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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
第七章「TIS本拠地急襲作戦」
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第百三十五話

御伽学園戦闘病

第百三十五話「英断」


薫は瀕死状態にする為ある者を呼び出した。


『唱・蜘蛛切』


すると薫の手に一本の刀が現れた。そして薫はその剣を突き立て心臓に刺そうとした、だが兆波が引き留める。


「それじゃあ死んでしまう!」


「大丈夫だ。天照大御神に常に回復させる、そうすれば仮死状態みたいなもんだろ?」


「…そう言う事か。分かった」


兆波も許可を出した。そして突き刺そうとしたその時、兆波、薫、レアリーの三人に衝撃が走った。そして処理しきれない程の激痛に見舞われ膝から崩れ落ちる。

レアリーは少し遠方で待機していたので何とか無事だが兆波と薫の二人は語 汐が目の前にいる。非常によろしくない展開となっている。


自摸(ツモ)。そこそこだ」


「お前…まだやる気なのか…」


「そりゃあそうでしょう。もうRINFONEは停止した、恐らく兵助辺りにやらせたんでしょう。RINFONEが無いのに逃げる理由は無いですよ。私は勝てるのでね」


少しだけ距離を取った後次の攻撃を行おうとしたその瞬間語 汐の周囲の空気が爆発した。とんでもない威力だ、吹っ飛んでいきビルの壁に打ち付けられた。何が起こったのか理解しきれていない語 汐は固まっている。

兆波と薫は立ち上がり感謝を述べる。


「あんがとよ絵梨花」


「ありがとう」


「別に大丈夫だ。それより広域化が解けてるから好きに動いてよかったんだよな?」


「あぁ。あいつらにもそう言ってあるから自由に動き出すはずだぜ、もう逃げ場はねぇよ語 汐に」


前方には薫や絵梨花、兆波もいる。しかも少し先に逃げようものなら他の奴のサポートも受けてしまう。なら後方に逃げも良いが結局は生徒がいるので逃げ切ることは出来ない、絵梨花の言いぐさ的にも何か連絡手段があるのだろう。正直な事を言うと語 汐は諦めていた、薫が現場に出た時点で勝ち目は無い。それに加え最強の絵梨花もいる。何かあったらRINFONEさえ使える、もう逃げる方法は無いのだ。

ただ逃げなくても何とかなる方法はある。


「お前らを全員、殺すだけだ」


語 汐はやっと動き出した。だがそれを察知した絵梨花が再び爆発させる、今度は軽い爆発だったが充分ダメージはあるし吹っ飛ばし効果もある。

またまた距離を取られ攻撃が出来なくなってしまう。逃げてもしょうがないので今は攻撃の為牌を抜きたい、なので距離を詰めなくてはいけないのだ。


「絶対に近づけさせねぇよ。お前は負けたんだ、大人しくしてろよ」


薫は蜘蛛切を投げて心臓に刺した。痛みに悶え苦しむ語 汐を他所に阿吽で連絡を取る。


『語 汐を捕獲した。今から聞き出すが何が起こるか分からない、慎重に動いてくれ』


連絡を終え本拠地の場所を探し出そうとしたその時だ。音がしたと思ったらその場から語 汐の姿が無くなっていた、本当に唐突に消えたのだ。ただ蜘蛛切は残していった。

三人はすぐに居場所を探すが跡が全くない。薫は最悪だと溜息を吐く。


「伽耶の時と同じだ。佐須魔のゲートかなんかで逃げたんだ」


「じゃあどうするんだ!!私の攻撃は無駄だだったのか…」


「いや?そんなことは無い。もう位置は特定出来た」


「本当か!!??」


「あぁ。あいつらホントに馬鹿だよ。本拠地の記憶は消してもそこに繋がるゲートの記憶は消してなかった」


「?」


「あいつらは所々にゲートを設置していた。そしてそのゲートをくぐって本拠地に行っていたらしい。んであいつの記憶を覗いた。そんで位置を特定した、ここにいる意味はもうない。もう帰るぞ」


薫は満足気にそう言ってから阿吽で皆に報告した。そして莉子が全員基地に帰すよう命じて三人は一足先にゲートを使って帰った。

すると基地内には仕事終えたアリス、紀太、翔子、兵助がぐったりして休憩していた。四人を労う。


「RINFONEですか。なんでそんな物を貴方が持っていたのですか?」


「普通に拾った。特に深い理由とかは無い」


「そう…ですか」


アリスは納得がいかないようで少し不満そうにしながらもシャワーを浴びに行った。翔子も同じくシャワーを浴びに行った。

それとほぼ同時に生徒会、中等部、エスケープが帰って来た。そして現場で何が起こっていたのか説明を求める。薫は皆を網にして追い込み漁をした事や逃げられたが位置を特定出来た事を教えた。すると一つの疑問が浮かび上がって来る。

それは元が突っ込んだ。


「どうやって位置を特定したんですか?」


「それはだな...」


薫は掌から一つ鉄球を生み出した。新宿の街に二つ投げていた物だ。そしてこの鉄球の詳細を語り始める。


「これは俺と翔子と兆波と兵助の四人で作った武具、名前は『旋転球(せんてんきゅう)』って言う。ギアルで出来てて霊力を込めることが出来る。昔に作った奴だから機能は一つしかない、ただその機能がめっちゃ優秀なんだ。

『旋転』。名前の通りだ。この球はある所に向かって進み続ける、それは霊力を込めた者が求めている場所だ。何があってもそこに転がって行く、俺はゲートと想像して霊力を込めた。んでさっき到着したんだよ、めっちゃ近くにあった。

ある路地裏を抜けた小さなアパートだ。そこは恐らく語 汐がゲートを置くための場所として部屋を借りていたんだろう、実際その周辺で語 汐の姿は多く見られた。

もうこの時点で俺らは位置を特定したも同然だ。今更現場に出てリスクを背負う必要は無い。残り二日間は休息を取る、各々好きに過ごせ。今回は本当に死ぬからな、悔いの無いように頼むぞ。」


そうして説明は終わった。皆盛り上がりこれで突撃出来ると大喜びだ。ただ突撃するのは九月一日の零時ぴったりの様で時間がある、なので自由時間となった訳だ。最近は休みが全くなかったので生徒会とエスケープは心の底から喜んだ。中等部員も休みが増えて心なしか嬉しそうである。

そして全員基地から出て行っていい事となった。何かあった場合はすぐに阿吽で連絡するようにとだけ伝えて薫も自由行動を取り始めた。



[ラック&礁蔽]


「よっしゃ!休みや休み!わいらは自由や!」


「俺眠いから上で寝るわ」


「僕も少しだけ眠らせて…睡眠時間三十分なんだ…」


「おう!行ってこい!」


紫苑と兵助は睡眠を取ると言ってエレベーターに乗り上の階に向かって行った。ラックと礁蔽は何をするか悩んでいたがひとまずラックの家に行ってポメに飯をあげなくてはいけない。

ラックはポメを頭に乗せ外に出る、礁蔽も付いて行き外に出た。そしてラックの家に二人と一匹で向かう。


「なぁラックはなんで生徒会抜けたんや?素戔嗚と蒿里はいたけどやっぱ生徒会の方がよかったんやないか?」


「特段エスケープに入りたかったってわけじゃない。生徒会が合わなかったんだよ、誰かの為に身を削るあの感じが」


「そうか?あいつら結構滅茶苦茶やっとるやんけ」


「入ればわかる。内側からひしひし伝わって来るんだよ、善人って感じの雰囲気が。俺は苦手なんだよ、別に善人でも悪人でもないからな。一般人でも無いけどよ」


「そうか!まぁそうやな!とりあえずポメ置いたらどっか飯行かんか?ラックの奢りで」


「…二千円までなら…良いぞ」


滅茶苦茶嫌そうな顔をしながら承諾した。礁蔽はその顔に笑いながらも二人で楽しく歩いていった。最悪の場合死ぬ可能性がある、特にラックは。なので極力良い思い出を作っておきたいのだ、だがあくまで保険だ、保険なのだ。



[紫苑&兵助]


「ねむ」


「そうだね。僕はソファで寝るから紫苑は部屋で寝ると良いよ」


「ん。二人は夜に来るかな」


「恐らく」


「んじゃあ八時ぐらいには起きるか~」


「分かった。じゃあ僕も寝るよ、おやすみ」


「おやすー」


二人はそれぞれの場所で眠りについた。兵助はRINFONEの解除を強制的にやらされた挙句睡眠時間が三十分なのだ、精神的にも肉体的にも限界が近かった。だがその限界を人に見せないのは兵助の特徴である、長所でもあり短所でもある。この特技が今後吉と出るか凶と出るか、知る者は"神"だけなのだ。



[中等部員]


咲、ファル、虎児、ベロニカ、梓の五人は一緒に寮に戻る。その間は今日の作戦の話をしていた。


「私何も出来なかった~」


ファルがそう嘆くが他の者も何も出来なかったと共感する。結局重要なのは突入してからなのだがやはり現状は何も出来ていなくて消化不良感が否めない。ここから二日ほどは休みなのだが何をして良いかも分からない、本当に皆死ぬ覚悟できていたのでむしろ元気が有り余ってしまっているぐらいなのだ。ただ何処にその気持ちをぶつけて良いかも不明なのでモヤモヤが残り続けていると言う訳だ。


「ねぇねぇ一つ提案!」


虎児が有り余った元気を使って大きな声で呼びかける。皆注目しどんな提案をしてくるのか緊張していた、それも虎児は結構ヤバイやつなのだ。戦闘狂とかそういう類では無いのだがヤバイ奴なのだ、言葉で表して良いのかも分からないぐらいにヤバイ奴なのだ。そんな虎児の提案に皆身構える、すると当人の口から言葉が発られた。


「パーティーしようよ!折角暇なんだし!他の子達も誘ってさ!別に今回思いで作るためにずる休みするのは先生たち怒らないでしょ!」


そんな普通の提案に拍子抜けする。ただ結構良い案なので早速学園で元の能力で生み出された分身の授業を受けている友達を呼びに行く。

躑躅、真波、四葉、陽、美琴の五人を呼びに行った。ただ美琴は学校に来ていないらしい。そして真波は体の機械を変えなくてはいけない頃なので申し訳ないが断った。

咲、ファル、虎児、ベロニカ、梓、躑躅、陽、四葉の八人になった。何処でパーティーをするのかと言う事になった、そして考えに考えた結果ラックの家でやろうと言う事になった。

広くて無料で使える場所、更に可愛いポメもいる。最高の場所だ。ラックなら許してくれるだろう、そう思って向かう事にした。

結構歩いてラックの家に到着した。インターホンを鳴らすと一緒にラックの家に来ていた礁蔽が出た、そして何か用があるのか訊ねるととりあえず家に入れてくれと押し入る。


「やっほー!!」


「げ、なんでファル達が」


「パーティーしようよ!一緒に!!ここで!!!今日!!!!」


「なんで急に?」


「思いで作りたいじゃん」


ファルが少し大人しめに言うとラックは死ぬ可能性があるので思い出を作っておきたいのだろうと察して許可を出した。ただしっかり片づけをしたりすると言う条件付きだが。

みんな喜んで早速買い出しに行こうと言う事になった。仕方なくラックと礁蔽も付いて行き食材やら色んな物を買った。

はしゃいでいる皆を少し後方から見ているラックの隣に咲が出向いた。


「ありがとうございます。何から何まで」


「良いさ別に。俺だって一応大人だからな、学生だけど」


「そうですね…ところで兄さんは何処に行ったんですか」


咲は知らなかった。流は黄泉の国から本土に行った事を。と言うか黄泉の国に直接行ったメンバーと教師、取締課、そして突然変異体(アーツ・ガイル)の霧島ぐらいしか黄泉の国に行っていた事は知らないのだ。

なので咲からしたら最近流がいない状況と言う事になる。不安になって訊ねるのも普通の行動だろう。ラックは少しだけ悩んでから少し濁しつつ理解できるように言った。


「流は踏み出した、お前や俺らを置いてな」


「…そうですか…」


咲は俯き少しだけ歩幅が小さくなる。ラックは何て声をかけてやればいいか分からない、長年生きて来たがこんな関係の兄妹は始めて見たからだ。すると礁蔽がゆっくり速度を落として二人の傍までやって来た、そして少しずつ暗くなっている空を見ながら話す。


「あいつは大丈夫や、何があっても大丈夫なはずや。わいはお前と流の親父の正体を知っとる、数ヶ月前流を捜しに行った時に資料を目にしたんや。だからこそ言える、流は大丈夫や!安心して待ってればその内ひょいっと帰ってくるで!」


そう慰めた。咲は少しだけ元気づけられたのかいつもの歩幅に戻って顔も上げる、ただ眼の奥底から負の感情が流れ出していた。


「あの人が父親でも…嫌わないんですか」


「いやまぁわい気にしないわそう言うの。エスケープは基本皆普通の家庭や。わい、兵助、素戔嗚、蒿里、ラック。ニアはロッドだったり流はちょっと複雑やけどそんなもん気にしてへん。理解は出来ん、だって体験した事無いもん。

せやけど受け入れる事は出来る。わいはそう言う人間になりたくってまだ大人になれへんのや!諦めってのが大人への必須道具や、やけどわいはまだ夢見てたい。みんなと一緒に外で暮らしたいんや。

それはTISに対してもや。あいつらだって根は腐ってない、致し方ない理由があった奴らが大半や。だからあんまり戦闘もしたくない。

みんなと仲良くなって、受け入れて、安心できる社会を構築していきたいんや。そんな奴がちょっと複雑な家系ってだけで嫌う訳ないやろ!」


礁蔽は満面の笑みでそう言った。ラックは普段見せない心の底から出る笑みを見せた、礁蔽は珍しい行動に興奮してからかう。ラックはのらりくらりと交わし続ける。

そんな二人を見て咲は思う事があった。どれだけ距離があっても心は通じ合っているんだ、そう思えた。素戔嗚と蒿里、流も仲間だと言ってくれた。咲はそれがなんだか、嬉しかった。



[拳&真澄]


「何しようかしら。正直やる事無いのよね」


「そうだな姉ちゃん。とりあえず寮帰ろうぜ」


「そうね」


二人は寮に向かって歩き始める。


「ねぇ拳」


「なに?」


「今回の作戦、どうなるのかしらね」


「俺そう言うのよく分かんねぇ…けど何があっても俺は姉ちゃんとみんなを守るぜ!俺は強いからな!」


そう言った拳はとても頼りになる。昔は泣き虫だった拳がここまで強くなってくれた、心も、身体も。拳は小さな時に島に預けられ幼児向けの施設に入りながらも真澄も結構苦労していた。当時小六だった杏もいたのでしっかりしなくてはいけなかった。そのせいで小学校の頃から付き合いは悪く、能力は『威圧』で目つきが良くなかったので人が寄り付かなかった、そのせいで学校では常に孤独だった。

ただ何とかやって行き生徒会に入ってからは友人に恵まれ、教師にも恵まれた。そして杏は『なんでも可愛く出来る』と言う能力のおかげで友達は増えて行った。そして拳も体のデカさや実は優しい所など様々な面を見られて友達が増えていた。

次第に真澄は自分はもういらないのではないかと言う思考になっていった。そして唯一仲の良かった人物の死が引き金となり精神が病んでいった。

だが杏と拳は適度な距離を保ちつつ解消に繋げて行ってくれた。その時の記憶は今でも強く心に残っている。


「拳…本当に強くなったね」


小さな声で呟いた。


「ん?なんか言った?」


何を言ったのか聞こえなかった拳が聞き返す。だが真澄は答えずにさっさと寮に帰った、そして三人で食事を取って最後の一家団らんの時を過ごすのだった。



[影]


影は生徒達で唯一基地の中に残っていた。すると行く場所が無く基地で寝泊まりする透、佐伯、ハンド、ハックが帰らないのか聞いて来る。少しだけ残ると言って椅子に腰かけ休憩し始めた。

すると隣に透が座ってきていきなり煙草を吸い始めた。


「な、なんですか急に」


「お前、何か駄目な事考えてるだろ」


透は何かもかもを見透かしているかのような声でそう言った。影は見抜かれていた事に驚きまず称賛から入った。


「お見事ですね。そうですよ、私は今回効率的では無くリーダー、薫先生から見たら呆れる様な行動を取るつもりです。止めようとしても無駄ですよ、私は絶対にやりますから」


断固とした態度で出る。すると霧島は煙を吐いてから言った。


「止めねぇよ。どうでも良い。だけど巻き込むなよ、他の奴を」


「それぐらいは分かってますよ…」


「青は藍より出でて藍よりも青し、弟子が師匠を越える事。俺は応援してるぜ?精々頑張ると良い、結果はどうでも良いけどな。それじゃ、俺は寝る」


透はそう言って寝室に向かってしまった。影は黙って硬直してしまう。するとその様子を見ていた佐伯が近寄ってきて優しく話しかける。


「あれは頑張れって言う応援です。透さんは感情表現とかが凄く苦手でしかも結構照れ屋なんです。あれでも結構応援している方なのでどうかあまり悪く思ってあげないでください」


「そうなんですね。ありがとうございます」


「あの人は根は良い人なんですけどね…僕が言うのも何ですがコミュニケーション障害、所謂コミュ障って奴なので…」


「まぁ…そうでしょうね…と言うか佐伯さんって初めましてですよね。作戦中もずっと別室にいましたし」


「あ、そうですね。良かったらご飯でも行きますか?気が合いそうですし」


「良いですね。行きましょう!」


二人はどことなく仲良くなれそうな雰囲気を感じ取ったので共に飯を食って仲を深める事とした。楽しそうに、だが静かに会話を弾ませながら二人は外に出ていった。

その様子を見たハンドは新聞を読んでいるパラライズに話しかける。


「私達もご飯…行きましょうか?」


「良いんですか?僕お金持ってませんけど」


「良いですよ。たまには私が奢ります。お好きな所に行きましょう、折角休暇を貰ったんですから。たまの贅沢ですよ」


「ありがとうございます!それじゃあ行きましょう!僕ファミレスとか行ってみたいです!」


能力取締課の二人も楽しそうに外に出て行った。基地に残ったのは寝室で寝ている透、そして薫と翔子だけとなった。

二人共本質で黙々と作業をしていた。薫は普段は翔子に仕事押し付けているが実は物凄いスピードで仕事を捌けるのだ。二人は話さなくても通じていて必要な物は言葉にしなくても理解して渡していた。長年の経験からある程度なら言いたい事が分かるのだ。

そして日も沈んだ頃、片が付いた。


「終わった~」


「お疲れ。いっつも思うんだけどさ、普段から仕事してくれない?私あんたと絵梨花、崎田に仕事押し付けられるせいでいっつも学校で寝泊まりしてるんだけど。しかもたまに香奈美とか水葉に仕事手伝って貰ってるし」


「…能力使って時間の流れ遅くすれば良くね?…いやこれ名案だろ!!」


ウキウキで提案してくる薫に苛立って顔面を一発殴った。薫はピクリともしないが少し赤くなってる。怒りが治まった翔子は今後どうするのかを聞く。ただ薫自身もよく分かっていないようで今までは衝動的に動いていたそうだ。そして後は本拠地に突撃するだけなので今考える事はなーんにも無いのだ。


「あいつら絶対言う事聞かずに好き勝手やるだろ?だから今更言う事ねぇんだよな、死ぬなぐらいしか」


「確かにそうね…まぁ良いわ。こんな事考えてても仕方ないしたまには飲み行きたいわ。あんたが奢ってよ」


「は?ダル…まぁ良いけどよ。兆波とか兵助は連れてかないのか?」


「兵助って体はまだ十八歳でしょ?年齢は二十二だけどなんか怖いじゃん?あと今日はサシで飲みたいの。良いから付き合って」


翔子はそう吐き捨ててエレベーターに乗る。呆れながらも薫も同行した。二人は適当な居酒屋に入り二人で飲み始めた。そして翔子の愚痴マシンガントークを一時間以上聞かされた。ただ内容が八割薫、絵梨花、崎田の仕事押し付けだったので何も言い返せなかった。そして残りの二割が生徒の愚痴だった。よく考えれば翔子は高等部一年を担当している、ルーズ、流、紫苑、礁蔽、拳、面倒くさそうな奴が沢山いる。

流石に薫も可哀そうになって少し慰めると翔子はすぐ泣きだした。


「ホント酒癖だけは悪いな。別に良いけど」


一方薫は酒に強い。非常に強い。どれだけ飲んでも少し顔が赤くなる程度だ、そのせいでいつも酔いつぶれる翔子、崎田、元の介抱をしている。


「らって~!わらひだってふぁんふぁってるのに~!いつも成果は横取りされるひ~!!(だってー!私だって頑張ってるのにー!いつも成果は横取りされるしー!!)」


「まぁ…うん。そうだな」


「ほんっふぉ、あんはもふぁんとか言ったらどふなのっよぅ(ほんっと!あんたも何とか言ったらどうなの!?)」


「嫌だって俺の専門能力の訓練だしー」


「ふぁぁ!?ひゃああらひにおひつけへもいいっへわへ!?(はあ!?じゃあ私に押し付けても良いってわけ!?)」


「…すまん。改善するからさ、許してくれよ。明日から絶対改善するからさ」


「ふぇっふぁいなおふぁない!!!(絶対直さない!!!)」


そんな会話をしながら夜を迎えた。それぞれやりたい事、やりたかった事を行い悔いの無いように努める。

中には何もせずに寝る者もいたが大半は誰かと喋ったり遊んだりしていた。ただこの判断は結果的に良い方向に繋がるのだった。この約二日間の休みを取らせるというのが英断となるの事はまだ誰も知らないのだった。



第百三十五話「英断」

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