第二百四話
御伽学園戦闘病
第二百四話「燦然」
「行きます」
躑躅が宣言してから動き出した。意味不明だ、動いたのはメルシーではなく本体なのだ。躑躅がまともな訓練を行った期間は数ヶ月、目視で分かる程に貧弱だ。
そんな奴が霊に指示も出さず突っ込んで来るのはどういう意図なのか分からない。ただ何か策があるのは分かる、仲の良い紫苑から聞いていたので知っている、躑躅はしっかりしているのだ。絶対に何か策があるはずだ。
「お前は俺の事を知っているのか?」
唐突な疑問、躑躅の攻撃をいなしながら。すると躑躅は返答した。
「知っている、と言ったら」
「嘘だな。俺の過去を知っている奴はほんの数人だ、そして俺の過去を知られた場合俺は感知出来る、そういう奴なんだよ俺は。だからこれで判明した、お前は俺を騙そうとしている」
「…」
「それが分かれば大満足、来いよ」
「言われなくとも!メルシー!」
その瞬間躑躅の目の前に瞬間移動して来た。ラックは身体強化を既に解いているが元々体に巡っている霊力を集める事は容易だ、すぐに手に霊力を集中させ拳を放った。
するとその瞬間メルシーは姿を消し拳は躑躅へと向かった。だが手を止める必要は無い、何故なら霊力が全くないといえども軽減されるのは"霊力分"のみだ。
普通に殴った分のエネルギーを中和、軽減する事は不可能である。なのでラックは鍛えているのだ、こういったイレギュラー相手にも通用する身体を作り上げる為に。
「言っときますけど、無霊子は霊に触れることが出来ません。ですけど触れられる事は出来るんですよ」
直後躑躅の姿が一瞬見えたメルシーと共に消えた。すぐに霊力反応を感知し振り向く、するとやはり躑躅とその背後にメルシーがいた。そしてメルシーは躑躅を持ち上げるような体勢を取っている。
ラックは知らなかった、そして躑躅も知らなかった。本当に考えた事も無かったのだ、適当を言ったら合っていたのだ。だがこれは大きなアドバンテージだ、躑躅は常にテレポート出来るということになった。
流石のラックでもそれに対して攻撃を当てるのは不可能に近い事だ。
「おっけー分かった。そこまでやれるなら、俺も一段上のブツを見せてやるよ」
両者勝ちの目がある状況となった。だがそれと同時にそこまで一直線で進む事は無理だ、何とかして道を整備しなくてはいけない。それが一番難しいのだ、道を作れば走り抜けるだけ。だが開拓が一番難しい、どういった形で手を進めるかは自由だ。ここで顕著に出る事となる、実力の差が。
「ぶっ飛ばす」
「こっちこそ」
一斉に動き出した、最後の一手を打つための腕が。
躑躅は瞬間移動を繰り返し機を待つ。一方ラックはどんどん突っこもうとしている、だが躑躅の高速移動に付いて行けずどうにもならない。
じれったいと感じている最中躑躅も攻撃に乗り出す。ラックの背後に瞬間移動、その後メルシーと共に殴り掛かった。だがそれはどちらかが合わせようと思ったわけでは無い、偶然の産物だ。
そして生まれる打開策。
「いってぇ!!」
思っている以上にラックが痛がっている。すぐに感じ取った、何かおかしなことが起こったのだと。そもそもラックは無霊後に対してあまり知識が無い事に気付いていた、それ故これも知らなったのだろうと察することが出来る。
だが躑躅にも何が起こったのかなど分からない。ただこれが近道に成り得るのは分かる、同時に殴るとラックに効くようだ。
「今度は合わせて、メルシー」
メルシーが頷いた。そして数秒後動き出す。移動はメルシーが全て担う、躑躅はタイミング良く殴り掛かるだけだ。ただそれでいい、それがいい。
躑躅本体の戦闘力など高が知れている、ただメルシーと力を合わせる事によって何らかの特殊なエネルギーを作り出している。勝てる。
「行くよ!」
そう合図を出しながら殴り掛かる。後ろに回り込まれたラックはすぐに振り返り、蹴りを繰り出す。メルシーは左手で殴り掛かっているので、右手で守ろうとする。
その瞬間躑躅が叫ぶ。
「良い!僕は気にするな!殴る事に集中しろ!」
躑躅らしからぬ気の張りように一瞬驚いたがしっかりと従った。防御はせずに殴り掛かった。結果は容易に想像できるものだった。ラックの蹴りは躑躅の顔面にヒットした、だが躑躅は気合で耐える。そして躑躅とメルシーは同時に殴り掛かったのだ。
そして謎のエネルギーが発生しラックにとんでもないダメージが入った。両者何のエネルギーなんてもう気にしている余裕は無い、いい加減長引かせたくないのだ。
「なぁ躑躅、俺は恐らくお前のそのエネルギーを解明することが出来ない。だが大会が終わって、お前の心が落ち着いてからでいい。薫に俺から聞いたと言って名前を言うんだ、[霧島 透]と[松雷 傀聖]って名前をな」
「なんですか、急に」
「いや、終わらせるからよ。最後に言っとこうと思っただけだ」
そして終わりが来た。先に王手をかけたのはラックであった。
「貯めてあるよな相棒」
そう言いながら手を横に突き出す。その後唱えようとする。
「唱」
そこまでだった。一瞬言葉に詰まったように見える。だがすぐに訳して、再度唱える。
『唱・燦然』
「光り輝くモノ、旧名[brilliant]。武具[ライトニング]の原型であり、完璧には模倣する事が出来ない頂点。行くぞ」
現れたのは一本の剣であった。異様なほどに光り輝いているが目は痛くならない、不思議なエフェクトがかかっているような剣。だが見るだけで分かる、ヤバイ。
明らかにおかしい、触れてはいけない雰囲気が醸し出されている。一旦距離を取ろうとメルシーに指示をだすため口を開いたその時、ラックが唱えた。
『25』
甲高い音が鳴ったようにも感じた。刹那躑躅の全身に降りかかる筆舌できない痛み、血も出ていない、骨が折れたりもしていない。身体的外傷は全くない、完璧に霊力に振り切った攻撃なのだ。
だがくらっている。霊力が全くないはずの躑躅に、効いている。数える余裕も無かった五秒間が終わるとラックの耳に入って来る。
「武具とは智鷹が作った物だ。だがそれ以前にも似た物は数個だが存在していた。それぞれがチート性能、まぁ当然だよな。マモリビト殺害の為に作られた。
そしてこれは不意打ち用だ、効果は単純なもんだよ。『必中』だ。それに加えて高威力範囲攻撃も出来るからな、俺が扱うのは苦手だけども…たまには良いだろ」
確かにそれほどの威力はあるように感じた。神にさえも通用してしまうかもしれない武器だ。だが躑躅はまだ戦える。まだ息はあるしそれどころか意識がある。
無理矢理にでも立ち上がって進むべきだ。そう考え体に力を入れたその時だ、自身に影が重なった。見上げてみるとそこには数ヶ月前に始めて目にした相棒、メルシーが映っていた。
「なんで…メルシー…が…」
「多分だが霊力ぶっぱの攻撃だから多少流れ込んだ。まぁ守ろうとしてるし見逃してやるよ。お前はここで死ぬべきじゃない、期待してるぜ?」
気前のいい兄ちゃんのような表情と言葉使いで躑躅に別れの言葉を告げてから近付く。そして右腕につけられている時計をいじる、何か操作をしているようだ。
止めようとするがラックは止まらない。そして何か忠告音のようなものが鳴るが無視して画面をタップした。すると全員の時計に通知が行った。
《チーム〈中等部〉[城山 躑躅] リタイア > 棄権》
そしてラックは全ての能力をシャットアウトしてから躑躅の頸動脈を軽く絞め上げ、気絶させた。
勝者はラックだった。そして残った中等部メンバーは二人、現在大きな音を立てながら戦っている真波。そして少し遠くで感じ取れたベロニカだ。
だがベロニカはどんどん遠ざかって行く。そして何処に向かっているのか分かってしまう、三人の元だ。流の元へ向かっている紫苑、礁蔽、兵助の。
「まずいな。止めなきゃ」
走り出そうとするが少々痛む。謎のエネルギーが今になって響いてきたのか何なのか胴体に痺れるような痛みが流れるのだ。次第に体全体が動かなくなって来る。
ただ問題は無いだろう。中等部戦でラックがやるべき事は終わった。一旦眠りに就いたって誰も起こったりはしない筈だ。そう考えながら目を閉じたのだった。
[蒿里視点]
たった一人で飛ばされた。寂しいが仕方無い、これは前回も同じだった。ひとまず合流するべきなのは兵助か礁蔽だ。二人は戦闘能力が低い、潰されたら非常に面倒くさい事になる。
それだけは避けたい、とくに兵助が潰される事だけは。
「私は誰とやるべきかな」
面影も無いローテンション振り、ただ仕方が無い。蒿里は唯一重要幹部でTISに敵対心を抱いているのだ。だがあの話し合いの際に素戔嗚が言ってた通りTISでしか生きられないのだ。
苦痛の日々だがいつか戦闘が無くなった平和な日々が来るはずと信じている。そこに向かおうともせずに。
「真波かな。みんな相性悪いし」
目標は決まった。となれば探すまでだ。恐らくだが真波も蒿里を探す、両者チーム内では最強格だ。そこでぶつけ合った方が大局を見た場合都合がよい。
そして探す方法は何個かある。鳥神を出して上空から目視、だがこれはあまりにも難しいし次の戦いが残っているので却下だ。
次に出て来たのは霊力感知だ。だがこれも却下だ。何故なら蒿里は霊力感知が大の苦手項目である。強力な霊を複数もっているのから当然の事ではあるのだが。
となると最後の手段、誘き出す。多少不意打ちのリスクは上がるが防御してしまえば良い話だ。霊力を放出する事によって識別させ誘い出すのだ。
「うん。これで行こう」
ゆっくりと霊力を頭に集中させた。そして落ち着きながらゆっくりと放出する。意識している霊力放出と言うのは中々難しいものだ。人によるのだが感覚的な要素が大きい、だが蒿里はそこそこ得意な方ではあるので問題は無いだろう。
自分の霊力に紛れて他の者が近付いて来ていないか肉眼で注意する。だがよく考えてみると蒿里だと分かって突っ込んで来る奴なんてそうそういないだろう。
「…これぐらいで大丈夫かな」
計40の消費。だが問題は無い、蒿里は霊力指数500オーバーである。この程度消費にもカウントされない。
とりあえずその場に待機して待つ。三分が経つと同時に霊力反応を感じた。すぐに顔を上げ周囲を見渡す。一瞬だが火花のようなものが目に入った。
「いるんでしょ」
カマをかけてみると難なく姿を現す。
「陽動、ですか」
「正解」
真波の右足は取れている。ただ首から下は機械なので問題は無い。ただ服が飛んでしまったのはあまりよろしくない。真波の機械は普通のものとは違い熱を籠らせた方が色々と便利なのである。
その役目を服が果たしている。ただ右足だけならどうとでもなる。それより大きな問題がある、蒿里は本気だ。それが伝わったのは右足を吹っ飛ばしたモノ。
「行くよ黒龍」
百年前、一匹の"霊"によって喰いつくされたはずの種族、黒龍。
破壊に特化している、厄介者である。
第二百四話「燦然」




