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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
第八章「大会」
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第百九十二話

御伽学園戦闘病

第百九十二話「申請-生徒会」


あれから三ヶ月が立つ事となった。十二月の始め、学園は非常にピリピリとしていた。それもそのはず、大会が近付いているからだ。それに少し前の急襲作戦も実質失敗に終わった、当然といえば当然なのだろう。

そんな中、大会に出場する者達にとある用紙が送られた。発行されたのは申請されていた三枚と、強制的に発行された一枚の計四枚、三枚は学園に、一枚は仮想世界に。

まずは学園の中の要とも言われている生徒会だ。届けられたのは生徒会会長、[姫乃 香奈美]だった。すぐに全メンバーが生徒会室に集められる事となった。


「さて、今年も去年と同じくトーナメント制らしい。そして一チーム最低七人、最大九人のチームを組むよう書いてある。本日集めた理由はいわずもがな、死ぬ覚悟が出来ている奴らを選別する為だ。

だが無理強いはしない。当然死は怖いだろう。まず出場拒否をする者は挙手、その後念の為理由を聞かせてくれ」


早速会議が始まった。会長の進行が始まると同時にまず一人、手を挙げた。そいつは煙草を吸いながらダルそうに軽く手を出している[松葉 菊]だった。


「菊か、了解した。理由を聞かせてくれ」


「出来れば出たいんだけどな…今黑焦狐と連絡が取れない。多分だけどあっちで何かあったんだとおもう」


そう言いながら頭上を指差した。その"あっち"というのは黄泉の国の事なのだろう。そもそも黑焦狐は少し特殊で、霊である。それに本来の主は初代ロッドだ。

緊急事態が発生した場合は初代ロッドを優先する、という契約を大昔に交わしてしまっているが故こうなっているのだ。


「そうか。仕方無いな。それでは他に誰かいるか」


あっさりと、文句の一つも言わずに受け入れた。するともう一人が手を挙げた。その人物はあの急襲作戦以来本当の自分を思い出し、しっかり者へと変化した[和也 蒼]であった。

流石に皆驚く。だが否定の声は出なかった。その直後、理由を述べ始めた。


「悪いが僕は出られない。理由は簡単、恐らく僕は負けるからだ。

他のみんなならまだ損害程度で済むかもしれない。だけど僕の場合はそうは行かないんだ。『地獄の扉』、僕以外にも佐須魔と蒿里が所有している。

今この能力を僕が持っているだけで相当な脅しになるんだよ。最悪の場合僕は島の住民共々巻き添えにして死ぬ覚悟がある、もう見抜かれてるからね。

だからこのまま抑止力として働く事に決めたんだ。悪いね」


最もな理由である。述べた通り蒼はいるだけでも脅しとなる。地獄の扉、前回だってエンマが干渉してこなければどうなったか分からない。

それほどまでに危険な能力を蒼と言う人物が持っているだけでもTISにとっては相当苦しいはずだ。なのでここで失う訳にはいかない。

革命が起こった際の残党を狩る際にも必要となるはずだからだ。


「さて、これだけか」


会長が訊ねる。それ以上誰も手を挙げなかった。すると再び強い口調で訊ねる。だが同じように誰も手を挙げなかった。そして決まった。


「決まりだ。菊、蒼を除いた今ここにいる全員参加出来る、と言う訳だな。

ならば誰が出場するか決めようか。本気の構築だ。菊と蒼も参加しろ」


二人共了承した。普段はおさぼりな菊でもこう言った場面では非常に真剣に取り組む。何なら他の誰よりも、真剣に。

現在出場拒否をしていない者、参加できる者は十三名だ。

漆、半田、康太、光輝、美玖、水葉、会長(カナミ)、灼、須野昌、拳、レアリー、タルベ、フェアツだ。そしてそこから非戦闘系のサポート役であるレアリーとタルベを除くと計十一名となる。


「ふむ。急襲作戦にて英二郎や胡桃と言った誰とでも戦えるような者は死んでしまった…最大人数の九名で仕掛けるのが最善策だろうか」


そう呟くと須野昌が口を挟む。


「でも今回四チームだろ?TISぶっ潰す場合、一回戦でどっちも万全で戦う。又はある程度手加減とかして次に繋ぐことになるだろ。

後者は八百長すれば良い話だから置いとくとして、一回戦でバチバチにやり合う場合フル面子で行くの良くないと思うんだよな」


「何故だ?むしろ最高の状態で戦えるじゃないか」


反論されると須野昌は黙って目の付近をトントンと叩いた。誰もが意味は分かる、覚醒だ。大体感情の昂りが関係しているのは判明した。

ならば一回戦だとウォーミングアップ的な意味合いが強くなってしまい、あまり調子が乗らないかもしれない。その場合は捨てて、次の大会に繋げようと言う意味らしい。

だがそれに水葉が言い返した。


「TISはあと三年で事を終わらせようとしてる。理由は簡単、現世のマモリビトの問題。多分タイムリミットが過ぎたら何でもやると思う。

今回で相手を殲滅……は無理だろうから滅茶苦茶に削る。そうしないと私達に先は無い…でしょ?お姉ちゃん」


「あぁ。水葉が言った言葉通り私達に猶予はない。今大会でほぼ壊滅状態まで持って行かないといけない都合上、死の交換になってでも次の者に繋がなくてはいけない!

だから手加減という事は出来ないんだよ須野昌。あと十年程前に産まれていれば出来たかもしれなかったがな」


「そうかよ。んじゃどうすんだ。最強のパーティーで行くにしろ余る奴がいる。大会はランダムテレポートだから単体が強い奴じゃないとろくに戦えないぞ」


「俺は絶対出る!!」


半分遮るような形で声が響いた。拳だ。殺意を剥き出しにしながらもしっかりと言い切った、もとより出場させる予定だったが。


「分かっている。まず確定しているメンバーを先に言っておこうか」


そうしてまず確定メンバーの名を連ねる事となる。五名だった。会長自信、水葉、灼、漆、そして拳。全員タイマン、複数人戦も強い優れ者達である。

異論等は無い。出来ればここに菊や英二郎も入れたかったのだが出来ないものは仕方が無いと割り切って残りの四名を構成する。残っているのは美玖、須野昌、康太、光輝、半田、フェアツだ。


「んー、一つ言いたい事があるとすればだが、フェアツは入れた方が良いと思うぞ」


菊が一声かけた。そして理由も添える。


「まぁまずステルス性能がうんたら、っていうのは前提状況だから放置な。んでフェアツは無理矢理回復にも回れる。例えば体の一部が欠けたりしても全く同じ形でピッタリあうような手に変形、千切ってくっつけて自分は生やす。

みたいな応急処置が出来る。だからとりあえず入れた方が良い。あと戦闘面でも案外役に立ってくれるぞ、めっちゃ固い石製の剣とか作れるしな」


そこそこしっかりしている理由であった。だがまだ決めることは出来ない。この四枠が非常に重要なのだ、あまり適当に決めていい場所ではない。

菊の発言は境に、他の意見が飛び出すようになって来た。やれこいつはあいつに強い、だのこいつはあいつに弱い、だの相性の事が多かった。

能力にも相性がある。降霊術がずば抜けて強いのは明白としても、念能力やその中の分類とされる身体強化、他にもバックラーなど様々な場面での相性というものがあるのだ。そこも考慮しなくてはならないので議論は白熱必須だろう。


「さて、決まったな」


特に大きくも無い会長の一声で部屋内は静まり返った。暗くなっている外の景色を背に、会長は決まったメンバーを発表する事にした。

当然、理由も付けて。


「まず一人目、[クルト・フェアツ]。理由としては隠密性に優れ、仲間の支援を得意としながらも、充分戦闘も行える万能さからだ」


一枠はフェアツ。


「二人目が[穂鍋 光輝]。非常に優れた対人戦闘、身体強化による重い打撃や本人のセンス。三獄等と対峙しなければ一人は倒せるだろうとの判断だ」


一枠は光輝。


「続いて三人目は[浜北 美玖]だ。夏休み期間によって身に着けた降霊に更に磨きがかった。新しい妖術等も取得、この短期間での成長ぶりを見て覚醒も見込める、という判断だ」


一枠は美玖。


「そして最後は[葛木 須野昌]、君だ。まぁ理由は簡単だな、単純に戦闘性能が高い。単純にバックラーの霊との兼ね合いも良い、それに加え少し前に契約した狐霊との連携も良い。

多数の手数を持っている。これで終了だ」


最後の一枠は須野昌だった。

余ったのは康太と半田になってしまった。だが二人とも文句はないし、悲しそうな顔もしない。ただ出場する九人を応援するのだった。

会長が用紙に九名の名を連ね、印鑑を押した。その後提出してくると言い残し、部屋を出て行った。そのまま会議は解散する事となる。

水葉は香奈美に付いて行く。そして職員室まで向かう。


「ねぇお姉ちゃん」


「…言わなくていい。何を言いたいかは分かっている。私は今大会で終わるとは思っていない」


「だよね。だって半田入れるもんね、普通」


「あぁ。だが言及しないでくれ、私だって…ここで終わらせたいんだ。だが無理だろう、砕胡と神が動けないのは非常に大きなバフとなる。

ただそれ以上にエスケープが参加出来ない事が痛すぎるんだ」


「え?出来ないの?」


「人数制限だ。流、素戔嗚、蒿里がいないだろう。だから現在のメンバーは礁蔽、紫苑、ラック、兵助の四人だ。残り三人が必要になる。

今付け焼刃の様な奴を集めても意味はない。ポメはいるが…それでも足りないだろう。仕方が無いさ、諦めて私達生徒会と中等部員で削る。

そして最後は決めてもらうんだ、教師と能力取締課に」


「そう…だね…私達は決めれないんだ…」


「ハッキリ言うと無理だ。佐須魔は最悪の場合刀迦を呼び起すだろう。正直な事を言ってしまえば誰も死んでいない状態の生徒会全員で挑んで刀迦一人殺せないぐらいだ。

無理だろう」


「そっか。そうだよね。まぁ私は頑張るよ、矢萩にもっと強くなったところを見せる為に」


「頑張れよ、水葉。恐らく最後、繋ぐことになるだろうからな」


そう意味深な言葉を残して、職員室へと入って行った。

他のメンバーも結構複数人で帰路に付いていた。


「あの時シャンプラーを殺せなかったのは私の妖術への理解度が足りなかったから。でも今なら…重要幹部も殺せる気がする」


自信に満ち満ちた表情を浮かべながら拳をグーパーグーパーと繰り返している美玖を見た康太が呟く。


「無理だろ」


「なに」


「いや、無理だろ。妖術って全体的に連発するものなんだろ?お前霊力低いじゃん、向いてない戦闘スタイルだろ」


「そうだけどさぁ…それでも私はやれる気がするの。今は背中押してよ、死ぬ気なんだよ、私」


微笑みながらそう言った。康太は畏怖を覚えた。戦闘病ではないのにも関わらず何故か笑っていたからだ、戦闘なんて楽しくない。病にかかった者は皆狂ったように戦いだす。だが生憎康太はかかっていない。気持ち悪いと思っても仕方が無いだろう。

そんな感情が表に出てしまっていたのだろうか、美玖が少しだけ悲しそうな顔をした。何と言ってやればいいか分からなくなった康太は黙り込んで歩く。

すると背後から話しかけられた。


「なーにしけた面してんだよ」


須野昌だ。その日は寒かったのもあり、マフラーに顔をうずめながら近寄って来たのだ。そして二人の間に入るようにして肩を組み、暖を取る。

二人共嫌そうにして離れようとするが須野昌の力が一番強いので強制的に人間カイロにされてしまった。ただ毎年の事だったのでそこまで嫌悪感は無い。


「やっぱ霊使いって体温高くなるよな~俺もそうだけど」


「そう?私そんな感じしないけど」


「まじか?じゃあ通常時の体温は?」


「36.8ぐらい」


「それ高いって言うんだぜ、やっぱ馬鹿だな。無駄に勉強だけできる、尊敬(そんけー)出来る先輩だよほんと」


完全に煽っている。舌打ちをしながらも離れようとはしない。別に好きでもないし嫌いでも無い、だが同じ仲間だ。少し前までは女たらしクズ野郎としか思っていなかったが、それなりの理由がある事を知ってからは生徒会の中でも相当常人に見えていた。

そんな須野昌でも戦闘病にはかかる。工場地帯で半疑似覚醒状態になったのは聞いていた。そして黄泉の国で正式な覚醒を発生させ、『覚醒能力』を行使して戦っているのも見た。

強いのだ。香澄が死んでからというもの須野昌は目に見えて変わり始めたのだ。まるで何かを目指しているような、そんな風に映っていた。


「いい加減放してくれ。お前が一番体温高いだろ」


康太がいい加減うざかって、距離を取った。そして三人で同じ道を帰るのだ。

レアリーとタルベのサポート二人組は同じ悩みを抱えている。共に寮へと向かいながら雑談をしていた。


「やはり戦闘用の能力が欲しいですね…襲撃の時も私がもっと強い能力だったら…手間をかける事なかったはずですのに…」


「あれは仕方無いですよ。香澄さんが悪いとは言いませんが唐突な単独行動ですからね、対応できたブライアントさんは上出来だっと私は思いますよ」


「……ブライアント…」


目は閉じているのだが明らかに嫌な視線を向けられているのが分かった。一言謝って訂正する。


「レアリーさん、ですね」


「そうです。別にブライアントでも問題は無いのですが…父親の事を思い出してしまって…」


「確か大手製薬会社の社長さんでしたっけ?」


「はい。まぁ元々無能力者の家系だったので能力者の私はすぐに死んだことになりましたけどね……香奈美さんはそう言った事情を汲んでくれたのではないでしょうか。

大会は見世物として全国放送されますからね」


「そうですね。やはりあの人は気が利きますね、私も何度助けられた事か……そう言えば話は変わりますが何故レアリーさんはラックさんと仲が良いのですか?あまり関りがあったようにはお見受け出来ませんでしたが」


「手伝ってくれたからです。私が生きる為の手伝いです。具体的に言えば、島への渡航ですね。家系のせいで色々あったんです。そこを助けてくれたのがラックさんだったんですよ。

それと…あの人、とても孤独なので。少しでも力になってあげたいと思って…」


「孤独、ですか?ですけどご友人もいるように見えますし…本当に奥底に眠る感情なのでしょうか?」


「そんな所です。詳細は当然言えませんけどね」


「ですが最近あまり関わっていませんよね」


「そうですね。最近はエスケープチームの方々と仲良くなれてるみたいなので…私もそろそろ離れる時期ですかね…私ももう一人で立てるので」


「………一つ、提案します」


「はい?」


「今すぐ、伝えてきましょう。あくまで私の勘なのですが、ラックさんは危ない気がするので。死ぬことは無いと信じていますが二度と話したりも出来なくなる可能性があるように、感じるんです。

だから今すぐにでも、行って来た方が良いと思いますよ。さぁ、行きましょう!」


そう言いながらレアリーの背中をグイッと押した。唐突に話が進んだことに少々困惑したがほんの少し心を覗くと、すぐに納得し走り出した。

少し離れた所で一礼をしてから。タルベはその小さな背中を見て、非常に哀しそうな顔をしながらトボトボと一人で歩く。そして恐怖や哀情などにまみれながら、こう呟いた。


「やっぱり……僕は死ぬしかないのか…」


他の誰の為でもない。それは唯一の家族(しんゆう)、兵助のために。



第百九十二話「申請-生徒会」

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