第百九十五話
御伽学園戦闘病
第百九十五話「かつての四人」
時刻は夜中の二時、とある居酒屋に昔からの友人の四人が集まっていた。メンバーは薫、兆波、翔子、兵助だ。全員酒を飲んでいるのだが何とも言えない雰囲気になっている。
大会直前だからかピリピリしていたのが酒に呑まれて緩い雰囲気も混ざっている。そんな四人は生徒達の事を話していた。
「出来れば出てやりたかったんだけどな~」
薫がそう呟くと兆波と翔子は黙り込んでしまった。すると兵助がカバーとは言わないが擁護のような言葉をかける。
「でもしょうがないよ。兆波と翔子も別パーティーだったけどあんな事になっちゃったし。今生きてて皆に授業出来てるだけでも良いじゃん。
薫だって失態で紗里奈を殺しちゃったんでしょ?だったら仕方無いよ。僕はエスケープに入ってそう言う責任みたいなのを背負わず終わったからこうやって出場するだけだから」
「そうね…でもあの子達だけに任せるってのは正直自分でも納得がいってないの…それでも殺し合うのは怖いし…どうすれば良いのかしら」
「俺達も頑張ったさ。でもあの時は譽が刺さり過ぎていた。あれはメタ能力が必要だ、普通の戦闘系じゃ勝てない」
兆波が愚痴を零すように呟いた。現在はTISを脱退している譽だがとんでもないクソ能力を持っている者だった、相性などの問題ではない。普通の能力者では勝てないような能力をしているのだ。
なので仕方無かったと言っているが自分でも自覚している。あくまで逃避のために理由を作っているだけなのだと。だが既に過ぎ去った事である、反省点はあるがそれを活かす機会は二度と来ないだろうからあまり気にする事では無い。
「あんなん勝てる方がおかしいんだよ」
全員口を揃えてそう言った。幸い今回の大会で鉢合わせる事は無さそうなので生徒達には頑張って欲しい、強敵はいるが四年前に比べるとヌルい方ではあるのだ。
アリスも紀太もいない、元々ライトニングと英二郎は出ていなかったが考慮する必要が無い。それだけでも相当なアドバンテージとなるだろう。
「でもな…今回の大会で決めなかったらやばいことになるんだよな…少なくとも今回負けたら次の大会俺ら出なくちゃいけなくなる」
兆波と翔子は「何言ってるんだこいつ」と思っているのが丸分かりな表情で薫の方を見る。すると薫はジョッキに入ったビールを飲みながら続ける。
「今回の内容によるがな。まぁ最悪俺が出るから安心しとけ。その時になったらガネーシャも使うしかないからな、節操なく行くしか無くなる。もうそれぐらいには追い詰められてんだよ、水面下で」
恐らく嘘ではない。明らかに声が違う、真剣な時の声だ。すると兵助だけは特に嫌な気もしていないので純粋に訊ねる。
「なんか佐須魔もあと三年って言ってたけどなんで?」
「現世のマモリビトだ。あと三年で死ぬ、そしたら誰に渡るか分からないんだよ。だからもう時間が無い、あいつの力がないと佐須魔には勝てないしあの力を佐須魔が得たら大人しく自決するしかない。
今行動していないってだけであいつの能力は飛び抜けてる。チートだよチート」
まるで呆れているかのような表情でそう言った。その場にいる三人は誰が現世のマモリビトなのか教えられていないのであまり付いて行けていない。
だが言えるのは絶対に守り切らなくてはいけないと言う事だ。島の中で保護しているとは聞いている。なので細心の注意を払い、生活するのだ。大会に出ないなら尚更。
「ところで流達はどうなんだよ、帰って来たんだろ」
「全然普通だよ。ようやく帰って来てくれてありがたいよ、大会出られなさそうだったから」
「なぁ、素戔嗚の刀に変化あったか?」
「無かったよ」
「そうか…ならいいけど」
「どうしてそんな事聞くの?」
「刀迦の弟子は一人前になるととある型の刀を与えられる、唯刀って言うんだけどな。さっきラックから聞いた遠呂智の[唯刀 龍]もその一つだ」
「となると遠呂智は…」
「まだ分かんねぇ。まぁ違って欲しいという懇願みたいなあれもあるんだけどな」
「まぁ遠呂智と戦う事になっても何とかなる気がする。多分砕胡と神はまだ戦えないんでしょ?だったら相当弱体化が入っているはずだ」
「そうだったら良いけどな…」
妙に含みのある言い方でその話を締めた。そしてふと翔子の方へと視線を向けると完全に出来上がっていた。完全に呆れながらも追加分の酒を頼む。
その間も雑談で暇をつぶしていると店の入口の方から聞き覚えのある声が聞こえて来た。何も考えていない翔子以外怪訝な顔に変わる。何もしらないフリをしようとしたが駄目だった。
「よ~!一緒に飲もうぜ!」
菊と絵梨花だ。二人共既に酔っている。
「良いけどよ…何軒目だ」
薫がそう訊ねると二人共指で数え始めた。そして自信満々で菊は三、絵梨花は六と答えた。もう何もいわまいと空いている席に座らせた。丁度六人テーブルだったので問題は無い。
べろべろの三人を対面に、あまり酔っていない男三人を対面に座った。もう滅茶苦茶に飲み巻く手っている。言う程金は無いのに馬鹿三人が飲みまくり、吐きまくる。
いつもの事なので何も思わず男三人である話に転ずる。
「でも実際俺達が戦わなかったら生徒達に顔向け出来ないんだよな…」
兆波が言う。すると薫が肩を叩きながら励ました。
「良いんだよ。あいつらだってリアルタイムで大会見てただろ、あの惨状だぜ。別に俺らが弱いと勘違いしてる訳じゃねぇ、ちゃんと理解してやってくれるさ。あいつらは頭良いからな、安心して見守ろう」
「そうだな。俺らは待つしか出来ないんだからな…頼むぜ!兵助!」
「うん。ちゃんと見とくんだよ、みんな頑張るんだから!」
その夜は楽しかった。次の日も授業があるというのに明け方まで飲み明かす事となった。だが最後の休息となるのだ、それぐらい許されるだろう。
結局兵助だけは先に帰る事となった。真冬の明け方は寒すぎて震えて来る。体を温める為に小走りで基地へ向かう。パスワードを唱え、エレベーターを降りた。
すると中には素戔嗚、蒿里、礁蔽が来ていた。
「お!兵助やん!早いな!」
「さっきまで皆で飲んでたからね、にしても三人も早いね。オール?」
「いいや違う。我は少し早起きし過ぎただけだ」
「わいは流と色々話しとったらもう寝れんくてな」
「私は寒すぎて…一応借りてたアパートももう売っちゃったからここで寝てたの」
「そっか。なんか作ろうか?」
「お!良いな、頼むぞ」
「なんか暖かい物作ってくれや~」
「はいはい」
まるで数年前のあの時みたいだった。当時は皆もう少し未熟で、小さかった。だが今となれば見違えている。だが兵助は何も変わっていない、コールドスリープで眠らされていたとはいえ申し訳なくなるほど変わっていない。
ただ三人からすればそれは救いになるのだろう。罪には罰が必要だ、恐らく素戔嗚と蒿里は裏切った事に、礁蔽は素戔嗚の話を黙っていた事に対する罰を受けている真っ最中のはずだ。そんな中全く変わらず受け入れてくれる兵助がいるというのは心強い事このうえないはずである。
「はい出来たよ」
一番得意な一般的な和食だった。だが懐かし気持ちになる、特に素戔嗚は。兵助が起きてからもニアが食事を作っていた。そしてニアが作らなくなったのは裏切ったタイミングと同じだった。なのでこの味を口にする事はほぼ無かった。
だが今口にし、様々な記憶が息を吹き返す様にして昇って来る。これで良かったのかもしれない、一瞬だけそう思ってしまった。
「なーに食ってんの」
自室から紫苑が出て来た。兵助は紫苑の分も作っていたので皿に移し、皆で食卓を囲んだ。そこで流は何をしているのかという話になる。すると礁蔽は学園の方角を指差して「一人で訓練しとる、折角能力館使えるんやから最大限利用してやろうって言っとったで」と返す。
大会もそう遠くは無いん。残り二週間程度だ、もう気を抜いている暇は無いのだろう。なんなら流はエスケープで一番強いかもしれない、ニアがいない状況なのも含めて何とか背負おうとしてくれているのだろうか。
「でもこうして戻って来てくれて本当に良かったよ、出来ればニアちゃんもいてくれれば良かったんだけどね…」
「恐らくだがニアは帰って来ないだろう。元TIS重要幹部の[アリス・ガーゴイル・ロッド]を殺す為に奮闘している。急襲作戦時にも見ただろう、アリスを。あやつが死ぬまでは追いかけ続けるだろうな、勝てるかは別として」
そしてアリスが青天井である事、先祖返りの変異体である事を説明した。すると紫苑が口を挟んで来る。
「それ勝ち目無くね、ニアだって強くなってるっぽかったけど青天井には勝ち目無いだろ。しかも紀太もいるんだろ。あいつも元重要幹部って事は相当強いんだろ」
「あぁ強い。我が負ける事は無くとも勝つことは無いだろう。そういう能力だ。だが我らが警戒する必要は無い、あいつらはTISに戻る事はないはずだ」
「何でそう言える?」
「アリスは強者を求めていた。そして英二郎やライトニングと同タイミングに脱退した際の理由が「飽きた」だったからだ。実際重要幹部は全員負かし、三獄も智鷹以外実質負けの盤面まで追い詰めていた。
もうやる事が無かったから丁度よかったんだろう。その後ニアの潜在的血筋の覚醒、一番系統が強い奴だ、手放すわけが無い」
「…なんでだろうな。俺ろくに覚醒も出来ないんだよなぁ」
「そんな事言ったらわいと兵助なんてろくに戦えないで」
「いやそうなんだけどよ…俺って別にサポート能力じゃないだろ?でもあんまり強くないだろ?だから微妙に感じるんだよ、前提が違うからよ」
「別にええんやないか、わいは元々強さを求めて紫苑をスカウトしたわけちゃうし」
全員から突っ込みが入った。一応大会が終わってから加入したのはあるが強さを求めていない者をわざわざ入れる必要性は無いだろう。しかもまだ生徒会ともギクシャクしていた頃だ、尚更人質にでもされてしまいそうな人物は加入させないべきだ。
ならば何を視てオッケーを出したのか、気になる。蒿里が控えめに訊ねると礁蔽は少し考え込んでから言った。
「あん時のお前、何も楽しくなさそうやった。けどわいらがスカウトしたら嬉しそうにしとったやろ?だから楽しませてやろうと思って勧誘したんや」
「お得意の直感って事ね」
「せやな。でも紫苑がいなかったらニアも、ラックも来てなかったからその点に関しても感謝しとるで」
「そうかい。でも最近はゲームする時間が無くてちょっと嫌な気分だけどな」
そう言われると確かに紫苑は最近スマホをいじっていない。寝るか、食べるか、訓練するか、リアトリスや皆と話すかの四択だ。この季節は授業に出なくとも何も言われないので学園に出向く目的は能力館しかない。だが正直器具を使わない方が得意なので永遠にそこら変で訓練している。
少し無理をし過ぎているかもしれない、礁蔽はそう感じた。そしてリーダーならばメンバーのケアもするべきだと考え、突拍子も無いが一つの提案を持ち掛けた。
「せや!みんなで海行こうや!」
第百九十五話「かつての四人」




