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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
第七章「TIS本拠地急襲作戦」
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第百八十三話

御伽学園戦闘病

第百八十三話「二人でのお話」


解散した紀太はバグっている通路を悠々自適に歩いていた。結局武具は盗まず、穴もしっかりと埋めてから出て行った。佐須魔や他の重要幹部が血反吐を吐きながらも必死に集めた物だというのは知っている。だから最低限の情をかけて他の学園の者に入られないよう通路を塞いだのだ。


「…佐須魔と話すか。近況報告してもらって少しでもアリスの為にならなくっちゃ」


紀太の人生はアリスの為にあると言っても過言ではない。重要幹部を全員殺せと言われたら作戦を練ってから死ぬ気で戦うし、物を盗めと言ったら盗む、死ねと言われたら自分の首を掻っ切る。その程度には好きなのだ、いや頼っているのだ。

自我が無いからアリスに縋る事で道を進んでいる。でも紀太自身はそれが自分の生きる理由なのだと思っている。だがそれは悪い事なんかではない、力が無かったからこうなっただけなのだ。


「今回も役に立てなかった…何とかして頑張らなきゃ。アリスは強い…捨てられるかもしれない…」


非常に女々しいが仕方が無い。自分の意思なんてほとんどない上にアリスは紀太の事を暇つぶしと便利なものとしか思っていない。だから反応も冷たい事が多い。すると必然的になってしまうのだ、嫌いなのでは無いかと。ただ嫌いですらなく無関心という方が近いのだが。

ただ一つだけ絶対に喜んでくれる事があった。情報だ。戦いたがっていた相手の住処や強くなれる情報などだ。そうなるとどうなるかは容易に想像できる、都合の良い駒になるだろう。


「何を聞き出そうかな…仮想世界の事とか重要幹部の事は全部筒抜けだしわざわざ聞く必要は無いかな…となると三獄の内容とかかな…でも佐須魔と來花はもう分かってるしな…ボスの名前とかかな…でも今はニアの事ばっか気にしてるし…でもニアの詮索はするなって言われてるし………難しいぃ」


頭を抱えながら歩いていると一つの壁にぶつかった。特に何の気なしに避けようとしたがずっとぶつかる。ウザいと思い顔を上げるとそこには扉があった。

思っている大きな扉である。そして見た事のある扉だ。基本的に立ち入りはしたがらなかった場所、玉座の間だ。


「…いつのまにか来てたか」


恐る恐る扉を開く。そして部屋の全容を確認した。ただ一年半と全く変わっていなかった。來花との抗争で滅茶苦茶になったはずなのだが綺麗に治っている。

少しも感心する間は無い。部屋の正面には偉そうにしながら玉座に座っている佐須魔がいた。


「久しぶり。アリスはニアと一緒に流君の所へ行ったよ」


「良いよ。元々別行動だ。久々に話したかったんだよ、お前と」


すると佐須魔は少しだけ驚いたような反応を見せてからすぐにいつも通りほんの少し笑みを浮かべながら会話を続ける。


「入りなよ。僕がやるべきことはもう終わってる。好きに話そう」


「あんがとよ。そんじゃ聞いて良いか、今TISはどうなってるんだよ」


部屋の中に入り適当な位置にあぐらをかきながら座った。そして耳を傾ける。


「今?一年半前だよね…そこから順を追うか…まず重要幹部が増えたよ。[エンストロー・クアーリー][リイカ・カルム][鹿島 砕胡]全員頑張ってくれてるよ。クアーリーは死んじゃったけどさ…でもリイカと砕胡はぶっ壊れだ。

その内紀太とも戦う事になるんじゃないかな?知らないけど。

そして伽耶の研究が進んでるよ。ここ一年はある研究に没頭してるよ。ただ一番資金を出してると思うよ、最近ホントにやばいからね。金が。

智鷹も顔と名前割れちゃったし…あ、智鷹ってのはボスね」


唐突なボスの情報開示に紀太は突っ込むが佐須魔は何があったのかを説明し、どうせ時間の問題だと半分呆れながら話を戻す。


「智鷹はコンビニの店長やってんだけどね…多分もう無理かな~困るねホント。そんな高い訳じゃないけど全部お金入れてくれてるから大分損だよ」


「まぁあの時に大量に抜けたもんな…あの時に抜けて戻って来た奴とかいるのか?」


「まぁいなくはないけど…重要幹部は誰も戻って来てないよ。英二郎は完全死を起こした。十分前ぐらいにね」


「は!?あいつエクスカリバー奪ったんじゃなかったのか!?」


「仕方無いよ。素戔嗚と蒿里が相手だったもん。素戔嗚は刀迦を追い越す為に滅茶苦茶頑張ってるよ。刀だけじゃんなて他の武具の扱いも上手くなって来た。

そろそろ上げようかなって思ってるよ。まぁ、まだ先だけどね」


「そうか…そんで?」


「サーニャは知っての通り、能力取締課で[name ライトニング]として頑張ってるよ」


「[(ホマレ)]は?」


「[(ホマレ)]かい?僕らも知らないよ。ちょっと人員不足だからね、唯一戻って来てくれそうだから頑張って探してるんだけど見つからないよ。まぁその内ひょこっと顔出すんじゃない?

もしかしたら高校生活楽しんでるかもよ。今確か高校三年の代でしょ?」


「そうだな…結構みんな適当なのか」


「そうだね~僕も脱退された以上何か言う権利は無いから別に好きにしてくれって感じだけどね。まぁこっちに被害出したりバイネームつけて印象悪くするのはやめてほしいね…いやでも時間の問題か」


「そりゃそうだろ。俺だってアリスの許可が降りればここを通報する。ライトニングが全部壊してくれるだろ。あいつ正義感強いし」


「どうだろうね~案外情が移って助けてくれかもしれないよ~サーニャは心まで怪物にはなれてないからな~」


「あの剣持ったまま怪物なられたら手も足も出ないだろ、神のお気に入りの一匹だぜ?」


「言えてるね。それで、そっちはどうなんだい?新宿でひっそり暮らしてるらしいけど」


「ニアが昏睡時ずっと仮想世界でアリスと過ごしてた。そんでアリスを殺す、みたな感じになって躍起になってる。俺が止めようとしてもアリスが起こり出すし…正直よく分からない状況なんだよ。

お前だって見たんだろ?あの変わりよう」


「うん。さっすがロッドって感じだったよ」


「そんで俺はやれる事が無いからとりあえず雑用とかやってる感じ。アリスは日に日に強くなってるから、俺は置いてけぼりだよ」


「まぁ紀太の能力はどちらかと言うと長期戦とかのショボい戦いが向いてるもんね~アリスは僕ら好みのドンパチ合戦だからそりゃあ追いつける気はしないんじゃない?

実際には案外良い勝負出来るかもよ。やる気ないだろうけど」


「やっぱお見通しか?」


「そーりゃ実際心の中透けて見えるしねぇ」


「はぁ…そんじゃあ一応確認しとくか。あの短剣、持ち出されたけど良いのか?」


そう質問すると佐須魔は数秒間黙った。ただその時の表情は一切変わっていなかった。ただ何処か怒りを醸し出している。息をも殺し返答を待つ。


「良いよ。別に他の武具取ってないみたいだしね。あれは戦闘用にも使えないし。まだサンタマリアの所までしか見てないんだろう?しっかり見ると良いよ、最悪だからね」


「ちゃんと見るさ」


その後は少し沈黙が続いた。何人かのTISメンバーが佐須魔に直接連絡をする為に玉座の間にやってきたりして遭遇したりしたが全員そんな事を気にしている様子ではないようだ。

所々の損害を計算しているらしい。紀太も話す事は無いしわざわざ被害状況を聞く必要もない。大体アリスも壊しているので被害状況何て全く気にする気は無いだろう。


「俺は帰る。アリスは何処だ?」


「小会議室8、まぁ今はエスケープが占領してるから気を付けて。多分閉め出されてる」


「分かった。それじゃあな、さよならだ」


佐須魔に背を向け部屋を出て行く。扉を開き、閉め切る寸前とても小さな声でこう言っているのが聞こえた。


「ふざけるなよ」


だが反応はせず。右耳に着けている風鈴のピアスの音を鳴らしながらその場を後にした。そしてうろ覚えながらに小会議室8へと向かう。

ただその時音がした。とても大きな音、そして嫌な雰囲気だ。鳥肌が立つ、今までに感じた事も無いような憎悪や悪に塗れた霊力反応。


「[天仁 凱]か!!アリスの所に!!」


血眼になって小会議室8の元へと走り出した。アリスは大丈夫だろうが心配という気持ちが勝る。凱はマズイ、この本拠地が壊滅する可能性だってあるレベルの強さだ。

もしかしたら自分が死ぬかもしれない。それは嫌だ、死ぬときはアリスの元かアリスに命令されて死ぬと決めているのだ。全速力で駆け出した。



[重要幹部]

神の魂の暴走が起こった瞬間、戦闘を終えている重要幹部と二人の三獄の元にゲートが生成された。すぐに佐須魔の招集と言う事が分かりそこに飛び込んだ。

すると重要幹部は全員玉座の間、三獄は秘密の部屋に飛ばされた。

佐須魔は玉座の間にいてすぐに重要幹部に指示を出す。


「砕胡以外はここで待機だ!何かあったら『阿吽』で連絡!俺からの連絡があった場合速やかに従う事!俺は來花と話す!ついてこい砕胡!」


そう言いながら次のゲートを生成した。他の者も既に何が起こっているかは康太の『阿吽』で把握していた。なので質問や文句もなにも行わず従った。

二人はゲートの中に消えていく。そして重要幹部で少し話し合う。その際[西条 健吾]と[櫻 流][杉田 素戔嗚][樹枝 蒿里]の四名がいない事に気付いた。

後者三人は分かるが健吾がよく分からない。戦闘は終えているのだろうが何か他の事をしているのかもしれない。


「私、見に行く」


矢萩がそう言いながら出て行こうとしたがすぐに叉儺が止める。


「やめておけ、妾達ではどうにも出来ん。既に天仁と砕胡の同一化は十数年前に済んでいるじゃろう。そこまで難しい事では無い、心配するでない」


「…でも…水葉が…」


「水葉さんが何かあったんですか?」


原がそう訊ねると矢萩はどもり始めた。何か秘密にしたい事があるのだろうと思い特に言及はしなかった。


「でもこう考えると結構少ないですね、重要幹部って」


その場に居るのは原、リイカ、叉儺、矢萩の四人だ。他には五名が別の場所にいるとはいえど中々寂しく感じる。クアーリーとラッセルは死亡した。

その事も相まってかその後は何も話が無かった。ただ緊張の中健吾や素戔嗚達の帰りを待つだけであった。



[三獄&砕胡]

砕胡と佐須魔は秘密部屋に行った。砕胡は神の件で度々その部屋に出向いたいたので特に驚きもしない。だが一つ驚く事があった。ボスの影が見える。

一応霧はかかっているのだが大体の体格や身長は分かる。背が高い、砕胡は少し傷ついた。


「ひとまず僕らは行くよ。來花が一番位置分かるよね?」


「あぁ。準備は出来ている」


「じゃあ行こうか!」


來花を先頭にして再び生成されたゲートに飛び込んだ。繋がったのは廊下だった。そこは刀迦が走る速度を計る為に使用していた長い一本道だ。

全く迷わない道なのでバグっていないと仮定してひたすら一直線に進む事とした。保険として來花を戦闘にしておく。そしてその後ろに三人がぴったりとはりついているような形だ。


「砕胡、大丈夫か」


「まだ本当に小さい時だったから痛みとかなかったんだろう。今回はもしかしたら痛いかもしれない。僕は痛めつけるのは得意だがされるのは苦手なんだ、少々怖い程度だ。気にしなくていい」


「分かった。無理はしないでくれ」


砕胡はもう既に無理をしているとは言い出せなかった。だがその事を察してくれたのか佐須魔が肩を叩きアイコンタクトをしてきた。珍しい励ましに少し感激しながらも進み続ける。

そして見えて来た。暴走している魂に光輝と死んでいる胡桃が。


「何!?」


來花は急いで進む。そして焦っている光輝に飛んで行った攻撃を身を挺して受けた。驚いている光輝を何とか説得しようとする。


「早く逃げろ!」


だが光輝は嫌がっている。ただもうワガママを受け入れている余裕は無い。胡桃の事は諦めてもらう事にした。そして光輝を掴み、元来た道へぶん投げた。

その後佐須魔に指示を出そうとするが既に行っていた。光輝が飛んで行った方向に帰還用のゲートを生成したのだ。そしてすぐに沈静化を行おうとする。


「危ないよ!」


名前を呼ばれ、姿を露わにしていた智鷹が注意する。それと同時に魂からエネルギー弾のようなものが発射された。すぐに佐須魔が前に出て唱える。


『降霊術・神話霊・ウロボロス』


すると自分の尾を噛んで一つの輪の様になっている龍が姿を現した。そしてウロボロスは攻撃を全て自分の身で受けた。直後嫌な音と共に血をまき散らし、散り散りになった。

と思ったのも束の間、一瞬で再生した。


「ウロボロスは攻撃の手段が本当に何もない。攻撃の命令をしても無視して来る。けどね、最強なんだよ。何度でも、僕の霊力が尽きようが何だろうが僕が命令しない限り、永遠に盾となるんだ」


この時点である程度の安全は保たれる事となった。だがそれだけでは駄目だ。沈静化には來花と砕胡が魂を同時に触れていなくてはならない。

ウロボロスがあろうと触れた時点で手を切り裂かれたりしたらやりようがない。何とかして少しでも弱めなくてはいけないのだ。そもそもウロボロスがあろうとも暴走しているので無造作に壊して行く。

動ける足場が無くなったりしたらゲームオーバーだ。あまり時間をかけることは出来ない、後数分で決めなくてはいけない。だが算段が見えてこない。


「どうすれば…!」


「來花と砕胡は触れる事に注力して!僕と智鷹で抑えつける!」


「頼む!」


それぞれ役割を分担する。智鷹と佐須魔は何とか攻撃を試みるが全て霊力の弾丸で粉々になってしまう。その時一つの疑問が浮かんだ、霊力の弾丸で壊れるのならば物理的な物体なら届くのではないかと。

すぐに佐須魔はゲートを生成し、とある物を掴み取った。


「こういう時に使うんだな。これ」


「そうだよ!」


何を使おうとしているのか気付いた智鷹は嬉しそうに答えた。そして佐須魔は引き抜く、武具庫からの来訪者[聖女の剔抉(オポジット・レイン)]を。

それはほんの少しだけ大きなただの十字架の様に見える。特段強い霊力を放っている様にも見えない。だが佐須魔は自信満々だ。そして智鷹に問う。


「十秒、いや五秒耐えれる?」


「僕を舐めてないかい?」


「ありがと。それじゃ行くぜ!ウロボロス!」


そう言いながらウロボロスに指示を出した。ひたすら前進だ。ウロボロスにも意思はあるのである程度調節しながら前に進む。佐須魔は物凄い勢いで距離を詰めていく。

その間もとんでもない量の攻撃が飛んで来るが基本全てウロボロスが受け止める。だが再生の合間に一発程度飛んで来る。その攻撃は[聖女の剔抉(オポジット・レイン)]で殴ると粉砕された。


「なんだあれ?」


「あれは[聖女の剔抉(オポジット・レイン)]と言ってなまぁ簡単に言うと逆さまになるんだよ攻撃が。霊力の攻撃は物理的攻撃に、物理的攻撃は霊力攻撃になる。そして佐須魔は霊力攻撃変えてから自分に取り込んでる。あれは佐須魔じゃないと扱えない、怪物の為の武具、それもそのはずだ。あれは智鷹が作ったモノの一つだからな」


智鷹が作る武具は基本的に変である。用途がよく分からないが上手く刺さると非常に強い、というものが大半だ。今回のも同じ、元々佐須魔の為に作ったモノではあったが本当に使ってくれるて、上手くいっている。思っていもいなかった事だ。

大変喜ばしい。


「良いねこれ!身体強化使いは完封出来そうだ!」


楽しそうに弾を斬って行く。次第に楽しくなって来たのかウロボロスへの指示を放って進み続ける。怪物独特の足運び、異次元の動体視力、鍛え抜かれた無駄のない無駄な受け流し、全てが噛み合い無傷で済んでいる。

そしてすぐそこ、もうタッチ出来てしまいそうな位置まで近付いた。楽しんではいるが本来の目的は忘れていない。ある程度手加減しながらぶっ叩こうとしたその瞬間、聞くとは思っていなかった少女の声が響く。


呪・斬壇堂(のろい・ざんだんどう)


四方八方から飛び回る刃。來花は誰が来たのか理解すると同時に心の奥底からの怒りを込め、振り向きながら叫んだ。


「なんで来た!!!美琴!!!」


後方には立っていた。右眼の眼帯、紫陽花(あじさい)の様な瞳、それよりも少し紺に近い色の髪、そして崎田特性の戦闘用ジャージを身に着けている[小田町 美琴]が。



第百八十三話「二人でのお話」

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