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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
第七章「TIS本拠地急襲作戦」
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第百八十話

御伽学園戦闘病

第百八十話「撤退」


狐の半霊が召喚された。シャンプラーは触手を操り攻撃をしようとする。だが相手が半霊かつ他の生徒会メンバーが強くなっている事を情報共有で知っていたので一旦様子を見る事にした。


「行くよ。指示は出さない。あなたの好きなようにやってね」


そう半霊に伝えてから美玖も自信がやるべき行動を取り始めた。まず距離を最大限まで取る、壁まで到達しようとしたがあまりにも部屋の範囲が広いことに気付く。

仕方無いので50m程度の距離を取る事にした。シャンプラーは何か絶対に意味があることぐらい察していたので美玖の方は一匹の職種に任せる事にして残りの三本と自分で半霊を片付ける事とした。


「どうせ半霊だ。戦闘能力は低い」


半霊は半透明で霊でしか殺せない。だがその分戦闘能力の限界は非常に低く行けても上の中堅、神格などには到底届かない型の霊なのだ。

ただシャンプラーには半霊を攻撃する手段は無い。なので何とかかわしつつ行くしかないのだがいかんせん美玖が気になる。そこまで戦闘能力が高く無い狐を単体で放置するより少しでも殴り掛かって来るのが得策に思える。

美玖自信が全く戦えないというのならば分かるが美玖はそこそこ戦える。触手は半霊に任せてシャンプラー本体との格闘ならいい勝負が出来る程度には。

なのにも関わらず全く戦う気配が見えない。恐らくだが狐に何かあるのだろう、例えば主人も巻き込む広範囲攻撃などの手段が。その事を仮定するとあまり引き延ばして戦うのもよろしくない。

比較的早めに決める。その心構えで挑む事にした。


「一つ、教えなくてはいけない事があるな」


発された言葉では無く言葉を発した事に驚く。半霊が喋ったのだ。別に信頼関係を深めれば良い話では無いかと思うかもしれないが半霊は少し特殊なのである。どれだけ信頼関係を築こうとも喋ることは無いはずなのだ。

佐須魔、素戔嗚、他多数のTISメンバーが半霊との会話を試みたのだが意思疎通が出来る以上の進展は無かった。だが目の前にいる狐は喋っている。

その事実を受けシャンプラーは恐怖を覚えた。何か異常な個体だというのは明らかだ。すぐにでも弱点を見つけなければいけないと判断した。

ただそれより先にやるべきことがある。『阿吽』でTIS全体に報告しておいた、浜北 美玖の持ち霊は半霊だが言葉を口にし喋った、と。


「まぁ良いか。短期で決めよう。そちらとしてもその方が良いだろう、元々霊力が少ないようだしな」


互いに短期決戦が得意だ。そして互いに最高のコンディション。そして互いに何をしてくるかが分からない。完全に不意打ちをした者勝ちの勝負となるはずだ。

そして本格的に始まった。まず動いたのは当然半霊だ。シャンプラーに噛みつこうとする。だが一本の触手を高い天井に噛みつかせ、フックショットのような使い方をして宙に浮いた。

狐は宙に浮く事は出来ないので攻撃手段は無いと思われた。だが美玖の本領はそこじゃない、妖術だ。


妖術・遠天(ようじゅつ・えんてん)


そう唱えると狐の顔の前に小さな光の球体が現れた。次に狐がそれに対して息を吹きかけた。するとその球体は物凄い勢いで飛んで行き、シャンプラーを支えていた触手を貫いた。

当然支えが無くなったシャンプラーは落下する。だが他の触手を掴ませる。だが美玖が三回唱え、最初から出ていた四本の触手は全て千切れ、活動を停止した。

ただ千切れたときなどにシャンプラーがダメージを負ったり態度が変わったりはしなかったので恐らく降霊術の持ち霊のようにあくまで別の者として扱われているのだろう。


「まだ、出せる」


シャンプラーはそう呟きながら四本の触手を新たに生やした。するとその時は苦しそうにして、顔にほんの少し変化があったように見えた。だが本当に小さな変化だったようで意識してみると何が変わったのかは分からない。

ひとまず今は別の事をするべきだ。再び遠天で壊しても良いのだが触手が固定されていないと避けられる可能性がある。美玖は霊力がそこまで高くない150程度なのであまり無茶して使うことは出来ない。


「一旦好きに!」


再び指示を出す。美玖はどちらかというと指令が多い、適切なタイミングで人術や妖術などを使用し半霊や共に戦っている者をサポートするのが主な役目だ。

なのでタイマンだと弱い。だがそこを克服する為に夏休みを過ごした。紫苑に徹底的に教えてもらった手段があるのだ。

だがその手段と言うのは非常にリスキーかつ一度の戦闘で一回しか使う事は出来ないのでまだ使うことは出来ない。その技を使うタイミングを見計らうのも美玖の役目である。

一方狐は何とかシャンプラーに攻撃をしようとする。だがシャンプラーは再び天井に張り付き、逃げ回る。


「これは短期戦にしなくても良いかな。逃げ回って霊力切れを狙う」


戦闘方針を変えた。このまま粘って美玖の霊力枯渇を狙うとの事だ。そう口に出したのは美玖を焦らせるためだ。だが当の本人は全く焦っていない。というよりも聞いていなかった。

自分が持っている術と残りの霊力120をどうやって扱うかを考えていたからだ。ある程度の作戦はあるのだが触手を生やした時の行動が少し不自然だ。

その事も考慮するとあまりツメツメのプランは良いとは言えないだろう。奥の手は霊力を使いはするが5や10程度なのでそこまで心配する必要は無い。だがその奥の手を使う所まで追い詰めるのが少々難しい。

だが思いついた。とある方法が。美玖は意を決して行動を起こした。


「もしかしたら死ぬかもしれないけど…許してね、先生」


ゆっくりと前に進み、唱え始めた。三個ある手順の内の一つ目、三回の祝詞。


『人術・潜化』

『妖術・刃牙』

『妖術・上風』


まず人術・潜化は美玖自信にとある属性を付与させる術だ。その属性とは半霊化である。何が起こるかというのは文字通りで半霊化するだけだ。ただこれを人間に使用してもメリットはほぼ無い。本当の半霊と違って物理攻撃はくらうし霊にも攻撃を受ける。だがこれが事前準備の中では一番大事な事なのだ。ただ霊力消費は30と人術にしては少々多い。

次に刃牙、これは美玖が良く使っている術である。対象の牙を鋭く変形させることが出来るのだ。用途が様々なので戦闘でも使えるし硬い物を破壊する時などにも使える。何より霊力消費が10と少ないので便利だ。

最後に上風、これも名の通りだ。宗太郎や流のスペラなどの鳥や空を飛んでいるタイプの霊が得意としている風起こしである。ただ地に足を着けている狐のような霊でも全然使える。そして霊力消費量は美玖の場合20程度である。ただその分超強力な風が起こせる。


「…落として噛みつかせる、という作戦か」


そう冷静に分析しているシャンプラーは抵抗できず触手が天井から放れ、他の触手も強風によって上手く操作できず落下した。落下の衝撃も痛いのだが強風が普通に痛い。張り裂けそうな痛みだ。

だがそれよりマズいのは強風のせいであまり前を向けない事だ。強風は妖術によって発生しているので霊力を帯びている。そのせいで霊力で半霊の位置を特定するのは不可能だ。

そもそも半霊は霊力放出が極端に少ない。それを人間ではない触手という者を使って無理矢理探知していただけなので当然と言えば当然である。


「今!」


美玖が叫ぶ。するとそれと同時にシャンプラーの顔に激痛が走る。すぐに確認すると狐が噛みついて来ている。すぐに触手で攻撃しようとしたが強風のせいで攻撃できない。それに加えすぐに何処かに行ってしまった。

このままではジリ貧だ。妖術・上風で起こった風が止むのは完全にランダムとされている。それ故に作戦を立てても意味はない、風がやむまでは行き当たりばったりで何とかするしかないようだ。


「思っていたよりは強くなっていないが…厄介だな」


外れないように眼鏡を片手で支えながら周囲を確認する。するとたまたま振り向いた時後ろから噛みついて来ている事に気付いた。すぐに触手を動かして迎撃する。

だが狐もその事を察したのかすぐに姿を消した。いい加減息もしづらくて苛立ってくる。何とかしなくていけないと思ったその時、都合良く風が消えた。

一瞬で全体を見渡す。すると先程と同じような配置で奥に美玖、その前方に狐だ。流石に同じことをされたら今度こそは負ける可能性があるので一気に攻撃に回るしかない。

だがシャンプラーの能力は本気を出すと少し厄介な事になる。傷は治る、なにより何も成さないまま終わるよりかはマシだろう。


「限界でやる。十二本だ」


その瞬間背中から更に八本の触手が生えて来た。同時にシャンプラーの顔にくっきりとヒビが入った。


「そう言う事か…そう言う能力なのね」


美玖は少し前に感じた違和感の正体に気付くことが出来た。それは触手を生やした時に起こる現象だったのだ。シャンプラーは触手を生やすごとに霊力が増加するらしい。

ヒビが入るのは霊力がオーバーしている時の現象だ。恐らくどれだけ増えるかなどは制御できないのだろう。能力を使おうにも増えて行くので減らす事が出来ない。だから一回生やすのにも少し嫌がっていた、全てが繋がる。


「僕の能力は少し特殊なんですいよ。普通の人なら人術や念、術式などで霊力を消費すれば良いのでしょうがそんな甘くは無い。僕にはどれも素質が無かった。

だから触手一筋で駆け上がったんです、ここまで。でも能力の都合上限界が来た。恐らく覚醒や戦闘病を発症しない限りこれ以上の成長は見込めない…それでも僕は、戦う」


更にヒビが入る。顔全体が崩れかけて来る。それと同時に霊力の放出も激しくなって来た。肌感覚だけでも分かる、400は優に越えている。もしかしたら500以上あるかもしれないと感じる程だ。

必然的に霊力濃度も濃くなって来る。空気中の五割を霊力が占めた。それだけならまだそこそこだ。だが何が凄い点か、その部屋は非常に広い。

簡単に言うと一般的な体育館程度、それかもっと広いぐらいの空間はあるはずだ。なのにも関わらずそこ全体の空気の濃度を五割に変えてしまった。

尋常じゃない程の霊力量だ。唾を飲み込む事さえもはばかられる。


「…第二ステップ、行くよ」


だが恐れをなすことは無く、勇敢にも立ち向かう。そして二つ目の段階へと突入した。残りの霊力は60程度だ。使えるのは40である。0まで使うと気絶する、いや5まで行くだけでも相当危険だ。なので使用するのは40で止めておく。

ただ第二ステップも術を使わなくてはいけないのでしっかりと集中して、外したりミスをしたりしないようにする。

大きく息を吸い、吐く。深呼吸を終えてから命令した。


『妖術・遠天』


すると最初に使った遠天よりも大きな球体が狐の目の前に現れた。すると狐は大きく息を吸い、思い切り押し出した。するとその球体は本当に目にも見えない、音も発生しない程の超速でシャンプラーの元へと到達する。

だがシャンプラーも球体が出た時点で飛んで来るのは分かっていた。なので触手十二本を全て自分の前に突き出し、集合させた。疑似的な盾を生成したのだ。

ただそんな貧弱な盾ならすぐに貫通され千切れてしまうだろう。なのにシャンプラーは堂々としている。


「貫通できるはず」


圧倒的な威力になすすべも無く盾は貫かれた。その際に七本は千切れ、活動を停止した。残り五本となる。だがその五本は既にその場には無かった。天井と壁に張り付いていた。

そちらのほうに視線を向けると再びフックショットの様に移動していた。あまりにも速い動きだ。目で追うので精一杯レベルの速さである。

だが美玖からするとありがたかった。最後のステップに入る。まるで焦っているかのような演技をしながら唱える。


「降霊・狐」


紫苑に教えてもらっていたのはそう、降霊だ。その当時は紫苑もほぼ未経験だったのだが感覚だけでも教えてもらって完全に扱うことが出来るようになった。

だが半霊を中に入れると霊力量がその時の半分になってしまう事が分かった。なので術を作った、それが『人術・潜化』である。夏休みの期間中にラック、美玖、乾枝の三人で合間を縫い、頑張って作る事に成功したのだ。

これをして降霊をする事で何になるのか、答えは一つ。人間であり、霊にもなる。

それ即ち浮遊など様々な効果を得る事が出来る。そして一番大きな利点は妖術が使えるようになるのだ。シャンプラーはそんな事が出来るとは思っていない。油断している所に撃つ妖術は一つだ。


『妖術・遠天』


目の前に球体が現れた。それを手で掴み、思い切り投げ付ける。シャンプラーは驚愕しながら回避を行おうとするが間に合わなかった。触手は一本千切れた。

だが二本で支えていたので何とかなった。だがそれだけでは終わらない。狐と融合した事で霊力は少しだけ回復している。60程度だ。撃てる回数は二回、残っているのは四本だ。


「どうせ一発芸だ、僕は…」


豪語する暇も与えられることは無かった。美玖は唱える。


「私がなんで後ろに下がってるかは上風で吹っ飛ばされないようにするためだと思ってたでしょう。でもね違う。残りは60、強い術が使える」


妖術・戦嵐傷風(ようじゅつ・せんらんしょうふう)


香奈美が作り出した妖術だ。竜巻を起こすのだ。これをフックショットでぶら下がっているような状態のシャンプラーがくらったらどうなるかは分かり切っている。

風に巻かれた。だが美玖も同時に激痛を負う。両者半分意識を飛ばしながらも何とか耐える。そして三十秒の竜巻が終わり視界が晴れた。

結末は簡単なものだった。美玖は気絶、シャンプラーはボロボロで唯一残っていた触手を抱えながら足を引きずり、歩いて逃げようとしていた。

そこに一人が到着する。


「ハイエナか…嫌なんだけどな、まぁしょうがないか」


康太だ。シャンプラーは非常にマズイ状況だと理解したのか血眼になって触手を伸ばす。だがそれは前方にいる康太に対してではなく天井にだった。

逃げようとしているのだ。だが康太が逃がすわけが無い。


「一応飛行能力持ってるんだよな、霊だから」


千切れかけていた触手は康太の持ち霊によって破壊された。バックラーだから詠唱は不必要なのだ。不意打ちとも呼べるその攻撃を受けたシャンプラーは無様にも地面と衝突した。

もう一発殴るだけでも気絶しそうな状況のシャンプラーにとどめを刺そうとしたその時、部屋に眩い光が差し込んで来る。

壁が破壊されたのだ。大量の手によって。

そこには[name ハンド]と[name パラライズ]がいた。そしてハンドはいつもの雰囲気とは打って変わって必死になっている。そして状況がよくわかっていないからなのかは分からないが命令した。


「一つ手を貸します!!すぐに逃げて!!呪の父が、動き出した!!」


その言葉一つで何が起こったかは理解できる。すぐに近寄って来た手に美玖を乗せる。そしてシャンプラーを気絶させようと視線を向けようとしたその時その手につままれ、勝手に移動が始まった。

少し先には瀕死のシャンプラーがいる。だが康太も仕方無いと割り切り、手に飛び乗った。そして通常状態に戻っている美玖の止血を行いながら『阿吽』で連絡を行った。

連絡は学園側だけではない、TISにもだ。


『[空傘 神]…いや…[天仁 凱]の魂が暴走を始めた!すぐに逃げろ!現場には取締課のハンド、パラライズは確認した!俺は今手に乗って気絶している美玖と共に逃げている!

帰る事が出来る者はすぐにでも撤退!帰る事が出来ないものは極力安全な所で身を守って!俺は避難する!』


本拠地内は騒然とする。それまで戦闘をしていた者達も一斉に手を止め、一時的に協力体制に入る事となった、あるチームだけを除いて。

それほどに厄介かつ危険な状況へと陥ったのだ。そしてその直後学園側全体に命令が行われた。


『被害状況の確認、死体の回収、戦闘、全てを放棄!全員撤退だ。すぐにでも逃げろ!本拠地の外に出て謎の桜道に出た場合は一本道を進め、ゲートを開通させてある!』


そうして数人を除いて撤退行動、大会への前座は急激に終わりへと歩みを進め始めた。



第百八十話「撤退」

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