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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
第七章「TIS本拠地急襲作戦」
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第百五十六話

御伽学園戦闘病

第百五十六話「信頼関係の構築」


須野昌は一番クソみたいな所に飛ばされた。そこは霊力の感覚を研ぎ澄ましたいと言う理由で刀迦が作らせた壁が全て透明なのだが実体はあり、霊力がひたすら飛び回っている。どんな原理かは分からないが凄く変な気分になる、天井は石材で出来ている普通の天井なのだが壊そうとしてもヒビの一つも入らない。


「まじでだるいんだけど!ゴールが何処かも分かんねぇしなんで壁が透明なんだよ!!こんなん最早迷路ですらねぇだろ!!…いやこれ本当に迷路じゃないのかもしれない…」


迷路だ。


「とりまどうするかな…このまま進んでも帰る事すら出来ないだろうしな。霊出しても何にもかわんねぇし…いやまじでどうしよう。誰かが来てくれるの待つか?いやでも足引っ張るだけだもんな。なんとか一人ぐらいぶっ殺したいんだよな。

影はラッセルをやったんだし俺だって一人ぐらい…」


そんな事を呟いていると遠くに誰かがいる事に気付いた。すぐに誰なのか確認すると共に絶望する。


「流石に死ぬな…來花は」


そう、來花が真顔で見つめて来ているのだ。どう足掻いても戦う事になるだろう、須野昌は強くなってはいるが未だ成長途中も成長途中。覚醒を得られるとようやくさなぎから羽化の段階、成虫になるには炎を灯し完全な覚醒のバフを手に入れなければならない。

だが須野昌は覚醒を自分で起こせない。黄泉の国で一度覚醒し『透明の壁を作る』と言う絶妙な強さの能力を使った事があった。だがその後は一度も覚醒能力を使えていない、それどころか覚醒すら起こせていない。

幼虫に逆戻りしてしまっている。

狐霊と契約をしたが限界はたかが知れている。そんな須野昌が三獄の來花に勝てるわけが無い。

工場地帯でも唯一倒れていないような人物だ。何よりあんなに強かった[空傘 神]より強と言う次点で勝ち目がない事は理解している。

ただ逃げ出す事も困難だ。


「すぐに来るか…?」


一応戦闘体勢に入っていつでも狐を呼び起せるように準備しておく。すると來花は口をパクパクさせている。どうやら透明でも声は遮断されるらしい。何と言っているかが分からないので超集中して口元を見る。すると同じ事を繰り返していると言う事が分かった。

そして二分かけて解明した。


「た…す…け…て…く…れ………は?あいつも迷ってんの?何してんの?」


少し考える。ここで來花の方へと向かって合流し、迷路から出る選択肢もある。だがあまりにもリスクが大きい。そもそも來花はここに住んでいるのだから迷路の構造ぐらい知っていてもおかしくない。なのでここは無視して教師に任せるのが最善策である。

が、あくまで最善策。強制はされていない。この基地にいる時点で全て自己責任、自由に動いても良いのだ。須野昌は逆張りが好きだ、地味にひねくれている。人がやらないような事をやって成功して来た。その経験があるから信じられる、今回も自分の勘に任せる事にした。


「…行くか」


何かあった時様に絶対に視線は外さず迷路を進む。すると來花も通じたと分かったのか急に強硬手段に出て来た。


『呪・自身像』


自身像を召喚しそいつに壁を破壊させ始めた。狐でも壊せなかった壁をいとも容易く破壊する姿を見て少し恐怖を覚える。だがノンストップで壁を破壊し突撃して来る。


「えぇ…やっぱTISって全員パワー系なんだな…学園側も同じか」


そうして立ち止まっていると最後の壁を破壊して來花がやって来た。


「ありがとう、それじゃあ案内してくれ」


「は?」


「どうしたんだ?早く出口に…」


「いや俺知らねぇけど。急に飛ばされたのに知ってるわけ無いじゃん。お前が知ってるからここまで来たんだろ?」


「いや…すまない。知らないんだ」


怒りよりも先に呆れが来る。そして二人でどうするか悩んだ末天井を破壊する事にした。須野昌では壊せなかったので來花が降霊術を行って破壊する事にした。


『降霊術・神話霊・干支虎』


すると生良から奪ったと報告されていた干支神の虎が召喚された。


「ホントに奪ったんだな」


「そりゃあ私が生前の時に使っていた霊だったからな。そもそもあの少年に何体も干支神が入るのは成長に悪い。互いにメリットしか無いのだよ」


「そうかい」


「天井を破壊してくれ」


虎は何も返事をしなかったがしっかりと跳び上がり、天井を思い切り蹴った。すると鈍い音を立てながら天井が崩壊した。その先にはどうやら普通の部屋があるようだ。來花は虎に乗って跳び上がった。須野昌は相棒を召喚して連れて行ってもらった。

出てみるとごく普通の部屋だ。ただの空き部屋、來花もそう言っている。


「さて。ではここでやろうか」


「なにを?」


「戦闘…いや、訓練の域だな」


「は?なんでそんな事しなくちゃいけないんだよ。さっさとどっか行け」


「…私は霊に全てを捧げえ死んだ人物を知っている。そしてその人物が今守護霊として自分の子を守っている事もな」


その話しをした瞬間須野昌の顔が変わった。真剣かつ威圧するような顔だ。だが來花は顔色一つ変えずに黙り込んだ。

須野昌はそれがどう言った意味を孕むかは理解していた。教えてほしくば付き合え、と言う意味なのだろう。分かりはする、だはこんな奴から聞いて香澄復活のヒントにしてもそれはそれで癪に触る。

たった一人の親友は自分の手で復活させたいのだ。だが今断れる雰囲気でも無い、恐らく外は廊下。どれ程の長さや他に逃げ込める部屋があるかなどの情報は全て不明。逃げるは微妙だ。

逆張りをしたくなってくる、逃げ出したくなって来る。だが今ここで逆張りをする事だけはやって行けない。何故なら命に関わってくるからだ。別に自分の命が大切なわけでは無いが死ぬのは香澄を助けてから、そう決めている。そうしなければ狐が自由奔放世界中を歩き回って香澄は狐の死と共に消滅するだけの存在になってしまうだろう。

なので須野昌が起こしてやらなくてはいけないのだ。だからここは自分の気持ちを抑え、承諾する。


「成長しているんだな。心も。始めて見た時よりとても成長している」


「黙れよおっさん。さっさとやろうぜ。俺は重要幹部を潰す」


「安心しろ、君は今日私と訓練をするだけで終わる。死ぬ事は無いだろう」


「そうかよ!」


『降霊術・唱・狐』


『降霊術・神話霊・干支馬』


須野昌は狐を、來花はまだ召喚していなかった馬を召喚して二匹体制だ。ただ須野昌も相棒を出して二匹にする。


「…一つ目」


「は?早くね?」


「降霊術に種類があるのは知っているな?面や唱、神話霊は唱の枠組み、など」


「それぐらいは知ってるが…」


「君は唱を使っている。だがどうにも降霊術に慣れていないように見えるが?霊力の回し方が良くないように見える」


「…?」


「唱と言うのは少し難しいんだ。完全に体から霊力を放ち、霊の体に変換する。一方面、お面を付けたりして使う奴なんだがな。これは一度面に霊力を流し込む、そして持ち霊も面に移す事で安定して召喚できると言う利点がある。

ただし唱より力が弱くなったりするから一長一短、だが初心者は絶対に面を使った方が良い。

君はどれぐらいだ、降霊術を使い始めて」


「二か三ヶ月?ぐらい」


すると來花は非常に驚き納得したようだ。それもそのはず、降霊術にセンスがある奴でも半年程度は面を使った方が良いとされている。なのにも関わらず生きて来た中でバックラー以外を使わずに戦って来た男が急に降霊術・唱を使えば不安定になるのは当たり前だ。

唱は不安定な呼び方である。なので下手な使い方をすると面よりも酷い事になってしまう。それゆえ面を付けた方が良い。


「これを付けると良い。そして唱ではなく面で降ろすんだ」


來花は何処からか狐の面を取り出し、須野昌に差し出す。だが須野昌は受け取ったかと思うや否や地面に叩きつける。怪訝な表情を浮かべる來花に文句を呈する。


「あんま馬鹿にすんなよ。香澄は唱で出来てた。なら俺だって出来る」


「…そうか。ならば一つ良い事を教えてやろう、今の君なら絶対に強くなれない」


「なんだと」


「君の降霊術・唱はあまりにも不格好だ。本来の力の五割、いや四割程度しか出せていないぞ、その狐は。降霊術とバックラーは全くの別物だ。バックラーは霊を出せれば何でもよいが降霊術は違う、持ち霊との信頼関係が非常に大切だ。君はその狐とのコミュニケーションなどを(ないがし)ろにしていないかい?

私にはとても不満そうに見えるぞ」


そう言われると確かに狐とはお世辞にも良いと言える関係性では無かった。香澄を食ったと言う私情のせいでどうにも距離が出来てしまっているのだ。

そもそも須野昌には霊と仲良くなると言う考えも持ち合わせていなかった。來花が言った通りバックラーの霊には友情関係や信頼関係を築く必要性が無いのだ。バックラーの霊は特例を除いて喋る事が出来ない、その特徴が主従関係化に拍車をかけているのである。


「確かにそう言われると…でも俺霊と仲良くした事なんて無いぞ?馬鹿らしい」


「馬鹿らしくなどないさ。君と四六時中共に過ごすパートナーなんだ。しっかりと情を育み良好な関係性を作り上げるのが降霊術士としての第一歩だ。思い出してみろ、強い降霊術士は皆仲が良いだろう」


会長、水葉、菊、流、素戔嗚、宗太郎、確かに全員霊と仲が良い。

その時やっと理解した。降霊術士は縦の関係性ではなく横並びの対等な関係性によって成り立っているのだと。そう思うと今までの行動があまりにも酷かったと思えて来る。ごくまれに狐がちょっかいをかけて来た時があった。だが須野昌は無視していた。そう言う対応も強くなれなかった原因なのだろう。


「そうだな…今までの対応も駄目だったのか…」


「分かったらなら良い。ミスは治せば良いのだ」


「そっすか。んで次は何だよ」


「正直その日数でそこまで出来るのなら降霊術として教えることは無い」


「は?」


「だから実戦に移ろう。私はそうだな…本気の二割程度の力しか使わない。だから君は本気でかかってこい、その代わり降霊術とバックラーの霊だけで、だ。まだ戦闘スタイルを合わせるのは難しいだろうからな」


「よくわかんねぇけどとりあえず分かった。それじゃこいつら二匹だけで使ってお前と戦えって事だな?」


「物分かりが良いな。それでは…っと忘れていた。私は霊だけでは無い、これも使う」


その瞬間須野昌にトラウマが蘇った。数ヶ月前の遠征、下水道の小部屋で見た地獄。來花が持つ呪の中でも最高峰の力を持っている木箱。それを取り出したのだ。

だが須野昌は目を背けなかった。それぐらいは覚悟してる、死なないだけまし、そう思い込むしかないのだ。工場地帯で起こった戦闘、その発端である最悪であり最強の呪物『コトリバコ』を前にしては。



第百五十六話「信頼関係の構築」

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