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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
第七章「TIS本拠地急襲作戦」
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第百八十八話

御伽学園戦闘病

第百八十八話「屠殺(とさつ)×2」


「さぁ、座ると良い」


そう言ったり理事長はいつもの席に座っていた。全員が能力を知っていたので早速議題を決める事になる。だが我慢できなかった。礁蔽は座って三秒で立ち上がり、流の元まで歩いて行く。

そして流の胸ぐらを掴み、神妙な面持ちで言った。


「何をしてるんや、流!!」


「咲に議題を決める。放すと言っているだろ、時間の無駄だ」


「…分かった。議題は『流の件について』や。どうせ結論は後で決まるやろ。今は、さっさと話せや」


流から手を放し、席につく。そして流が口を開くまで待ち続ける。だがどれだけ経っても流が喋る気配は無い。痺れを切らしたラックが催促しようとした時、一つの提案を持ち掛けられた。

完全に流にとって得があるものだった。だがそれを行わなければ話す気は無いのだろうと察することが出来る。


「まず僕を殴れ、威力は好きにしろ」


そう言った瞬間、ニアが流の顔をぶん殴った。人体から出るとは思えない鈍く、重く、何かが曲がった様な音がした。だが流は全くの無傷だ。


「ありがとう。それじゃあ規則"【一】 暴力を振るう事は可能である。ただし攻撃を受けた者は無条件で一つ『命を奪う』や『殺す』などの生死にかかわること以外ならば命令が出来る。"に則り命令する。

この話し合い中、[櫻 流]に規則を追加する能力を与える」


もう流のやりたい放題となってしまったのだ。最悪の場合理事長が空間を閉じればよいのだがそれこそやりたくない。今の流は強い、理事長はこの空間にいる以上基本的には死なないし殺せない。何故なら規則【十】によって理事長が死んだ場合この空間に幽閉されるからだ。

なのでここで話したい。となると致し方なく流の命令を受け入れるしかないのだ。


「じゃあ二つ、規則追加。【十一】話し合い中に櫻 流を攻撃することは出来ない。

規則追加。【十二】櫻 流が口を開いた瞬間、全員黙る」


今の所はそれだけで済むようだ。そして始まる、本当の大トリが。


「おい流…」


紫苑が口を挟もうとしたがすぐに流が話始めた。【十二】に従い、紫苑は声が出なくなった。舌打ちをしようともしたがそれすらも叶わなかった。

流はまず何から話すかを訊ねて来た。


「何個かある。まずどんな事から話して欲しいか、一人ずつ言え」


まず指を差したのはラックに向けてだった。その瞬間ラックは一つの事を訊ねる。


「何故重要幹部になった」


「僕には今目的がある。二人の男を殺すという目的だ。未だ一人も殺せていないんだけどな。二人共ここにいるんだよ、TIS本拠地に。

それのためには力が必要だった。それだけなんだよ。なぁ、"素戔嗚"」


ゴミを見る目で素戔嗚の方を向く。だが素戔嗚は全く反応しない。すると流は話を続ける。それはラックの質問に対する深堀だった。

その人物の名を連ねたのだ。二人の名を。その場に居る全員が一人は察していた。先の喋り口によって。そして今本人の口から告げられた。もう一人の対象(ターゲット)を。


「対象はお前、[杉田 素戔嗚]と[翔馬 來花]だ」


当然全員驚く事になる。だがその中でも理事長、ラック、素戔嗚、蒿里は特に驚いていた。そして理事長が追及しようとしたが流が遮った。

ただ何かを言いたくて遮った訳では無かった。何故ならその遮った言葉が「あ」だったからだ。その意図は言ってほしくない、だと言う事も分かる。


「分かった。言わないでおこう。だが聞かせてくれ流、何故素戔嗚なんだ。お前にとっては、殺さなくても良い相手だろう」


「一つ教えておこうラック。僕は君が思っている以上に凄いニンゲンじゃないんだよ。なんせ君は見て来ただろう、誇り高き馬鹿共を」


その言葉の細分からは煽るようなものを感じた。するとラックは怒りを露わにしながら席を立ち上がり、流の席までズカズカと歩く。そして胸ぐらを掴んだ。

流は少し驚いた。何故掴めるのか、掴むのも攻撃判定になるはずだ。礁蔽に胸ぐらを掴まれた時、それをやめさせるため規則を追加させたのだ。

なのにラックはその規則すらも貫通した。だが納得できる理由があるのだ、そんな他者の絶対的規則さえも破ってしまう。そう言われても違和感は無い程の理由が。


「そんな力もあるんだな!!ラック!!」


気味の悪い程楽しそうな笑顔を浮かべながらそう言った。するとラックはゆっくりと手を放し、投げるようにして椅子に座らせた。その後自分の席に戻り、陰鬱とした表情を浮かべながらうな垂れるようにして座った。


「さっさと次行けよ、時間が無いんだ。もう、時間が…」


「分かった。じゃあ次」


お次は紫苑だ。すると紫苑は少し考え、訪ねた。


「お前、誰だよ」


それは確信を点くものだったのだろう。流はすぐに遮り、全員が黙った。そして紫苑以外意味が分かっていないようだ。だがこの中で一番勘の良い紫苑だけは気付いたのだ。

ただ流は答えなかった。そして紫苑の方から視線を外し、次の者の質問へと移る事となった。兵助だ。すると兵助はしっかりと流の目を見ながら聞いた。


「僕は…僕は……」


元々何を聞こうかは決まっていた。だが寸前の紫苑の質問、それに対する返答。それが兵助の頭の中を真っ白にしたのだ。今出した声もその場凌ぎのために出した声だった。

何を聞けばいいか分からない。頭を抱え、思考を巡らせる。わざわざこの質問形式にしたと言う事は何らかの理由があるはずだ。恐らくだが一度しか質問はさせてくれないであろう。

流には投票数を自分だけ百票にしたりだって出来るはずだ。だから今、光が灯っている中で、暗闇から掴まなくてはいけないのだ。真相を。


「早くしろ」


この場の王は完全に流だ。王は短期である、非常に短期だ。今すぐにでも終わらせてしまいたい程に。その場で鳴っているのは時計の音と、王が椅子の端を指でトントンと叩く音だけであった。

全員の中に緊張が走っている。その静寂さが更に思考を遅らせる。何度も、何度も叩かれたその指の音が少し耳障りだ。ラックは一度別の者に質問をさせようと提案を持ち掛けた。すると王は言った。


「黙ってろ、お前の番は既に終わった」


ラックは渋い顔をしながら黙り込んだ。そして秒針と指の音に耳を傾ける。そしてある事に気付いた。今着地した、気になっていた事全てが。

そして流の方を見ながら一つ言葉を放った。


「分かったよ流。お前がそう思っているのなら、それに従ってやる。もう俺は、お前に尊敬の念すら抱いたよ…恐れ入った。ワガママ王子様」


「それは良かった。ならもう話さなくていい。やっぱり不自然なんだよ、黙ってろ。馬鹿」


ラックは鼻で笑いながら黙った。それと同時に兵助が振り絞ったように、何かを踏みにじるように、絶望している様に半笑いで言葉を零した。


「なんで…佐須魔を…殺さないんだ…?」


すると王は真顔で、全く変わらぬ声で答えた。


「どうでもいい。過去にああ言った事があったとしても、僕はその復讐をしようとは思わない。言っただろ、僕はバカだ。僕が殺したい奴に理由なんて無い。

…まぁ無理矢理答えてあげよう。それよりも対象(ターゲット)を殺したくてたまらないからだ」


その時、兵助は少し前に四人が何故驚いていたのかを知る事となった。その瞬間白紙だった脳内に幾千、いや幾十万もの文字と記憶が流れた。それだけではない、深い絶望と希望に掬われた。

立っている感覚が抜け、転倒し、そこをすくわれた。悲しみだけでは無かった。とても嬉しかった。流がその結論に至った事、そんな事が起こった事、今自分が生きている事。その三つだった。

今はその三つしか頭に無かった。そして完璧に脱力し、椅子からずり落ちた。


「起きなさい」


理事長のその一声で正気を取り戻した。そしてすぐに立ち上がり、再度席についた。すると流は次の者への質問へと入る。


「素戔嗚」


素戔嗚に対してだけは名を呼んで指名した。すると当人は少しだけビクッと反応し、質問を投げかけた。


「何故、俺なんだ」


「まずお前の見解を述べよ。それを聞いてから答えてやろう」


思ってもみなかった返答に少し困惑する。だが素戔嗚は少しだけ考えてから最近ずっと考えていた事を述べてみた。恐らく当たらないだろうとは思っていた。

ここまで変わってしまった流に正義感や仲間に対する想いなどは無くなっているのだろうと思っていたのだ。


「ニアを刺し、皆を殺した…から」


全員が王の顔色を伺っていた。どうなるのか、全員が他の返答が来ると信じ込んでいた。だが毎度そうだった。流は訳の分からない戦法や訳の分からないものを使い戦って来る。

だから今回も実行してくれる、そう信じていた。だが違う。王は最も神に近いニンゲンと同じ顔をしながら答えた。


「大正解」


少しだけ希望を抱いていた。だが無理だった。これが現実だと、最初から分かっていたはずだった、素戔嗚には。だが逃げようとした。その罪が振りかぶって来た。

フルスピードで距離を詰め、殴って来たのだ。口角が緩んでいたその顔に、超重量の一撃をぶち込んで来たのだ。


「……」


真顔、そして絶望の顔へと変化した。そして死んだように力を抜き、うな垂れた。だがそれだけでは無かった、続いて言ったのだ。王は、こう言った。


「全て、お前が始まりなんだよ。[杉田(スギタ) 堂藍(ドウアイ)]君」


ただの絶望だった。だがそれは希望へと変わった。だが皆が想像するような希望ではない、苦しみに悶えた末見つけ出した一筋に光だった。

それでも縋った。何があっても戦えるように、何があっても挫けないように、何があっても償えるように。

壊れてはいけないと自覚していた。自分の役割も自覚していた。それはTISに残る事。断固としてでも佐須魔に付いていく事だ。絶対に死んではいけないのだ、自ら死ぬことは絶対に許されないのだ。

素戔嗚が死ぬ方法はただ一つ『殺害』それだけなのだ。過去の罪、現在の罰。その二つによって素戔嗚は誰かに殺されなくては死ぬことは出来ないのだ、そして完全死によって全ては終わりを告げる。

そうして、死ぬしかないのだ。


「どうだい素戔嗚、君はどんな答えが来ると思っていたんだ」


「俺は…何か…他の事が……聞けると……」


「お前はいつもそうなんだよな。ニアを刺した時だってそうだった。お前はもう限界だっただけだ、任務をもう終わらせたかったんだろう?そうでなければもっと先まで行けたはずだ。

ボスの名前、それはさほど重要だったか?智鷹はお前がTISに入った時から既に仕事をしていてお前はその事を知っていたらしい。だったら別にバレても良いんじゃないか?コンビニのバイトぐらい、やらなくたって。

でもお前は限界だった!!だからボスの名前を口実にニアを刺し、裏切った!!それ以上でも、以下でもない!!お前は弱かった、ただの雑魚だった!!

それが、答えなんだよ、クソ野郎!!」


その時の顔はまるで悪魔だった。見ているだけで不安が増す笑みを浮かべ、勢いの余り席を立って素戔嗚の元まで歩いていた。そんな王にはもう、面影はなかった。

だがその対面に立つ者にはあった。素戔嗚には。そして立ち上がりながら叫ぶ。


「…俺は……俺だって…俺だってやりたくなんてないんだよ!!!でももうここにいるしか生きて行く方法が無いんだ!!そこに座っている蒿里だって、砕胡だって、健吾だって、叉儺だって、原だって…俺…だって……」


力尽きるようにして崩れ落ちた。すると兵助がすぐに立ち上がり駆け寄る。そして同じように崩れ落ち、右肩に肩を置いていつもの安心する声で言い聞かせた。


「だったら戻って来ても良いんだ。みんなは否定するかもしれない。だけど、それでも、僕は…僕と礁蔽だけは味方でいてあげられる。

だから二人で一緒に…」


「黙れよ、雑魚」


言葉は遮られた。あまりにも冷酷な一声によって。その時殺された。二人、たった二人だけにしか見えていなかった、希望の光が。

そしてそれと同時に告げられた宣告、それはその二人の希望を殺した。一人、いや五人の暗雲が立ち込める心に、月の光を差し込んだ。



第百八十八話「屠殺×2」

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