第百三十三話
御伽学園戦闘病
第百三十三話「記憶消去」
「透…」
「なんで紀太を殺そうとしてんだよ」
「さぁ?私にも分からないよ」
「ホント馬鹿なんだな。まぁ良い。俺は今能力の研究をしてる、そして後二年もあれば解明できる。能力者誕生のルーツが」
そう言った瞬間伽耶が目を見開き肩を掴もうとする、だが透は横に交わして続ける。
「んで姉貴は何してんだよ」
「私は人体の改造、アリスさんの時はたまたま成功しましたけどまだ確実じゃない。これが成功すれば文TISは文字通り神となる事が出来る、人間を越えた神に」
透は溜息を吐き馬鹿を見る様な視線を送りながら煙草を一本出して吸い始めた。そして三十秒程吸った後伽耶をバカにするような口調で言葉を放つ。
「いつになってもお前らは神にはなれねぇよ。お前らみたいなやつらにはな」
何故そんな言いきれるのか不思議だ、昔から透が自信ありげに言い切った事は九割九分その通りになる。だが伽耶だって研究をして極限まで人体の改造を施そうとしているのだ。ただの戯言にしか聞こえない、気にせず紀太の方に視線を移す。すると紀太はその場にいなかった。
「何処に…!?」
「こっちだよ馬鹿野郎」
真後ろ、透がいた方から声が聞こえた。振り返ると紀太が短刀を使って斬りかかっている、すぐに回避行動に出たが交わし切ることは出来ず少し白衣が切れてしまった。
だが気にするほどの事では無い。すぐに能力を使って紀太の体の中にある酸素を全て一酸化炭素に変えた。こうすれば何があっても殺すことが出来る、そう思って油断していた。
「だから効かねぇって分かんないのかよ」
だが紀太は少しも狼狽えず速度を落とさず攻撃を続ける。多少の訓練はしているので伽耶も回避を続ける、今はまだ何とか耐えているだけなのだろうと思う。ただ後数十秒もすれば苦しくなってくるはずだ。
だが何秒経っても全く苦しそうな動作を見せない、寧ろ活き活きしている。流石におかしいと思い何か違和感が無いか紀太の動向を伺っていると一つの違和感に気付いた。
「呼吸が荒いですね~」
紀太はそんな一分二分動いただけじゃ息を上げる様な人物ではない。だが普段より苦しそうに息をしている事から見て実は苦しかったのだろう。もう終わる、完全に勝ちを確信したその時だった。
「バカだな姉貴。俺の能力忘れたか?」
透が吸殻を投げ捨てた。すると地面から異形の虫が現れその吸殻を喰い始めた。その時伽耶は全てを理解した。
「俺の能力『寄生虫を操る』。新たな寄生虫だって生み出す事ができる。喰いつかれた奴は多少霊力を持って行かれるが実質二個目の能力を手にする事だって出来る、例えば『体内に酸素を送り込む』みたいな寄生虫を憑かせればな」
そう、体内に酸素を送る事が出来る蟲を紀太の身体に一時的に宿らせた。そのおかげで紀太は何事も無く戦えているのだ、だが霊力が吸われている。ただ蟲が喉に引っ付いているせいで気持ち悪く違和感があるので息を多く吸い込んでいるだけなのだ。
「あんま舐めなんなよ。伽耶」
紀太がトドメを刺そうとしたが透が止める。何故か聞きながら攻撃を続ける。
「こっちに来い」
紀太を寄せた。そして窓から離れる様指示を出す、伽耶は何が起こるのか分からなかったがとりあえず透にも攻撃しようと思ったその時部屋の中に人影が出現した。
ここはビルの七階、人影が急に現れるのはおかしい。生徒会の影が来たのかと思ったがその影は変な場所から伸びてきている、その元凶の場所を見た。
「[フルシェ・レアリー・コンピット・ブライアント]!!」
レアリーが浮遊して窓から覗き込んでいる。透は笑いながら言い放つ。
「全部囮だ。紀太は勝手に利用させてもらったがな!佐伯の能力で浮遊させたレアリーの能力でお前の記憶から基地の場所を特定...」
そこまで言った時だ、伽耶がニヤッと笑いながら言い返す。
「残念。私の記憶じゃ何も分かりませんよ~」
「は?」
「だって私は、本拠地に関する記憶が無いですから」
佐須魔は言ってあった。外に出向く者は佐須魔に言って一時的に本拠地の位置に関する記憶を全て消去すると、そして帰りたいときはある術を使うとゲートを生成してくれると。
なので伽耶の記憶を覗いても何も無いのだ。完全に騙された、そう思いすぐにレアリーを地上に降ろそうと思った瞬間レアリーではない人物の人影が差し込んで来た。
「誰だ!!」
透が見る。するとそこにはレアリーの後ろに浮遊している語 汐がいた。すぐに逃げる様言い聞かすが間に合わなかった。語 汐はレアリーから牌を抜き出して何処かへ去って行った。
「すぐに部屋の中に飛び込め!!!佐伯の能力は対象の霊力が切れると...」
遅かった。レアリーは霊力操作を妨害され浮遊が切れた、佐伯の能力は『重力操作』。他人の周囲だけ無重力状態にしたり様々な事が出来る。だが無重力状態にして浮遊する場合霊力が無いと能力が上手く作動せず落下してしまうのだ。
「やべぇ!佐伯!受け止めろ!!」
窓から身を乗り出し佐伯に命令しようとしたが距離があり過ぎて聞こえていないようだ。そして最悪な事に太陽の位置が佐伯の真上のせいでレアリーが落ちてきている事が分かっていない。一か八かで透が窓から飛び降りようとしたその瞬間、アリスが部屋に飛び込んできて窓から飛び降りた。
そしてレアリーを掴んで抱えてから綺麗に着地した。佐伯は何が起こったのか理解できておらず困惑している。
「さて、一度七階まで戻りましょうか。交渉です」
アリスは佐伯の腕を掴んで七階に戻った。すると紀太が言ってくれていたのか透はその場で待っていた。
「伽耶さんは何処に?」
「クソ姉貴はいつの間にかいなくなってた。恐らく佐須魔がゲートかなんか使ったんだろ。んで、なんで助けてくれたんだ」
「交渉をしましょう。と言うかもう交渉では無いですね、一方的に私達が条件を提示し呑んでもらうだけです」
ニコニコと笑いながらそう言うがいつでも殺せるんだとアピールする為レアリーの喉元にナイフを突き立てている、佐伯も止めに入ることは出来ず透に目配せをするぐらいしか出来ない。
透は少し悩んでから一瞬待つよう言い聞かせた。そして通信機に霊力を流し込み薫と連絡を取った。
「薫、今からアリスと紀太を連れてく。詳細はそっちで話すわ。まぁ敵意は無いから大丈夫だ、とりあえずゲートくれ」
透はそう言って通信を切った。すると透の傍にゲートが生成されたので先にアリスと紀太の二人を入れた、その後透、レアリー、佐伯の三人もゲートに入って基地に戻った。
中では兆波がいつでも戦闘できるよう身構えている。透は定点カメラで見ていてある程度は分かっているだろうが一から説明した。
「んじゃ内容は何だよ、とんでもないものじゃなけりゃ呑んでやるよ」
「簡単です。この作戦中は私と紀太さんを仲間にしてください」
「ん?それお前らに何の得があるんだ?」
「私達はTIS本拠地に乗り込みたいんですよ。ある物を奪取する為に」
「んじゃあ良いぜ。何が欲しいんだよ、場合によっては全面的に協力してやるぜ」
「『銀の弾丸』です。西洋と東欧で継承されている武具を模した物です。悪魔や武器が通用しないモノに効くとされているものです。
そしてTISではギアルでそれを作っています。何故ギアルで作っているかは不明です、霊に対するものなのでしょうか?そんな事は置いておきますね。
私達はその弾丸が欲しいです。製造が難しいらしく私達がいた一年半程度前は本拠地内に三発しかありませんでした。私はそれを手にしてある人物を殺したいのです」
「そんぐらいなら協力してやれるが…誰を殺したいんだ?」
「秘密です。それでは条件は呑むと言う事でよろしいでしょうか」
「あぁ。今回の作戦中だけな」
「ありがとうございます」
アリスが握手をしよと手を差し出したが紀太が遮った。そして紀太が握手を交わした、そして番犬の様な態度でアリスの周囲で威嚇しながら薫に警告しておく。
「アリスに触れるな、ゴミ野郎」
「あっそ。んじゃ俺らは語 汐の特定に戻る。早めにしたい。んじゃ適当に水葉辺りが案内しといてくれ」
「りょーかい」
水葉は二人を連れて基地内の案内を始めた。そして本質では語 汐の位置を特定する作業に専念し始めた。
新宿全体の雀荘付近の監視カメラを見る。するとちょくちょく語 汐が映っているのだが何処に帰っているのかは不明なのだ。情報が全く落ちなかったが一つ言えるのは目立たない場所に帰っている、と言う事だ。
「とりあえず昼頃に新宿を取り囲むようにして全員投入する、どうなるかは分からないがそれぐらいしないと間に合わない。アリス紀太は行かせない、霊力高すぎてバレるから後でちょっと違う方法で使う」
「わいみたいな戦闘出来ない奴もいくんか?」
「行かせるに決まってんだろ」
「へいへい」
皆ソワソワし始める。どう言う戦法で誘き出すのだろうか、新宿を取り囲むようにして配置されるのは知っているのだがそれ以外は全く明かされていない。薫が操作するのだろうが正直誰も成功するとは思っていないのだ。
「よーし俺コンビニ行って来るわ。なんかあったら電話よろしく」
薫は席を立ち外に出る。灼も一緒に行くと言って飛び出した、朝ご飯を食べていないので一緒に朝ご飯を買いに行っているのだ。他の者の分も買う事にした。本当に適当に軽い物を買って基地に戻った。
まだ進捗は無いようで操縦組も皆雑談しながら作業をしている。生徒会の奴らも中等部に構ってあげている、中等部は興味津々で生徒会の話を聞いている。
「買って来た。とりま腹減ってる奴食え、金なかったから満腹になるかは知らんけどな」
そうして朝食を済ませた。それと同時にベロニカが何かを発見した。
「これ、今日の奴なんですけど」
そう言って一番大きなモニターに映像を映す。するとそこにはとある雀荘に入って行っている語 汐の姿があった。その映像からは二時間以上たっている、ただ麻雀は時間がかかるし何回もやってしまうので二時間程度で出て行ったとは思えない。薫はその雀荘の特定を進めた。
「ここか。雀荘緑川、ただの雀荘だな…よし。ここには突撃しない。少し早いが今から皆を転移させる、昨日現場に赴いた捜索班も霊力操作は問題なくできているようだから全員飛ばす。
操縦組もベロニカ、兆波は飛ばす、あと五分後に飛ばすから何かあった時様にウォーミングアップしとけ。ただ町破壊したりするなよ」
全員準備運動を始めた。そして出発できるようになった、薫は早速全員を円状に飛ばすよう莉子に頼む。莉子は少し面倒くさそうにしながらも数十秒だけ待たせた。
そして莉子はテレポートをフル活用して新宿全体を見て来た。そして何処に飛ばすかイメージできるようになった、そして全員自分に触れる様言う。
「さて、通信機は誰にも付けない。定点カメラも付けない、不安かもしれないが俺に任せてくれ。残るのは俺、翔子、兵助、半田、ハック、アリス、紀太だ。それ以外の奴とは会っても絶対に近づくな、ある方法を使って指示を出すからそれに従え」
ちゃんと理解できているか確認を取った。そして不安ツートップの拳と灼は理解できているようだったので本日の捜査を始める事になった。
薫が合図を出した。その瞬間全員の姿が消えた。薫はすぐに席に座り指示を出す為の準備を始めた。半田がどうやって指示を出すのか訊ねると薫はある術を発動した。
『阿吽』
その瞬間現場に出た全員と操縦組全員の頭の中に直接薫の声が聞こえて来る。ただ送られた側は話せのかと思っていると薫がこの術の詳細を話し始めた。この術は佐須魔が編み出した術で脳内で相手が発動者に過度な嫌悪感や悪意を持っていなければ脳内に直接言葉を送り込むことが出来るらしい。
ただ欠点は霊力を多少消費してしまうところだ。ただホントに僅かで霊力指数は1もいかない消費なので気にしなくていいとの事だ。そして誰でも使える術らしく『阿吽』と口に出すだけで連絡が取れるらしい。
全員連絡が取れるようになった。そして準備万端になったところで薫が口角を上げながら言った。
「今度こそ始めよう、絶対に逃げられない。謂わば追い込み漁、お前も精々一日だ[語 汐]」
第百三十三話「記憶消去」




