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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
第七章「TIS本拠地急襲作戦」
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第百四十八話

御伽学園戦闘病

第百四十八話「駕砕 真澄3」


真澄は隅っこの隅っこ、岸に飛ばされた。どう言う状況下なのか見当が付かず軽く周囲を見渡す、手入れのしていなさや所々地面が抉れている所から学園私有地だと言う事だけは分かる。

そんな感じで少し歩こうとした時肩を叩かれる。よく分からない状況だったのでビクッと驚きながら振り返る。


「誰!?」


するとそこには椎奈が立っていた。


「あ、椎奈ね。これどういう状況なの?」


「あたしも分かんないよ。けど授業の一環だろうから何かルール説明とか…」


すると丁度良いタイミングでスピーカーでの放送が流れて来た。その声は朝礼や全校集会で良く聞いた事のある声だ。


「えーと…あーこれこれ。えー今からは学園私有地全体を使ってバトルロイヤルをしてもらいます!あくまでも模擬戦なので相手が降参したら攻撃をするのをやめてください!!そして降参した場合は手元に配られている小旗を持っててね!!

それで一二三年の一組を完全ランダムに二人一組で分けたから頑張ってね!!ただ特別なチームもいるよ!!まず薫先輩、兆波先輩、翔子先輩がそれぞれ一人で戦うチーム!!そして私生徒会長と新生徒会メンバーの[松葉 菊]のチームもいるよ!

まぁ私が勝つだろうけど頑張ってねー!…あ!でも普通にやりあうだけじゃ終わらないかも~。それじゃバイバイ!」


放送をしていたのは生徒会長である[大井 崎田]であった。そしてその授業の内容が伝えられて数秒後に少し遠くで戦闘の音が聞こえて来る。


「もうやってるのね…」


「よっし!あたし達も行こう!」


「え、ちょっと待って!!」


走り出そうとしている椎奈を引き留めた。なんで引き留めるのか分かっていない椎奈はすぐにでも走れるように足踏みをしながら振り返って話を聞こうとする。

真澄は足踏みが意味ないからやめさせて、説明するため口を開く。


「私達の能力考えてみて?私は『威圧』、前線に出る人達をサポートする能力。それで椎奈はバックラーで周囲の回復でしょ?どうやって戦うの?」


「…あ」


「なんでいっつもこう言う事になると頭悪くなるのかしら」


「まぁいいや!じゃああたし達どうする?何もできない気がするんだけど!」


「…これって他チームと協力するのってありなのかな」


「おお!それ良いね!私達戦闘をサポートできるし!!」


「そうね。それじゃあ警戒しながら人探そうか」


二人は他の者と連携すると言う作戦を取る事にして移動を始めた。とりあえず戦闘役が一人でもいれば超強いバフと超強いデバフが使えるのでそうそう負けることは無い。

出来れば教師と組みたいが恐らく教師三人と崎田、菊のチームはボス戦的な立ち位置で進めたいのであろう。

その意図を汲み取って考えると最終目標はどうやってボスを討伐したかによってくる気がする。だとすると他の生徒と組むのが良いだろう。だがあの放送でどれだけのチームがその事に気付いたのかも分からない。

ただ全員説明すれば分かってくれるぐらいの知能はあるのでとりあえず仲間を集めるのが先決である。


「誰が理想なの?」


「うーんあたしは香奈美とかかな。あ!でも下級生の子とも組んでみたいかも!!」


「良いね。じゃあ探そうか」


「うん!」


二人は更に足を進める。そして誰とも会う事無く二キロ程歩いた時だった。真澄の右側、一寸先に生えている木が燃え始めた。

ジワジワと炎が蔓延していきその木は燃え上がって行く。すぐにそこから距離を取り誰が出て来るのか待っていると見知らぬ人物が木々の間から出て来た。そいつは[松葉 菊]だった。


「…あ?サポート二人じゃねぇか。話になんねぇな。ぱぱっと済ませて帰るぞクロ」


「承知!」


人語を喋る小さな黒九尾が菊の頭に乗る。そして菊が加えていた煙草を手に取り唱えると同時に前方に飛び出した。


『降霊術・唱・黒九尾』


その瞬間小さな狐はとても大きな黒九尾の奉霊[黑焦狐]へと変化した。あまりの大きさや威厳に圧倒されている二人を見て本当に勝負にもならないと確信した菊は適当に指示を出す。

黑焦狐が殺さない程度に手加減してかぎ爪を振り下ろした。その時二人共動かなくては死ぬと思い咄嗟に回避を行った。


「ん、思ってたより機敏な動きするじゃん。まぁ戦闘役が不在している時点でお察しパーティーだけどな。クロは好きにやってくれ、殺さない程度にな」


「承知」


今度はタックルを試みる。まるでそびえたつ壁の様な図体から繰り出されるタックルは回避が非常に難しい、一瞬でも予備動作を見せた瞬間に全力の回避をしなければ瞬殺だ。

今回は真澄にタックルが来たが何とか交わしどうにかして菊に威圧できないか少し視線を移すが既にその場に菊はいなかった。


「あの女がいない!今はこの黒九尾をどうにかしないと勝てない!!」


「マジ!?でもあたし達じゃどうにもできないよ!!」


「音を聞いてこっちに来てくれる奴が絶対いるから!それまで耐える!」


「りょーかい!」


情報を伝達しながらも敵の行動のチェックと回避は怠らない。次第に黑焦狐もそのままでは倒せないと悟ったのか攻撃の頻度が凄まじい事になってくる。

タックルをして交わしたと思った所をかぎ爪で引っ掻こうとしたり尻尾を振り回して生じた風で吹っ飛ばそうとしてくる。だが二人共血眼になって安全な回避方法を導き出し逃げ惑う。

だが真澄は普段能力の訓練しかしておらず体術の訓練は全くしていなかったのでバテ始める。これは誤算だったのか椎奈も焦り出し真澄の方に駆け寄ろうとした。だがその油断につけ込むようにして黑焦狐が切り裂こうと爪を振った。

だがその風切り音をかき消すような声が響く。


『こっちに引き寄せる』


言霊が発せられたのだ。その効果のおかげで椎奈は奇跡的に回避できた。


「大丈夫ですか!?先輩!」


そう、学園の中でも超少ない言霊使い。その中でも唯一上手く扱い一組に配属された人物、[ルーズ・フェリエンツ]だ。


「ありがと!!本体は白髪ロングのブレザーで煙草吸ってる女ね!!あとこいつめっちゃ強いから!!」


軽く情報を共有してから一度後ろに下がる。真澄も息を整えるのと戦闘役が来たので一度距離を取った。ルーズは大体状況を把握できたようだ。

そしてこの授業の意図にも気付いているようで協力する気満々である。真澄と椎奈も協力する気なので何も言わずとも協力体制になった。


「俺は言霊使いです!まだ完全には扱えませんけど基本的に何でもできます!ただどれ程反動があるかは不明なので基本的に支持された事をぶつけます!!」


「私は『威圧』!恐怖とかそう言った負の感情を過剰に与えて相手の動きを止めたり思考をバグらせたりする!」


「あたしはバックラーね!能力は…」


「知ってます!」


「あ…うん!!じゃあ君の相方は!?」


「もうやりあってます!!」


ルーズは黑焦狐が居る方を指差した。すると今まで気にも留めていなかったが黑焦狐が一人の男子生徒と戦っている。そいつは皆と違いジャージでは無く和服で刀を使っている。

だがそれ以外に攻撃方が無いのか少々押し負けながらも勇敢に立ち向かっている。


「あの人は[山田 遠呂智]先輩です!一応刀に霊を降ろせるらしいですけどクッソ下手でろくに出来ないので刀で戦ってるらしいです!!」


そうして全員の能力が判明する。現在は黑焦狐一匹に真澄、椎奈、ルーズ、遠呂智の四人で挑んでいる状況である。だが黑焦狐はピクリともせず四人を見下ろすような目つきで大人しく座っている。

何故そんな行動を初めてのかが理解できず全員息を殺してどう動いて来るか待つ。正直四人で先手を打っても一瞬の隙を突いて蹴散らされる未来しか見えない。なので相手の攻撃を待ってそこに反撃でダメージを与えて行こうと考えているのだ。

だが黑焦狐は全く動こうとしない。


「貴様の策略など見え透いている。我は百五十年近く奉霊として過ごしている。ある血筋の者を守る者としてな。その為常に人の表情に出る焦りや動きに出る怒り、そういった類のものまでお見通しだ。

神に近づこうとする最強を除けば我がそう簡単にやられるわけがないのだ。さぁ、今ここで何もせず他の者が襲って来るのを待つかそちらから襲って来るか。選ぶと良いだろう」


「…どうするの、真澄」


「なんで私に聞くの、戦闘役の遠呂智とルーズが決める事でしょ。どうするの二人共」


「俺は待つしかないと思います…先生たちが乱入してきたらヤバいですけど待つしか…」


何とか打開策を練りながら口を動かしていると何も言わずに遠呂智が動き始めた。そして黑焦狐に斬りかかる。


「待っていたぞ!!」


水を得た魚の様に暴れ出す、だがその攻撃の一つ一つを集中して見極め刀と身のこなしで交わして行く。反撃は出来ないがルーズに視線を移す。


「分かりましたよ!!」


『身体強化』


言霊で身体強化をかけた。すると遠呂智の速度は二倍ほどになり黑焦狐も一瞬だけ目で追えていなかった。だがすぐに戦闘体勢に入り遠呂智を追い回す。


「今までは戦ってる意識でも無かったのね…とりあえず私が全力で威圧をかけてみる!」


今度は真澄が最大効果で威圧を使用した。だが黑焦狐に変化は見られなかった、やはり練度が足りないのかと思い能力の使用をやめようとしたが遠呂智が声を上げる。


「そのままかけていろ!!そのうち効果が表れるはずだ!!」


上級生に対しての口の利き方では無い、だが遠呂智とルーズに合わせなくては絶対に勝てない。なので合わせる事にして威圧をかけつづける。

幸い霊力使用量は少ないタイプの能力なのでじわじわと苦しめていく事も可能だ。


「あたしは何すればいい!?」


「ルーズとその女の霊力回復を頼む!俺は霊力使用しないから気にするな!」


「おっけ!!」


真澄とルーズを一か所に集めてからバックラーの霊の能力で霊力を回復しておく。その間も黑焦狐と遠呂智は壮絶な戦いを繰り広げている。

攻防戦と呼ぶに相応しい戦いっぷりに心臓の鼓動が一気に速くなっていく。すると遠呂智も緊張していたのか最悪のミスをしてしまう。


「やはりそんなものよ」


黑焦狐がうすら寒い笑みを浮かべている先には手を滑らせ刀を遠くに吹っ飛ばしてしまった遠呂智の姿があった。


「マズイ!!」


椎奈が助けに入ろうとしたその瞬間その真横をルーズが駆け抜ける。足を動かしながらも霊力を使用し言霊を二回放っていた。


『身体強化』

『視線誘導』


一つ目は自分に対しての身体強化、これで黑焦狐への距離を一瞬で詰めつつそのまま流れで戦う事が出来る。

そして二つ目が黑焦狐の視線誘導である。丸腰状態の遠呂智から視線を強制的にルーズの方へと動かしたのだ。だが言霊とは発動者と対象者の間に力量差があればある程反動が強くなっていく。

ルーズはまだまだ未熟で体も成長しきっていない。まだ雑魚と言ってもおかしくはないレベルだ。一方黑焦狐は百五十年前以上から生きていて踏んできた場数が違う。

他者から見ても分かってしまう程度には差が開いている。そんな相手に言霊を放つととても大きな反動が飛んで来る。今回は両腕の骨がへし折れた。


「クソ!まぁ足じゃなかっただけましか!!遠呂智先輩は刀を拾ってください!!それまで俺がやってます!!」


「すまない!頼む!」


遠呂智はそこそこ遠くまで飛んで行った刀を拾うために走り出した。ルーズは遠呂智に絶対に攻撃の矛先を向けさせない為に自分の出せる本気で戦い始めた。


「貴様の様なガキに何が出来る!!!」


凄まじい迫力の怒号にも怖気づかずに蹴ろうとする。だが黑焦狐は思い切り口を開けながら飛び掛かった、流石に少し恐怖を感じたが自分が今怖気づいている余裕などないことぐらい分かっている。

何とか立ち向かおうとしたが周囲をよく確認してみると右手には大木、左手には戦闘で出来た大穴によって逃げ場がない。


「やばっ…」


既に遅かった。黑焦狐の爪が振り下ろされる。だが椎奈がルーズを掴んで穴に転がり落ちた。そしてすぐに後ろに引くよう命じてから自分が黑焦狐の前に立ちふさがる。


「無理だから!!引いて!!」


真澄の忠告も聞かずに仁王立ちで見つめ合う。黑焦狐は冷酷な視線で見下ろしている、すると椎奈が急に深呼吸をしてから大きな声を出し始めた。


「ばーーーか!!!」


唐突に罵倒し始めた意味が分からずルーズと真澄は動きを止める。そして黑焦狐も急に罵倒された事がよく分からっておらず目を点にして止まっていた。

だがすぐに罵倒されたと言う事を理解する。体勢を低く、牙を剥き出しにしながら低く、唸り声に近い声で問いかける。


「貴様は我を罵倒したのか?」


「聞こえなかったの?馬鹿狐、ばあああか!!!!」


完全に馬鹿にされていると分かった黑焦狐は今まで以上に怒りを露わにして噛みつこうとした。だが次の瞬間黑焦狐の背中から血が噴き出した。

椎奈はすぐに距離を取る。


「助かった」


そう、遠呂智が刀を拾って斬りかかったのだ。遠呂智は既に生徒会に属していたので椎奈があんな馬鹿の一つ覚えの様な罵倒をしない事は知っていた。なので何か意味があるのだろうと悟りヘイトを買ってくれているのだと察して不意打ちをしたのだ。

本気でキレだした黑焦狐は遠呂智に噛みつこうとする。だが完璧な見切りで反撃を交えながら華麗に交わして行く。何だかムカついて来るその動作にムキになった黑焦狐は何も考えずに飛び掛かった。

大きな図体から繰り出される飛び掛かりはとんでもない範囲の攻撃で避ける事は不可能だ。一秒も経たなかった、土煙が舞い。何も見えない。だが遠呂智は潰されていない、それだけは音で分かった。

だが詳細までは見ることが出来ない。三十秒程して着々と煙が晴れて行く、するとそこには強い霊力をまとう刀を鞘に納めている遠呂智と体中に傷が出来ていて血塗れで倒れている黑焦狐の姿があった。


「…やったんですか?」


「まだ完全には勝てていない。一応警戒しておけ」


遠呂智も三人の傍へと寄り警戒態勢は崩さない。すると少しして木陰から菊が顔を覗かせた。


「あー負けたのか…って起きてんじゃん。なんで立たないんだよ」


黑焦狐の顔をぺちぺち叩きながら聞くが黑焦狐は口を開かない。その時真澄は自分の能力が効いたのだと確信して自信満々に代理で答えてあげた。


「私の能力『威圧』。恐怖とか負の感情を引き出して動かせ無くしたり正常な判断が出来なくしたりする。だからあんな無茶な飛び込みをしたんでしょ」


「あーね。結構良い能力持ってんじゃん。とりあえずお疲れ、還ってこいクロ」


すると大きな黑焦狐から魂の様な物だけが菊の中に還って行った。そしてその場には無傷でピンピンしている小さな黒九尾が佇んでいる。そしてそいつは何も知らなかったように元気な声で訊ねる。


「負けたのか!?」


「あぁ、負け。まぁ協力してるって事は意図には気付いてるっぽいから私からは合格出しといてやるよ。まぁ、私からは、だけどな」


妙に含みのある言い方だ。何か見落としている部分がるのだろうか、そう考えている最中頭上から声が聞こえる。


「第二ラウンドだよ!!どっかーん!!!」


そして四人の元に起爆寸前の爆弾が降り注ぐ。真澄と椎奈はすぐに防御体勢に入るが遠呂智は間に合わない。ルーズは危機一髪で言霊を使用し何とか身体強化を行ってダメージを最小限にする事が出来た。

煙が消え失せ誰がやったのかを捉える事が出来た。だが元々分かっている。菊は一人パーティーでは無かった。ペアだった。


「気付いてるなら言っちゃおう!!このロバトルロイヤルの勝利条件はいち早くボスパーティーを打ち倒して合格を貰う事!!だけどその合格は戦闘をするボスチームの全員から合格が出なきゃ行けないんだ!!

だから君達は今から、私と戦ってもらう!!そう!現生徒会の会長!![大井 崎田]と!!」


木の上から楽しそうに叫んでいる。水色ボブでオッドアイ、白衣にチャーミングな八重歯。そしてバカっぽい声。だがそんな雰囲気とは裏腹に崎田の真横には滅茶苦茶ごつい重機関銃が置いてあった。

四人は一秒もかからずに確信した。崎田はガチでやって来る、笑いながら機関銃をぶっぱなしてくるタイプの異常者だ。遠呂智の一声で四人共全力逃走を始めた。


「逃げろぉ!!!」



第百四十八話「駕砕 真澄3」

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