第二百一話
御伽学園戦闘病
第二百一話「呼び出し」
礁蔽が到着し持ちこたえる事が出来たどころか形勢逆転だ。いくら虎子と四葉といえども独壇場での礁蔽とトリッキーな紫苑を倒すのは困難を極める。
非常に厳しい展開となった事を察した二人はひとまず距離を取って話し合う。
「あれってどうするべきなの」
虎子がそう訊ねるが四葉もどうすればよいかなど分からない。そもそも二十数回死んだ所で紫苑に追いつける程度、圧倒的な力の差があるわけでもないので元の勝ち目も薄かったと言える。それに加えて礁蔽の乱入、正直な事を言うと負けることは無くとも勝ちが見えてこないのだ。
「とりあえず私が紫苑をやる。あんたが礁蔽を…」
「駄目。礁蔽がいる時点で分断したら負ける、しかもこんな所で…だから二人で一気に叩く。先に倒す方はどうでもいい、とりあえず潰す。行くよ!」
こうして二対二の状況が作り出された。ただ礁蔽と紫苑からするととてもありがたいのだ。二人は一緒に訓練をしたりはしない、ただ昼はほぼ常に一緒にいるのである程度は所作で理解できる。
外れても二人の瞬発力ならどうとでもカバーできるはずだ。ならば迷う理由は無い、動き出す。
「リアトリス!」
数十秒でリアトリスは復活した。これも流していた霊力が1だったからこそすぐに復活できた、今回はいつも通りの100だ。紫苑の霊力は220である。そして先程の1、出していると段々と消費されていくのでそれで24、最後に今出した100の計125である。
余裕はある。なので全力でぶっ飛ばす。
リアトリスが後ろに付き虎子の方へと走って行く。二人は構えて反撃を行う。
『妖術・刃牙』
すかさず狐霊の牙を強化しておく。一匹は干支神、一匹は狐霊の中で最も狐神に近い霊だ。やりきれる、指示を出した。虎は真正面から、狐は速い足を利用して後ろに回り込ませた。
だが狐はリアトリスが蹴り上げ怯んでしまった。だが虎がいる。そちらにやってもらえば良い、そう思ったも束の間紫苑が虎を踏みつけて跳び上がった。
当然二人の方へ突っ込んできている。ただその動作は獲物への最短ルートだ。四葉が虎子を庇う様にして前に出た。そして降りて来る紫苑に向かって今出せる最大限の力を込めて拳を突き出した。
「今、やな」
四葉"だけ"に礁蔽の声が聞こえた。そしていつの間にか後方で待機していた礁蔽の傍に瞬間移動していた。とりあえず礁蔽を殴ろうとしたが鍵を挿し込まれ、瞬間移動で逃げられた。
仕方無いので虎子の方へ帰ろうとするが礁蔽の方から視線を外した瞬間光に包まれて瞬間移動する。ウザったい妨害に痺れを切らし適当に周囲を殴る蹴る。だが一発も礁蔽に当たる事は無い。
何回か死んで強化された四葉の攻撃を全てかわせるとは思えない、何かおかしいと思った四葉は礁蔽の場所を探る。見回し、息遣いなどを探知しようとするが全く分からない。
「…そこだ!」
適当にそう叫び、隣の家の窓の方を見た。だが何も反応は無い、ハズレのようだ。ただこうして当てずっぽうでもいつかは当たるはずだ。その間虎子には一人で戦ってもらう事にはなるが。
それでも礁蔽は潰しておかなければならない。最終手段である地獄の開門をされると非常に厄介な事になるからだ。
「そこだ!」
七回程繰り返す。少し遠くで戦っている音が聞こえるがそちらに向かおうとすると光に包まれて瞬間移動してしまう。完全に絡め取られている。
どうにかして抜け出さなくてはいけない。だが四葉には絶望的にさえも感じ取れた。まるで出口の無い迷宮、出口は目前なのにも関わらず透明な壁で阻まれているような感覚。むずがゆく、苛立ちを促進させる。
だが、それでもゴールは見えている。壁で通れないのならば、ぶっ壊して強行突破するが吉だ。
「そこだ!!」
先程までより一段と強くそう言い放った。すると光に包まれた。掴んだ、尻尾を。
「もう分かったよ、そこでしょ」
そう言いながら跳び上がる。向かう先は真隣の家の二階、窓だ。そして空中でガラスを突き破り、突入する。するとやはり礁蔽がいた。クローゼットの鍵穴に能力で使用する鍵を挿し込んでいる。
だが少し行動に移すのが遅かった。もう少し早く、殴る動作に入っていたら勝っていた。
「迷いがあるように見えるで、わいを殺す覚悟や無いとな。残念賞のキックや」
次の瞬間四葉は紫苑に蹴られた。意味が分からない、攻撃の音は鳴っていたはずだ。それならば虎子とやっているはず、と思うも自分の愚直な思考に怒りを覚える。
普通に考えれば分かる話。バックラーの強い点、宿主と完全に隔離されても戦える所だ。降霊術の霊は力が弱まったり何も出来くなったり、逃げ還ったりする。ただバックラーは違う、謂わば分身なのだ。
そんな奴がいるのならばわざわざ一緒に戦う必要は無いだろう、騙す目的なら尚更。
「くっそ…私がバカだった…!ちょっと考えれば分かる事だった…でももう遅れは取らない!」
体勢を立て直し紫苑に向かって殴りかかった。だがその直後驚愕する、紫苑の体を貫通するようにしてリアトリスが不意を突き、四葉を突き飛ばした。その隙に紫苑は四連発の蹴りをくらわせた。
だが今も変わらず戦闘音は鳴っている。その時ようやく気付く、二人とリアトリスではない霊力反応に。だが信じられない、虎子と渡り合えるとは到底思えないのだ。
それでも音は鳴っている、兵助の霊力反応と共に。そして三人の耳に飛び込んで来る要請。
「ちょっと助けて!?急に飛ばされて何!?」
「すまんな兵助!今行くで!」
すると礁蔽は兵助の方へと向かった。何故四葉を置いていったのだろうか、出来ればここに留めて紫苑と虎子をぶつけたいはずだ。だが真意が脳裏にふと過ぎる。それと同時に完全に舐め腐られている事にも気付く。
「お前一人程度ここまでやれば俺一人で倒せる。あっちは苦しそうだからな、さっさと決めようぜ決着。俺はお前を倒す手段を持っている」
「あっそ、じゃあ、こっちから!」
四葉が殴り掛かる。だが紫苑は軽々と回避、リアトリスと息を合わせながら打撃を行った。四葉は回避する術を持たない、そのまま吹っ飛ばされた。
民家の石垣に頭をぶつけ血を垂らしながら動かなくなったかと思うとすぐに立ち上がった。四葉は死なない、どう足掻いても紫苑では殺す事は出来ないのだ。
「良いのか!?俺にはお前を倒す手段があるんだぜ!?」
「仮想世界での真波ちゃんとの戦闘の時、あんたは作戦が無いのに作戦があるという騙しをした。どうせ今回もそうだ。私を殺す方法なんて無い、怖くないんだよ」
確かにそうである。紫苑には四葉を殺す方法は無い。
だが倒す方法はある。
「ちなみにだがお前はここで逃げなかった時点で負けが決まっていた。恨むなら自分の勘を恨むんだな」
紫苑が殴り掛かる。だがその程度無問題、体で受けた。そもそも四葉に攻撃するなんて自殺行為も同然だ。もう少しで光輝ぐらいの力には成れるはずだ。そこまで行けば紫苑なんて楽々突破できる。そこまでの辛抱だ、そう強く思い込む事によって戦意を保つ。
だがそれはあくまで無理矢理保っているだけ、四葉は弱い。心も体も。そこにつけ込むのだ。
「リアトリス」
すると四葉の視界は揺れ出す、平衡感覚が崩されたようだ。でもそれだけならガードすれば何とかなる。やり過ごせば良い、どうせ乱雑に殴ったりするだけだ。
実際は違った。
「リアトリス」
再び揺れが激しくなる、それと共にビンタされた程度の痛みも受ける。恐らくリアトリスが攻撃してきているのだ。ならば、と振り返りながらぶん殴ってみた。
何と当たった。リアトリスは苦しそうに距離を取る。これは勝てる、そう判断した四葉は一瞬だけ気が緩んだ。すぐさま紫苑は手を振り上げ言い放つ。
「原と同じさ、死なないのなら意識を飛ばせばいい」
強く、強く、強くうなじを叩いた。折れないギリギリだ。微調整はしなかった、紫苑には感覚でそういった事も分かる。だからこそこの戦い方が出来たのだ。
四葉の悪癖を見抜き、利用した。調子に乗ると言う悪癖を。
「な…んで……」
視界が真っ暗になって行く。無念という感情さえも出てこない、意識が飛んだからだ。そしてその場に倒れた。
「いっちょあがりぃ!」
楽しそうにそう言った紫苑は急いで虎子の方へ走って行った。すると二人は苦戦しながらも耐えている。迷わず駆け込み、背後から紫苑が虎、リアトリスが狐を殴った。
紫苑は腕に霊力を集めていたので威力は凄まじいものだ。そして狐は種族全体として防御力が低い傾向にある、それ故リアトリスの攻撃も半端じゃなかったのだろう、両者虎子の中へと還って行った。
「は!?ちょ!!」
虎児は困惑している。自慢の霊二匹が一撃で葬られたのだから無理も無い。だがそんな些細な願いさえも聞いている暇は無いのだ。流の霊力反応が途絶えているのだ。すぐに向かわなくてはならない、兵助を連れて。
「悪いな」
紫苑が頸動脈を絞めて気絶させた。すると時計に通知が入る。
《チーム〈中等部〉[四葉 桑] リタイア > 空十字 紫苑》
《チーム〈中等部〉[橋部 虎子] リタイア > 空十字 紫苑》
「お疲れさん二人共!」
礁蔽が肩を叩く。すると兵助が諭すように言う。
「すぐ流の元へ行かなくちゃ!どうなっているか分からないんだ!素戔嗚の所も行きたい!急ぐよ、二人共!」
兵助は駆け出した。二人も付いて行くようにして駆け出した。紫苑は勝利を収めた。そうして中等部チームは計四人がリタイア、そして大将[櫻 咲]はただ一人、待機室に戻っていた。
唐突な出来事に理解が追いついていない様子の咲にファストが謝罪と説明を行う。
「ごめんね。そう言えばエスケープが七人だから中等部も七人にしなきゃいけないんだった」
大会では申請時のチームメンバー数が少ない方に人数を合わせるという規定がある、ただしあくまで参照されるのは申請時の数なので第一戦で七人から五人に減ろうが相手は七人に調整される、と言った具合になるはずなのだ。
だが今回ファストは配置役をするのが始めてと言うのもあってミスをしてしまった。なので回収したのだ、一番失ってはいけない人材を。
「それは分かりましたが何故私なのですか、私は兄さんと…」
「あいつには、近付くな」
脅迫するような声だ。ファストは覚えながらも言い聞かせた。
「あいつはおかしい、多分私にしか分からない共感覚てきなものだから…でもあいつだけはおかしい。出戻りの三人の中で一番ヤバイ、明らかにおかしいんだよ。
京香でもない、父親の來花が関わっている訳じゃない。本当にあの流自身がトチ狂っているの」
「あまり兄さん…を…」
言い返そうとしたのだファストの怯え方がおかしいのだ。汗はかいていないがひたすらガタガタと揺れてうずくまるようにしている。駆け寄って背中を擦ろうとするが手を跳ね除けられてしまった。
「悪いね、あんまり羽に近付かないで」
言われた通りに羽から離れた。そして落ち着かせて話を聞く事にする。友が命をかけて争っている中、ファストの話を聞くその時間はあまりに苦痛であった。内容も合わせて。
だがそれは信じたくもない事であった。簡潔にまとめよう。
「あいつは学園側でもないし、TIS側でもない、かといって突然変異体とかでもない。恐らく、全員の敵、全てを壊そうとしている。二人の為に。それがあんた、妹のあんただ!」
第二百一話「呼び出し」




