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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
第七章「TIS本拠地急襲作戦」
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第百四十三話

御伽学園戦闘病

第百四十三話「バカなりの対策」


「ボクの能力は『急所を作り出す』能力だ」


「…は?もう一回言ってくれ」


唐突に開示されたせいでしっかり聞き取れず何の能力か分からなかった。なので聞き返し律儀に止まって返しを待つ、砕胡も律儀に止まっているのでしっかりと復唱してくれるのかと思われたその時不意打ちで攻撃をして来る。今まで変に律儀だったのに急にあくどい手法を取って来た。だが(ケン)だってそれほど弱くは無い、身体強化はフルパワーで発動している。なので反射神経なども極限まで引き上げられているのでその程度の不意打ちなら完全とは言わずとも交わす事は可能だ。


「避けたか。まぁ良い七手」


言い放った瞬間拳の左腕全体から血が噴き出した。やはり叫ぶ拳にイラつく砕胡、だが攻撃は終わっていない。七手は終わらず次は右腕から血が噴き出した。


「なんで触れられても無いのに!!!」


「ボクの能力は急所を作り出すんだ。だがその急所が発動する時間は零から一秒以内だ。だから普段は殴ったり危害を加えた時のみにしているんだがな、今回は少々新しい事にチャレンジしてみようと思ったんだ。君は無駄にタフだからな、良いモルモットとなってくれることを祈るよ。能力柄皆すぐ死んでしまうからな。

八手」


再び眼鏡を押し次の行動に出た。一瞬で距離を詰め足を上げる、蹴り上げようとしたのだが拳は見事に横に転がって交わし顔を上げる。その視界には砕胡の(こぶし)が一杯に広がっていた。

急所はとんでもない強さだ。顔面にくらったら即死だと言う事ぐらい容易く想像できてしまう。まるで坂で転がる樽の様な速度で横に転がって回避した。


「ぶっねぇ!!!」


「ふむ。やはりサンドバックとしては使い道がありそうだな。やってみるか、新しく会得した術を。

九手」


そう呟いた瞬間拳の胸部に大きな傷が開き血を垂れ流し始めた。だが砕胡は全く言っていい程動いていない、流石におかしいと思いこれが新しく会得した術とやらなのだろうと理解する。ただ理解したところでと言う話である。

大事なのは勝てるかどうか。この術の対策法をぶつけ黙らせる事が出来るかが問題だ。だが当の本人には正直勝てるヴィジョンが見えていなかった、感覚で全てを決めている故に後の自分の姿がどうなっているかも良くも悪くも大方想像がつく。負けているであろう、敵とすら認識されず術の調整用サンドバックにされているような状態では勝ちなんて夢のまた夢、いやもっと先にある答えだ。

だからと言って諦めて良い訳では無い。覚醒が出来るわけでも無いし戦闘病にかかれるわけでもない、本当に自分の力だけで戦わなければならない。それぐらいはバカの拳でも分かっているはずだ。


「…良い事思いついたぜ、眼鏡野郎!!!」


「そうか。通用するかどうかは分からないがな」


半分呆れながら拳に向かって能力を発動した。先程から砕胡がやっている術と言うのはただの射程調整である。砕胡の能力は発動秒数が非常に少ないのに加え何か攻撃を与えなくてはならない、なので基本的には触れるタイミングで能力を発動しとんでもない威力の攻撃を叩きこんでいるのだが最近は少し遠くにいる相手に向けてなら能力を発動できるようになった。ただ攻撃は出来ない、なのである部分を徹底的に磨いた。

その部分とは能力の効果である。砕胡の能力は急所になった部分の被ダメージが多くなるわけでは無く逆に被ダメージが減ると言う代物である。なので最大限まで研ぎ澄まし最高レベルの急所を作り出すことが出来れば正に強化版痛風のような状態に陥れる事が可能になったのだ。その効果は凄まじく空気に触れるだけで超合金程度なら切れてしまうぐらいだ。


「相性が良いんだよ。お前は極限まで引き延ばす能力、ボクの能力は極限まで引き下げる能力。どちらが強いかは一概には言えない、だがそれは能力だけで見た時の話だ。

戦闘方法、経験、そして何よりここに差がある」


そう言いながら砕胡は自分の頭をトントンと軽く叩いた。その行動が意味するのは言うまでもないが相手を馬鹿と言っているようなものだ。実際合ってはいるし拳も認めてはいるのだが敵に言われると無性に腹が立ってくる。


「いや落ち着け。天才はこの俺だ。こいつはハッタリを言っているだけだ…」


「何故ろくな思考も持ち合わせていない君にボクがハッタリをかける必要があるんだ?そんな事ただの無駄に過ぎない、出来る限り無駄は減らしていきたいんだ。その無駄に割く筈であった時間をトレーニングに使いたいのでな。

だが今はトレーニングだ。遠くにいる相手への能力発動の最終調整、と言う名のトレーニングだ。あと天才はボクだ」


拳はまるでバカを見ているような目で砕胡を見つめる。その行動にプライドを傷付けられたのか砕胡もムキになって来た。


「なんだその目は、ボクを馬鹿にしているのか!?お前もボクを馬鹿にするのか!?」


「いや、バカだなって思ってよ」


「…トレーニングは充分だ。五月蠅いサンドバックはボクの性格に合わない。だから殺す、いや殺しに感情以外の理由は必要無い。ムカついたから殺す」


「俺もムカついたから殺す!!かかってこいやチビ!!」


"チビ"その単語が出た瞬間砕胡の雰囲気がガラリと変わった。今までの余裕そうな雰囲気をほんの少しだけ残しながらも九割が怒りに塗れた顔をしている。そして急に戦闘スタイルが変わった。前までの最大限ケアをする動きとは打って変わって身を粉にしてでもぶっ殺すと言う意気込みが肌から伝わって来る程の殺意を胸に突っ込んで来た。


「お前もバカみたいな戦法使ってんじゃねぇか!!」


「ボクを馬鹿と言うなぁ!!」


もう完全に我を忘れている。両者馬鹿みたいに怒りながら拳を交える、衝撃波や轟音が鳴り響く

その空間で三分程度拮抗した勝負が繰り広げられていた。

すると拳の頭の中に薫の声が聞こえて来る。どうやら阿吽を使用して学園側全体に呼びかけているようだ。普段は冷静で馬鹿っぽい薫が真剣な声で息を詰まらせながら呟くように報告した。


「生徒会三年生[拓士 影]、TIS重要幹部[フィッシオ・ラッセル]と共に死亡…完全死か黄泉の国に行ったかは不明だ…引き続き頼む…」


そうして連絡は切られた。影が死んだことにも驚くが何より薫があんなにも辛そうな声をしているのを聞いたのは初めてだ。

薫が大会で自分の仲間の魂を喰ったは知っている。だから仲間が死んでもいつものテンションで報告してくるかと思っていたのに変に人間らしさを出してきた。

そんな事を考えていると少しだけ攻撃の速度が落ちた。砕胡はそれを見逃さずカマをかける。


「仲間が死んだか、まぁ生徒会や教師なんかがボク達TISに勝てると思ってるのが間違いなんだよ。最後のチャンスをやろう、今降伏すれば命だけは...」


「先輩を馬鹿にすんなぁぁ!!!!」


今までの怒りよりも何倍も強い憤りを魅せながら殴り掛かった。その時の威力はとんでもない事になっており壁には衝撃波だけで大穴が空き、砕胡は完全に避けられず右肩の一部が抉れた。拳の本当の力を見た砕胡は感動し称賛する。


「訂正するよ!お前はサンドバックじゃない!認めてやるよ!敵だ!!だから殺さなくちゃいけない、殺してやるよ!!」


「先輩を馬鹿にするような奴は許さねぇ!!!」


どんどんヒートアップしていく。もう部屋はボコボコで穴も開いているが外は無く真っ黒な謎の空間が繋がっている。なので両者廊下にしか逃げることは出来ない。だが絶対に二人共絶対に逃げる気は無かった。

砕胡がケリを着けようと近付こうとするが拳は逃げつつ攻撃をする。拮抗状態が続き段々と霊力が少なくなって来る。身体強化は元々消費霊力は少ないのだが発動中は永続的に消費されていく、そして拳の身体強化はあまりにも規格外なので一分つかうだけでも霊力指数30程度は使用する事になってしまう。そして拳の霊力指数は360と非常に高いのだ現在はフルパワーで十分以上戦っている。のこり二分も無い内に決めなくてはいけないのだ。

だがそれは不可能に近い、何故なら近付いて身を危険にさらしながら連撃しまくるしかないからだ。だが砕胡の攻撃は一発くらうだけでも凄い痛みが襲って来る。どうするべきか分からずもどかしくなって来て唸り出す。


「その唸る奴をやめてくれないか。耳障りだ」


拳は無視する。だが両者非常に力と速度が上がっている。何故なら拳が自分の限界が近付いて来ている事を察知していてスピードを上げ、その意図に気付いた砕胡が全力で逃げる様になったからだ。

少しずつ焦りが見えて来た。一方砕胡は超冷静に腕や足の軌道を見て回避を続ける。あまりに不利な戦いにほんの少しだけ絶望してくる、負けたら死のみが待っている。


「逃げんなやぁ!!!」


「あと一分も無いのだろう?だったら無力になったお前をグチャグチャにしてやる。それまで死と言う恐怖を感じているんだな」


とても余裕そうに眼眼を押して回避する。拳はその余裕に苛立ちを覚えた、だがもう何かを言っている余裕は無い。

何とかして一発でもフルパワーの打撃をぶち込みたい。拳は普段から訓練を重ねているので身体強化が無くなってもほんの多少は戦えるだろう。ただ反射神経が落ちると殴られた瞬間からしか回避行動は間に合わないであろう、そこに来てようやく砕胡の異常さに気付く事が出来た。

身体強化も無しにフルパワー拳の反射神経でも回避が難しいレベルの移動速度だ。そして最強の防御すらも破壊してしまう。だが何より怖いのは未だ覚醒していないと言う所である、これ以上の力を持っている事は確定している。


「絶対に負けねぇぞ!!!」


「二…一…零」


その瞬間体が重くなった。身体強化が終わったのだ、普通の能力者ならば霊力が無くなった時点で気絶するのだが拳は良い意味で人間ではない。

なのでどんな理論かは不明だが霊力が0になっても体力が残っている限り普通に動けるのだ、そう体力が残っている限りは。


「終わらせようか。ボクはもう近付きたくも無いんだ。最後だ、十手」


燃え上がる。砕胡の左眼、覚醒できるもの中でも数少ない特異体質『自己覚醒』である。だが砕胡はその中でも更に上澄みの人物である、そう『碧眼』である。


「あぁ。チェックメイトだ」


拳は確信した、負けると。



「さて、私はそろそろ出向くとしよう。どいつの所へ行けばいいんだ?佐須魔」


「うーん…出来れば翔子か元を潰して欲しいけどどっちも既に他の教師と合流してるみたいだしなぁ。お…薫は俺がやりたいし、絵梨花は相性が悪い、崎田は翔子と一緒に居るし乾枝は元と一緒に居る。時子先輩も来てるみたいだけどシャンプラー辺りに任せられる相手だしな。

正直どこでも良いよ?來花がやりたい奴とやると良いよ。あ、でもエスケープは駄目ね。あの子が待ってるから」


「分かっている。では少々言いたい事もあるから須野昌の所に行くとしよう」


「りょーかい。気を付けてね~まぁ負けることは無いだろうけど」


「分かっているさ。それじゃあまた後で」


來花は玉座の間を出て行った。そして三つの玉座の一つが空いた、残りの二つの玉座は空いていないのだ。そう、ボスがいる。


「さーてお前も出る?智鷹(チダカ)


返答は無い。声を出してはならないのだ、何処かで学園側の者が音だけ聞いているかもしれない。視線は無いのは確実だ。だから心で会話する。


「意外だね、まぁ良いよ。行ってらっしゃい」


そうしてもう一人も玉座を後にした。対象は一人、御伽学園三年生で一番便利なサポート系能力者[中谷 莉子]である。



第百四十三話「バカなりの対策」

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