとしたのだが間に合わなかった、ジンジンとする痛みを置いて光輝はいなくなっている。速さ自体はあまり関係ない、探知が出来ない状況下でどうやってこの霊力空間を破壊するかが問題だ。

まだまだ戦える、始めて見た戦法なんて壊したくなるのが強者の定め。


「とりあえず出てみるか」


最初にやった事は脱出だった。だが動いてみるとどうにもおかしい。すぐに気付く、健吾が移動すると霊力空間も全く同じ距離移動する。健吾が中心になっているように。


「俺が中心か?俺を媒介にでもしてるのか?…とりあえず分からないんだから色々やるしかないな」


次は殴った時の衝撃波で空間の輪郭を乱せないか、というものだ。大して難しい行為でも無いので適当に殴ってみたが全くと言っていい程揺らがなかった。


「まぁ他者の霊力って結構強い力じゃないと関与できないもんな。身体強化付いてると尚更」


最後は能力の使用だ。部屋を作り出した。ただそれだけでは何も分からない、一旦部屋を消滅させた。するとほんの一瞬、喉元でしか感じ取れなかったが大きな情報を手に入れた。

解いた瞬間に霊力空間が再展開された。もう分かる、導き出した。


「よし。終わらせるか」


そう言いながら部屋を展開させた。そして限界まで壁に近付いてから再度、先の方に部屋を展開した。健吾の部屋の成りは少し特殊でその空間に入っていない者からすると唐突に消えるのだがそこには部屋が生成される。

周囲からも見えるその部屋は100%霊力で出来ているので一般人に見る事は出来ない。そんな空間なので一応現世にいる判定になる。なので能力を使用して付近に違う部屋を生成する事は難しくない。

ただそれをやっただけだ。今光輝には霊力で出来た部屋が二つ、ピッタリくっついて並んでいるように見えているわけだ。


「…これじゃあ展開できない…」


「やっぱな。そうだよな」


そう愚痴を零すと健吾が光輝から見て右側の部屋から飛び出してきた。すぐに霊力空間を再展開したが別の部屋も展開された。そしてくっつくようにして別の部屋が生成された。

そしてどんどん近付いて来る。速度は遅いが着実に近付いて来ている。霊力空間を展開したい所だが不可能だ。出来ない。すると健吾の声が響く。


「やっぱそうだよな!俺が霊力放出するといっつも部屋の形になるんだよ、能力を使用した時の部屋だ。そしてお前はそれを模るようにして霊力を操作した。勿論すげぇよ、それは認める。だがお前はそれをやる相手を間違えたんだよ、俺じゃ意味ない。何故なら俺は、こういうのもゴリ押しするからだ」


直後、部屋の壁を突き破って飛び出して来る。すぐに放出されている霊力を模って隠れようとしたが対策済みであった。健吾は霊力放出をやめていた。

となるとその部屋の形をした霊力を模って作っていた霊力空間の生成は不可能ということになる。そしてその先は、展開されない事に驚て光輝が突っ立っている、その場面に進む。


「ありがとよ。結構楽しかったぜ。でももう進歩は無さそうだ、終わりにする。お疲れさん」


敬意を表するような力強い一撃が、放たれた。だがそれはラストヒットには成り得ないだろう。光輝には策がある、自身を信じて進んだ結果得た苦肉の策が。



第二百十三話「信じるべき者」

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