第百三十六話
御伽学園戦闘病
第百三十六話「心安らぐ場所」
[蓮]
蓮は親が色々と厳しく寮では無く普通の家で暮らしている。結構大きな屋敷で召使も沢山いる…召使たちは皆優しく仲も良いのだが問題は両親だった。
目雲家は名家であり色々な伝承や武具がある。そんなせいか親は非常に厳しいのだ…中等部に入った頃から生徒会に入るよう強く言われていた。
中等部加入中には入れなかったが高等部に上がってから生徒会に加入した。何故中等部の時に生徒会に入れなかったのか問い詰められたがのらりくらりと交わしていた。
それまで友達を作る事すら許されていなかったが生徒会のメンバーとなら任務の為の準備や仲を深める為だと良い訳が出来るので少しずつ友達を増やしていった。
「ただいま」
そう言いながら扉を開くと数名の召使が出迎えた。荷物を預け自室へと向かう。そして少しの休日はしっかりと休もうと思っていたその時母親が部屋に入って来た。
「重要な作戦があると薫先生が言うから泊りを許したのに何故帰ってきたの!?!?」
「…休みが入ったんだよ。九月一日に決行だから」
「そう。ならそれまで勉強でもしてると良いわ」
母親は思っていた返事とは違かった事に納得がいかず不機嫌になりながら部屋を出て行った。ただ蓮にとってはこれが通常なので何も思っていなかった。
そして言われた通り黙って勉強を始めた。そして十九時になると晩御飯だとメイドが呼びに来た…ペンを持つ手を止め席を立ち食堂まで向かう。
「やっと来たわ…早く食べなさい」
蓮は何も言わなかった。家の外に居る時とは別人だ…自分を押し殺しただひたすらに親に従う機械になっている。ただ本人も親が悪い人では無くただ一人息子と言うのも相まって接し方が分かっていないだけなのだろうと思う事にしていたので強くは言えずにいた。
ただ意見を言うのもはばかられる。言う事を聞いていればいいのだ…そうやって日々を過ごしていた。夕食を終え再び勉強をする為に部屋に帰る…その途中で少しメイドと話をした。
「あ…リオ」
「はい…何でしょうか」
リオとはメイドの一人である。銀髪の美女だ…メイドの中でも一際目立っており仕事も出来る。まさに超人だ…ただ人に対してはあまり優しくなく雇い主である蓮の父や母にも愛想は悪く接する。ただ仕事が出来るし文句も何も言わないので数年間雇っている。
「後で何でも良いから飲み物持ってきて。明日休みだから今日は夜遅くまで勉強する」
「…」
蓮は顔を動かさずとも普段はそこらへんの小さな虫などの視界を奪っているので問題は無い。ただずっとそれだと霊力の消費が半端じゃないので勉強をするとき以外は召使たちが支えたり道を教えたりして暮らしている。
ただそのせいで顔は見れない…声だけでどんな感情なのかを感じ取るしかないのだ。なので今のリオみたいに黙っていられると困ってしまう。
「どうしたの?リオ」
「…少し部屋まで行きましょうか」
リオは黙って部屋に入った。そして扉を閉め周囲に誰もいない事を確認してから小さめの声で喋り出した。
「坊ちゃま…無理をしすぎではありませんか?何か大掛かりな作戦があるようですし…その為の休日なのでしょう?こんな日まで勉強をする意味は無いのでは?」
「いや…僕はやるよ。この作戦が終わったら中間テストもそう遠くないし…あんまりもたもたしてられないんだよ。
生徒会の仕事で地位や信頼…勉強で学を得る。両立させて次の当主になるのが僕の役目だからね」
「…一つ言いたい事があります。坊ちゃまは何故"死ぬ"と言う事が考慮に入っていないのでしょうか?
今回の作戦は大掛かりなのでしょう?中等部やエスケープチームと呼ばれる人…そして生徒会と教師は全員出動。私だって学園で育ったのでそれがどれ程の事態なのかぐらいは分かります。そんな中坊ちゃまは先の事しか考えておりません。
勿論素晴らしい事です。今後当主になる為にはそう言った先を読んで備えておく事も大事でしょう。ただ先だけ見ていたら緊急事態が起こった時に対応できなくなりますよ…何か備えが無いと何もできない人間になってしまいます。
良く言えば協調性があります。ただ悪く言うと自分で考えることの出来ない…所謂指示待ち人間と言う者になって行くだけですよ。
名家の当主になるお方が指示待ち人間と言うのはいかがな物かと思われますが」
蓮は困惑している。リオがこんなに言ってきたのは初めてだったからだ…今までは返事か業務での呼びかけぐらいしかせず挨拶もろくにしてこなかったリオがこんなにも意見を出したのだ。
ただ言っている事は間違っていない。蓮は今回の任務で生き残れると確信していた…それは戦闘役では無くサポート役だからと言う傍観位置だったからだ。
だが今回の作戦は誰が死んでもおかしくないのだ。本拠地に何があるかは分からない…しっかりと休息を取り体を休ませ…何かあっても対処できるようにしておくのが最善だろう。
「そうかもしれないけどさ…僕は父さんと母さんに言い返す事は出来ないんだよ。二人共悪い人じゃないから…ただ教育の仕方が分からなくて不安になっちゃってるだけだと思うし…」
「だから何なのですか」
「え?」
「それは関係無いでしょう。今はお二方のお話はしておりません。何故話が変わったのですか?内心では「自分が選んだわけではなく親が選んだ事だから僕は悪くない」とでも思っているんでしょう?
だから駄目なんですよ。自分で進んでください。敷かれたレールに沿って歩くだけでは意味がありません。レールを敷いた人と同じ人生を辿ります。
なので自らがやりたい事をやれば良いのです。そこで親の圧力に負けてしまうのならばそれまでだった…と言うだけですよ」
その言葉が心に刺さる。確かに蓮は自分で考えようとはしなかった…昔からルートを提示されレールを敷かれてきたのでそれに従っているだけだったのだ。
それが正しいと思っているのだ。だがそれは正しい…そもそも人の生き方に正解も間違いも無いのだ。好きな様に生きて好きな様に死ねばいい…それだけの話。
なのにも関わらず蓮はただ機械の様に進み続けるだけ…そんなのは人ではない。ただのお人形だ。
「…」
「特に無いのでしたら私は行きます。お勉強…頑張ってくださいね」
リオは部屋を出て行った。蓮はただ立ち尽くしているのだった。
[ラック宅]
ラックの家はどんちゃん騒ぎだった。ラックは珍しく飲酒をしている…絶対に他の奴に手がつけられないよう一本しか買っていないが。
そして他の者も楽しそうだ。そして二十二時…丁度テンションが上がって来る時間だ。中学生なんて馬鹿な年齢の奴らがふざけずパーティーなんかするわけが無い。
「ねぇねぇラック!!女装してよ!!」
陽が話しを持ち掛ける。ラックは酔ってはいる物の度数の弱い発泡酒缶一本程度でそんなベロンベロンになる程弱くは無い…ほろ酔いだ。
そして別に正常な判断が出来ないわけでも無いので理由を付けて断ろうとする。
「いや…俺の女装が成り立つのは杏がいてしっかりメイクやらウィッグやら服がある前提なんだ。だから今は無理だ...」
「呼んだ!?」
ラックの真後ろに杏が現れた。どうやってセキュリティを突破して来たのは謎だが杏は大体カワイイ関連の事になると地獄耳だ。どうにか聞きつけてやってきたのだろう…そしてその手には紙袋を持っていた。
恐る恐る中身を見るとメイク道具や服など女装に必要な用品が全て入っていた。理由に杏がいない事を持ち出してしまった以上引くことが出来ずラックは絶望する。
「まじかよ…」
「ええやん!やってみろやラック!」
礁蔽は酒も入っていないのに滅茶苦茶楽しそうだ。そして他の者もノリノリなのでもう逃げることは出来ない…何より可愛さを突き詰めるモノ[駕砕 杏]がいる。
「分かった…やるよ…一回だけな。どんな服着るんだよ」
持って来た服を並べる。チョイスが非常に凄かった。チャイナドレス…メイド服…セーラー服を基調とした服…地雷系の服。この四つだった。
ラックは男と言うのもあるし何より肉弾戦を好むので鍛えている。そのせいで女装するには体格が無駄に良いのでチャイナドレス…地雷系は取り除かれた。
「結構ダボっとしてる服が良いよね~メイクは私が完璧にやってあげるから好きなの選んじゃいなさい!」
メイド服かセーラー服調のものか悩む。どちらを着せても似合いそうなのだが折角やってくれるのなら可愛い方を着せてあげたい。
「私はメイド服の方が似合うと思うの。ラックって足長いし。それで逆にタイツ履かせたい…ハイソじゃなくてタイツ履かせたい」
梓が意見を出す。するとファルがカウンターのように別意見を出した。
「いーや梓ちゃんは分かってないよ!ここはセーラー寄りの方を着せるべきだね!絶妙なお嬢様学校の制服みたいじゃん…これ。それ着せてニーソを着けよう。それが最適解だよ」
そんなこんなで十分も話し合っていた。中々結論が出ず困っていると礁蔽が革命の一言を投下した。
「杏に選んでもらえばええやん。一番可愛く出来るのが杏なんやろ?だったら任せればええんやないか?」
その一言に衝撃を受けた。確かに考え直してみるとそれが最善策だ。皆可愛く女装しているラックをいじりたい。ならば最高に可愛くしてもらった方がいじりやすい。なので礁蔽の言っている事が正しいと言う事になる…全員即答で賛成した。やっと決まったと呆れるラックをよそに杏は道具とラックを持って別の部屋に入って行った。
「楽しみやな」
「ね!滅多にやってくれないもんね!」
「今日はラック楽しそうやったしな。ええことや」
そして待つ事二十分…杏が鼻歌を歌いながら戻って来た。そして入ってくるよう呼びかけた。
するとモジモジして顔を赤らめながら部屋に入って来た。凄い…マジでスゲェ…ホントにスゲェ。そこには非常に可愛いメイド服姿の水色髪のラックが立っていた。
「…思ってたより可愛くていじれない…」
虎児がそう呟いた。本当にカワイイ…普通の女性より何倍もカワイイ。見惚れる…いや驚愕していると杏が説明を始めた。
「まず服は悩んだ結果メイド服にしました。これは私がメイド服着せたかっただけです。
そしてウィッグは長髪水色髪にしました。謎のもみあげ白メッシュは再現できなかったので水色単色です。ストレートロングにして前髪はちょっとだけ重めだね…目元隠れ気味で行かせてもらったよ。
次に顔だね。眼鏡は似合わなさそうだったからちょっとデカめの度数0の奴をぶち込んだよ。カラコンでも良かったんだけどラックって瞳が結構特殊な色してるの。瞳孔は黄色に近い色なのに瞳は水色って言うね。だからそれは活かせそうだなって思ってそのままにしたよ。
それで右耳のリングピアスは取った。女装じゃ流石に似合わないからね。
それでメイクの詳細はめんどくさいから言わないけどとりあえず鼻高く…目も普段より大きめに見える様に…そして多少色白な肌を強調する感じでやってみた。
アイラインは引かなかった。元々がカワイイ目元してるからそこはいじる必要なくて助かったよ。私目元が一番苦手だから。
それで最後…メイド感を出す為に白の布手袋とカチューシャ…そしてちょっと短めのスカートを利用しての黒ハイソックス!!
元々タイツで良いかなって思ってたんだけど吐かせる時に足が綺麗すぎて見せつけたくなっちゃった!」
説明を終えると全員間近で観察する。そして礁蔽は前に訪れた事がある研究室から照明を持ってきた。そして白い綺麗な布を壁に垂らして撮影会が始まった。
杏は勿論一眼レフを持っているのでされでパシャパシャ撮影していく。ラックは恥ずかしそうにしながらもしっかり従う。
「なんで私達の周りには女の子より可愛い男が沢山いるの…」
ラック…躑躅…宗太郎。そしてしっかり可愛くしようと思ったらカワイイ奴なんて数えきれない程いる…生徒会は実力を持ち合わせていると共に顔が良い。
中等部の子達はまだ骨が成長しきっていなかったりするのもあるが何処か越えられない壁があるような気がしてらないのだ。
「大丈夫ですよ。皆さん可愛いですから」
咲がそう言うと全員嬉しそうに咲の事を褒める。その間もラックは礁蔽と杏に指定されたポーズで写真を取られていた。
結局杏も泊る事になった。夜通し撮影会は続いた…途中からラックも楽しくなって来たのかノリノリで女装して写真を取られていた。
こんな楽しい日は中々無いだろう。パーティーを開いて心底良かったと思いながら気絶するように眠りにつくのだった。
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第七章「TIS本拠地急襲作戦」
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そいつは朝日が昇り光が差し込むその部屋で転がる二つの死体の前に立っている。メイドは体を少しだけ震わせながら訊ねた。
「坊ちゃん…?何を……してるんですか…」
振り向く。その顔に感情と呼ばれるものは見えなかった。ただ無心に殺したのだろう…いや無心では無い。何故なら右眼に燃えていた。
血とは違う…赤い炎が
第百三十六話「心安らぐ場所」




