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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
第七章「TIS本拠地急襲作戦」
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第百六十一話

御伽学園戦闘病

第百六十一話「一方的」


「…」


「早く刀下ろせって、お前は俺を殺せない」


薫は舌打ちをしながら刀を放り投げた。そして仕方無く距離を取る。佐須魔は攻撃する気すらなく堂々と玉座に座り見下している。


「どうしたんだい?何かして来ないのかい?」


「別に良い…他の奴の所に…」


もう立ち去ろうとしたその時背後から声が聞こえる。


「待ちなさい」


理事長だ。何故か一人で玉座の間まで来ている。そして理事長は話しを続けた。


「既に連絡してある。少し待ちなさい。もうすぐ終わるかもしれないんだ、話しを付けておくべきだ」


確かにそうである。残り数ヶ月、大会が始まってしまったらもうどうなるかは分からない。万が一TISが勝ってもそこで終わりだ。ここが最後に話せるタイミングの可能背が高い。理事長も二人がどんな関係なのかは知っている。なので残り数人を集めて話し合いをするのだ。


「君もそれで良いだろう?華方 佐須魔君」


「あぁ良いぜ理事長、俺らにも余裕は無いからな。いい加減終わらせなくちゃいけないんだ。適当に待ってろ。多分來花とあいつも来る」


あいつとはTISのボスである。ニアは結局名前を伝えていないので学園側は名前を知らないのだ。二人は適当な場所で残りの人物を待つ。十分ほどすると一気に入って来た。

今回突入した教師全員である。兆波、翔子、絵梨花、元、乾枝、崎田である。誰も戦闘はしていなかったそうで傷一つもない。そして集まったかと思われ理事長が能力を発動しようとしたが佐須魔が止める。


「まて、まだこっちの奴らが来ていない」


恐らく三獄の事だろう。だが奴らと言った、まさかボスも来るのではないかと思い部屋の中に緊張と恐怖が混じる。佐須魔はその間もニヤニヤしながら玉座に座っていた。

そこから五分、部屋の中に二人が入って来た。


「待たせた」


來花だ。そしてもう一人、いる。だがおかしい。その風貌は人間とは言えない、黒塗りなのだ。その人物の周囲が黒塗りで何も見えないのだ。

だがそいつは喋った。


「ごめんね~TISの中でも小人数にしか見せてないから、見せられないんだよね~それで何するの~?」


初めて聞く声、やはりボスなのだろう。


「知らない。とりあえず早く議題決めようぜ、理事長」


「分かっている」


そして理事長はその場にいる全員を対象にして能力を発動した。


『円座教室』


その瞬間全員は一つの教室に飛ばされた。椅子は全部で十個、一つは理事長が座った。そして二人で対面するように薫と佐須魔が石器に付く。來花とボスはそれぞれ佐須魔の隣になるように座った。

残り六個、全員座ることが出来た。


「さて一応規則を説明しておこう」


【一】 暴力を振るう事は可能である。ただし攻撃を受けた者は無条件で一つ『命を奪う』や『殺す』などの生死にかかわること以外ならば命令が出来る。

【二】 平山 佐助が全ての決定権を持っている。だが最終的には平山 佐助を除き話し合いに参加した半数の土井が無くては会議は終わらない。

【三】 この世界は現実世界より時の流れが遅い。そして現実世界からは話し合いに参加した者の実態は消失し付与されていた能力の効果なども消え去り、現実世界に戻ってもその効果は戻って来ない。

【四】 この空間から出る方法は話し合いの結論に半数以上が同意する以外存在しえない。ただしこの空間に平山 佐助を含め二人しかいない場合は平山 佐助ではない方の人物がその結論に同意する事で解放される。

【五】 能力は使用できるが念能力などを使って相手に間接的に攻撃することは出来ない。刀や身体強化を使った殴打などでは殺す事が可能である。

【六】 この空間にある備品を破壊した場合それ相応の罰則を仲間諸共受ける事となる。

【七】 空間外にはどんな手法を取っても連絡は出来ない。

【八】 この話し合いの記憶は記憶操作などで消される事となっても必ず脳内に留まり続ける。

【九】 このルールは何があっても守られ罰則は確実に訪れる事とする。

【十】 能力発動中に平山 佐助を殺害した場合平山 佐助含めその場にいる者を永久的に年も取れず腹も空かない無そのものであるこの空間に閉じ込める事とする。


「私がこの空間全体の流れを更に遅くしたから今は現世の1/60の速度。ゆっくり話せるわ」


その世界の一分は現実の一秒となるのだ。相当な時間ここで使っても問題は無い。そこで議題を決める事になる。


「そんじゃ議題決めよーか。俺はどんなのでも良いからそっちで決めてくれ」


「分かった。じゃあ『今後の行動方針』だ。まぁそれを話したい訳じゃないから適当だけどな。良いか?」


全員首を縦に振った。そうして議題が決まる。『今後の行動方針』だ。だが薫が言っている通り聞きたいのはそんな事では無い、佐須魔自身の事である。ただ話してくれるような雰囲気でも無い、その場合時間を稼がれて面倒くさい事になる可能性があるので放してくれない可能性と言うデメリットも抱えつついつでも話し合いを終わらせることが出来る議題に決めたのだ。


「じゃあこっちからだ。何でお前はTISなんかに入った」


「聞きたいかい?」


「勿論だ」


「しょうがいないなぁ…『能力者差別を無くすため』だよ」


だがおかしい、すぐに乾枝が突っ込んだ。


「それはおかしいでしょう。貴方達は平和の真反対、悪行しか行っていない」


「はぁ…だから言いたくないんだけどな…僕らが平和を掴むためには絶対的優位権威を手に入れる必要がある。中途半端な立ち位置じゃ僕ら能力者の意見何て握り潰されて終わりだ。何か別の方法があるかもしれないがそんな事をしている余裕はもう無いんだよ、俺らには」


それは襲撃時ライトニングにも言っていた。何故三年なのか、気になって居たが今まで言及することが出来なかった。だがここはそう言った疑問を解消していく場だ、全て訊ねるのが最善策である。

翔子が訊ねる。


「サーニャ先輩から聞いたけどなんで三年なの」


「ほんっとに何も知らないんだねぇ。現世マモリビト、あと三年で交代なんだよ」


学園側は薫を除いて誰も理解できていない。そんな状態を見て呆れた佐須魔は一から説明し始めた。


「まず現世のマモリビトは弱い。覚醒に導く能力はあるが寿命があるんだ。マモリビトに昇華してから百年だ。百年が経つと死ぬんだよ。そして他の者にマモリビトの力が渡る。

僕らは既に見つけているんだ、マモリビトを。だがお前らのせいで手に入れられない。あいつさえ手に入れることが出来たら僕らの絶対的地位は揺るがぬものとなる。だからあと三年、再び全世界から見つけ出す事なんて無理だ。今回はあいつだったから見つける事が出来ただけなんだ」


やっと理解できた。尚更渡してはいけなくなった。そもそも佐須魔の話し方から島か外の強い団体で保護されていると予想できる。だが誰もそこから先には進めなかった。

それもそのはず、唯一知っている薫は絶対に誰にも知り渡らないようにその情報だけは何かに写すことなどせず他にもマモリビトが誰か知っている者とのみ話す事になっているからだ。


「お前には絶対に渡さない。あいつには色々やってもらった、結果悪い方向に繋がったがあの時の気持ちや成果は本物だ。そのおかげで今の俺らがある。あれが無ければここまで強くはなれなかった」


先程から佐須魔と薫は重要な場所を全て"あれ"や"あいつ"等とはぐらかしている。学園側の者はモヤモヤしてままならない。だが話してくれるわけが無いと言うのは"今まで教えてくれなかった"と言う事実だけで分かる。

なのでモヤモヤしながらも聞く事しか出来ないのだ。


「渡さないじゃないさ。俺が掴み取る、あいつも絶対出るだろ?大会」


「……恐らくな」


「そこで殺す。そして魂を取り込む、まだマモリビトを喰ってどうなるかは分からない。だがやるしかないんだよ。出来ると思うぜ、だってお前ら教師は出れないだろ?」


全員が反応した。だが誰も言い返せない。下を向いて顔をしかめる事しか出来ないのだ。あの時の経験、死の恐怖、特に薫と絵梨花に崎田はもう出る事などできない。あの地獄を間近で見たのだ。そして一人の仲間を殺した。その事実は消える事が無いのだ。もう後の代に任せるしかない、その為に育成をして来たのだから。

強い奴が増えれば勝てる可能性が高くなる、なんて崇高な理念の元教育をしていたわけではない。自分達が大会に出る事が出来ないから、怖いから、全て押し付ける為に育て上げたのだ。


「…私達は恐怖に勝てない小心者、それは事実です。言い訳も出来ません。ですがあの子達ならやってくれる、そう信じている。だから私達は後ろからサポートする。そう全員で決めたんですよ」


元が言い放った。普段は気が弱く生徒にも流される様な人物が気を張って、言い返す様に放ったのだ。他の教師も少しだけ驚いていた。だが自分達が言いたかった事を言ってくれた、非常にありがたい。


「…けるなよ……ふざけるなよ」


その時何も発さなかった來花が声を上げた。それは怒り以外に何も無い言葉だった。あまりに無責任な大人に激怒しているのだ。


「お前らは私達に勝つことが出来ないのは事実だ。だがその責任を全て生徒に押し付けて自分は後ろから見てるだけ?ふざけるのもいい加減にしろよ!全て前大会で私に佐須魔、叉儺、アリスに勝てなかったお前らのせいではないか。最終的に一人も殺せず紗里奈は死亡、全てお前らが悪いでは無いか!!

私は人生全てをかけても償えない様な失態を犯した、そして子供も最悪の人生を辿っている。そんな私が言える事では無いのは承知で言わせてもらう。

子供を駒としか考えない奴は人の命を握る立場に立つんじゃあない!!」


心からの怒り、自分の後悔を交えた説教。教師全員はもう何も言い返せなかった。だが理事長は來花を落ち着かせてから少しだけ口を開く。


「君が言う事は間違っていない。だが一つ勘違いしないでほしいことがある、この子達だってまだ子供だ。幼少期の地獄を引きずり、その事実から逃げる事しか出来ない。"子供"なんだ」


「そうか。だが私は許さない。少し期待していたんだがな、ガッカリだよ」


未だ煮えたぎる怒りを抑え込みながら椅子に座った。それと同時にボスが立ち上がる。真っ黒なそいつはムカつく動作で教師たちの前まで歩く。そして話し始めた。


「僕はね、とても良い人生を歩んだ気でいるんだ。だが他人から見たら最悪の人生らしいよ。それでも必死に生きて、TISを立ち上げ、旧友だった來花と彷徨っていた佐須魔を拾って共にTISを大きくしていったんだ。

最初の目的は『平和』だった。だが次第に気付かされたんだよ。僕らみたいな弱者の立場に追いやられている者は武力で革命を起こすしかないと、能力者戦争の名残で辺りが強くない地域があるのも事実だ。だが百年もしてその風習も消えつつある。

そんな中で僕らがやるべき事は何だと思う?そう、世界の転覆、これは君達を救う行為でもある。僕らの邪魔はしないでくれないか、直球で言うよ、邪魔だ」


「…それでも俺は平和を目指す。俺らじゃ叶わないかもしれない。だがあいつらなら、絶対に!!」


そう言った瞬間來花が立ち上がり薫の顔を殴った。壁に打ち付けられたがすぐに立ち上がる。そして規則の【一】を使った。


「翔馬 來花はこの話し合い中席を立つことが出来ない」


すると一瞬にして椅子に戻された。それと同時に椅子から立ち上がる事が出来なくなる。薫は鼻血を拭きながら席に戻った。佐須魔は心底呆れているようで言葉も発さない。

ボスも同様で席に付いて何も言わなくなった。だが沈黙が続いたので仕方無く佐須魔が口を開く。


「何か無いのかよ、他の奴は」


誰も口を開かなかった。


「華方は捨てた。でも今だけ[華方 佐須魔]として言わせてもらう。失望したよ、お兄ちゃん」


その言葉を受けた薫はショックを受けたようで俯いてしまった。だがその反応が許せない様で來花が再び口を開く。


「何故お前はそんな態度しか取れないんだ!佐須魔がどんな思いで今までの事をやって来たのか分かっているのか!?そもそも皆殺しだって…」


「來花、やめろ」


佐須魔が低い声で牽制する。すると來花も少し落ち着いたようで佐須魔に謝ってから口を閉じた。その後は誰も発さない、とても嫌な雰囲気が流れていると痺れを切らしたのかボスが再び立ち上がって円状の椅子の中心に向かう。


「僕は君達と争いたい訳じゃない。だから大会ではさ、降参してよ」


とんでもない提案だ。今までの全てを無にして降参をしろと言って来るのだ。だが薫が断った。するとボスは悲しそうな声色で話し合いが始まる前に何があったかを語り出した。


「一人殺した。サポート役の子を、リイカと一緒にね。その子は最後まで一人の男の子の名前を呼んでいたよ。とても可哀そうだった、救ってあげたかった、殺してあげたかった!…でも殺さなかった。なんでか分かるかい?その男の子が可哀そうだからだ。僕はその女の子をその場で殺すより男の子と女の子を合わせて感動的な最後にしてあげようと思ったわけ。

こっちは二人だけだ。ラッセルとクアーリー。どちらもあまり強くないから仕方無いと言えば仕方無いんだけどね。

それに対してそちらの現在の死亡者は四人、そしてまだ戦闘は続いている。もっと死ぬと思うよ。でもこれは君達が選んだ道だ。あんな辛そうな思いをさせて、苦しませて……君達は何がしたいんだい?」


ボスの声はおちゃらけている。だが所々に怒りや冷たい感情、教師に対する憎悪が含まれている。すると薫が返答した。とても真剣な面持ちで、TISだと言う事は関係なしに、今まで自分が信念にしていた事を。


「あいつらに、平和を…」


最後まで言う事は無かった。その場には銃声が響く。そして薫の頭からは血が流れ出す。だが薫が自己回復を施した。それは霊力のこもった弾丸であった、恐らくボスの能力に関係する何かなのだろう。そして急に撃って来た事を言及する。


「あれで平和を目指している、その言葉は同じ最終到達点を目指している僕らに対しての侮辱だよ。だから撃った、いい加減にしてくれないか。僕だって仏じゃない、本気で島を潰しにかかるよ。三獄だけで壊す事なんて簡単だ。そして地下に埋まっているギアルで武具を作って転覆、それで良いかい?良いよね?だって先を見れていないんだもの、お前らに貴重なギアルを使う必要は無いよ。

あれを使って良いのは僕らやサーニャみたいなしっかりとした目標を持って戦っている者だけなんだよ」


今までのおちゃらけている雰囲気はもう無い。ただ溢れ出してくる言葉をそのままぶつけているだけだ。だが何も言い返すことは出来ない。話し合いになっていない。


「もうやめよう、佐須魔。時間の無駄だ。クアーリーの死体回収だって出来ていないんだ」


「そうだな。じゃあ議題の方針。俺らはお前らを殺す。お前らは俺らを殺すそれで良いな?」


それと同時に全員の頭の中に【賛成】【反対】の文字が浮かび上がる。もう何も話す事は無い、全員【賛成】にしようとしたその時だった。あり得ない事が起こる。

教室のガラス窓を突き破って一人の少女が飛び込んで来たのだ。理事長は起こった事の無かった異常事態に大変驚いている。そして佐須魔は半笑いでそいつが来た事に驚いている。


「やっと見つけた。[南那嘴(ナナハシ) 智鷹(チダカ)]」


その少女は白いワンピースを身に着けている、行方不明になったはずの中等部員である。そう、[ニア・フェリエンツ・ロッド]だ。



第百六十一話「一方的」

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