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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
第七章「TIS本拠地急襲作戦」
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第百六十二話

本日二話目です

御伽学園戦闘病

第百六十二話「乱入」


ニアがボスの名前を読み上げた。その瞬間真っ黒だったモヤのような物が解け落ちて行く。佐須魔はすぐに隠そうとするがよく考えたら結局変わらないことに気付いた。姿を隠そうが隠さまいがその内顔は公開する事になる、少し時期が早かっただけだ。大した問題ではない。

ならば今重い空気間の中で顔を見せつけ、心の中に良く刷り込ませようと考えた。椅子に座り、智鷹の姿を見る。


「キャー!見ないでー!」


完全にふざけている。その全容が皆の視界に映された。黒の長髪、美形と言う言葉が似あう顔立ちに少し改造された聖職者の様な服装だ。


「佐須魔!?良いのか!?」


「落ち着けって來花、良いから放置してるんだ」


「そうか…」


二人は大人しく待つ。

教師は脳裏に焼き付けるだけで何も発さなかった。特に知っている人物でも無かった、それ以上に三獄の言葉は深く刺さってしまっている。


「僕のご尊顔を目にして何も無し~?ちょっと失礼じゃない~?」


佐須魔と同様に常にニヤニヤしている。そんな智鷹の顔に右ストレートがくらわされた。吹っ飛んで黒板に衝突する。殴ったのはニアだ。


「ってて…な~にするの急に~」


「殺す、お前がいなければアリスは…」


再び殴ろうとしたが智鷹が規則の【一】を使用する。


「ニア・フェリエンツ・ロッドはこの話し合い中"僕"に暴力を振るう事を禁ずる」


その瞬間ニアの腕がピタリと止まった。そして何か能力が働いてこうなっているのだろうと理解する。手を下ろし適当な場所に立って他の者の発言を待つ。

吹っ飛ばされた智鷹は殴られた箇所を抑えながら椅子の中央に戻った。そして教師全員の目の前でくるくると周り全身を見せつける。全員に見せつけると席に戻った。

ニヤニヤと笑いながら頬杖をつき、どんな発言が飛んで来るか待ち望んでいる。


「早く終わらせよう、あいつらの所に行く」


生気の無い声で薫がそう呟いた。全員頷き話し合いを終わらせようとする。


「え~!?僕のご尊顔を拝見してその態度~?ちょっと酷くな~い?」


「お前に話す事なんてねぇんだよ、クソ野郎」


「…もう一回言ってよ」


「耳がついてないのか?クソ野郎」


「どういった意図だい?場合によってはここで殺すよ。僕は僕を否定されるのが大っ嫌いなんだ」


「お前がいなければ佐須魔は…」


「関係無いよ。何か勘違いしてるかもしれないけど智鷹が要因じゃない。聞いていただろう?彷徨っていた僕を拾ったって」


「…もう話すことは無いだろ。さっさと終わりに…」


再び話し合いを終わらせようとしたその時聞き覚えのある声が部屋に響いた。優しい少女の声、成長期特有の不安定な声、強者の声。そしてその声は沈み切っていた七人を励ました。


「見ました。過去の映像。素晴らしかったですよ。そして酷い物でもありました。戦争に負けた時彼は言っていました。「全て後の者に任せる。僕…俺はもう戦いたくない」と。

貴方達も同じ状況です。自分が体験した恐怖から逃れようとして、縛られ、その呪いを他の者に横流しにする。最低な人達です。ですがそれは百年以上前から続く摂理の一つ、当たり前の行動なんですよ。

なのでそこまで気負う必要も無いと思いますけどね」


そう言ったのはニアに抱き着いているアリスだ。再びの乱入者に理事長は困惑が止まらない。だが三獄は何ら不思議に思っていない様子だ。それどころかアリスに反論している。


「でもこいつらはクズだよ。俺らを潰そうとしている理由も曖昧、自分に利益がある事も正義と言う名のエゴだ」


「そうですか。でも正義はエゴですよ?貴方こそクズではありませんか?仮想のマモリビトが作り出したルール、黄泉の国からの帰還は断じてしてはならない禁忌です。ですが來花さんを起こしました。

貴方達みたいなただのエゴの塊にエゴをぶつけている人達より神にエゴをぶつけている方がクソだと思いますけどね。まぁ私の体は貴方達がいなくては無かった物なので一応味方にはなってあげますよ。

…まぁそれ以前にニアちゃんの味方ですけどね~!」


滅茶苦茶満面の笑みでニアに抱き着く。ニアは滅茶苦茶面倒くさそうに引き離そうとするが怪力のアリスは引き剥がせない。


「そりゃあ僕らはクズのクズさ。でもクズなりに道を見つけ出し、動いているんだ。こいつらとは同じにしないでほしいね。君だってクズと言えばクズじゃないか。体は貰って好き勝手やったくせして來花が死んで傾いた瞬間即脱退、普通にあり得ないでしょ。恩は無いのかい恩は」


「恩ですか…ニアちゃんを目覚めさせてあげました。貴方達は強い人がお好きじゃないですか」


「…まぁそれで良いよ」


半分呆れながら笑って話しを終わらせた。すると智鷹が発言した。


「もう良いよ。こいつらは話す気が無いみたい、こんな事をしている内にもう一人死んだ。早く回収してあげたい。終わらせよう。姫二人も異論は無いかい?」


「無いです」


「無い」


「おっけーじゃあ選択肢、出して」


その瞬間最初から議論に参加していた者にのみ【賛成】【反対】の文字が浮かび上がった。そして全員が賛成した。すると教室に付いているスピーカーから声が聞こえる。気怠そう女の声だ。


「んーじゃあ全員賛成ね。じゃあお疲れー」


そうして話し合いは終わった。全員が玉座の間に戻される。教師は全員何も言わず部屋を出て行った。ロッドの姫二人はアリスが無理矢理御姫様抱っこで連れて行った。理事長はまだ行かなくてはいけない所があるのでそこまで向かう。

三獄の三人はひとまず玉座に付く。そして智鷹はすぐに佐須魔に術式をかけてもらう。


什弐式(じゅうにしき)-壱条(いちじょう).潜将壕霧(せんしょうごうむ)


佐須魔の手から黒いモヤが現れ再び智鷹を包み込んだ。これはとても便利な術式で姿を完全に隠す事が出来る霧を特定の人物に付与できる能力だ。だがデメリットがあり対象の名前を対象が見ている所で述べられると効果が無くなってしまう。なのでニアに名前を呼ばれた智鷹は姿を見せたのだ。


「よし。それじゃあ。隠れてていいよ、後は僕らでやるから」


智鷹は阿吽で会話する。そして仕事を終えた智鷹は誰も知らない自室へと戻って行った。

残った佐須魔と來花は玉座に座り他の者の帰還を待つと共に自身像や持ち霊に死体を回収させ始めた。その間やる事が無いので適当な会話で暇を潰すのだった。



[水葉]

時は少し戻り突入直後、水葉は修練場に飛ばされた。床は畳で壁や天井は和風だ。少し見渡し仲間がいない事は把握した。すぐに放流しようと修練場を出る。

一応常に警戒は怠らず刀には手をかけている状態で廊下を進む。非常に複雑な構造の本拠地を捜索する。一つ一つの部屋を見て何か無いのか、誰かいないのか見て回るが本当に何も無い。


「暇」


何も考えずに独り言を吐き、捜索を進める。だが本当に何もない、何も、無い。

ずっと同じ様な景色が続いているのもあっておかしくなって来そうだ。だが正気を常に保つように手をつねって痛みで紛らわす。思い描いていた突入とは全く違っている。

あまりにもつまらない、戦闘がしたいわけではないが誰かと話したい。

最近心を許して来たのか色々な人と話すようになって判明した事なのだが水葉は寂しがり屋だ。ただ自分の感情を出す事が仲良い人以外には難しいのであまり友達が居なかった。だが生徒会に入って三年、やっと生徒会の奴らと仲良くなれたのだ。


「誰もいない…」


トコトコと音を立てながら廊下を進み続ける。すると先の方で誰かが立っている事に気付いた。だが見た事のない人物だ。すぐに戦闘体勢に入るがそいつは警戒もせずゆっくりと近寄って来る。

見た感じ女のようだった。刀を携え、頭には霊と思われる猫が乗っている。


「水葉ね、丁度良い。あんたが一番強いでしょ?学園の刀使いで」


「…遠呂智が…」


「遠呂智と素戔嗚は省いて。あんたが一番でしょ」


「…薫…」


「薫も省いて。生徒の中でって意味、歳近いのになんでそんな事も分からないの」


「ウザイ…良いからやるなら来なよ」


「ここでやっても楽しくない。やるなら大きい場所でやりたい。あっちに修練場がある。あそこならどんなに壊しても文句は言われない。そこ行くよ」


水葉は言い出せなかったが道を知っている。刀はしまわずにその女について行く。女は無言で修練場へと向かう。歩くスピードが速く水葉も早歩きでないと置いて行かれそうだ。その事について文句を言おうとしたが女はその事に返事はせず唐突に名乗り出した。


「[榊原(サカキバラ) 矢萩(ヤハギ)]。TIS重要幹部。師匠…[神兎 刀迦]の弟子の一人。刀と降霊術、あと一応言霊も使える。代償が大きすぎて使い物にならないけどね」


「姫乃…」


「知ってる。うるさいから黙ってて」


何だこいつ、と言う顔を向けるが矢萩は無視する。そして五分程歩くと修練場へと到着した。矢萩が扉を開き、畳に上がる。水葉も畳に上がり少し距離を離して対面する。

そして早速戦闘、と思われたがそんな事は無かった。矢萩はその場に座るよう命じる、何が起こるのか不安に思いながらも言われた通り正座で座る。すると矢萩は近くまで寄ってから同じように座り込んだ。


「な、何…?」


無視。だがその返答のように刀を触った。水葉もすぐに刀に手をかけたが矢萩が手だけで制止する。敵意はないように見えたのでゆっくりと柄から手を戻した。すると矢萩は自分の刀を腰から外し、水葉の前に差し出した。意図が分からない水葉は固まっている。


「正々堂々」


その四文字で何をしたいのか伝わった。水葉も腰から鞘を外し、矢萩の前に差し出す。そして二人は刀に何か変な物が無いのか確かめる。水葉の刀には何も無かった。だが矢萩の刀からは何か異変を感じた、霊力だ。


「れいりょ…」


「あんたらが住んでる島にのみある鉱石[ギアル]で作られてる。霊力の通しが滅茶苦茶良いの。私の特性上それが必要なだけ、嫌なら抜くよ、霊力。40程度しか入ってないけど」


「じゃあ…」


「分かった。貸して」


ことごとく遮られる。少しイライラしてくるが矢萩はそんなのお構いなしに刀を手に取り、霊力を全て自分の中に流した。すると顔にほんの少しだけヒビが入ったように見えた。その事に言及しようとすると先程と同じように遮り、説明する。


「霊力指数ってのはその人が持てる最大量とされている。でもそれをオーバーして霊力を流し込むとヒビが入る。最終的にどうなるかは不明、崩れて死ぬんじゃない?」


「分かった。じゃあ良いよ、問題は無い」


「一つ聞いておく、降霊術は使う?刀への降霊はあり?」


「どっちも良いよ。でも私も降霊術使うからね」


「降霊…」


「使えない」


「あっそ。情報提供ありがとう」


そう言いながら刀を腰に戻し、立ち上がった。そして水葉と距離を取る。同じく水葉も距離を取った。


「抜け、刀」


今までとは違う乱暴な言葉、闘志が燃えている矢萩は無自覚なのだろう。

深呼吸をしてからしっかりと目を開き、刀を抜き、構えた。だが矢萩は構えない、ただ柄には手をかけているようだ。察する、居合だ。水葉はしっかりとその対策をして、開始の合図を発しながら動き始めた。


「行くよ」



第百六十二話「乱入」

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