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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
第七章「TIS本拠地急襲作戦」
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第百六十五話

御伽学園戦闘病

第百六十五話「ミラーマッチ」


ヒリヒリと肌で感じ取れる程の凶暴な霊力、だがそれが素晴らしい。少量だからこそ鍛え上げられたのであろう霊力の操作の精密さ。そして何よりも素晴らしい所はその刀にある。

干支神化した霊と霊力を込めたにも関わらずビクともしていない。そして放出される霊力も最小限になっている。あまりにも便利だ、全てが効率化されている。


「やっぱ、欲しい。それ」


「だからあんたには使えないって!」


「いや、使える。だって私の方が強いから」


再び戦闘が始まった。両者血を撒き散らしながら刀を握る。水葉は最大火力をぶっ放す。だが矢萩はそれを超攻撃型の構えで全て跳ね返した。ただその時おかしいことに気付く。当然矢萩は察知しているのだがそこを対策するほどの霊力は無い。

能力者同士の勝負では霊力が少ない方が負ける、と言われる程には霊力量で決まって来る。一番大きいのは体力を霊力回復に回す必要性が無いのだ。

それも大きい要素ではあるのだが他にもある。戦術の幅が広がる。そのままの通りで霊力が残っているからこそ無理が出来るし妖術や人術、複数持ちの場合はその能力を併用する事だって可能だ。

一方霊力が少ない者はそれが出来ない。

矢萩はその少ない者だ。ずっと少ないとは言っているものの320、相対的に見れば低いだけであって普通に見ればとんでもない量である。ただ干支神化や降霊は霊力消費量がとんでもないのだ。だがそれをカバーするのが刀迦に頂いた[唯刀 猫]である。

唯刀は刀迦がある人物に依頼して作ってもらっている型で、ギアルを使用する為受注してから届く時間は非常に長いが強力なのだ。刀迦は干支兎に降霊を使用する。なのでギアルの刀が必須、それを上手く作り出したのだ。そして唯刀は種類が沢山あるのだが名前が違うだけで性質は何も変わらない。

その内の一つ、猫。これは矢萩専用の武具、そして最弱の刀だ。


「変に弱いね」


力勝負では水葉が圧勝だ。急に弱くなった、今までの鍔迫り合いではむしろ矢萩の方が強かった。だが超攻撃型になった瞬間力が弱くなった。

何か違和感がある。流石におかしい。


「もう良いや、どうせ分からないだろから教えてあげる。なんで弱くなったのか分かった時点であんたの勝ち、逆に言えば分からなかった時点で負け。覚えておきな。

私はあと五分で決着を付ける気でいる」


「…分かった。じゃあ私も荒技で行かせてもらうね」


その瞬間水葉の目の炎が消え去った。意図が分からない行動にすぐに後ろに下がった。だがその警戒心を利用した技である。そして一秒も経たぬうちにもう一度炎が燃え上がった。


「は?」


「自己覚醒、これ最近覚えたんだけどね。私の力って覚醒時に起こるの。それってさ、何回も出来るんじゃない?って考え、正解だったよ。自己覚醒だから出来る事、何回も、何回も繰り返せる。だから言ったでしょ?"霊力の無限化"ってさ」


「…ぶっ殺す」


「何急に」


「馬鹿にされた気がした、ムカついた、殺す。ガキが」


「さっき歳近いって言ってたよ」


「…」


論破されたせいでもう何も言わなかった。超攻撃的な構えを取り、突撃する。今度は水葉が回避に回った。だが水葉は攻撃しか出来ない、回避や防御は大体香奈美に任せている。なのでこう言ったタイマンは非常に弱くなってしまう。

だが水葉はそれをカバーする事を訓練された。一ヶ月の成果である。それが霊との対話、連携である。


「黒狐!」


「分かってるよ」


黒狐が割って入った。


「邪魔!」


「僕の役目は嬢を守る事だ、そうやって、昔の主から言われたんだ」


「知らない!退いて!霊力無くなる!」


「尚更だね。絶対に退かない、嬢を守るよ」


狐は身を挺して水葉を守る、俊敏な矢萩の動きにしっかりと追い付いてガードに徹底している。非常にウザったい、霊力に余裕は無いのだ。それには理由があった。そう、それこそが矢萩の言っていた勝ちに直接繋がる事だ。

だが水葉は気付いていなかった。今は何とかその事を探ろうと必死になって居る。なんとか狐と矢萩の攻防戦の中で垣間見えた隙を突いて少しずつ相手の体力と霊力を削っているだけだ。だがそれも有効な戦法の一つ、そう教えられて来た。

ぶっちゃけるとやった事は無かった。自分より強い刀使いと戦うとは思っていなかったからだ。だが実用性はあったし何より効いている。


「このままゴリ推して勝つ!」


だが矢萩が言っていた勝ちにつながる事が全く分からない。もしや何か能力なのだろうかと思う。実際の所一番有力な説だ。だが複数持ちが過ぎる。だとすると言霊だろうか、そうに違いないだろう。そして最終段階、何を放ったかだ。


術式は元々"誰でも"出来る便利な能力として編み出された術。

呪は作成者である"[天仁 凱]"が全てを手に入れる為に編み出された術。

念は能力者戦争時に"一般人でも"使えるように叡智を集い、能力者にも対抗できるよう編み出された術。

武具はある"一定の強さの者だけ"が扱える特別な武器として[南那嘴 智鷹]が編み出した物。


この様に神では無い誰かによって編み出された術と言うのは誰かが目的を持って創り出している。そして言霊もその一つなのだ。唯一と言って良いだろう、生まれた時から能力になる、と言う特性に進化したのは。

だがそれ故にお世辞にも強いとはされてこなかった。あまりにも大きい代償のせいで。だがそれは当たり前なのだ、何故なら言霊が編み出された理由は"強者が弱者をいたぶる為"なのだから。

強者には圧倒的な霊力が付き物だ。なので多大な霊力や体力を支払ってでも好きな様にしたい、自分の目指す何かを創り出したい。そう言った欲望を叶えるために作られたのだ。そう、『何でもできる』のだ。


「…もしかして…いやでも…いやでも…いやでも…」


何度も葛藤する。だが戦闘病患者に常識何て通用しない。文献と言葉で知っている。水葉はバカでは無い、気になった事はしっかりと調べ尽くし理解を深めたいと思っている。なので戦闘病の話しを聞いた時も図書館やネットで調べに調べて公に出ている情報は把握していた。

その過程で理事長が話してくれたのだ。その時に言われた言葉。


「彼ら彼女らに意思は無い。ただ欲に駆られ、本能に従っているだけだ。君も何かあったら殺す覚悟で行くんだ。まぁ二度と見たくは無いがな」


と言う言葉。実際に体験している理事長が言っているのだ。事実なのだろう。そしてその中の一説『本能に従っているだけ』。ここだ、ここなのだ。ここが全てを狂わせる。理論何て通用しないただの怪物に変化させるのだ。

だから今水葉が仮説として考えた事もあり得なくはない。それに矢萩は曲がりなりにも楽しもうとしていた。だからやってあげたい、体力霊力共に余裕はある。

最高に楽しませて、


「この戦闘を終わらせる」


剣を構える。それは数分前に始めて見た構えである、模倣、それ以外の何事でも無い。矢萩だけが使っている、超迎撃型の構えだ。とても特殊な持ち方である。今にも手がつりそうだ。だが絶対に体勢を崩さずに見せつける。

するとその時、矢萩が刀を落とした。油断では無い、感動で、だ。正解だったのだ。すぐに黒狐に還って来るよう指示出した。覚悟をしている眼を見た黒狐は大人しく水葉の中に還った。

そして矢萩も霊を戻す。そして完全に刀だけの勝負になる。両者アドレナリンで紛らわす、と言う事さえも拒否し全ての神経を刀を握る為の手、相手を捉える為の目、そして自信を動かす為の足に向けた。

矢萩は刀を拾い、超攻撃型の構えを取る。それと同時に訊ねた。


「答えは」


「超攻撃型の構えと超迎撃型の構えの入れ替え。と言うよりも調迎撃型の構えの協調、でしょ」


その瞬間矢萩は普通に笑った。今まではほんの少し口角を上げる程度だったが今回はしっかりと笑ったのだ。


「大正解!師匠はこう言う事分かってもやってくれなかったから!試したかった!私の限界を!!」


やりたかったのは水葉の殺害でも無い、師匠に打ち勝つ事でもない、自分を試す行為だ。それをする為に編み出したのだ、超攻撃型と調迎撃型の構えを。自分と同じ実力の者しか扱えない構えを。


自分に打ち勝つために"[榊原 矢萩]"が編み出した。


そして長年の夢が叶うのだ。自分への挑戦、自分の投影への挑戦が。


「…ちょっとだけ待ってね」


口調は優しくなっている。そんな事を突っ込む間も無くポケットからある物を取り出した。首輪だ、猫や犬に着けるような。そして矢萩はそれを自分の首に装着した。

そして先程までの不愛想Maxレベルの様な表情に戻り、刀を構えた。だが口調は優しいままだ。


「私はペット、師匠や佐須魔のペット。だからこそ、無茶苦茶をやっても許される。その為の自覚の首輪、気にしないでね」


「分かった」


「もう協調はしない、私の最高火力をぶつける。絶対、たえてね」


「勿論」


水葉は片目に灯る火を消した。正真正銘正々堂々、そうして始まる。自分自身との戦いが。

先に動いたのは当然矢萩だ。今まで見せた事も無かった超速で距離を詰め、0.5秒で十六連撃をぶち込んだ。だが水葉も見て盗んだカウンタースキルで十四撃を受け流し残りの二撃は身体能力で交わした。ただそれは今までに見た矢萩の速さで、だ。

何をしたいかは理解している、自分の調迎撃型の構えを破りたいのだろう。ならば矢萩の身体能力で対処するのが一番矢萩の為になる。


「最高だよ、水葉」


「ありがと」


「でも一気に決めるよ!私が得意なのは超短期だから」


「分かった。来い」


今一番の集中力を刀に向ける。そして目をつむった、第六感と言うのは非常に重宝するべきものである。それがあれば目なんか使わなくても対処できてしまうのだ、人間が放つとは思えない速度の斬撃など。

矢萩も今一番の集中力を放って思い切り刀を構えた。そして一気に斬りかかる、ここで全てを終わらせる気で突撃した。覚悟と言うのは素晴らしもので今までより速度が上がる。

その時自己最高の速度を叩きだした。1秒で二十二連撃を放つことが出来る刀迦にもう一歩で追いつけそうな速さだった。1秒で二十連撃。最早人間の域では無い。

だがそれが心地よい、人間を越えた感覚。全てを追い抜いた感覚。やっと理解できた。師匠が何故弟子には淡々と、つまらなさそうに教えていたか。この感覚が忘れられなかったのだろう。今すぐにでもこの感覚を味わいたい、そんな感情を抑えて訓練を行っていたのだ。

あんな反応にもなる。そして師匠の理解と共に水葉のカウンターが放たれる。

視界に映る全てから斬撃が飛んで来た。初めての体験、だが対処が出来ない訳では無い。その時に超反撃型がどうしてあんな構えになったのかを理解した。


「この名前は強さが前提なんだね。全て受け流してから別で攻撃しろって事でしょ、理解したよ。矢萩」


そう、これは強い者、そして超攻撃型の構えも扱える事が前提として作られた構え。だがそれは矢萩の無意識化で起こった事であった、自覚はしていなかったのだ。ただ起こったのは化学反応、矢萩の全てを詰め合わせた集大成、それは皮肉にも自分が最初ではなかった。

それは[姫乃 水葉]、その少女のものとなったのだ。だがそれで良かったのかもしれなかった。


「私の勝ちだ、矢萩」


二十連撃全てを超反撃の構えで受け流す。それは感覚的な事だ、矢萩だって理論になんて基づいていない。そう師匠に教わっている。全ては感覚に頼るのだ、と。

そしてその教えだけは背かなかった。しっかりと守り、感覚で防御しやすい構えがそのヘンテコであり最強の構えだったのだ。

直後、超攻撃型にシフトチェンジ、その後斬りつけた。一撃で良い、何故ならその時の水葉は既に"矢萩を越えていた"からだ。


「ありがとう…本当に」


斬られた矢萩は仰向けになってその場に倒れた。だがそれは水葉も同じで体に限界が来ていた。最強の構えはあまりにも心身の疲労が早いようだ。

二人は横に並んで天井を眺める。すると矢萩が言葉を発した。


「使って良いよ、その構え。勿論私も使うけどさ」


「良いの?矢萩の戦法でしょ?」


「うん。でも完成には水葉が必要不可欠だった。あんたは強い、もしかしたら師匠に勝てちゃうかもしれないぐらいには…でも負けないからね!」


水葉の方を向き、微笑んだ。衝撃を受ける、ずっと不愛想で笑ったかと思えば戦闘病だった矢萩が心の奥底からの笑顔を見せたのだ。その笑顔を向けられた水葉は言葉では無く同じように笑顔で返した。

すると息を整えた二人は立ち上がる。そして熱い握手を交わした。


「また今度」


「こっちこそ。また戦おう、それまでには降霊ぐらいは出来るようになってるから」


「別に霊はいいかな。まぁ好きにすれば良いけどさ、私はアドバイスなんかしないよ。素のあんたが一番強いから」


「…ありがと。それじゃ、私は行くから。その傷、気を付けてね」


「ありがと。バイバイ」


完全に心を開いたのか部屋を出て行く水葉に手を振っている。水葉も手を振り返して修練場を後にした。

そして一人になった矢萩は佐須魔に『阿吽』をしてゲートを作ってもらう。そこに入ると繋がっているのは玉座の間だった。そこには何故か紀太がいたが無視して首輪を外す。


「随分楽しそうだったじゃん。傷は治す?」


「…」


「楽しかったかい?」


「…」


「無視はやめてよ~どうだったんだい」


「…めっちゃ楽しかった」


その時佐須魔は矢萩の笑顔を始めて見た。彼女の過去を知っているからこそその笑顔はとても明るく見えた。部屋を後にする矢萩を見つめて口角を上げ、誰にも聞こえない声で呟いた。


「ずっとペットでいてくれよ、矢萩」


そうして水葉は最強の構えと経験、そして一人の友人を手にして勝利を収めたのであった。



第百六十五話「ミラーマッチ」

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