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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
第七章「TIS本拠地急襲作戦」
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第百九十一話

御伽学園戦闘病

第百九十一話「別れと頼み」


その後流は物凄い勢いで完食した。ただその間も目は死んだままであった。それでもガツガツと食べる姿を見ていると何だか嬉しかった。

そして食器を下げ、布団を敷く。部屋を出て行く際に決意を固め、恐る恐るだが訊ねた。


「どうでしたか」


流は少しだけ間をおいてから言った。


「まぁ、美味しかった」


そう言いながら扉の元まで歩き、閉めた。廊下にポツリと立っている伸蔵の顔は緩み、嬉しそうに微笑んでいた。ただすぐに伝えなくてはいけない事を思い出し、扉越しで伝える。


「二十四時以降は温泉閉じておくのでお好きに使ってください!勿論男湯入ってくださいね」


適当に返事を返すと伸蔵は戻って行った。流は部屋の中で何をしようか考える。少し前に昼寝をしてしまったおかげで全くと言っていい程眠くない。

折角なら温泉には入りたいので日付が変わるまでは待つ事とした。ただやる事も無いのに数時間も待つことは出来ない。少しだけ外に行く事にした。

軽く扉を開けて、廊下に誰もいない事を確認すると部屋を出た。そのまま玄関口へと向かい、スリッパを脱いで外靴に履き替えた。


「何処に行こうか」


とりあえず外に出て、夕日に当てられながら森の方へ行く事とした。確か小さな頃に行こうとしても両親に断固として止められ、入る事が出来なかったのだ。

今考えると何か能力に関係するものがあったのだろう、予想としては降霊術関連だ。なんせ母親が降霊術の女王と呼ばれる程に有名で強い人物だったからだ。


「行くか…何かあるかもしれないしな」


そう呟き旅館の裏山へと入って行った。既に少しだけ暗くなっている、秋だが妙に暗い。見上げてみると森に立ち並ぶ木の葉が覆っているのだ。まるで何かを隠そうとするために、真っ暗になるように。

だが流には自信の目が見えずとも他の"目"はある。


「スペラ」


すぐにスペラが飛び出し、意図を汲み取った。そして周囲に何かないか飛び回り始めた。流も周囲を散策するが特に何も見当たらない。

どんどん奥へと進むが日が落ちるのと連動するように暗くなっていくだけだ。特に霊力を感じたりするわけでも無い。そこで一つの思考が浮かぶ。


「もしかして暗いから危ないだけ…?」


だが再び記憶を漁ればそんな事は無いだろうと分かる。両親は流の事を「強い子」だと言っていた。二人はとんでもない能力者だ。

そんな能力者二人が強いと言っている子に対して、暗いだけで絶対に入るな、と言うだろうか。そこが非常に引っかかる。恐らくだが別の意味があったのだろう。

ただそれが何かは分からない。絶対に何かある、そう思い込んで更に奥へ行こうとしたその時だった。


「ピヨピヨ」


聞き慣れた声がすると共に、スペラがすっ飛んできた。そして必死に何かを伝えようとしているが、焦り過ぎていて流でも聞き取れない。


「落ち着いて」


ゆっくり話させた。すると山頂付近に何か凄いものがあるらしい。急いでそこまで向かう、スペラをガイドの様にしながら。

そしてそこそこ高いまで登った。相当高い所で、木がなければ山頂が見えてしまう程の高さだ。流はそこで立ち止まり、青ざめた。ただそれだけではない、ニヤリと笑った。


「すげぇのあるじゃん」


そこは今までより木が密集しており、本当に暗かった。だが目が慣れて来たからか何とか見えて来た。まるで祭壇の様な石造りの台に一つの石が置かれていたのだ。

普通に見たらただ大きな石に、少し綺麗な形をしている石があるだけだ。だが見える、物凄く禍々しい霊力をまとっているのが。


「スペラは戻れ」


そう指示を出されたが戻ろうとしない。流が心配なのだ。だが再度指示を出した。おずおずと体の中に還って行った。その後流は近付こうとする。

すると一つ、異変があった。壁があるのだ。何故か入ることが出来ない。まるで仮想世界にあったドームのような感じだ。ただ一つ、違う点があった。


「行けるじゃん、これ」


思い切り殴り掛かった。するとその結界はガラスの様に砕け粉々になった。一箇所壊れただけでその結界は全壊する事となった。その瞬間喉元まで胃の内容物がこみ上げる。

だが自分で首を絞めてせき止め、息を整える。何故か息がしづらい。すぐに該当する事を聞いていた。


「霊力濃度が…高すぎる」


そう、九割九分霊力が占めている。その結界は壊してはいけないものだったと理解する。だが既に遅い。這いずるようにして石の元まで向かう。

そして服を泥まみれにしながら石を掴んだ。だがそれもやってはいけなかった。流の体に激痛が走る、それと同時に先程絞めた喉元が痛い。

声にならない声を上げながら石を放そうとするがまるで吸いつかれているかのような動きをして全くと言っていい程動かなくなってしまっている。

もしや死ぬかもしれない、そう思った時だった。"まず"三人の声が聞こえた。


『あちゃ~何してんの流君~』


それは約一日前に聞いたエンマの声だった。その後に続くようにして女の人の声だ。


『私、あれの解呪方法知らないよ?』


すぐに察する。初代ロッドだ。その後にしてルーズの声がした。


『どうするんですか!?』


既に視界もシャットアウトしていた。周囲の音だけが妙に大きく聞こえ、それに被さるようにして冥界の声が聞こえているのだ。もう完全に動かなくなっていた。

エンマ達も半分呆らめているような反応を示す。すぐに脳内で助けを求めるがエンマが『ごめん、無理。それ僕が何とか出来るような代物じゃないもん。なんで壊しちゃったの』と言っている。

その言葉を聞き終わると同時に、力が抜けた。死んだのかと思ったが体が勝手に動き出した。だが言葉は出ない。


『…やっぱ動くよね、京香』


声色だけでも分かる。エンマは笑っているのだろう。

そんな事お構いなしに流の体は動き、石を石段に叩きつける。その後こう唱えた。


呪術・封(じゅじゅつ・ふう)


それは『呪・封』とは全くの別物である。このモノに対してだけ効力を発する呪だ。力を一時的に弱め、結界を生成する呪術だ。

再び結界が展開されると同時に流の体は元に戻った。すぐに結界の外まで出る。既に冥界の声は途絶えていた。

二つ実感出来る事があった。


「蒼が強かったのはそう言う事だったんだな……ああやって半分死ぬ事で強くなったんだろうな…滅茶苦茶力が湧いて来る」


そして楽しそうに笑う。その後もう一つの実感に関して、自分に言い聞かせるようにして呟く。


「あれは…天仁 凱か……だからあんなに声が鮮明に聞こえたのか……でも……あんなに強いはずが……いや、違うのか。あれは砕胡と神の……負の感情が詰め込まれていたのか…?

とんでもないな…こりゃ関われない訳だ……母さんとあいつが封じ込めたのか。まぁ、帰ろう」


頭を抱えながらゆっくりと歩いて行く。そして途中何度も転びそうになりながら下山した。既に相当暗くなっている、思っていたより夜が更けているように見える。

旅館に戻るとすぐに焦った伸蔵が飛び出してきた。


「流君!何処に…」


言葉を詰まらせた。何かあったのか言及すると伸蔵はゆっくりと訊ねた。


「何で…京香さんが…?」


流の後ろ指差している様に見えた。すぐに振り返るが既にそこにはいなかった。恐らく流の中に入って来ているのだろう。そして説明をしようと再び伸蔵の方を見る。

すると当人は少し怯えながらも何か強い意思を持ったように見えた。すぐに訊ねるが何も返答はない。ただこう答えて仕事に戻って行った。


「絶対に、完遂してくださいね」


それは流に向けられた言葉で無い事は明白であった。恐らく京香に対する言葉なのだろう。だがなんでそんな言葉をかけたのかは不明である。

ひとまず部屋に戻る。そして座椅子に腰かけ、時間を確認する。驚愕した、二十三時五十七分なのだ。外出したのは十九時手前だ。

山に登るにはそこまで時間をかけてはいなかっだろう、絶対に。だが数時間経過している。恐らくだが仮想世界や黄泉の国の様に時間の流れがおかしい場所だったのだろう。


「温泉行くか」


部屋に置かれていた着替えを手に、温泉へと向かった。

言われていた通り閉められていたが、しっかりと聞いていたので扉を開き、中に入った。特有の匂いがして早く入りたいが、まず体と髪を洗ってから入浴した。

気持ちが良く、あんな出来事があったから疲れていたのだろう。眠ってしまった。普通にヤバい事なのだが流は問題ないと眠り始めた。



そして一時間が経った頃だ。スペラが飛び出して叫ぶ。ゆっくりと目を開けた。頭が非常に痛い、ガンガンとするような痛みとまぶたの奥が圧迫される様な感覚だ。

のぼせていたのだろう。だが溺れたりはしていなかった。


「出るか、明日は朝も良いかな」


体を拭き、ドライヤーで髪を乾かした。そして部屋に戻る際、キッチンで作業をしていた伸蔵に声をかける。


「僕、明日の早朝に出て行くから朝はいらない」


返事も待たずにスタスタと歩いて行った。伸蔵は少し悲しそうにしながらも「ありがとうございました」とお辞儀をしながら見送った。

多分だが流は自分が寝ている時間に出て行く、そう思ったのだ。だからそこで別れの言葉を放った、それだけの事だった。流は何も返答しなかった。


「寝るか」


さっさと布団の中に入り、少しの眠りに就くのだった。



そして三時間半後、目を覚ました。まだ外は真っ暗だ。だがすぐに起き上がり、布団を纏めて部屋を軽く片付けてから部屋を出て、玄関まで向かう。

スリッパと外靴を履き替えて外に出て行った。肌寒い空の元、走り出した。目にも止まらぬ速度で、裏山に。

何故そこに向かうのか、TIS本拠地へのゲートがあるからだ。当然だろう、二人の心を押し込めている謎の石の管理をしているのもTISなのだろうから直結のゲートがあるはず、そう思ったのだ。


「やっぱりな」


あったのは山頂にそびえ立つ木陰、とても小さなゲートのタネのようなものがあった。そこに霊力を流すとゲートが開いた。だがすぐに閉じてしまった。

再び霊力を流し、ゲートを開く。展開されたゲートに飛び込んだ。一瞬だけ宙に浮くような感覚がしたと思われた直後、視界が一変した。


「はは、すげぇなぁ。綺麗だ」


目の前には真っ暗な空間に、光が灯り、夜桜に包まれる神秘的な旅館があった。ゆっくりと玄関口まで歩く。誰にも許可を取ったりせずに、中に入った。

外装とは裏腹に鉄の廊下が続いていた。ゆっくりと歩く、そして刀を首にかけられ、遭遇した。矢萩と。


「なんで入って来てんの」



「これだけだ。何か聞きたい事があれば聞け」


だが誰も声を出さなかった。静寂に包まれる。その話を聞く限り流は本心からTISに入ったとしか思えなかった。だがラックは一人でニヤニヤと馬鹿にするような表情で王を見つめていた。

その視線に気付いた王は苛立っているのか再び椅子をトントンと叩き始めた。そして最後の質問に入る。


「じゃあ最後」


そう言って指を差されたのは当然、礁蔽だった。


「ちょい、待ってくれや」


少々迷ってから目を見て、聞く。


「大会、どうするんや」


だが流は返答する気が無い様に見える。礁蔽が再度聞こうとすると制止して、ようやく答えた。


「適当に行く。TISかもしれないし、お前らの所に行くかもしれない。楽しみにしてろ、運ゲーだ」


それが答えだった。礁蔽が思っていた答えとは全く違う。半ギレでしっかりと答える様催促したその瞬間、遮られる。


「これで終わりだ。規則追加

【十四】櫻流の票数は一人で百票となる

【十五】結論、投票へ移行するタイミングは櫻 流が決める事が出来るものとする」


すぐに十五を使用された。そして全員の頭の中に【賛成】【反対】の二つが浮かび上がって来た。だが結論の内容すらも分からない。だが流には百票がある。もう呆れめるしかないようだ。

全員賛成に入れた。そしてスピーカーから気怠そうな女の声が聞こえる。


「えーっと…は、なんこれ。まぁ良いか。結果は賛成が百七票、んじゃお疲れ~」


その瞬間元の世界に戻された。理事長が腕時計で時間を確認すると会議が始まってから五分しか経っていないようだった。そしてその直後、理事長が席を立ち学園側の子供を連れて退出しようとした。

だがラック以外帰ろうとはしない。


「早く行かねえと俺ら死んだことにされるぞ。撤退命令はとっくに出てる。ゲートの場所も分かるから、早く行くぞ」


礁蔽、兵助、紫苑の三人を強引に連れて外に出た。そして後悔は抱きながらもゲートの位置を特定し、進む。そこで『阿吽』がある事に気付いた。

ラックは『阿吽』で薫に連絡しながら歩く。そしてゲートが見えて来た。


「よし、帰るぞ」


全員でゲートに入った。到着したのは御伽学園の校舎の前だった。既に回復は始まっており、兵助も助太刀する。そして理事長は死者や負傷者の確認を始めた。

三人は大きな溜息をつきながら話し合う事とした、大会がどうなるか分からないからだ。そしてラックは付いて来ていたポメを家に返す為一人で何処かに行ってしまった。


「わいもちょっと帰るわ、すまん。連絡とかは頼むわ」


「分かった。俺も後で行く」


その後様々な死者を教えられた紫苑は悲痛な顔をしながらも仕方なく受け入れた。そして余裕がありそうな他の者に何があったか聞き回る事にした。

時刻は夜の二十一時手前、仮想世界にあったのだから流れは三倍だったのだろう。だがそんな短い時間の地獄は終わりを迎えた。だがこれが前座なのだ。

三ヶ月後には大会が待っている。だがエスケープには人数が足りないのだ。それでも何とか出場するしかなかった、ラックが言ったのだ。


「俺は後三年で死ぬ。だからもう、全てを終わらせよう」



皆が出て行った小会議室8はぴりついていた。だが何も言わずに解散され、各々行動に出た。流と蒿里は自室に、素戔嗚は玉座の間で連絡を受けた。

今回死んだ者は誰も生き返らせないらしい。そんな連絡を聞いていると一人、玉座の間に入って来た。まだ動ける重要幹部が全員その場にいたのだが、全員が驚いた。


「どうしたんだい、流君」


佐須魔がそう訊ねると流は部屋を見渡してから体の向きを変え、出て行こうとする。だがその先から一人の男が来ている事に気付き、足を止めた。

そして再び振り返り、部屋の中央へ向かう。その男は何か起こるのだろうと察し、足を止めた。心臓の鼓動が早くなっている。だが

ゆっくりと、足を踏み出し玉座の間に入った。

すると佐須魔は目を見開き、確認しておく。


「知らない奴もいるよ、言うのかい」


「黙ってろ」


呆れながら見守る事とした。部屋には男が入って来た、[翔馬 來花]が。そして二人は向かい合うようにして立ち尽くす。來花は緊張しているのか珍しく汗をかいているように見えた。

そして流は堂々と宣告した。


「僕はお前を殺す、翔馬 來花………いや、違うな僕は翔馬として殺したい訳じゃないんだ。」


そして再び宣告した。


「[華方 來花]として、お前を殺す。なぁ、父さん」



第百九十一話「別れと頼み」


被害

[軽傷,重傷者]完治


[死者]学園側六名、TIS側三名、計九名

拓士 影 - 御伽学園高等部三年生 - 死亡

目雲 蓮 - 御伽学園高等部一年生 - 死亡

木ノ傘 英二郎 - 御伽学園高等部二年生 - 完全死

中谷 莉子 - 御伽学園高等部三年生 - 完全死

真田 胡桃 - 御伽学園高等部二年生 - 不明

駕砕 真澄 - 御伽学園高等部三年生 - 完全死


フィッシオ・ラッセル-TIS重要幹部-死亡

語 汐-TIS上-死亡

エンストロー・クアーリー-TIS重要幹部-死亡


[行方不明者]


第七章「TIS本拠地急襲作戦」 終

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