第百四十九話
御伽学園戦闘病
第百四十九話「駕砕 真澄4」
崎田は重機関銃を手に木から飛び降りた。本来なら重さでろくに着地する事なんて出来ないかもしれないが崎田の重機関銃は超軽い。
どんな物質にでも変換できてしまうので軽い素材で重機関銃を生成したのだ。
「やっちゃえやっちゃえー!!ちなみにこれ実弾!!!」
爆弾発言が投下された。その瞬間四人の目が本気になった。そして無我夢中になって別方向へと走る。そんな四人を走る的に見立て乱射し始めた。
まるで子供のように、満面の笑みで弾丸をぶっぱなす。ぐるぐる回転しながら撃っていると菊に怒られる。
「あぶねぇ!!もうちょっと周り見ろよ!!」
「ごめんごめん。じゃあ木の上で待ってて!その木倒れるかもしれないけど!」
「ざけんな!!!私は先に帰ってる!!!」
菊は焦りながらその場を後にした。すると足かせが無くなった崎田は暴走し始める。もう自然の木なんて木にも止めずひたすら撃ちまくる。
弾を装填しては撃ち、弾を装填しては撃つ。だが次第に皆の足音も聞こえなくなって来る。そりゃあ当然の動きだ、崎田を中心にして円を描くように逃げ惑うだろう。
バカな崎田ならその事に気付かないかもしれない。そう思っていたが普通に悪手であった。何故ならそうやって動いてしまうと崎田が一人を追いかける構図となってしまう。
普通に走って逃げている奴と重機感情を持ってぶっぱなしながら追いかけてくる奴。逃げる者に勝機がないのは明らかだ。だが四人共焦りに焦っていたのでそんな事考えている暇は無かった。
「やっぱまだまだだねぇ。私はバカっちゃバカだけど頭は良い部類なんだよ。特にこういう戦闘とかの直感系は滅茶苦茶強いの」
崎田は四人の中から一人を選んでそいつの足跡を追いかけ始めた。その事には当人も気付いているようで焦りながら木を使ったり変な移動の仕方をしたりして撃ち抜かれないように努めている。
だが崎田の精度は凄まじいのだ。顔の真横すれすれに弾丸が飛んできた。
「やっぱ私!!」
そう、真澄である。一番厄介で一番倒しやすい人物なのだ。最初に手を付けるに決まっているであろう。
「威圧でどうにかなる状況じゃない、何とか逃げ切るか誰か別の人を囮にしたり戦わせたりするしかないけど…誰もいなさそう!!」
絶望的状況である。だが何とか逃げ切って他の人と繋げる、そうしなくてはこの授業内容は達成できない。恐らくクリア出来る人数は制限がある。
そして最初真澄と椎奈の近くで戦闘をしていた奴らの霊力はどんどん強くなっている。一瞬炎が燃え上がったようにも見えたので薫と誰かがやり合っているのであろう。となると崎田から逃げるとなると翔子、兆波が残っている。だが先程の四人で挑んでも勝てる未来は見えない。
結局崎田とやり合うしか勝ち目はない。そう思えて来た。周りには誰もいない、遠呂智、ルーズ、椎奈はその内駆け付けてくれるであろうがいかんせんそれまで絶えられる自信と力量が無い。だがいつかは撃たれて終わる。なら皆がこちらまで来るまでの時間は稼ごう、そう決心した。
「痛いかもしれないけど、仕方ないわね」
口を動かすと共に体の向きを反転させた。少し遠くからは強気な笑顔を見せつけながら乱射している崎田が見える。じわじわと距離を詰められているが真澄からは距離を詰めない。
あくまでも時間を稼ぐ為だ。それ以上の何事でもない、心を落ち着かせて全神経を視界集中させる。
「いっくぞー!!」
今まで以上に正確に撃って来た。その精度は人間と言って良いか分からぬほどで反動なども全て考慮した弾道だ。一発は真澄の心臓、他は全て周囲に発射した。横や上には避ける事が出来ないようにしたのだ。
コンマ数秒で真澄の元まで到達するその弾丸は一発を除き全ては後方の林に潜って行った。そして除いた一発は真澄の右頭のこめかみにヒットした。ジンジンと弾丸の熱と血の熱が交わり気持ちが悪い、そんな事を考えていると崎田が近付いて来ながら言う。
「そこ、あんまり当たっちゃ駄目な所でしょ。諦めれば次の子の所行ってあげる。早く降参した方が良いよ」
銃口を真澄の頭に突き立てながらのその言葉は半ば脅しなのだが真澄は屈しない、寧ろ近付いて来てくれたありがたいぐらいだ。
「そう言えば基本的に拘束した動物に一定の距離からしか能力を使った事無かったから分からなかったけど、私の能力距離減衰あるかもしれないのよね」
念能力の中には距離が離れている程効力が弱まると言う場合もある。それは試してみないと分からないのだが真澄はその事を今まで忘れていた。だが死に際でふと頭に過ぎったのだ。
二年生の時に行った授業の事だ。自分には関係無い事だと思っていたがもしかしたら、そう思い考えを実行する。
隙を見せることなく立ち上がり崎田と真澄の顔がくっつきそうな程至近距離まで近付いてから能力を発動した。あまりに粗末な動き方だったがそこから反抗して来るとは思っていなかった崎田は回避出来なかった。
「やっぱり、強い相手に対しては時間がかかる。けど超至近距離なら。一秒も無い間に最高効果をぶち込める」
崎田は青ざめ冷や汗をかきながら動きを止めた。威圧が効いてきたのだ。今の内に時間を稼ぐ為の準備をしよう、そう思い崎田に背中を見せてしまった。その油断が負けを生むのだ。
一発の発射音と真澄の胸部を貫き飛び出した弾丸、そして弾丸を追いかけるようにして飛び出す鮮血。真澄の動きが止まる。そして自分の心臓が撃ち抜かれている事に理解が追い付かず硬直した。
何故撃てるのか、正解は『威圧を受けたから』だ。それなら動けなくなるのが普通では無いのか、そう思うが実際は違う。威圧とは恐怖を与える能力だ。そして信じられない程の恐怖を受けた大半の人物は動けなくなる。それはあくまで"一部"の人物である。中にはパニックになって暴れ出す人物と言うのはそこら中に居る。崎田がそれだった、そういう話なのだ。
「う…そ…」
意識が朦朧としていく。倒れそうになったその時。
『起きろ』
声が響く。ルーズの声だ。すると先程までの眠気が嘘みたいに吹き飛び正常な状態に戻った。
「大丈夫ですか!?先輩!?」
「こめかみ、心臓に一発!大丈夫なわけない!!」
「分かりました!でもサポートしてくださいね!!今度は俺が、倒します!!」
遠呂智がいないのでルーズが戦闘役として戦う事になった。真澄も最大限サポートする事となって崎田との勝負が始まった。
依然狂乱状態の崎田は重機関銃を乱射している。ルーズは少し離れて能力は一時的に使わないよう指示を出し自分は突っ込みながら三階唱えた。
『身体強化』
『精神回復』
『重機関銃を手放す』
その三個だ。身体強化は身体強化。精神回復はその名の通り崎田の狂乱状態を治めたのだ。流石にそんな状態だと戦えるものも戦えないので賢明な判断であろう。三つ目も言葉通りである。崎田に対する代償は結構でかく右眼の視力が一時的に喪失してしまった。
現状ルーズは両腕骨折、右眼使用不可、霊力残り30と酷い状況である。一番軽い身体強化でも一回使うのに40程度はかかるのでもうこれ以上盤面を変化させることは出来ない。
なのでフィジカルで全てを突破するしか手段はないようだ。
一気に距離を詰め蹴り上げようと足を上げた。だが正気を取り戻している崎田は瞬時に状況を把握しルーズの攻撃を交わした。そして重機関銃が無いので肉弾戦で乗り切る事にした。
「負けてくださいよ!!」
「無理!!私だって会長なんだからそんな簡単に負けちゃいけないの!!」
熾烈な肉弾戦が続く。攻防戦と言う程でもない、ルーズが攻めて崎田が守る。それを繰り返しているだけだ。だがそのまま続けていても何処かで重機関銃やら武器やらを生成されて負けるのは分かっている。
なので絶対にチャンスを逃さずぶっ飛ばすと心に決め、隙を作らせるためにスパンを短くした。足しか使っていないはずなのに的確な急所を突こうとしてくる精度、そして立ってなくてはいけないのにも関わらず両足を使って蹴りをしてくる大胆さ、何より目を引かれるのがその空間把握能力だ。
状況としてはルーズ、崎田を中心として北側に崎田、南側にルーズ。そして北に重機関銃、南に真澄、東西は特に何も無い逃げ道の様な場所となっている。その場合ルーズがカバーしなくていけない方角は何個になるか。そう四つ、東西南北全部だ。
先輩に攻撃が行かないように自分を盾にするような形でメイン火力である重機関銃を拾わせないようにスパンを短く左右に逃げられそうになった場合の為に戦っている最中に移動した際絶対に巻き込みで木を倒し少しでも妨害できるように立ち回っている。
経験もろくにないので感覚でやっているのだろうと考えると天才と呼んでも良いレベルにはセンスが光っている。
「やっぱ一組に入れてよかった。でもまだ、ちょっと甘いね」
崎田は東の方に走り出した。その間に少ない霊力と体力で短剣を作り出し少しぶかぶかである白衣の裾に忍ばせた。
そして近付いて来るルーズには今まで同じような対処法で交わし今度は西に逃げようとする。だがルーズもその行動は読めていたのか立ち塞がった。だが崎田はそれが狙いだ。
戦っている中で気付いた。ルーズは先を見据えている。木を倒したり後に動けると強い真澄を残したり、だがそれが先走り過ぎたのだ。
相手の行動まで意識を向けれていなかった。崎田は殴り掛かるような仕草を見せながら裾から短剣を取り出しルーズの心臓目がけて突き刺そうとした。だがその瞬間言葉で表すのもおぞましい程の恐怖心が降りかかった。
「私達の勝ち。一気に決めて!!」
西から一人の能力者とその霊がとんでもないスピードで走って来ている。その事に気付いたルーズは西側に走りそいつと合流した。
そしてバックラーの霊の能力、『霊力回復』を受けデカい一撃ぐらいならぶち込めるぐらいには回復した。
「ありがとうございます!椎奈先輩!真澄先輩!」
『気絶しろ』
霊力消費量240、そこらの能力者の最大霊力分はある霊力をその言霊に乗せ解き放った。すると崎田はぐらりと揺れてから体勢を崩し静かにへたり込んで動かなくなった。
「…やったぁ!」
喜ぶルーズを他所に真澄は苦しむ。言霊で起こされたはいいが銃弾を二発受けている事は変わらないのだ。すると北の方から遠呂智と菊が走って来た。
「崎田負けてんじゃん」
「まぁ良いでしょう。早く合格を」
「あいあい。崎田の分も私が、合格」
その瞬間その場にいる六人は学園の保健室に飛ばされた。そして保健室の時子先生と既に終わらせていた薫に治療を受ける。二人の回復術はとても強く一瞬にして傷が塞がってしまった。
ただそこまで完璧ではないので痛みは残る。
「とりあえずあと二チームか。お前らもしっかり意味分かってたんだな」
薫がルーズの回復をしながらそう言う。遠呂智と椎奈が被せる様に口を開いた。
「そりゃあ勿論」
「結局強い奴に勝つには協力しないと勝てないからな。にしても椎奈と真澄ペアだったのか災難だったな」
「ホントに!!ランダムだって言うけど流石に酷いよ!!勝てたから良いけど!」
「本当にね…凄い疲れたわ」
「お疲れ。んで菊もお疲れ」
「おう。クロも頑張ってくれたぜ」
小さな黒九尾が菊に撫でられてとても気持ちよさそうにしている。それを見た椎奈は我慢できなくなってクロをわしゃわしゃ撫で始めた。遠呂智は刃こぼれを起こしていないか確認していてルーズは天井を眺めている。
すると真澄がある質問を投げかけた。
「薫も誰かと戦ったって事よね?誰に負けたの?」
「先生、な?んで負けては無い。兆波と翔子と俺は負けなくても合格出せばクリアなんだよ。合格出したのお前らと同じ様に組んでた四人…噂をすれば戻って来たぜ」
廊下の方から声が聞こえて来る。関西弁の耳障りな声だ。そして四人が保健室に入って来た。
「お!二つ目の合格チームか!」
そう、礁蔽、素戔嗚、蒿里、紫苑のエスケープチームだ。
「お前らか」
「ルーズやん!お疲れやで…ちゅーか何この面子」
確かに遠呂智、ルーズ、椎奈、真澄は変な面子だ。礁蔽が生徒と話していると他の三人が薫に何か小さな声で報告していた。すると薫は神妙な面持ちで何かを伝えてからエスケープチームの四人は体育館で待っているよう指示を出した。
四人は珍しく言う事を聞いて能力館へと向かって行った。
「とりあえずお前らも能力館で待ってろ。戦いが終わり次第全員体育館に集まるから、能力館じゃなくて体育館だからな」
「分かりました」
「了解」
「りょーかい!」
「分かったわ」
四人は廊下を歩む。その間には椎奈が話しを振って来るが全員疲れていたのか簡単な返ししかしなかった。テンションが引く四人に絡んで来る人がいる。
「なーんでそんなにテンション低いんだよ」
菊が追いかけて来たのだ。そして煙草を取り出し校内にも関わらず堂々と吸い始める。なんでこんなにも堂々と吸っているのかは全員知っていた。その頃には既に菊が留年野郎と言う事は知り渡っていたからだ。
「…え?でも菊先輩まだ十九とか十八じゃ…」
「黙れ」
「駄目ですよ!!先輩!!煙草は二十歳からですよ!!」
無理矢理煙草を奪い取ろうとするが抵抗する。そんなじゃれ合いを他所に三人は体育館へと進んでいく。そして扉を開けて入ってみるとそこではエスケープの四人が楽しそうに話していた。
構わず適当な場所に座り込んで休息を取る。するとあまりの疲れに真澄は眠ってしまった。
三十分後、真澄は椎奈に起こされた。眠い目を擦り、周囲を見てみると能力館には一組が全員揃っていた。そしてステージには崎田と兆波、翔子、薫の教師が立っていた。
そして真澄が起きた事を確認するとマイクを使って喋り始めた。
「お疲れ様!まずクリア者を読み上げて行くよ![多々良 椎奈][駕砕 真澄][ルーズ・フェリエンツ][山田 遠呂智][管凪 礁蔽][空十字 紫苑][樹枝 蒿里][杉田 素戔嗚][姫乃 香奈美][姫乃 水葉]の計十名です!
まぁこれクリアしても何か特別な事があるかって言われたら無いんだけどね!たはー。
それで今からが本題!今からここに居る全員を生徒会に入れます!!あ、でも礁蔽、紫苑、蒿里、素戔嗚の四人は除いてね!」
ざわつく。当然の反応だろう。だが崎田は続ける。
「当初はこれで振るい落そうとって話しだったんだけどさ!みんな大会怖がって入ってこないしここに居るみんなって生徒会入りたい派の人間でしょ!?だから全員入れてあげるよ!勿論みんなの力を買ってだけどね!!」
その瞬間2012生徒会加入者はほぼ全員が生徒会に入る事となった。だがまだ完璧ではない、新しく島に来るものやまだ完全に腕を磨けておらず入れていない者もいる。
だが一気に型が整った。今からは次の大会に向けてひたすらに訓練を積んでいく時間だ。ただ真澄にとってはそんな楽な期間では無かった。勿論肉体的にも辛い時期だ、だが何より精神的に追い詰められていく。
それが起こったのは生徒会に加入してから一年後、高等部一年に進級し浮かれていた春の出来事だった。真澄と椎奈、香奈美に一つの任務が課せられるのだった。
第百四十九話「駕砕 真澄4」




