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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
第七章「TIS本拠地急襲作戦」
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第百五十話

御伽学園戦闘病

第百五十話「駕砕 真澄5」


高等部に進級し浮かれ始めていた。地獄の様な特訓の日々であった中等部三年生時代も終了した。その年からは特別クラスもなくなりそれぞれの別々のクラスに振り分けられていった。

真澄は一年四組だった。クラスメイトで仲が良い人はおらず少々不安を抱えていたが生徒会の影はいたので何とか仲良くなりたいと考えていた。だがその頃の影はとても陰気で人に話しかけるなオーラを醸し出していたのでどうすれば良いか悩む。ここで軽くあしらわれても嫌だ。かといって一人のまま過ごすのも嫌なのだ。

そんな事を考えながらクラスでは一人で一ヶ月間が経ってしまった。何も無いのは良い事なのだがあまりにもつまらない。放課後などは今まで通り椎奈と共にいた。


「ルーズとか仲良くなれそうだったのに…」


「なんか生徒会加入するの断っちゃたもんね?何でだろ?入りたい的な事は聞いてたのに」


「同じ一年の子に聞いてみたんだけど「実力差がありすぎる」だって。謙遜しなくてもいいのにね」


「まぁその内入って来るでしょ!あの時まだ中等部一年だったらしいし変に謙虚になっちゃっただけだよ!」


「そうね…でも私一年ぐらい経ったのに未だに友達できないんだけど…」


「それはそれは…頑張れとしか言いようがないかな。頑張れ!」


「うん。そう言えば生徒会長って誰がなるのかな?先輩っていないじゃん?大会で全滅しちゃって。あ、菊は除いてね」


「それ私も思ってた。菊先輩は会長とかそう言う柄じゃないし私達一年生の中から選ばれるのかな?」


そんな話しを適度に風が吹いて心地の良い屋上でしていると屋上に入ってくるための扉が開かれた。誰が来たのかそちらに視線を移すと香奈美の妹、水葉がいて二人の方に寄って来る。


「なんか生徒会で話し合いだって…高等部一年だけでの」


「おっけー!」


「分かった。ありがとう」


「それじゃ」


すぐに帰って行った。二人は大体内容に察しがつく。ひとまず生徒会室へと向かう事とした。廊下を歩いている途中には同じく高等部一年の生徒会メンバーが生徒会室へ向かっているようで合流する。


「香奈美ー!」


「椎奈と真澄か。誰になるんだろうな、会長」


香奈美も分かっていた。そもそも高等部一年だけ集めて会議なんてそれ以外に無いだろう。生徒会室に到着し扉を開く、中には既に到着していて椅子に座って待機している美玖と影の姿があった。

三人も同じ様に椅子に座り残りの者を待つ。三分程で残りの蒼、莉子、タルベもやって来た。その三人が席に着くとほぼ同時に薫が部屋に入って来た。


「もう集まってんのか。じゃあさっさと始めるか、会長決め」


やはり予想は当たった。皆その考えだったようで誰も驚く所かすぐに話し合いに入って行く。


「お察しの通り菊は無理だ。だからこの中から一人決める。向いている奴の特徴は全員を纏められるのは大前提だ。それで何かあった時にしっかり謝れる奴が良いな、悪い印象の生徒会長何てこっちから願い下げだ。正直この二つを出来てる奴なら誰でも良い。

まだ始まったばっかだし誰もミスはするだろうかあんまり変わらん。それじゃそっちで話し合ってくれ」


薫は適当に部屋の隅っこに立って話し合いを眺めていた。

まず発したのは意外にも影であった。


「僕は無理です」


呟くようなその声に誰もが賛成する。そしてそれに続くように蒼も発言した。


「無理です…」


それにも賛成だ。二人はあまり人の上に立つような性格ではない、なので何も言わなくても選択肢からは跳ね除けられるだろう。残りは香奈美、椎奈、真澄、美玖、タルベ、莉子となる。その中からやりたい者はいるか聞くが誰も名乗り出ない。流石に環境が変わってすぐに重い責任を担う立場にはなりたくないと思うのが普通だ。

だが決めなくてはいけない。なのでどうにかして一番合って良そうな人を探し出すことにした。


「分かった。自主的にやる奴はいないんだな。ならば押し付け合いのような形にはなるが誰が向いているか話し合おう。まず私からだ。

莉子は蒼にストーキングまがいの事をしているからしっかり仕事しなさそうだから却下。タルベは生徒会の仕事より保健室などで頻繁に起こる怪我などの治療をしてほしいと思っているから却下。残りの三人は要素だけで見るならば特に大差はない。ただ真澄は生徒会では無い妹もいるし遅くまで仕事させるのは少し可哀そうだ、なので美玖か椎奈が良いと私は思う」


「はいはいはいはい!!」


次は椎奈のターンだ。


「あたしは香奈美ちゃんが良いと思う!!理由なんだけど一番人をまとめれるし色々潔いから印象も悪くない!そして強い!香奈美ちゃんしか居ないでしょ!」


自分に票を入れられた香奈美はとても嫌そうな顔をしているが反論などをする時間では無いと抑え込んで次の人に話しを振った。次は美玖だ。


「私は…椎奈かな。タルベは香奈美の理由と同じで保健室の方に居てほしい。莉子は仕事なんて出来ない性格だってのは良く知ってる。香奈美も良いと思うけどやっぱり社交性があるのは椎奈の方だと思うから。真澄はちょっと関りが無さ過ぎて分かんないや」


「そう、じゃあ次は私ね。香奈美、かしらね。椎奈に生徒会を任せたらあまりの傍若無人ぶりに生徒会解体されそうだから除いて。美玖は同じく関りが無くて未知数。タルベは皆と同じ理由。だから消去法的に香奈美。

蒼と影はどんな風に考えてるの?」


「ぼ、僕は…香奈美さん…です。生徒会長って言うのは象徴的なものでもあるから…威厳がある人が良いかなって…」


まぁ納得の出来る理由だ。それに続くようにして影が発言する。


「香奈美さん。恐らくこの中で一番頭が良いし一番伸びしろがある。まぁ妥当な所だと…思う」


二人共普通の内容だ。そして莉子とタルベも意見を述べる。


「私は蒼君かな!一番カッコいいし何より強い!次点で香奈美かな」


「私は香奈美さんですね。何度か同じクラスになった事があるので分かります。とても良い人ですし強い、そして何処か心強いんですよね。一緒に任務したりしていると。

一般の生徒さんでも香奈美さんなら尊敬の念を向ける事が出来るでしょうし、言い方は悪いですが客寄せパンダ的な感じにも出来るでしょうしね」


急にとんでもない発言が飛んできた香奈美は目を見開き「何言ってんだこいつ」と言う目を向けている。タルベはいつもと同じ通りニコニコしている。

香奈美はまぁ良いだろうとその話は置いて起き次の話に進む。


「と言う事は…私か…」


多数決だとそう言う事になる。別に香奈美もやりたくないわけでは無い、ただ自分に出来るかどうかが不安でどうしても五手に出てしまうのだ。だが一分程一人で悩んだ結果やる事にした。


「分かった!私がやろう!」


半ばやけくそで会長を引き受けた。


「おっし。んじゃ新会長は香奈美な。去年は忙しすぎて会長の業務内容教えてやれなかったから。後々教えてやるよ」


「分かりました。じゃあ私が会長やります。ただ慣れないから二年生の終わりの方までは今まで通り名前で呼んでくれるとありがたい…でも朝礼とかで話とかするのか…でも急に会長って言われてもな…」


「おっけー分かった。二年の最後までは研修的な感じにしといてやるよ。挨拶とかそう言うのも無しだ。ただ噂は広がるだろうからそこは頼むぜ。

ちなみに無茶苦茶忙しいからな。頑張れよ」


「はい」


「あと香奈美、真澄、椎奈に任務あるから。この後もちょっと残ってくれ。他はもう帰って良いぞ~お疲れ」


指定された三人以外はさっさと部屋を出て行き帰って行った。残った三人はどんな任務なのか詳細を訊ねる。


「なんか北海道でTISが悪さしたみたいでな。ただ上の奴らしいからそんなに警戒しなくても大丈夫らしい。ただ取締課は他の仕事で忙しいらしくてな。お前らに行ってもらう。

犯人をぶっ殺せばいい。情報も出てる。こんな奴だ」


薫は一枚の写真を机に置いた。その写真には一人のおっさんが写っている。どうやらそのおっさんが犯人らしい。能力は不明らしい。だがそいつは何故か自分がTISだと言いふらしその存在を知っている一部の者から取締課に連絡が行き深夜にある家庭を襲ったらしい。

だが殺すわけでも無く何かを奪っていくわけでも無かった。ただその家に入って練り歩いてから何処かに行ったらしい。害がある様には見えないがパトロール的な意味合いも込めて派遣されるらしい。


「まぁ大丈夫だろうけどな。警戒は怠るなよ。明日から行ってもらう。ただそんな朝から行く必要は無いから昼頃から行ってもらう。それまでは授業出なくても良いから十三時ぐらいに生徒会室来てくれ」


「分かりました」


「はいはい」


「おっけー!!」


「そんじゃ解散。俺は翔子に仕事を押し付けると言う崇高な仕事があるんでな。ほんじゃ」


薫は部屋を出て行った。三人は少しだけ話し合ってから帰ろうと言う事になる。


「北海道か。私は行った事が無いのだが何か必要な物はあるのか?」


「あたし行った事あるから分かるよ!!寒い!」


「そうか。何か必要な物は?」


「あったかい服は欲しいかも。でもこの季節は行った事無いから分かんないや」


「ありがとう、何も分からなかった。とりあえず暖かい服と普通の服の二種類は欲しいかもしれないな。それじゃあ私は先に帰るよ。軽く荷物もまとめなくてはいけないからな」


「じゃあ私も帰る」


「あたしも!」


そうして全員部屋を出て行った。結構軽いノリで会長が決まったが適任だろう。誰も文句はないし今後の活躍が楽しみだ。

だがそんな事より重大な事が起こる。ここから二日後、気の緩みや油断が招く事態。とてもとても大きな経験となる、一人の命と引き換えに、だが。


「ただいま」


「お帰りお姉ちゃん!」


「私明日から任務らしいから。留守番頼むわよ」


「はーい。もう任務も慣れて来たの?」


「まだ三回ぐらいしか行った事無いけどね。多少慣れて来たよ」


「それじゃあ今回はどれぐらいかかりそうなの?」


「長くても一週間ぐらいよ。早かったら三日ぐらいかな」


「おっけー」


「それじゃあ準備するから。お風呂入るなら先入っといてね」


「うん。じゃあ先に入る」


杏は先にお風呂に入るので着替えやら諸々の準備を始めた。真澄も明日の為に服をまとめたり消耗品がしっかり入っているか確認したりする。


「一旦戦闘用ジャージ持って行けば何とかなるかな。一回来たけど服の中に暖房あるのかってぐらい暖かかったし。消耗品は全部あるから良いとして…椎奈は絶対忘れるだろうから色々持って行ってあげよう」


そんな感じで独り言を呟きながら準備を進める。椎奈は毎回の様に何か忘れるので消耗品を少し多めに持って行く。服はサイズが違うので流石に持って行けないが椎奈でも服は忘れないだろうと思い自分の用だけ持って行くことにした。

あまり長い期間でもないし何処かに潜入するわけでもないので時間はかからなかった。三十分ほどで終わったので椅子に座って適当にスマホを触る。


「北海道か。行った事無いから楽しみだな。香奈美とも最近ちょっとだけ話せるようになって来たし、全体的にいい感じ」


ある程度の人とは業務連絡ではない事でも話せるようになって来た。香奈美や美玖ともたまに会話する程度に、拳は最近トレーニングに夢中で関りは少なくなって来たもののそれも成長だと思って放っておく事にしている。杏は一年で急に可愛くなったので非常に友達が増えた。兄弟に追い越されてしまっているのは事実だが人と別に競っても何かに繋がるわけでは無い、自分は自分のペースで進めて行けば良いと思っていた。だがその考えさえも覆される事となるだろう。

その後三十分経ってから杏が出て来たので真澄もお風呂に入りその後いつもより早めに眠りにつくのだった。



翌日朝の九時に目を覚ました。


「いつもより遅く起きちゃった…杏はもう行ってるのね…準備して行こう…頭痛い…」


真澄は朝が弱いので九時起きでも充分に辛い。だがずっと寝ていてもどうせ変わらないのでイライラしながらも体を起こして身支度を済ませる。朝は面倒くさいので摂らずに学園へ行くのがいつもの習慣だ。

生徒会室に到着すると香奈美と椎奈が暇を潰していた。今日は遅く行っても問題が無いのにそこそこ早い時間に学園へ来た椎奈が心配する。


「大丈夫?結構顔色悪いけど」


「いつもに比べたらマシ…でもちょっと体調悪いから座ってるわ」


「分かった。何かあったら言ってね」


「うん…」


椎奈は再び席に着いて香奈美とチェスを始めた。雑談をしながらも両者とんでもない動かし方をしている、セオリーや強い場所など見ず知らず、自分が動かしたい、ピンと来た場所。そんな所にばっか動かすので体調が悪い中見ている真澄でさえも困惑するレベルだ。


「凄い動かし方するわねあんたら…」


「だってあたしが王だもん!面白そうな方に動かしたいじゃん?」


「私は勝ちも重要だと思うがそれ以上に相手の不意を突く瞬間が好きでな。奇想天外、他者からみたら変と言われる戦い方が好きなんだよ」


実に性格が投影されている。二人が言っている通りに自分を表す形で動かしている。楽しそうだが真澄は普通に勝ちを狙いたい派なので見ていてイラっとする場面が多々あった。それも一つの性格だ。それぞれ違う性格の三人だが仲は悪くないし能力の相性も良い、結局は強ければどんな組み合わせだろうがやって行ける。

仲の悪さなんてその内改善されるものだ。それを気にするより自分の弱さを自覚して直して行く方が大切、高等部一年生の生徒会メンバーは全員そう思っているのだ。


「正直会長なんてやりたくないのだがな。水葉も応援してくれたし何より他の奴に任せると不安だ。だけど私だって超人ではない、手伝ってくれよ?」


「分かってるよ!」


「大丈夫。私もしっかり手助けするよ。勝たなきゃいけないからね。TISに」


その時心の何処かで通じ合えた気がした、一瞬だが。ただその一瞬だけの出来事でも真澄にとっては初めての経験である。外で暮らしていた時もこんなに仲良くなれた人達は居なかった。だが避けていたはずの能力者がこんなにも優しかった。しっかりと受け入れてくれて居場所を作ってくれた。それは初めての経験であり、最後の経験でもあった。だがそれで良かったのだ、そう思うだろう、明日には。


「私もやる」


「お!!じゃああたしとやろ!!」


「良いよ。絶対勝つ」


「まぁ椎奈が負けるだろうな。どう考えても」


そんなこんなで楽しく暇を潰していると廊下の方が何やら騒がしくなって来る。それは生徒の声では無く教師とエスケープチームの声だった。


「流が見つかった!地下だ!」


薫がそう言っているのが聞こえて来る。すると香奈美がすぐに部屋を飛び出し薫の元へ寄って行った。二人も気になって部屋を出ると理事長も含めた教師全員、そしてライトニングとエスケープチームが集まって何か話していた。そこに香奈美も割り込み話しを聞いている。

どうやら[櫻 流]の事を話しているようだ。その時真澄と椎奈は思い出した。一年前に[櫻 流]の名前を薫から聞いた事があると。だがその時は生徒会に入れた喜びから忘れていた。そう、流は姿を見せなかったのだ。

その時は生徒会にすら情報は何も送られず皆流と言う奴が居る事さえも忘れていた。だが今になって見つかったと言うのだ。その話しぶりから行方不明になっていたらしい。


「俺が半霊を扱う練習で地下に潜ったら見つけた。気になる気持ちは分かるがどうしても助けに行けないんだ…」


「どう言う事や?わいらはずっと会いたかったのに!」


「無理なもんは無理だ!ただその内時は巡って来る、それまで待つしかない」


「なんでや!?わいらは…」


「一つ、言っておきます」


乾枝が口を挟んだ。とても威圧感のある声で視線を釘付けにして、言い放った。


「死にたいのなら行きなさい、死にたくないのなら、もっと実力をつけてからです。君達はまだ未成熟だ、能力や相性が良いとは言えど人数は少ない。戦闘で使えるサポートもいないし皆が皆自分の事しか考えない。

そんな状態ではあそこには絶対に行かせません」


するとその声色から溢れ出す静かな怒りに何かを察したのか礁蔽は何処かに行ってしまった。素戔嗚、蒿里、紫苑の三人も付いて行くようにその場を後にした。


「香奈美君は気にしなくていい。任務に集中しなさい」


理事長はそう言って香奈美を送り返した。他の教師は全ての授業を自習に変えてから会議をする為職員室へと向かって行った。生徒会室に戻った三人は何があったのかと言う話になる。


「昨日の今日でな。会長になると言うのが決まった日に聞かされたんだ。流が島行きの船に乗ってから姿を眩ませていると。だが唐突に見つけられたらしい。

だがなんでただの地下にあんなに警戒しているのかが分からない、何か理由があるのだろうが皆目見当もつかん」


「そう言えばそんな奴いたわね…忘れてたわ」


「あたしも」


「仕方無いさ。もう隠す事は出来ないから言ってしまうが先生たちも隠そうとしていたらしい。だがどうにか探し出したい所だな。ひとまずこの事は置いておこう、任務中に考えても良くない」


「そうだね!」


「そうね」


その後はその事を何とか頭の片隅に追いやって暇を潰した。最近あった話しや授業が難しい話、菊のせいでたまに煙草の匂いが届く話、能力の話。色々な話しをしていると正午が訪れた。後一時間ほどで出発となったが流石にお腹が空いて来る、真澄は朝を食べないので昼を食わないと流石に厳しいのだ。


「購買でも行こうかな」


「あたしも行こ~かな~」


「なら私も行こう」


三人で争奪戦の購買に行き適当な物を買い、そのまま食堂で食べていると菊が話しかけて来る。そのまま同じ机に座って来る。


「お前ら三人で任務なんだって?」


「そうですね。TISが悪事を働いたらしくて」


「ふーん…気を付けろよ」


そんな話しをしている間も菊は小さな黒九尾を撫でまわしている。椎奈も良く触っているようで懐いているようだ。


「ホントカワイイね~」


「まぁな。うるさいけど」


「うるさいとはなんじゃ!」


甲高い声でそう言って来る。菊はなだめる代わりにワシャワシャ撫でなでる。真澄はその様子を見てふと思う。


「その九尾ってあの模擬戦の時もいましたよね?なんであの時無傷になったんですか?」


すると菊は少し黙ってから。説明し始めた。


「こいつの名前は[黑焦狐]って言うんだ。私の血筋は色々特殊でな。先祖が使役した霊が現代のその血筋、だから私だな。その私に憑いてくれるんだよ。その中でもこいつは別格だ。その沢山いる使役していた霊で三匹飛び抜けて強いのがいたんだよ。

一匹目が黒鴉、名前が[翼焔鴉(よくえんがらす)]、私に憑いてる奴じゃないから詳細は知らん。

二匹目が白烏、名前が確か…[白煙(はくえん)]?だか[白煙(しらけむり)]だかどっちか忘れた。それ書いてある書物全部TISにかっさらわれたからな。

そんで三匹目が黒九尾、こいつだな、名前は[黑焦狐]。霊のくせして四方神の[青龍]を宿してるって言うなんかよう分からん仕組みの奴だ。ただそんな仕組みのせいか体がおかしいんだよ。これが本体なんだけどよ、こいつは黑焦狐が生きていた頃の姿だ。んでお前らが模擬戦の時に見たのが霊の状態の黑焦狐なんだ。

だから簡単に言うと黑焦狐に黑焦狐を宿してんだ。正直私も詳細までは分かってない。けどこいつが本来死んでるはずなのに霊でも無く実体として生きてて青龍を宿している事、あのデカい時は"霊としての"黑焦狐を宿している事しか分かってない。まぁその内解明していくさ」


「結構特殊なんですね」


「そうだ。強いけど詠唱必要だし非処女だと効力弱くなるとかいう訳の分かんねぇルールがあるし。ほんっとめんどい霊なんだよ。可愛いけどよ。私は動物と話せるだけで充分戦えるのにさ」


そう言った話しをしていると食堂に薫が入って来た。そして丁度昼飯を食い終わった三人を見てタイミングが良かったと言いながら付いて来るよう促す。

ゴミを片付け言われた通りに付いて行くと生徒会室で莉子が待っていた。


「ちょっとだけ早いが今から行ってもらう。詳細は現地にある人がいるから、その人に従ってくれ」


三人はそれぞれ荷物を持ち、いつもの様に莉子に触れた。


「そんじゃ。行ってこい」


「はい」


「すぐ帰って来るからね!!!」


「うん」


「それじゃ、行くよ」


莉子のその一言が聞こえると同時に景色が一変した。the田舎と言う景色の中に佇む住宅地、鼻の奥が少しつーんとするほどの寒さに体をほんの少しだけ震わせながらも始まった。

二人にとって最悪の出来事となる遠征任務が。



第百五十話「駕砕 真澄5」

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