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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
第七章「TIS本拠地急襲作戦」
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第百六十話

本日二話目です

御伽学園戦闘病

第百六十話「結末」


「…ん?どこだここ」


「やっ!」


白い世界、そこにはエンマが立っていた。


「久しぶり!僕なんでこんな所に居るの?」


「負けたんだよ、死んだんだ」


その言葉が信じられないのか動きが止まる。状況がよく分かっていない様子でキョロキョロとしている。すると何か違和感がある事に気付く、ほんの数秒前まで残っていた楽しかった思いや感情が全て消え去っている。

戦闘病を発症する前の様な感覚だ。


「そっか…僕は完全死?」


「それがね、クアーリー君は疲れちゃったみたいで魂の事完全に忘れて帰っちゃったよ。だからおめでとう、黄泉の国へご招待だ」


「やった~!黄泉の国で待ってればリオも来てくれる?」


「あぁ、来てくれるさ。恐らく悲しむだろうけどね、その内会えるよ」


「それなら良かった……一つ聞いて良い?」


「…お父さんとお母さんは完全死だよ。君が殺した」


覚悟はしていたようだ。哀しそうな表情を浮かべながら心に穴が空いたような喪失感に苛まれる。だがその内リオが来てくれるはずだ、そう思い込むと気が楽になる。

本来はもっと悔いて反省しなくてはいけない事は理解している。だが戦闘病が無い蓮にはその悲惨な事実を受け止める程の精神力は無いのだ。それはエンマも分かっている。だから地獄には落とさないのだ。そもそも蓮は悪い子では無い、全て戦闘病が悪いのは理解している事だ。


「それじゃあ行こうか。黄泉の国には適当な場所に飛ばされるからね、陸地なのは確定してるけど。アルデンテだったらすぐ宮殿においで、ルーズ君やフェリアが迎えてくれる。

そうじゃなかったら何とかホスピタル王国に行くと良い、僕らが戦争していた所だよ。あそこは今初代ロッドが治めているからね」


「分かった。絶対に宮殿に行くよ、ルーズとは同年代なのに全然話せてなかったから気になってたんだ」


「それは良かった!それじゃあ行くよ、気を付けてね」


「うん。また今度!」


「それじゃ!バイバイ!」


その瞬間蓮は黄泉の国へと飛ばされた。エンマは楽しそうにはしゃぐ蓮に対して憂いを帯びた目線を送っていた。だが蓮はそんな事に気付くことは無く、最高に楽しい生活が待っている黄泉の国の住人となる。

とても楽しい結末であった。



[クアーリー]


「お前は物理で作った時しっかりとそれを察知し回避してしまった。その時点で能力には察しがつく、恐らく『霊力による攻撃の無効化』だろう。とんでもない能力だが宝の持ち腐れだったな…」


踵を返し佐須魔が待っているであろう玉座の間へと勝報を持って向かおうとする。痛みに苦しみながら一歩一歩足を踏み出して行く、目も半分しか開かない。

正直限界なのだ。だがここで止まっていても他の奴が駆け付けるかもしれない、折角勝利をもぎ取ったのに漁夫の利で死ぬなんてごめんだ。


「にしても…体が痛いな…本気の殺し合いとはこういうものか……俺もまだまだだな。もっと色々な人と戦って経験をつけなくてはいけない。今回は相手が馬鹿だったから何とかなっただけだ…本当に強い相手には不意打ちの下準備をする前にやられてしまうからな」


一人反省会をしながら壁によりかかり何とか歩き続ける。すると向こうからある人物が歩いて来ていることに気付いた、一瞬戦闘体勢に入ろうとしたがその必要が無い事に気付く。

ただ相手も話す気は無いようなので無視して通り過ぎる事にした。二人の足音が響く。そして交差した瞬間、それは起こった。

クアーリーの腹部が消えた。消し飛んだのだ。何が起きたのか理解できなかった、だがやってきた人物は何事も無かったように廊下を突き進んでいる。

倒れ込み、床を舐めながら最後の力を使って振り絞る。


「お前は…誰だ…!」


返答は無い。もうそいつの姿は見えないのだから。次第に視界がフェードアウトしていく。この事は佐須魔に伝えなくてはいけない話しだ。だがもうそれが叶う事は無い、無念を抱え現実世界を離脱して行くのだった。ある人物の踏み台となって。

だがそれも一興、雑魚にはお似合いの結末であった。



[紫苑&素戔嗚]

二人はやっと夜桜の一本道を抜けた。そしてある屋敷を目の当たりにした。真っ暗な空間に照らし出される一つの屋根、平坦ででも少し偏っている。綺麗な樺の木を貴重とした和風な屋敷だ。だが入口以外の戸は無く内装は全く見えない、庭には数本の桜の木や誰かが使っていたのであろう盆栽の道具が置いてある。

素戔嗚は扉を開いて中に入った。そこからは歩きのようで犬神はいなくなった。


「いやーにしてもあのおっさんまだ生きていたんだなー」


「あの人は普通に強いからな。そう簡単には死なない」


「…なぁお前さ」


「なんだ」


「ちょっと不愛想が過ぎねぇか?めっちゃ塩対応のせいで俺の事嫌いなのかなって思うんだけど」


そう言われた素戔嗚は何と返答してよいのか分からない、数秒間考えた後回答した。


「嫌いだ。だからそれでいい」


紫苑は大変ショックを受けたようでしょぼんとしている。だが話しが終わるわけでは無くほぼ一方的に紫苑が会話をしようとしている。


「いい加減黙れ、耳障りだ」


「………学園にいた時の表情や仕草は全部偽りだったのか?あまりにも自然に見えた。お前がTISに残る事自体はもう否定しない。だけどよ、あまりにもおかしいだろ?あんな顔出来てたのに…」


「黙れ!!あの時は俺もおかしかったんだ。あれが偽の顔だ、もう忘れた方がお前のためだ」


「そうかい。んで何処にいるんだよ、流は」


「あそこだ」


素戔嗚が指を差す。そこには他の扉とは一線を画す雰囲気の扉があった。霊力もにじみ出ている、絶対にそこに流はいるのだろう。だが蒿里っぽい霊力も感じ取れる。紫苑はその事について言及してみた。


「蒿里もいるのか?」


「あぁ。だがあまり触れないでくれ、ヒステリックを起こす」


「あいつもそんな気は無かったよな?あれも隠してたのか?」


「知らん。あいつとは分かり合えない。俺では無く三獄の方に聞け」


そう話しながら部屋へと歩く。その途中も紫苑は適当な話題を振り続ける。


「なんでお前って三獄に様とかつけるの?あいつら別にそんな大した奴らじゃ無いだろ」


「お前が知らないだけだ。侮辱するなら許さないぞ」


「はいはい。佐須魔様サイコ~來花様カッコいい~…後一人は名前分かんないのか。まぁいいや」


そして目的の部屋の前に到着した。心の底から嫌悪感を抱くどよめいた雰囲気が溢れ出ている。素戔嗚は一瞬躊躇ったがその内に紫苑が扉を開けてしまった。

するとそこには一つの長机、そして十四人分の椅子がある。そしてその椅子に二人と一匹が座っていた。まず当然いる蒿里、そしていつの間にかTISに入っていた流、最後にポメだ。


「ポメ!?なんでお前が一番乗りなんだよ」


「きゃん!」


満面の笑みで返してくれたが何を言っているか分からない。だがそんな事よりやるべきことがある、部屋の奥の方で最悪な空気を醸し出す二人の元へと近寄った。まずは蒿里だ。椅子に三角座りをしていて、ずっと下を向いている。その服には大量の返り血と思われるものが付着していた。だがそこにはわざと言及せず他の事を訊ねる。


「久しぶり」


「…」


「まさか蒿里まで裏切り者だとは思わなかったよ」


「…」


「別にTISに行く事自体は良いんだ。もう俺は引き留める事を諦めた。だけどずっと気になってるんだ、妙にテンションの差が激しい時があるだろ?ヒステリックって言えば片付くけどよ…あまりにも凄いだろ?やっぱTISの何かが原因になってるんじゃ…」


「あんたは私の事なんにも分かってないじゃない!!!そうやって落ち込んでたら心配だけして解決策は何にも出さない!!!そう言う所がほんっとに大っ嫌いなの!!!もう…」


「うるさい。癪に障る」


沈黙を貫いていた流が睨みながら文句を言った。その圧や冷たい目を見た蒿里は再び静かになり黙ってしまった。紫苑は溜息をつきながら流の横に座った。


「何でお前いんの?」


蒿里にかけた優しい声では無い。怒りを前面に押し出した、半分見下しているような声色だ。だが流は沈黙を貫く。呆れた紫苑は一つ問いかける。


「なんでいるんだよって聞いてるんだが」


「…待っていろ。他の奴が来たら話す」


あまりにもムカつく態度だ。紫苑は立ち上がって流の胸ぐらを掴む。一瞬感情的になって殴りそうになったが素戔嗚に止められた。なので手は出さずに言葉で伝える。


「答えろよ、理由によっては今ここで殺すぞ」


「手を退かせ、雑魚」


「は?」


「耳が付いていないのか?手を退かせ、雑魚と言ったはずだ」


紫苑でも耐え切れなくなった。素戔嗚の制止を振り切ってでもぶん殴ろうとしたその時だ、紫苑の腕が掴まれた。とんでもない力で、骨が砕けそうなほど痛い。反射的に胸ぐらから手を離した

流は何も言わずに席に戻った。そして壁を見つめながら言い放った。


「悪は正義(ぼく)に喰われるだけだ。あまり調子に乗らない方が良いぞ、バックラー」


威圧感が半端じゃない。その場にいた素戔嗚と蒿里、ポメでさえも少し恐怖を感じた。その後流は頬杖をついて到着を待つばかりだった。

紫苑も何か出来るがあるわけではないのだろうと悟り適当な席についた。素戔嗚も席に戻り到着を待つ、兵助、ラック、ニア、そして礁蔽がここに来る事を。



一方玉座の間では対峙していた。


「そろそろ終わりにしようぜ、佐須魔」


「嫌だねぇ。俺が培ってきた物を自らの手で破壊するなんて」


ニタニタと笑いながらそう言う。薫は今までの怒りが我慢できなくなる。


『唱・蜘蛛切』


刀を召喚した。ゆっくと歩いて距離を詰め、堂々と座る佐須魔の首に突き立てた。だが佐須魔は焦る様子も無い。何故なら理由があるからだ、とても、とても、とても大きな理由が。

薫は今まで躊躇っていた。佐須魔を殺す事に、敵だからと言ってそう簡単に殺せる関係性では無いのだ。数年前華方の家族を薫と自分以外皆殺しにして島を去った家族だからだ。


「そう焦んなって、お兄ちゃん」



第百六十話「結末」

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