第十六話
御伽学園戦闘病
第十六話「開戦」
日が昇り始める、ぶっ続けで訓練をしていた流は息を切らし汗水を垂らしながら薫を追いかけていた。明るくなってきた所で薫が休憩をしようと動きを止める。
「やっぱり二ヶ月以上かけたラック達とは大きく差があるが数時間でここまで出来たなら十分だ、あと二日を切ったからな。急がなきゃいけないぞ。ちなみに休憩は五分な!」
流は何時間にも及ぶ訓練で精神と肉体を疲労した後遂に休憩が入るかと思ったが短くろくに休む事が出来ないと知ると悲痛な叫びを上げながら休憩を取る事にした。
一方生徒会メンバーの一人[拓士 影]はある教師と話をしていた。
「ラッセル先生…僕…死ぬんでしょうか?」
「大丈夫だ、影の能力なら死ぬことはない。気を失いそうになったら影の中に入って避難すればいいんだ」
「ですが僕なんかが!なんで僕なんかがメンバーに選ばれるんですか!?僕よりもっと強い人がいるはず…」
影は襲撃の不安感からかヒステリックを起こしてしまう、そんな影の頭のそっと手を乗せながら目を見て落ち着かせた後にフォローを入れる
「今回は一人に数人で戦いを仕掛けるのが前提だ、影は足を取ることが出来る。チームには敵の動きが封じられていると本領を発揮できる半田や拳がいる。影は皆と張り合える程戦闘が出来ないかもしれない、だが逆に言えば戦闘を避けられて攻撃を受ける可能性も低くなると言う事だ。攻撃を受けずに皆をサポートしてやるといい」
影はアドバイスを受けて何かに気付いたようだ。心を落ち着かせると共に自分がどうすればいいかを知る為に必要な事を何となくだが掴む事が出来た、影は霊力を温存するから寮に戻ると言って部屋を出ていってしまった。
「あれなら…もう…」
ラッセルはどこか寂しそうな顔をして元気に走って遠ざかっていく影を見つめていた。
その頃ラックと素戔嗚は丁度身支度を終え今日は何をするかを話し合っていた。
「残り一日と数時間か、明日は作戦会議があるだろうな。俺らも一応生徒会の奴らのルートぐらいは聞かされると思うからゆっくりで出来るのは今日だけだな」
「とりあえず今日何をしようか」
「俺は一回家に帰る、ペットの餌の供給機が空になってしまう」
「ポメラニアンだったか?」
「そうだ、佐須魔の実験で能力を所持してしまったポメラニアンの[ポメ]だ」
素戔嗚は今日出来る事を考えたが何も思いつかなかったのでラックの家に行く事にした。伝えるとラックは一瞬嫌な顔をしたが「まぁいい」と言って寮を出る準備を始めた。
備品などを壊していないか確認して兆波先生に帰る旨の置き手紙を書いてから二人で寮を出て行った。
後方には寮を出て行く二人を見て追いかけようとしたが留まり、追跡をやめたニアがいた。二人が見えなくなる程遠くなってからニアも一人で寮を出る、ニアはとある道を歩きながら一年前の出来事を思い出す
2011年 4/12
ルーズとニアは兄妹で同じ部屋に住んでいた。その日は珍しく兄妹喧嘩をしていた、時期にだんだんとヒートアップしていく。
「ニアはまだ一年生だろ!まだ危ないからチームに入れることなんて出来ない!そもそもニアは生徒会に入るんだ!」
そう強く言うルーズに歯向かってニアも強い口調で言い返す
「なんで勝手に決めるの!私は入りたいチームがある!そもそも私は能力がサポートなのに弱いから生徒会には入れないし!」
「なんで分かってくれないんだ!俺が交渉すればその能力の便利さに驚いて採用してくれる!サポート系の奴は基本誰かと一緒に任務をするんだ、そうすれば怪我をする可能性がグンと減るだろ!」
「そもそも私は生徒会に入りたくない!あと子供扱いしないでよ!私はもう立派な学園生なの!」
「ニアはまだ何も出来ないだろ?俺はニアを心配してるんだよ!父さんと母さんが…あ…」
「父さんと母さんがなんなんですか!?兄さんは兄さんですよ!?親じゃないでしょ!」
「なんだって!俺はニアの為に頑張って…頑張って…がんば…」
「もういいです!」
ニアは叫びながら自分の私物を全てリュックに詰め込んで部屋を出て行った。ルーズは止めようとしたが何か心に引っ掛かるものがあったのか手を伸ばすのを途中で止めた。
そしてニアがいなくなって静かになった部屋でベッドに座って一人で反省会を始めた。すると隣部屋の水葉がひょっこりと現れた、ルーズは少し驚いたがいつもの事だと思い直し水葉に相談を持ちかけた。
時刻は十八時、真っ赤な夕日が姿を潜め暗くなってくる時間帯だ。ニアは一人で知らない道を静かに俯きながらトボトボと歩いていた。
そのまま何も分からない道を歩き続けて一時間が経った、街灯がないと誰かがいるのも分からない程度には暗くなっていた。
寮を飛び出した時より足取りが重くなりゆっくりと引きずるように無理矢理足を突き出していた。もう無理だと足が限界を迎えるとほぼ同時に黒い空からポツポツと雨が降り出す、数秒後にはかなり大きな音を立て始める。
ニアは強い雨に打たれながらなんとか力を振り絞り雨宿り出来る場所を探そうとしたが遂に限界を迎えた、周囲は真っ暗で見知らぬ場所で雨に打たれ俯きながら一人ぼっちで立ち尽くしていた。
すると唐突に雨水が当たらなくなる、何が起こったのかと顔を上げると黒髪の男が傘をさしてニアの事を見つめていた。
「こんな雨の中一人でどうしたんだ?」
そう話しかけてきた男に少し困惑しつつも兄と喧嘩し寮を飛び出してきたと説明する、男はこれからどうするのか訊ねる。ニアは言葉を詰まらせ俯くだけだ、そんなニアを見た男は「俺が入ってるチームの基地に来ないか」と提案する。ニアは申し訳なさそうにしながらお邪魔する事にした。
男が歩き出そうとするがニアは足が痛くて歩く事が出来ない、男はどんな状況なのかを察しニアに傘を差し出し「乗れ」と言いながらしゃがんだ。ニアは感謝の言葉を述べてから男の背中に抱きついた、男はニアを抱え立ち上がり歩き始めた。
少し歩いたところで男は名乗る
「俺[空十字 紫苑]、よろしくな」
紫苑が名乗ったのでニアも名乗る
「私は[ニア・フェリエンツ]です。よろしくお願いします」
名を聞いた紫苑は「聞いた事があるような…」と言って記憶を探る、数秒して苗字が同級生のルーズと同じだと思い聞いてみる。
「フェリエンツってルーズの?」
ニアは少し嫌そうな顔をしつつもそうだと答える。すると紫苑が何故喧嘩してきたのかを訊ねて来たので事の顛末を説明すると紫苑が一つの案を思いつく
「なぁニア、俺らのチームに入らないか?」
「でも私…なんて言うチームなんですか?」
「…俺入ってから一ヶ月経ったけど名前知らねぇわ…」
ニアは少し引いている、だが紫苑がメンバーは礁蔽、蒿里、素戔嗚の三人だと説明するとニアは入りますと即決した。そして入りたかったチームだと付け加える、紫苑は嬉しそうにしながら立ち止まり「ここだ」と言う。だがそこには何の変哲も無い木しかないのだ、きょとんとしているニアに構わず紫苑はパスワードを唱える。すると木だった部分からエレベーターが現れた。ニアはもう大丈夫と紫苑の背中から降りた、二人はエレベーターに乗り込み基地に着くまで待つ、数秒するとドアが開いた。その先には居眠りをしている蒿里と楽しそうに話をしている素戔嗚と礁蔽がいた。礁蔽はニアと紫苑を見て迫真な顔で蒿里を叩き起こした。
「蒿里!起きろ!紫苑が遂に誘拐を!」
蒿里が目を覚まし寝起きながらに軽蔑の目を向けながら罵倒する、紫苑は「ちげぇよ!」と弁解しようとする。少しだけ笑った後礁蔽は真剣に誰か聞く。ニアがルーズと喧嘩した事、寮を飛び出した事、紫苑に助けてもらった事の全てを話した。話を聞いた礁蔽は冷や汗を垂らしながら紫苑に問い詰める。
「おい!これルーズに知られたらわいら冗談抜きに殺されるで!」
「あーどうにかなるだろ。最悪お前を盾に使えば…」
「おい!…ところでニアの能力は何や?」
「『広域化』です…」
すると紫苑以外のメンバーが目を輝かせながら近づいて来る。そして強引に自己紹介を済ませチームに加入しないかと詰めて来る、ニアはその変わりように少し複雑な気持ちになりながらも承諾した。
そうして迎え入れられたニアはソファに座らされ色々な話をした、チームが出来た理由、大会での出来事、兵助の事などエスケープチームの事を隅々まで教えてもらった。全ての話が終わる頃には二十時を回っていた、礁蔽と素戔嗚は帰る事にする。だが帰る支度をしている時にニアはどこで泊まるのだろうと思い立ち聞いてみる事にした、ニアは複雑な顔をした後寮に帰ると言いかけた瞬間紫苑が
「ニアが良かったらだけどここに住めばいんじゃないか?俺が住んでるから嫌かもしれんが俺は寮にも住めるしな」
と提案する。流石にダメだと三人が止めようとしたがニアが食い気味に賛成したのでどうにも止められずそのまま流れで基地に泊まる事になった。
礁蔽と素戔嗚が帰ると蒿里がご飯を作れとうるさいので紫苑は三人分のご飯を作る為キッチンへと消えていった。
「山であったあの日以来会ってない…でも生きてるに決まってます!島中くまなく探しましょう…」
ニアはゆっくりとした足取りで紫苑と会った道をゆっくりと歩いていた。日が沈み長い夜が始まりを告げた頃には皆訓練をやめて各々の好きな事をして日を越した。
朝が来て日付が変わるまでと十七時間となった。日付が変わった瞬間に攻め込んでくる可能性がある以上その前には待機しておかなければいけないので実際は残り十七時間も無いのだ。
エスケープチームのメンバーは全員基地に集まっていた、そして朝食を済ませいざ学校に行こうというタイミングで薫が基地に入って来て会議だと伝える。薫と五人は基地を出て学園に向かいそのまま会議室へ直行した、会議室には既に残りのメンバーは集められており椅子に座っていた。六人も席に座った所で理事長が口を開く。
「生徒会、先生方、そしてエスケープチームのみんな今日は集まってくれて感謝する」
「俺らは生徒会とは別チームとして動くからな」
「分かっている、だが君たちがどのルートで地下に行くのかを把握しておきたいのだ」
「俺の家だ」
「じゃあ遠いだろう、莉子君に送ってもらうといい」
「いいのか?」
莉子の方をみると
「五人ぐらい朝飯前だよ」
とウインクをしながら答えるので当日は莉子に転送して貰う事になった。そうしてエスケープチームの事は一瞬にして片付く。
次はチームAのルートだ、チームAは住宅街を南に抜け敵を探しつつ学園私有地に誘い込む。TISは強いやつを排除するらしいので確実にチームを狙う、なら私有地へ誘い込み好き勝手存分に戦えば勝てるだろうとの事だ。
チームBはAとは真反対の北に向かう。チームAと同じく索敵しつつ先にビーチに向かい敵を撃破、というルートらしい。そこで会長が立地や砂のせいで不利になるのではないかと質問をする、理事長はそれがあるのでラッセル、薫、兆波、翔子の四人を少し遅らせて向かわせると淡々と答えた。
そして質問のある者はいないか聞いたが誰からも質問はなかったので今日は解散、時間も少ないので寝ておくなり少ない時間で訓練をしたりするといいがいつ襲撃してくるか分からないから日付が変わる前には能力館に集まっておいてくれとの旨を伝えた理事長はさっさと部屋を出て行った。
続いてエスケープチームも会議室を出て行く、教師達もそれを追いかける様な形で部屋を出ていった。
「人数とチーム数的に兵助は取り戻せそうだな…」
「だけど僕らで重要幹部を倒したとして兵助さんを探し出せるくらいの体力は余ってるのかなぁ?」
「流には前も言ったが勝っても動けるのは多くて二人ぐらいだ」
「まぁ一人でも動ければどうにかなるだろう、兵助を起こせれば物理的な傷でも動ける程度には回復できるからな」
「そうだな。とりあえず二十三時まで休憩だ、だが全員二十四時までには基地にいろよ」
ラックは用があると言って何処かに行ってしまった、四人は特にやることも無かったので基地で待機する事になった。
「翔子ーこの作戦やだよー」
薫は職員室の椅子に座り椅子をクルクル回しながら、力を完全に抜きだらけ普段とは違う雰囲気で言った。
「あのね、私たちなら重要幹部ぐらい倒せるでしょ。だから理事長は私達に経験を積ませるんじゃなくて生徒会の子たちに経験を積ませたいんでしょ」
「なんでだよ〜怪我させたりトラウマ植え付けたくないんだよ〜TISのことは出来るだけ俺らで片付けようぜ〜」
「はぁ…あんた高校の時となんも変わってないじゃない」
「うるせ〜気を張らなきゃいけんのも分かるけどよ、俺に死角なんてないから何があっても大丈夫だろ」
「…じゃあ私が今から移動するけどどこに行ったか当ててみてよ」
薫が「いいぜ」と言った瞬間翔子の姿が消えた。だが薫はだらけて顔すら動かしていないのに右後ろと指を差して答えた、すると本当に指を差した場所に翔子がいた。翔子は悪態をつきながら席に戻った、薫は鼻高々に「どうだー?」「すごいだろー」などと言って翔子をおちょくる。
すると兆波が「職員室でいちゃいちゃしないでください」と言って薫の頭をポンっと叩いた、そして作戦会議をすると言うとラッセルも薫のデスクに寄ってくる、四人が集まった所で作戦会議が始まった。
「怪我はするなよ水葉」
「大丈夫だよお姉ちゃん。私強いから」
会議室を出て行こうと準備をしながら姉妹で話をしていると中等部で生徒会に入った特例、漆が会長に声をかける
「ね…ねえ会長さん」
「ん?どうした?」
「作戦は…どうするの?」
「薫先生の話を聞いた所によると新しい重要幹部が増えている可能性が高い、となるとその場その場で作戦を立てるべきだと思うんだ。私は車椅子だから後方から指示しか出来ない、だから作戦をその場で立てることは可能だと思うから心配するな」
「わ、分かりました!」
「漆は中等部で生徒会に入れた特別な生徒だからな、期待しているぞ」
漆は褒められて照れているのか頬を赤く染めモジモジしていた。その姿に残っていた生徒会メンバーの全員の心に新しい『母性』という物が芽生えたのだった。
そんな中光輝が会長に訊ねる
「ですが俺らのチームって海辺で戦うと灼の朱雀が本気出せなくて大分戦力が減ると思うんですけど大丈夫なんですか?」
「その為の教室だろう、だが今回一番心配なのはラック達エスケープチームなんだ。誰の手助けもなくチーム五人で重要幹部に勝てるかどうか…」
「あの子達なら大丈夫よ、きっと勝てる。それより杏のご飯作らなきゃいけないから私は帰るわね」
真澄のその言葉を皮切りに次々と部屋を出て帰宅して行く、香奈美は日付が変わる前には能力館に集まっておくよう釘を刺す。チームAも出ていき会長と水葉の二人になった部屋で少しだけ談笑をしてから二人も部屋を出て行った。
「さーて俺らのチームは力&パワーみたいな編成しているから力でねじ伏せるか。万が一倒せなくても初見殺しの胡桃がどうにかしてくれるだろう」
そう話す遠呂智に半田が行動すればいいかを聞く。半田は能力的に誰かのサポートを受けながら触れて他の人に倒してもらわないといけないので事前の相談が大事なのだ。
「俺がサポートするからなんとかして能力を塞ぎ込んでくれ、半田は能力的にそれしかやることないだろう」
「だな、サポート頼むぞリーダー」
「じゃあ二十三時までには能力館集合な」
そう言ってチームメンバーの方を向いたが菊、レアリー、香澄、胡桃、影は勝手に帰っていた。チームAも全員解散して出て行った。遠呂智はしょぼ〜んとした後すぐに立ち直り残っている奴らを帰らせる。
四チームのメンバーはそれぞれやる事を決め解散したり作戦を立てたり集合時間まで緊張しながらも順調に事を進めて行った
二十三時エスケープチーム基地
ラックが基地に入って来る、基地内は戦闘の直前とは思えない程緩い雰囲気だ。なんならニアと蒿里はスヤスヤと寝ている。
「…なぜ蒿里とニアは寝ているんだ?」
「ご飯食べたら眠なっちゃったらしくて…緊張感をほぐすって言って寝っ転がってたらいつの間にか…」
ラックは呆れてため息をつきながら蒿里を起こす
「んぅ?…おはようー」
その言葉に返事さえせずさっさと学園に行くからニアを起こせと言って外に出て行った。素戔嗚はラックに着いていき一緒にエレベーターに乗って地上に出て行く。
春といえど肌寒く真っ暗な街とは正反対に空は星が綺麗に光っていた。数分待っていると流と蒿里、そして眠そうなニアが出てきた。
「起こしたよー」
「す、すいませんでした…」
「まぁ初めてちゃんと重要幹部と戦うんだ、緊張するのは当たり前だから気にするな。じゃあ莉子は学園にいるだろうから学園に行くぞ」
「レッツゴー!」
寝起きとは思えない声量で言ったその言葉は静かな街に響いた、ラックは内心「うるせー」と思いながら先頭で歩き始めた。それに続くようにして四人も歩き始める、そうしてエスケープチームは兵助を取り戻すために基地を後にした。
二十三時能力館
「よしお前ら準備はいいな」
既に能力館には出動するメンバーが勢揃いだ、薫の問いかけにリーダーの二人は全員いる事を伝え理事長からの合図があるのを待てとおにぎりを食べながら話した。勿論誰かが突っ込みを入れる、一番早かったのは康太だった。
「なんで薫先生コンビニのおにぎり食べてるんですか…」
「兆波先生がお腹空いたって言うからな、全先生の分買ってきたんだ。体力使うからな」
まさかと思い翔子と兆波とラッセルがいる方を向くと予想通り全員仲良くおにぎりを頬張っていた。生徒は流石に少し引いていた
「薫先生…モグモグ…後でお金渡しますね」
「いいですよ、経費で落とすんで」
薫は悪い笑顔を浮かべる、その言動で生徒はちょい引きではなくドン引きした。いや最早ドン引きも通り越して呆れていた。
「にしても緊張感ないわね」
「あんたらのせいだろ…」
証拠に対する珍しい拳の正論に生徒会メンバーは驚いていた。メンバー内でもう放っておこうとなり皆好きな事を始めた、能力館の備品で体を温めておく者もいた。だがそのまま何も起こらず九時間が経つ。薫が流石におかしいと思い愚痴をこぼす、そして香奈美が反応する。
「なぜ何も起こらないんだ〜眠い〜」
「推測ですが強い能力者を殲滅すると言っていたので普通に暮らしている人には攻撃をしたくないと仮定して襲撃が始まれば避難警告は出ます、が深夜だと避難が遅れて巻き込まれる住民が出る可能性がある。なら全員が起きている時間に襲撃をすれば被害が最小限になる、という考えなのでは?」
「恐らくそうだな。ということはそろそろ始まっても…」
薫の予想は的中した、その瞬間島全体に緊急放送が流れる。理事長の声で
「島に侵入者が現れました。一般人は速やかに御伽学園に避難をしてください、避難の間は私たちが侵入者を捜索し足止めをするので怪我などをしないよう冷静に避難をしてください」
と放送があった、早くも外から騒々しい声が聞こえて来る。
「チームA、チームBは規定ルートを、俺らは三十分後にチームBのルートを追う。なにかあったらすぐに緊急合図を出せ、俺が行く。分かったらすぐに行け!」
「チームB、行くぞ!」
すごい勢いで香奈美の車椅子を押す水葉にチームBのメンバーは着いていく。
遠呂智も負けてられないと能力館を出て行った、チームAのメンバーは遠呂智を見失わない距離で出来るだけ体力を使わないスピードで走り出した。
「死なないでくれよ…」
薫は心からの願いを口に溢したのだった。
九時エスケープチーム
エスケープチームは莉子のすぐ側で待機命令が出されていた、すると緊急放送が流れる。全員何も言わずに莉子に掴まる、そして莉子は能力を発動した。その瞬間莉子とエスケープチームはラックの家の正面にテレポートした。
「じゃあ私は行くから!終わったら迎えに来るから死なないでね!」
そう言った莉子は既にその場にはいなかった。ラックは急いで家のロックを解除して裏庭に向かう、ラックは一変何も無い裏庭で「ここだ」と言って立ち止まった。そしてラックが芝生に手をかざすとただの芝生だった場所が床下扉のように変化する、その扉の先には開けると地下へと続く薄暗い階段が続いていた。
「行くぞ!」
先頭はラックで階段に入って行く、足を滑らせないために急ぎながらも一段一段確実に降りていく。
こうして全チームが問題なく行動を始めた。当然重要幹部も動き始める、茶髪の男はビーチで呟く
「さ〜てやりますか〜」
真田 胡桃
能力/念能力
範囲内の能力的エネルギー、物理的な力などをエネルギー弾に変える
強さ/場合によるため一概には言えないが十分強い
第十六話「開戦」
2023 4/21 改編
2023 6/21 台詞名前消去