第百九十四話
御伽学園戦闘病
第百九十四話「申請-中等部」
咲を主軸とした中等部員はとある一室へと集まっていた。そこは学生寮の一部屋、ベロニカの部屋だった。一番片付いているから、という理由なのだがそれ以上に広くないといけないのだ。
集まった人数は九人だ。咲、梓、躑躅、美琴、四葉、陽、虎子、ベロニカ、ファルである。真波にも声をかけたのだが機械の調整が忙しいらしく、話し合いには参加しないとの事だ。
「さて、私達は何人のチームで行きましょうか」
「うーん咲ちゃんがリーダーみたいなものだしさ、咲ちゃんが決めればいいと思うよ!」
ファルがそう言うと他の者も納得した。ここに居る時点で死ぬ覚悟ぐらい出来ている、どんな結果になろうが誰も何も言わないだろう。
それでも咲は却下した。
「駄目です。私一人で決めるなんてできません。それぞれの力を知っている訳では無いんです、私に任せないでください」
結局全員で話し合う事になった。まずチームの人数だ、少なくとも七人は入れなくてはいけないので、そこをどうするかという話になった。
まず咲は確定だ。そしてベロニカ、四葉あたりも確定して良いだろう。その三人は強い、全体的に火力不足ではあるが大会前までに真波に依頼してある機械パーツを取り付ければどうとでもなるはずだ。
「では他の人も…」
「私は出るよ、絶対」
美琴が言い放った。だが正直な事を言うとあまり出したくない。美琴の呪は敵味方関係なく攻撃して来るものが多いので、何かあった際に巻き添えが起こるかもしれないのだ。
皆が渋い顔をしていると美琴は衝撃の発言をした。
「私あと二年しか生きられないの。佐須魔に年齢を止める呪をかけた時の代償…右眼だけじゃない、寿命も沢山売った上で右眼も売らなくちゃ駄目だったの。
今回出れなかったら私は來花を倒すことが出来ない。だから絶対に出る、最悪今ここで誰かを戦闘不能にしてでも」
覚悟は決まっているのだろう。熱い眼差しを向けられた咲は少し悩んだ後、こう結論を出した。
「分かりました。共に戦いましょう。ですがあの人と戦えなくとも、文句は言わないでくださいね。私だって、殺したいですから」
当然だ。流の父親が來花ならばその妹の咲の父親だって來花のはずだ。ここにいる者は誰も知らないが、昔から明確に殺意を向けていた事は分かっていた。
それ故美琴は頷き、了承した。そして決まった。残り最低三人、最大五人となった。すると二人が同時に手を挙げた。
「私!」
「私も!」
陽とファルだった。だが二人の性能的にどちらか一人を取るのが妥当だ。両者能力の中でも強いとされている霊を使うことが出来ない。ただ霊を使わない人材も必要だ。
だがもう二人もいらない。新しく入るなら精々一人程度だろう。躑躅は霊が見えないとはいえども既に訓練を重ねている、霊使いとしてカウントしても良いだろう。
「どちらか二人の方が良いのでは」
ベロニカの一言に二人は衝撃が走った。そしてどちらが出るのか言い合いになる。ただ二人共ある人物を狙っている、その理由しか出てこない。
ファルはラック、陽は流だった。仮想世界で戦い、どちらも敗北を喫する結果となった。だからこの晴れ舞台で負かしてやりたいのだ。
「私は陽さんの方が良いと思いますよ」
再びベロニカが口を開いた。ファルが理由を問うと至極まっとうな返事が飛んできた。
「流さんはTISだからです」
何も言い返せない。確かに陽が倒したい流はTISだ。それ故学園の仲間を倒したいと言っているファルよりはよっぽど合理的に見えたのだろう。
他の者も「同じく」と賛成した。結果出場する方は陽となった。ファルは落ち込んでいるものの少し早めの激励の言葉を送った。
そして咲が他のメンバーも決める。
「まず躑躅君、虎子さんは来てください。霊を使役しているお二方は必須です」
今まで頼っていた宗太郎は既に姿をくらませている、あまり戦闘に慣れていない二人を狩り出すしかないのだ。TISの強敵は基本的に霊を使う。それに加え素戔嗚や蒿里、流などは他の戦闘術も持ち合わせているとなると一人で足りない。
宗太郎がいれば、そう強く思ったのは初めてだった。
現在決まったのは咲、四葉、美琴、躑躅、虎子、陽、ベロニカとなった。余っているのはファルと梓だ。だが万が一負けた場合の事を考えると梓は取っておきたい。
ろくに戦える能力ではないし、何より宗太郎が戻ってきた際梓がいなければどうなるか分からないのだ。こうして七人で出場する事に決まりかけたその時、扉が開かれた。
「はい、来たよ」
真波が到着した。そして大会に出場したいとの旨を伝え、頼まれていた機械パーツを置いてすぐに出て行ってしまった。嵐の様だったので誰も反応は出来なかったが、出てくれるのは非常にありがたい。
そして決定した。総人数八人で決まった。
咲、四葉、美琴、躑躅、虎子、陽、ベロニカ、真波だ。
全員強力な能力者だ。完勝は出来ずとも、重要幹部を数人殺すぐらいは出来るだろう。そう盛り上がっていた時、唐突に咲が立ち上がった。
「兄さん!」
誰も感じ取れなかった微量な霊力を感じ取ったのだろう。誰に何を言うでも無く立ち上がり、傘をも忘れて走り出してしまった。皆も追いかけるようにして立ち上がった。
そして何処に向かっているかはすぐに分かった。基地だ、エスケープの。すると道中で物凄い速度で走っている白馬を見つけた。そしてそれには菊と片腕が無いラックが乗っていた。
「ラックさん!」
咲が呼ぶように叫ぶとラックも気付いていたようで、菊に少し速度を落とすよう言った。菊がグロロフルムに頼んで速度を落とす。すると咲が飛び乗って来た。再度速度を上げ、中等部員を置き去りにして走り抜けた。
そして到着する。最悪な空気がかもしだされているエスケープチームの基地へ。
「ここで待っててくれ!」
待機命令を出しておき、おやつを何個か渡しておいた。その後三人でエレベーターに乗り込む。ラックがボタンを連打し、稼働し始めた。
ほんの十数秒だったのだろうが何十分にも感じられた。全員冷や汗をかきながら開くのを待つ。するとチーンと言う音と共に扉が開いた。
三人が転がり込むように飛び出す。すると兵助が驚きながらラックの元まで駆け寄った。
「どうしたの!?霊?物理?」
「霊だ」
「分かった」
即座に回復を行う。得意な霊的損傷だったので一瞬で完全回復した。すぐに顔を上げる。驚愕した。基地の中央にある二つのソファには五人が座っていた。
礁蔽、紫苑、そして素戔嗚に蒿里、最後の流だ。ほんの一瞬だが思考が止まった。だが菊に頭を叩かれて正気を取り戻す。
「なんでお前らがいるんだ」
三ヶ月前に聞いた悪意に満ちる声が返って来るだろう、そう心の準備をしていた時だった。不意を突かれるようにして流の声が耳に透けるようにして流れ込んで来た。
「ご…ごめん。やっと、帰って来れたから…いるんだ」
顔がひきつる。すぐに流の眼を見た。大抵の人物は眼で分かる、何を思っているのか、何を考えているのか、などは。本心だった。流はあの冷酷な面を破り、戻って来たのだ。
だが信じられない。すぐに他の二人にも訊ねた。
「素戔嗚と、蒿里は」
再び驚愕する事となる。
「我もだ…本当にすまなかった…許してくれとは言わない、どうか…大会に共に出させてくれ」
そう言いながら土下座して来た。すぐに頭を上げさせ、眼を見つめ合う。すると眼がユラユラと揺れていた。泳いでいる、そう思った時だ、素戔嗚が申し訳なさそうに呟く。
「怖いんだが…」
殺意が溢れていたようだ。そんな状態で顔を近付けられたら眼も泳ぐだろう、一旦素戔嗚は置いておくこととした。そして蒿里の方を向く。
「私も…ごめん」
恐らく明るい性格は作りものだったのだろう。だがTIS本拠地にいた時とは違って少し嬉しそうな声色していた。その声を聞くと一気に安心した。
力が抜け、ソファにうな垂れるようにして座る。すると礁蔽が事の経緯を説明し始めた。
「急にこいつら来てな、わいもようわからんのやけど、逃げ出して来たらしいで!な、流!」
「うん!ごめんね!全部演技だから、気にしないで!」
やはり前までの流だった。咲と菊もそれは分かっているようで胸をなでおろしてからアクションを取った。まず菊はズカズカと近寄ってから、素戔嗚に腹パンを繰り出した。
急に攻撃されたので防御することは出来ず、痛そうにしながら腹部を抑える。
「とりあえずな、これも演技だった場合感服するが…まぁ考えたくもないしな、ムカついたからぶん殴った。お前らが悪いんだからな」
「あぁ…自覚している。何も言い返せないよ」
「そりゃあ大層なこった。私ちょっと煙草吸って来るわ」
そう言いながら基地を出て行ってしまった。それと同時に咲が踏みよる。そして顔を確認してから、本当の兄だと感じ衝動的に抱きしめた。
涙を流したりはしなかったがぎゅーっと強く抱きしめていた。流はぽんぽんと叩く程度ではあるが抱きしめていた。満足したのか先は離れた、そして何があったのか聞く。
流はまずソファに座らせてから、話し始めた。
「僕は宣言した。急襲作戦が終わった日に。父親を殺すと、目の前で」
「目の前?流の父親は本拠地におるんか?」
「あぁ、そうだよ。だって僕の父親は[翔馬 來花]だからね」
衝撃が走る。ラックと咲は知っていたのだが他のエスケープメンバーは知らなかったようだ。そして質問責めにあったが全てかわされてしまった。
そして流は話を続ける。
「でもTISにいると仲間を殺す事になるだろう?だから正式に抜けた、色々情報は抜け落ちちゃったみたいだけど、それでも僕はここにいるんだ。
素戔嗚も、蒿里も付いてきた。だって言ってくれたじゃないか、兵助君。仲間になってあげられるって!」
確かにそうだ。三人は戻って来てくれたのだ。ニアはいないがこれで出場できる、七人のチームでエスケープは出場できるのだ。だがラックは一人だけ不信感を抱いた。
とある言動に。それは他の人物が気付けるはずはなかった、何故なら叉儺の通信を受けての違和感だったからだ。それはグロロフルムにのって走っている時に受けたものだった。内容としてはこうだ。
『流と素戔嗚、蒿里の三人が逃げ出したようじゃ』
そのシンプルな言葉だった。だが流は言った、"正式に抜けた"と。だが叉儺は言った"逃げ出した"と。もしかしたら叉儺の所まで連絡が行っていなかっただけなのかもしれないが、何だか気になる。
それでも眼から分かるのだ。流は本心だ。今信じなかったらこれまでの生きた理由が無くなってしまう。だから大人しく黙って、受け入れる事にした。
どう転ぶかは別として。
第百九十四話「申請-中等部」




