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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
第七章「TIS本拠地急襲作戦」
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第百六十九話

御伽学園戦闘病

第百六十九話「宛先不明の再開文言」


ラックは普通の廊下に飛ばされた。大体こうなるであろうと事は予測出来ていたので何もテンパらずに淡々と歩を進める。内装や感じた霊力など、覚えられる事を全て頭に詰め込んでおく。これも何かに繋がる可能性があるからだ。

普通の人ならそんな事は出来ない。突然変異体(アーツ・ガイル)の優樹の能力、『完全記憶(サヴァン)』でなくては出来ない。だがラックにはそれが出来てしまうのだ。それは天声、いや神の加護によるものなのだろう。


「…そこら中で戦ってんな…もう何人か死んでやがる」


十五分程歩いていただけで敵か味方か分からない誰かが数人死んでいるのが分かる。ただ焦らない。それもラックだからこその反応だ。

ラックは小人数、エスケープの八人程度のパーティーは苦手なのだが今回の様な超大人数での戦闘は得意分野だ。だが得意なのはあくまで現世での地形や建物であって仮想世界にある物理法則や明らかな異常がある本拠地ではそのセンスもゼロに等しい。

ただ焦らないことは出来る。大量の仲間が死ぬ事なんて日常茶飯事だった。焦るタイミングはもっと後、大将の首に手がかかった時なのだ。


「…また死んだな……とりあえず礁蔽か兵助と合流しておきたいな。紫苑は心配ないがあの二人はいつの間にかやられてそうだ。流はここにいるっぽいな。京香の霊力は独特だから分かりやすくて助かるな…と言うより交わった血のせいか」


そんな独り言を呟きながら頭に情報を詰め込んでいたその時、声をかけられた。もう一度状況をよく確認する。

そこは十字路のようでその右通路の角っこから声と足音が響いている。それ以外には何の変哲も無い鉄製の床や壁の廊下だ。一応戦闘体勢に入りながら返答する。


「悪い。もう一回言ってくれ、聞いてなかった」


「遅いと言ったのじゃ、退屈しておった。妾を待たせるとはいつの間にか成り上がったのか?…にしても良い勝負になりそうじゃ、ラック・ツルユとはな」


姿を現したのは巫女装束で白髪ロング、頭には降霊術・唱が失敗した際の保険か狐の面をつけている。そして口調で分かる。叉灘だ。

ラックも少しだけ警戒しつつ会話を行う。


「俺はお前の霊を叩きたくないんだが」


「妾だって情ぐらいかけてやりたい。だが佐須魔に言われておる、一番最初に会った奴とやれとな」


「分かった。やってやるよ、殺しはしないけどな」


「分かっておる。妾だって殺しはしない。まぁ暇潰しには丁度良いでは無いか」


「んまぁそうか。そんじゃ行くぞ」


そう言いながらラックが動く。その瞬間叉儺が唱えた。


『降霊術・唱・狐神』


呼び出される。神格の中で三番目に強い霊、狐神だ。迫力は凄まじく、流石重要幹部最強格と言った所だ。だが叉儺が殺さないと言った場合超手加減をすると言う事になる。それは狐神の戦闘スタイルに関係している。

狐神は本体スペックも決して低くないのだが個体値によるもので少々力が弱い。なので叉儺が妖術を覚え、そこをカバーするのだ。だが一つ問題点があった、加減が分からないのだ。

そもそも叉儺は手加減=訓練だと思っているので霊力を消費したがらないのもある。だが本番になるとあまりにも強い妖術を発動するので洒落にならないのだ。万が一研究部屋を吹き飛ばしたりでもしたら喪失感で伽耶が命を断つかもしれない、他にも破壊してはいけない物は大量にあるので手加減するよう命じられていて弱体化が入っているのだ。


『呪・封』


工場地帯での來花との戦闘で見て盗んだ呪を発動する。日頃鍛えていたわけでも無いが綺麗に決まり狐神は一度叉儺の中へとい還って行く。

当然がら空きになる。ラックが殴り掛かると叉儺は精一杯の防御で抵抗した。だが単純に筋肉量と肉弾戦の経験差がありすぎて防御がほぼ意味を成さなかった。

少したじろいだ叉儺の足元をすくう、そしてバランスを崩したので腹部に肘打ちをかます。すると苦しそうに腹部に手を与えながらも何とか立ち上がり、速攻で面を着けて唱える。


『降霊術・面・狐神』


ラックは呼び出されるわけがないと考えていた。だがこれは先程の肉弾戦の経験差と同じ、降霊術の経験差が出てしまったのだ。

面には一つ強みがある、能力発動系の妨害を受けない事だ。

まだ詳細は不明だが仮説として能力発動妨害は『能力発動帯』に干渉していると考えられている。すると霊力が正になる事が出来ないのだ。ただ面を行う方法は特殊である。霊力を一度面に流し、その後能力を発動しようとしながら面に霊力を流す事によって、先に流した面の中の霊力が疑似的に発動帯の役割を担い、霊を呼び出せるのだ。


「理解度が足りんのう」


口角をにんまりと上げながら再び狐神を召喚した。そして狐神は状況を把握する事もせずに予備動作無しで噛みついた。異次元の反射神経で回避を行ったは良いが完全に交わし切る事は出来なかった。

左肩を少し抉られる。だが痛みにふけっている暇も無いので気合で堪え、次の行動に出る。幸いな事に右腕は完璧な状態で使える。右足と右腕があれば大体何とかなってしまうのがラッククオリティだ。

息を整え、再び構えを取る。叉儺は妖術を使おうか迷ったがやめて、普通に噛みつくよう指示を出した。

だがカウンター技を繰り出した。


人術・厳・返(じんじゅつ・ごん・へん)


するとラックの周囲に何十個もの小さな球体が現れた。その球体は直径がペットボトルのキャップ程度しか無く見た所小さい。そんな物に何が出来るのか、叉儺はそう思った。ただその直後、おかしいとも思った。

叉儺は人術の書物も読み漁った。それなのに全く知らない人術を使っているのだ。人術の詠唱は非常に簡単だ。まず人術と唱える、これは仕組みが非常に似ている妖術と間違えない為の一節。そして次に作成者の名前が入る、ただ基本的に作成者欄は不明なので割愛される事が多い。最後に術名である。

ロッドの術ほど複雑でも無いのに忘れるわけが無い。なのでおかしいのだ。全く記憶に無い、術名を聞いた事無いだけならまだしも作成者名も耳にした事は無かった。

すぐに異常だと感じ霊に撤退の指示を出そうとしたが既に遅いようだ。


『ボン』


ラックがそう言った瞬間、大量の球体達は一斉に狐神に向かって飛んで行く。その速度は凄まじく既に身体強化を使っていたラックでさえ追えないレベルである。

そんな速度の球体が何個もぶつかったら普通は貫通して穴だらけになる。だがその球体はそんな動きにはならない、進み続けて入る、一直線に。だが貫通しないのだ、まるで平たく分厚いゴムにぶつかっているような状態が続き全く貫かれる兆候は見られない。

ただ狐神は身動きが取れない様でもがいている。そこにラックが突撃した。そして地面が抉れるほど力をつけて踏み、跳んだ。一気に眼前まで飛び出してきたラックに驚愕している狐神に対して思い切りキックをお見舞いしてやった。


「ほう、中々やるのう」


余裕をこいているが内心少し焦っている。だっておかしいではないか、何倍も図体に差があるのに身体強化を使っただけで狐神を吹っ飛ばしてしまった。

それが出来るのは兆波や拳などの規格外の奴だけだ。だがラックの身体強化はまだ常人の域である。なので吹っ飛ばせるわけが無い、何かからくりがあるのは確定だ。そこを見破らなくては勝ち目など無い、両者殺す気は無いといえどもとある理由があって負ける訳には行かない。


「やれ!」


ラックを指差しながらそう叫んだ。すると後方で体勢を整えている狐神が一気に距離を詰めて、大きなかぎ爪を振りかざす。だがラックは同じく人術を発動する。


『人術・厳・返』


すると同じ様に球体が何処からともなく出現する。そしてラックの『ボン』と言う音が響くと共に狐神に向かって飛んで行く。だが叉儺は学ぶ。そして妖術には超便利な跳ね返し技がある。


『妖術・上反射』


その瞬間球体達はラックに矛先を変え、飛んで行った。一安心、そう思われたが安堵の表情を浮かべる事も出来なかった。ラックに到達するには一秒もかからなかった。だが音はなっていない、何かにぶつかった様な音は。

それどころか違う音がする。全く違う、先程まで聞こえなかった音が。


人術・厳・斬(じんじゅつ・ごん・ざん)


カウンターの人術と作成者が同じだ。まだ推測の域に片足だけ留まっているが絶対に作成者は天才だ、人術を極めた者なのだろう。そんな者の術はこれまで発見されていなかった。だが目の前にいるラックが使っている。その非日常的な状況に興奮して来る。

だが叉儺は気分の高揚をしてはいけないと佐須魔に注意されているので何とか押し込み、どんな術なのかは分からないがどんな術にでも対抗出来る一手を打つ。


『妖術・上反射』


そう唱え、再び盾を発生させた。

直後、謎の音が大きくなる。それは機械音の様な音である。だが次第にそれが機械の音では無いと分かった、似ているだけだったのだ。ただ鉄と鉄が超高速でぶつかり合っている音だ。


「人術の強い所は正の物質をそのまま創り出す事も出来るからよ、お前らが発動帯って呼んでる所に霊力を流し込まなくても使えるんだよ。だからこそ出来る事が何個かある。その内の一つ、理論の突破。

これはもう何者にも証明できない。仮想のマモリビトでさえも。発動帯にはあまりのエネルギーに体が自壊する事を防ぐためにある一定でストッパーがかけられる。

その超限界まで出力できるのが超攻撃型、キラータイプの念能力だ。そしてこれは同じようなものだ、一つ違いがあるとすれば…代償が普通の霊力だけってことだな」


そう言いながら浮遊しながら回転する七個の刃を放った。直感だが分かる、絶対に当たってはいけない。理論で通用しない、理のその先の威力、恐らく即死だ。

殺す気は無いと言いながらそんな攻撃を行ったのは恐らく避けると信じている、狐神の限界を引き出したい、がそれぞれ半数なのだろう。

当然叉儺は回避を行う。だがただ避けるだけでは無理そうだ。ラックが操っているように見える。なので致し方なく狐神の後ろに隠れながら足音を最小限にしながら十字路のラックから見て左に逃げ込んだ。

本来なら指示を出して還って来させたいが音でばれて意味が無くなってしまう。それ故静かに狐神がどうなるかを見守るしかなかった。


「これがあいつの術だ、肌で感じろ。クソ狐」


殺意が宿る刃が狐神に触れそうになったその瞬間、狐神は姿を消した。そしてその霊力は十字路へと向かって行った。ラックはすぐに刃を操作しようと指をクイッと曲げた。

その時だ。

曲げたはずの人差し指が無くなっていて、血が垂れて来ている。そしてその付近には先程までとは霊力の量も、威圧感も、大きさも何段か大きくなった狐神が立っていた。

するとラックは非常に楽しそうに笑ってから自分が笑っている事に気付いたのか無理矢理表情筋を止めて、笑いを無くした。その後

対面しながら、誰に向けているのかも分からない再開の言葉を送った。


「久しぶりだな!!最悪(さいやく)!!」



第百六十九話「宛先不明の再開文言」

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