第百七十二話
御伽学園戦闘病
第百七十二話「運命への出会い」
2007年 9月1日
小学六年生の莉子はまだ外で暮らしていた。両親ともに能力者で莉子も能力者だと判明していた。そのせいで学校中で虐めにあっていた。だが頭が悪かったので自分に何か原因があるのかと思い込み、島に行こうなどと言う事は無かった。
親も頭は良くなく、情報社会に変化しつつあったその時代に追いつけるのか不安になっていた。
そんな年、独りぼっちだった夏休みが終わり、憂鬱な学校が始まる。すると担任の教師から皆に報告が入った。
「転校生がいる。入って来なさい」
その言葉と同時に教室の扉が開かれた。そこには六年生とは思えない程のオーラを放っている少年がいた。ただ背丈や顔つきは子供で少し不自然だと思っていると流れで自己紹介が始まる。
「俺は[平田 淳]。宮崎県から引っ越して来た。よろしくな!」
元気一杯でそう言い放つ。クラスの皆はそのオーラに気付いていないようだが莉子も言及しない。と言うのも自分の発言がかき消される事は分かっているのだ。なので黙って時間が過ぎるのを待つ。
そしてボーっと耳から耳へと話しを聞いていると隣に淳が座って来た。
「…?」
「俺の席ここだって。よろしくな」
「うん。よろしく…?」
恐らく能力者だと知らないだけなのだろうがその時の莉子はそんな事さえも考える事出来ない。なんでか能力者にも優しい変人程度にしか思っていなかった。
そんな反応をしていると当然他の生徒がちょっかいをかけてくる。莉子の事を能力者だと言って九割いじめの弄りをしてくる。莉子は普段の事だったのでノータッチで授業の準備をする。
するとその態度が気にくわなかったのか叩くような動作をした瞬間、淳が間に入った。
「そういうの良くないよ。能力者でもなんでも平等にした方が…」
「なんだ!?淳お前能力者を庇うのか!?」
「違う。別に僕だって能力者が好きなわけじゃないさ。ただ差別や虐めは良くないだろっていう話」
「…あっそ。つまんね」
場が白けたのか散り散りになる。淳は莉子の事を心配しながら席につく。そして話しかけるが莉子からは適当な返事しか返って来ない。だがめげずに何度か声をかけるとようやくまともな言葉が返って来た。
「なんで私と仲良くしようと思ってるの?能力者だよ?」
そんな返答だったからか一瞬驚いていたがすぐに肯定的でも否定的でもない意見が飛び出す。
「秘密にしておいてほしんだけどさ…僕の家系能力者なんだ。でも僕だけ能力を発していない。でも時間の問題だと思うんだ。だから時間がある内に少しでも沢山の子にある事を教えたいんだ」
「ある事…?」
「そう。それはね…」
するとタイミングよく先生が教室に戻って来た。そして授業を始める事になったので後々という約束を交わし、一限目の授業を真面目に受けるのであった。
長いような短いような四十五分を過ごし、気になっていた話しをしようと勇気を持って莉子から話しを振ろうとしたその時他のクラスメイトが淳を持って行った。
「まぁ…そうだよね」
いつもの事なので特に気にしないでいいと思ったのだが何故か心が痛い。と言うより心にこみ上げてくるものがった。だがその感情が何なのか、何故その感情が起こったのかなんて解らないし解ろうとも思えない。
とりあえず次の授業の準備をして席に座って待つ。十分間の休憩を終え先生が戻って来る。淳も席に戻って来て謝る。だが別に起こる必要性が無いのでとりあえず「大丈夫」とだけ言って二限目の授業が始まった。
そこからずーっと同じ事の繰り返しだった。淳は転校生なので当然人が集まって来る。そんな状態で能力者として蔑まれている莉子が近寄って話すなんてそうそう出来る事では無いだろう。
給食、長休み、五時限目が終わる。結局話せないまま終わるかと思われていた。ランドセルを背負って家に帰ろうと学校を出た。ボーっとしながら歩いていると後ろから声をかけられた。
「ごめん!ずっと話せなかった!」
淳だ。
「いや、大丈夫だよ。転校生なんて人気だから。それで話しって何?」
「莉子ちゃんって安全な所に行きたいって思ったりしない?」
「安全な所?それは能力者が安全な場所?」
「そうそう」
「だったら行きたいかな。お父さんとお母さんが心配だし」
「だよね。そこでさ、これなんだけど」
そう言いながらスマホを見せて来た。莉子は何かと見てみるとそこには御伽学園や理事長、島の事などが記載されているホームページのようなものだった。
じっくりと見てみるがよく分からない。
「まぁ簡単に言えば能力者だけで暮らしてる島だね。能力者へのサポートが熱い。抽選とかはあるけど最悪の場合莉子ちゃんの能力で飛んじゃえば大丈夫でしょ。多分受け入れてくれるよ」
「そうかなぁ…と言うか何で私の能力知ってるの」
「みんなが噂してたからね。とっても便利な能力だよね、テレポート」
「しょーじき使い道無いけどねー。でも良いね。その島。ちょっと二人に言ってみるよ」
「うん!そうすると良いね。その内僕も行くだろうから」
「そっか」
二人はその後も会話をしながら帰路に着いて行く。そして先に到着したのは莉子の家だった。
「それじゃ。バイバイ」
「うん。バイバイ!」
二人は別れた。
莉子は家の中に入って行く。両親共働きなので誰もいないその自宅で適当に時間を過ごす。そして二十時、母親が帰宅した。そして晩飯をとっている最中に島の話しを持ち掛ける。
母親も知らなかったようで調べてみると言いその日の話は終わった。大分好印象の様でそんな戸惑ったりはせずに行けそうだ。少しワクワクしながら明日の学校のために眠りについた。
翌日いつもと変わらない朝を過ごして学校へと向かう際中淳に話しかけられた。他愛も無い会話をしながら学校へと向かう。そして島の話しは問題なく進みそうな事を話すと淳はとても喜んでいた。その嬉しがっている表情に何故かは解らないが胸が踊った。ただ感情表現をするのは苦手なのでとりあえずその気持ちは抑えておく事にした。
「それじゃあ僕他の子とも話して…」
学校に到着し、準備が終わった淳が他のクラスメイトと話そうと席を立ったその瞬間、莉子が服を掴んだ。そして何も言わずに断固として放そうとしない。少し困ったようにする淳だが特段嫌そうな顔をするわけでも無く再び座った。
そしてなんで放してくれなかったのかを訊ねるが莉子は下を向いて答えようとしない。
「まぁいいや。じゃあ何かあれば言ってね。僕は待ってるから」
今までかけられた事も無いような優しい声でそう言われると心が暖かくなってくる。ただその感情さえも言葉に表す事は出来ずその時間は沈黙が続いた。
だが淳は嫌な顔一つせずに付き合ってくれる。境遇は境遇といえど本当に優しい子なのだろう。莉子は他人からの優しさに触れた事が全く無かったので少し優しくされるだけでもとても嬉しい。蔑まれていて良いからずっと淳といたい、そう思ったのだ。
「でもまだ暑いなこの時期」
「そうだね…」
中々会話が弾まない。そのまま何事も無く終わるかと思われたその時だった。三限目が終了するとほぼ同時に、莉子が席から崩れ落ちた。
他のクラスメイトなどは全く心配していないのだが淳は大変心配し、保健室まで抱えていった。だが保健室には誰もおらず、何をすればいいのか分からないのでひとまずソファに寝かした。
そしてどうすれば良いか悩んでいると莉子が目を覚ます。声も出ない様でパクパクとだけしている。
「大丈夫?」
そう問いかけるが返答は無い。心配しながら顔を少し持ち上げ、おでこに触れる。滅茶苦茶熱い、恐らく熱があるのだろう。
「気付いてあげられなくてごめん。とりあえず先生を…」
誰でも良いので大人を呼ぼうと立ち上がった淳を引き留める。朝と同じように、服を掴んで。だが今はそんな事に構っている場合ではない、何とか振りほどき大人を呼ぼうとしたその時、莉子が声を発した。
弱弱しく、振り絞ったような、震えた声で。
「行かないで…」
その瞬間、淳はある感情を覚えた。だが何だか恥ずかしく、言葉にすることは出来ない。
仕方無く言われた通りに傍の椅子で座っていると保健室の先生が戻って来た。そして状況を瞬時に飲み込み、面倒くさがりながらも莉子の状態を確認する。
そしてただの風邪であろうと判断された。
「まぁお前なら能力使って帰れるでしょ。勝手に帰っといて、早退にしとく」
教師とは思えないその態度に淳は少しイラつき、言い返そうとしたが服を掴んで止められる。そして様々な意味を持っているのであろう優しい微笑みを見せた。
淳はどういう意味なのかを子供ながらにしっかりと受け取り、黙って教室に戻るのだった。一方莉子は言われた通りフラフラになりながらも能力を使用して、家に飛んで帰った。
「淳…君…」
そう涙目になりながら玄関先で倒れ、半気絶の様な状態で眠りについた。
その時の莉子の脳内には一つのシーンが強く浮かび上がっていた。淳に頭を持たれ、おでこを触られた時だ。その時は苦しいはずなのに心がときめいた。
莉子は自分がどういった立場の人間なのか勘で把握していた。なのでそんな感情を持つ事さえも失礼だと判断し、全くと言っていい程してこなかった。
だが淳になら、持っても良いと思った。その感情。
その後数年間を引きずる事になる、『愛』が芽生えたのだった。
第百七十二話「運命への出会い」




