第二話
御伽学園戦闘病
第二話「試験」
「お前の能力は『殺したいと思ったものを殺す』能力だ」
流は殺すという物騒な言葉が飛び出してきた事に困惑し、それ以外のメンバーは少し顔を暗くし悩み始めてしまった。
「…これは悩むな。万が一チームに入れて、戦ったとしてもあいつらから因縁を買うのではなかろうか…」
次に口を開いたのは素戔嗚だった。流は誰から因縁を買うのか分からなかったが今は聞ける様な雰囲気ではないことは明白なので黙っておく事にした。
「そうかもしれないですが殺す事に特化した所謂キラータイプの念能力者の方をチームに入れたら戦力は大分増すのでないのでしょうか?」
そうニアが提案するが素戔嗚はキラータイプには必ず大きな代償があり自分たちではそれを逐一カバーする事は不可能だと答える。するとニアが[兵助]の名を口に出す、空気が変わり紫苑がニアにそれ以上言うなと警告のような感じで止めに入る。蒿里は少し顔を曇らせながらも策を練る
「兵助か…」
紫苑はゲームをしている手を止め考え出した。だがその考えを打ち消すかのように礁蔽が先に流の事を決めようと提案する。紫苑は面倒くさそうにゲームを再開した。
「僕はどうなるの…?」
「試験を行いそれに合格したら俺らのチームに入っていい、至極簡単な事だ」
ラックはそう言うが流は試験の内容が分からない。頭に?を浮かべているとラックが簡潔にまとめて説明する。
「試験はたった一つ、竹山を殺してもらう。ただこれだけだ」
一瞬にして部屋の空気が変わった、ラックが決めた試験に皆反対している。それもそうだろう自分の能力の詳細すらも分からない奴をいきなり実践で、しかも殺し合いをさせると言う事だ。強い能力だとしても流石に勝ち目が無いし負けたら死ぬ可能性だってあるのだ、当たり前に否定するだろう。
蒿里が流は能力の強さが分からない、だから竹山と勝負させるのはあまりにも酷い、一歩間違えたら流が死んでしまう可能性がありと熱弁するとラックが静かに反論する。
「だからだよ。死んだら死んだだけだ。それでいい、正直な事を言うと俺はこいつを入れたくない。キラータイプは裏切ったりした時に最悪の事態になるかもしれない、災害みたいな…」
「言い過ぎだぞ!」
素戔嗚がラックの胸ぐらを掴み怒りを露わにする。ラックは素戔嗚の態度を見て冷静沈着に手をどかし呆れた様に呟く
「まぁお前らならなんとか出来るか…この島最強と謳われる生徒会を半壊させたもんな」
「だけどよーこいつの能力が人を殺す能力ってなったら流石に素戔嗚達でも勝てないんじゃないか」
紫苑が口を挟む。ニアもその意見に賛同し場は再び膠着状態へと移行した。礁蔽はこのまま続けても平行線でらちが明かないと提案する。もう半年しかない、その為急いで人員を補給しなくちゃいけない、だから試験に受からなかったら殺す、試験に受かったら晴れてチームに加入、これでどうだと皆に問いかける。ラック以外がそれでいいと即答しラックは少し悩み考えた後にため息をつきながらそれでいいと了承した。
「よっしゃ!これで決まりや!」
「なんだかんだ言って攻撃要員足りてなかったし助かるかもな」
紫苑は流の方をチラリと見てから呟く。流は勝手に進んでいく話に着いていけずにただ呆然と立ち尽くすばかりだった。そんな流を見てか素戔嗚が話しかけてくる。
「流よ、お前もこれでいいか?」
流は流される様に承諾してしまう。だが素戔嗚は「嫌ならやめた方がいい。死ぬ可能性だってあるしな」と言いあくまで流の気持ちを尊重する気だ。
流は自分が死ぬかもしれないという可能性がある事を素戔嗚の言葉で改めて実感し背筋が冷たくなる。自分が死ぬのは嫌だ、だけど自分には記憶がほぼない、だからこの人達に着いていくのが自分にとって正しい事なのか間違っている事なのかさえも分からない。そんな状況でも思考を巡る、流は決意を固め宣言する
「僕はこのチームに入る!」
「それがお前の決断なら誰も文句は言わまい、ただ後悔はするなよ。これから必ず苦しい事があるだろう、だがどんな時でも後悔はするな。その後悔さえも楽しさに変えてしまえば全てが上手くいくさ」
その時流はその言葉を上手く受け取る事が出来なかった、だが後にこの言葉は重くのしかかる事になるだろう。
時刻は七時を回っていた、そろそろ学校に行かなくてはと全員が荷物を持って席を立つ。流もバッグを手に持ちエレベーターに乗り込みメンバーに着いて行く形でそのまま学園へと向かう事になった。
昨日逃げた時と全く同じ経路を辿る、数分して着いた場所は紛れもなく昨日流が礁蔽達と遭遇した学校だ。校門前には昨日怒声を上げながら追いかけてきていた竹山が誰かを待っているかのように佇んでいた。
「おはようござ…」
ニアの挨拶を完全に遮り耳が痛くなる程の大きな声で昨日何故あそこにいたのかを聞いてきた。礁蔽はたまたま迷ってしまったと言うが竹山は嘘だと疑い礁蔽を数秒間睨むが礁蔽はぴくりとも動かず真顔で否定してくるので諦めたのか今回は信じてやろうとだけ言って校内に戻って行こうとした。だが唐突に踵を返し流の方に近付いてくる、すぐそばまで来ると話があると礁蔽達から少し離れた場所に連行されコソコソ話であいつらに関わると碌な目に遭わないぞ、と言われた後に先生等の説明があるからお前は保健室に行けと言われ流は言われるがまま職員玄関から学園に入り保健室を探し出して部屋に入った。部屋の中には白衣を着た金髪ロングの保健室の先生いた。
「あ、初めまして。とりあえずそこ座って」
流は言われた通りにソファに座った。名を[菜園時 時子]と言うらしい、彼女は名前だけ言うと「少ししたら担任の先生が来るから待っていて」言い業務を再開した。数分間沈黙が続いていた時だった
「はーい、おまたせ」
と言いながら保健室に一人の女性が入ってきた。その人は黒髪で普通のスーツを着て一般的な教師といった風貌をしている。そのまま自己紹介を始めた[時也 翔子]、主に一年生を担当しているらしい、流は名前ぐらいしか伝えることがなかったので名乗る。
流が名乗り終わると翔子はこの学園の説明を始めた。この学園の名は御伽学園、この世の中に大量に存在し健常者に忌み嫌われている“能力者”をいわば監禁している島にある学園だそうだ。
太平洋のど真ん中にあるそこそこの大きさの島に建っているらしい、そして流は能力者という事が判明し数日前にこの島に送られたそうだ。流はそれなら記憶がないのはおかしいと思い先生に聞いてみたが何も知らないと言われモヤモヤする。
「君は一年二組に配属ね。それじゃあ朝のホームルーム始まっちゃうから行こっか」
流は席を立ち翔子と共に部屋を出て着いて行く、教室に向かう途中で「教室の外で待ってて合図が出たら入ってきて」と言われたので教室に着いたが廊下で待つ。室内からはガヤガヤと話し声が聞こえてくる、その声を先生が一気に掻き消した。すると話し声は一斉に止み先生の声だけが廊下に響き渡る
「みんな知ってると思うけど転校生がきています、じゃあ来て」
そう合図が出たので扉を開け教卓まで歩いて行った。先生は「自己紹介を…」と言いかけた瞬間に後ろの方の席から礁蔽と紫苑の「よっしゃ!」と言う声が聞こえてくる。
翔子は二人の方を睨みつけ無言の圧をかけていた、二人はそれに気付き静かになったところで流は自己紹介を始めた。と言っても結局名前しか言う事はなく自己紹介を終えると礁蔽の隣の席だと伝えられ最後尾の窓側の席へと向かった。礁蔽の隣の席に向かうとニコニコしながら待っている礁蔽がいる、席に着くと礁蔽が話しかけてくる
「よろしゅうな!」
「うん。よろしく」
「まぁ安心せえ仲間になれるさ!」
「そうだね…」
そんな話をしていると朝のホームルームは終わっていた。クラスメイトは礁蔽と連んでいるのを見たからか誰も寄りたがらず転校生が来てもいつも通りの休憩を取っていた。流も教科書をチェックするなど色々とやらなくてはいけない事だらけで忙しく休憩の時間が終わりに差し迫っていた頃に肩を軽く叩かれた、見てみると礁蔽と紫苑が一緒にいる
「授業終わって放課後に屋上来てくれ」
礁蔽はそう言いながら授業間近にも関わらず手を振りながら紫苑を連れ二人で教室を出て行ってしまった。二人と入れ違いで翔子先生が教室に戻ってくる。だが礁蔽達の事には触れず普通に授業を始めた、五十分経った所で授業は終了する。二限目以降は緊急的な職員会議があるらしく自習だった。あっという間に時間は過ぎお昼時になる、周りを見るとどうやらお弁当のようで食べる物がないと困っていると教室にラックがやって来た。生徒たちは少しラックを避けている感じがする
「おい流、着いてこい」
「え?」
「飯ねぇだろ、着いてこい」
そういいながら半ば強制的に屋上まで連れて行かれた。屋上の扉を開けると、そこにはチームのみんながでかいお弁当箱を中心に座っている。蒿里は流が来たのを見ると来いと言わんばかりに手招きをしている、再びラックに連れられ近くまでいく。そしてそのまま流れで昼食を共にする事になった。昨日も同じような感じだったのでこれが普通なのかと思うようにして気にせず一緒に食べる事にした。
食べている最中は皆楽しそうに会話をしている、礁蔽と紫苑に授業中どこに言っていたのかを聞くと屋上で暇を潰してたとしか言わない。その返答を聞いた蒿里はテストでどうなっても知らないよと説教をするが二人はのらりくらりと交わす。そう会話をしていると大した時間もかからずにご飯は終わった。片付けを終えた礁蔽達は雑談を始める
「やっぱニアがいなけりゃわいら飯食えへんなー」
「そうねー」
紫苑と蒿里が飯の話をしている中素戔嗚とラック、紫苑の三人は流の試験の事や戦闘の事を話している。
「今日は五時間日課だから色々できるな。竹山は明日やるか」
「そうだな」
そう決まったところでチャイムが鳴る、紫苑は勉強頑張ってねー等と言ってダラダラしていた。その姿を見た蒿里は諦めたのか他のみんなを連れて教室へと戻って行った。流も蒿里達に着いていき一年二組の教室へと戻った。そのまま五時限目の授業を受けたがごく普通の高校一年生の内容で何事もなく授業が終了した。
帰りのホームルームも終わり朝の約束通り屋上に向かうと屋上には既にメンバーが全員集まっていた。
「集まったな。じゃあ今からお前の実力を見る」
他のメンバーはこんな所でやって教師に見つかったらどうするんだと困惑していたがラック曰くそこら中に飛んでいるカラスを殺してみろとの事だ。飛んでいるカラスに死ねと強く願えとラックに命令された、おずおずとカラスの方を見ながら強く思う
『死ね』
そう強く願うとカラスは汚らしい断末魔と共に墜落した。流はカラスが死ぬ瞬間に体から何かが抜けていく感覚を覚える、それが何かは分からないがとりあえず成功したみたいだ。
ラックは平然と大丈夫だなと言っているが他のメンバーは唖然とし少し顔を青ざめている、重たい空気が流れようとした時素戔嗚がある事に気付く
「その頬の傷はなんだ?」
確認するために頬に触れてみると少しひんやりとするがべちょっとしている、何が付着したのか見てみるとそれは血だった。どうやら頬に傷が出来たそうだ、これは今朝言っていたリスクと言うやつなのだろう。
「直接ダメージを受けるのか…益々(ますます)…」
ラックが考え込み始めてしまったので流はキラータイプについて聞く事にした。だが聞いてみても分かったことは「殺傷能力に特化した念能力」「確実に大きなリスクがある」「数が非常に少なく貴重な人材」ということだけだ、聞き出し終わるとタイミングよくラックも結論が出たようだ
「多分だがお前の能力は敵の強さによって反動ダメージも比例すると思う」
そう語り出す。皆はラックが真剣に話し出したためかちゃんとした姿勢で自分なりの考えと絡みあわせながら聞いている、そしてラックの説は相手の霊力の強弱によって反動ダメージは変わる、そして自分より霊力が高い相手には通用しないだろうと言っていた。流は霊力の事がよく分からなかったが大体は力のようなステータスの事だろうと推測する
そしてそこで礁蔽が質問を投げかける
「じゃあ流は捨て駒みたいになるやんか」
「そうだな」
ラックは淡々と他のメンバーからの質問も捌いていった、ただ質問を聞いていても能力の詳しいヒントになりそうな物はなく流をどうするかの質問しかなかった。
みんなの問答が落ち着いた頃には日が沈みかけていたのでひとまず学園を出る事にした。流と礁蔽はそのまま家に帰る事にした。他のメンバーは一度基地に行くらしい
帰り道を急ぐ二人に間にあまり会話はなかった、唯一と言っていい会話は試験の話だ。家に着くと同時に礁蔽は昨日と同じように布団を敷く事を頼み風呂に直行した。
流は昨日と同じく布団を敷いてから今日の授業の復習をしていると礁蔽が風呂から上がってくる。
流も早くシャワーを浴びたかったので急いで洗面所に向かう、洗面所には流用のジャージが置かれていたのでそれを使わせてもらうことにした。そして礁蔽は流がシャワーを浴びリビングに戻る頃には就寝していた。流は二十三時まで勉強をしてから静かに電気を消して礁蔽の横で眠りについた。
朝の六時に鳥の囀りで目を覚ます。礁蔽は既に起きていて朝食と思われるカロリーバーを食べていた。
「おはようさん」
そう元気に挨拶してくる彼に流も快く挨拶を返す、礁蔽は流にゼリー飲料を渡し試験の事を少し話す。
今日は土曜日だが九時には家を出るらしく少し猶予があるから朝食をこっちで済ませるそうだ。軽く説明を聞きながらゼリー飲料を飲み干した流はやることもなかったので八時半まで勉強をしていた。時計を見てそろそろ行こうと伝えると礁蔽は「早いなー」なんて言いながら靴を履き玄関のドアを開け外へと出て行った。流も続いて外に出る、朝日が非常に眩しい良く晴れたいい日だ。
流は「今日僕は人を殺すのだろうか?」そう思うと少し怖くなってくたが今更引くことなんてできないと気を引き締め礁蔽と共に基地へと向かった。
基地に着くと礁蔽は暗証番号を唱える。
「52536753」
木は自動ドアの様に開き、現れたエレベーターに乗った。数秒して基地に着く、するともう既に二人が基地に到着していた。紫苑とニアだ。何故こんな早くから来ているのか聞くと紫苑が返答する。
「俺ら家がねぇから一緒にここ住んでるんだよ」
あまりにも斜め上の返答が返って来たので驚くしか出来なかった。だが一つ屋根の下で年の近い学生が一緒に暮らしてていい物なのかと訊ねてみるとニアが少し暗い表情でここにいる子達はみんな色々ワケがあるんですよ、と言い返す。流は先生に聞いた話を思い出し失言だったと二人に謝った、ただ二人はそんな事全く気にしていない様子だった。
次第にメンバーは基地に入ってくる。皆少し緊張のようなものを感じているようだ、そして最後にラックが入ってくると流を含めた全員顔が変わる、数秒前までのリラックスした目ではなく本気な目だ。
「さて行くぞ。ニアの部屋の鍵穴借りるがいいか?」
ニアはコクリと頷き自分の部屋へと案内する、部屋の前まで着くと最後尾にいた礁蔽が先頭に出る。そしてネックレスの鍵を取り出し鍵穴へと差し込む、するとガチャリと鍵が開く音がした。
そして礁蔽が扉を開けると目が眩むような光に吸い込まれいつの間にか流達が最初に出会った地下の入り口、床下扉がある階段へと移動していた。流が混乱していると礁蔽が肩をポンポンと叩き「落ち着きや」と小さい声で言う。流は少し考えてこれは礁蔽の能力なのだろうと思う事にした。
「今回俺たちは見てるだけだ。竹山も能力者だが俺らは助けには行かない、ただ常に見ているからな。ただお前が暴走した時だけ介入して被害が出る前にお前を殺す。いいな?」
流は頷く。素戔嗚が励ましの言葉を送ってくれる、流は期待を裏切りたく無いとより一層気合を入れる。
するとコツコツと足音が響く。メンバーはすぐに暗くて普通では見つける事が出来ない場所に隠れた、だが流と竹山の事はハッキリと見えているようだった。誰かの能力なのだろうか、流の視界は真っ暗なままだ。
足音がゆっくりと近づいてくる。その足音は少し手前で止まり、誰かいる事に気づいた竹山が大声を出す。
「誰だ!」
竹山は前方に向かって手を開き手に力を込める、すると竹山の手のひらから火の球が飛び出し流を襲う。咄嗟の事に避けることが出来ずに左腕に直撃した、それは見せかけなどではなくしっかりとした熱が籠った正真正銘の火だった。流は腕を少し火傷し声を上げた。
「熱!」
「その声は転校生!お前やはり!」
先ほどの火の玉の軌道や一瞬姿が見えたので大まかな位置を特定したのだろう、流の方に手を向け再び手に力を込める。そして火の玉が飛び出す、流は火の球を凝視しながら体をフラッと動かし避ける事に成功した。だが動いため音が出てバレてしまった。竹山はとどめを刺すかのように連続で三発の火球を飛ばす。流はまずい、避けられないと思い死を覚悟した。だがすぐに能力の事を思い出し心の中でこの言葉を反響させる
『死ね』
すると竹山は奇声を上げながら白目を剥いて倒れた。それと同時に流の顔面スレスレで火球が消えそれ以上の傷を負うことは無かった。だが反動をくらわない事に少々の違和感を覚えながらもラックが息を止めた竹山に近付き死んでいるとメンバーに伝える
「完全に死んでいる。合格だな」
みんな安心して胸を撫で下ろしながら喜びや労いの言葉を流にかける。ある程度興奮が落ち着くと礁蔽がここに長居してはまずいので基地に戻ろうと階段を上り床下扉の鍵を開けそのまま扉を開いた。その瞬間全員眩い光に包まれ基地に瞬間移動していた。基地に着くと共にニアと紫苑は張り切ってキッチンに入って行く
「良かったな!流」
「ほんとにね!」
「これからよろしく頼むぞ、流」
流は少しだけ照れながらよろしくと言い歓迎を受けた。みんなと色々な話をして一時間ぐらい経った頃
「出来ましたよー」
その声と共にニアが普段より多めのご飯を持って来た。紫苑は食器などを持って来ている、ニアが机の上に料理を置いたので見てみると全ての料理の出来が非常に良い、そこらの安いレストランなんかより豪華だ。そして何より盛り付けが上手い。
「盛り付け上手いね」
「あぁそれ紫苑さんがやったんですよ」
「すごい!」
「ありがとよ」
流は紫苑の技術に惚れ惚れしている。ニアの「食べましょう」という声と同時に六人の合掌が部屋に鳴り響く、少し遅れてニアも合掌をして食べ始めた。会話が弾んだおかげか昨日より美味しく感じる。
ただ美味しかっただけに物凄い勢いで全て食べてしまった。食べ終わると少し休憩を取る、ニアと紫苑は後片付けを始めた。そんな中ラックが流にある提案を持ちかける
「普通はあまり付けないんだが折角の珍しいキラータイプという事だし名前を考えた。簡単って意味のインスタントと殺すのキラーを合わせて[インストキラー]とかどうだろう」
「いいね」
ラックの唐突な提案に少し驚いたがとてもいい名前だ、改編したり断る理由もない。流の能力の名は[インストキラー]に決まった。名前が決まると礁蔽は時間を見てそろそろ帰ろうと言う、流も賛同し二人は一足先に帰る事にした。ニア達にも帰る事を伝えてから基地を出て雑談をして歩いているといつの間にかマンションに着いていた。
エレベーターに乗り105号室へと向かい礁蔽が鍵を開けて家に入る。礁蔽は疲労故か何も言わずにシャワーを浴びに行った。流は習慣の様に布団を敷きリラックスして椅子に座っていた。数分すると礁蔽が上がって来る、礁蔽は満足気に「お疲れさん」と言ってそのまま布団へ向かう。
流もシャワーを済ませリビングに戻って寝ようと布団を見てみると、布団の上に鍵と紙が一枚置いてあった。手に取り読んでみると
『明日は特になんもないから好きな時間に起きや、わいはちょっと早めに基地に行くから外に出るなら鍵かけといていな』
と書いてあった。流は適当な時間に起きて明日も基地に行こうと決め、休息を取って脳の整理をするためそのまま就寝した。
陽光に晒され目を覚ます。時刻は七時丁度、手紙通り礁蔽はいなかった。流は身支度を手早く済ませしっかりと鍵をかけてから基地へと向かう。
そして学園の門の前を通りかかった時見知らぬ女の人が話しかけて来る。彼女はセーラー服の長い黒髪、そして妙に嫌な雰囲気を醸し出している。
「君が転校生か、噂で聞いたけどキラータイプというのは本当か?まぁどちらにせよ私達に喧嘩を売らない様にするんだな」
そして女の人は流が来た方向へ歩いて行ってしまった。誰なんだろうと疑問を浮かべながら基地のすぐそばに到着する、するとそこには信じられないし信じたくない光景があった。
基地の前で紫苑が血まみれで倒れていた。すぐに駆け寄り脈を確認するとどうにか脈はあるようだ、だが意識がない。
止血だけでもと応急処置をしようとすると後方から「君も仲間なのか、しょうがないな」という声が何か聞こえる。振り返るとそこにはさっきの女の人がいた、
『降霊術・面・鳥』
そいつは鴉の面を付けながらそう唱えた。すると女の後ろから巨大で真っ黒な鴉が現れた。
その鴉は流に向かって躊躇なく突っ込んで来た
櫻 流
能力/念能力
殺したいと強く思ったものを殺す能力
強さ/敵の強さによるため不定
二話「試験」
2023 3/25 改変
2023 5/21 台詞名前消去