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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
第七章「TIS本拠地急襲作戦」
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第百三十話

御伽学園戦闘病

第百三十話「逃亡」


薫は急いで漆の状態を確認する。体が酷く損傷していて息も絶え絶えだ、いつ死んでもおかしくない状況だ。タルベの回復をかけてもこれなのだ、どう言う理屈なのか分からない。

困っていると操縦席に居た兵助が近寄って来る。


「もしかしてさ、これ霊力によるダメージなんじゃない?」


「なっ!?」


「とりあえずやってみるよ。違かったとしても霊力は大して消費しないしね」


そう言いながら兵助は回復術を使用した。すると傷がみるみる治って行く、やはり落下もあったのだろうが霊力による攻撃の方が大きかったのだろう。

漆はまだ起きる気配は無いので保健室にいつもいる時子先生をつけて寝室に送らせた。そして影も帰還したのであとは菊と莉子だ。莉子はすぐに帰ってくることが出来るであろうが菊は少し時間がかかりそうだ。


「とりあえず莉子は今すぐ帰ってくるよう言っておけ」


「分かりました」


ベロニカが連絡を取って通信を切った瞬間莉子が基地に戻って来た。そしてどんな状況かを事細かに説明し休憩を取らせる。


「とりあえずラック達にも紀太の件とか色々伝えておいたからね」


翔子もしっかりと自分の仕事をこなしていく。

現在新宿に居るのはポメ、菊、ラック、礁蔽、紫苑の五名なのだがポメはそのまま捜査を続けてもらう。ただ菊は帰る方法が無い。どうにかして基地に戻りたいのだがテレポートなどは使えないし位置が特定できていないのでゲートを生成しても意味が無く少し手詰まり状態なのだ。

すると菊から連絡が来る。どうやら緊急事態の様でとても焦っているようだ。


「おい!なんかアリスがいる!!やべぇ!!」


なんとアリスがいるらしい。戦闘が始まろうとしているのかは不明だがどちらにせよ良くない状態だ、すぐにでも帰るよう指示を出すが「帰る方法がねぇんだよ!!」と正論をかまされてしまった。

とりあえずアリスから距離を取って盤面整理をしようと言う事になったが既に逃げているらしい。だがアリスは人間離れのスピードでぐんぐん距離を詰めて来ているらしい。


「あーすまん。これ死ぬわ」


何故か達観している。モニターには映っているのだが真上からなのでアリスは映っていない、ただ全速力で菊が逃げていて嘘でないと言う事だけは分かる。


「どうするか…アリスはなんで菊を追いかけてるんだ?」


「ロッドの血入ってるからだろ、知らんけど」


透がやっと部屋から出て来た。状況は分かっているようで兵助に席を立つよう言う、兵助は何故自分なのかと疑問に思いながらも席を立った。その席に座った透はとても手際良くパソコンをいじる。そして位置の特定に励む、他の者より外の知識があるので凄いスピードで特定が進んでいく。


「あーっとこれ駅の近くだな。とりあえずここにゲート作ってやれ」


透はマップにピンを立てる、薫は言われた通りそこにゲートを生成した。全く場所は分からないがマップによって大まか状態が分かるので作ることが出来るのだ。

このゲート生成は場所の見た目が分かっていれば行った事が無い場所でも良いのだ。なのでマップなどで見た事があれば生成できてしまうわけなのだ。


「そのまままっすぐ進め、そしたらゲートがある。その前に捕まったら知らん」


それだけ言い残して席を立った。兵助は自分の席が空いたのでそこに座り再び作業を始める。菊の位置が分かったのは大きなアドバンテージとなるのだが本命の語 汐の位置は全く分からない、漆から情報を引き出さなくてはいけないのだ。


「それなら私が心を見ればよいのでは?」


レアリーがそう訊ねるが薫が返答する。


「俺も軽く見ようとしたが何も無かった。ホントにその時の記憶はずっと真っ暗で何もなかった、恐らく結果は同じだ。行く必要は無い、本人から聞かなくちゃ意味は無いだろ」


「そう…ですね」


何故か記憶は真っ暗だったのだ。意味不明だがそうなっている事実は変わらないので本人から詳しい話を聞くのが一番手っ取り早い。なので漆の件は当人が目を覚ますで放置と言う事になった。

菊はなんとか逃げ切れそうだと思ったその時いきなりカメラの中にアリスの姿が飛び込んでくる、何か策があって逃げ切れると思っている菊の心を見抜いたのだろうか。ただもう逃げきれそうに無い、もう菊は諦めるべきかと思った瞬間カメラの中にもう一人の姿が映る。


「ニア!?」


唐突に現れたニアがアリスに殴り掛かって来ているのだ。菊は全速力で逃げているのでニアに感謝を伝えられなかったが何とか振り切った。そしてさっさとゲートの位置まで向かう、少し疲れていてゆっくり歩いているとゲートらしき霊力を感じ取った。


「ん、そこか」


ゆっくりと進んでいく。ただ何か違和感が感じ取れる、ゲートと同じぐらいの霊力の者が一人いるのだ。菊は全てを察し通信をしながら進む。


「ゲートは絶対に閉めるな。そして操縦組以外を他の部屋に避難させておけ。なだれ込むからな」


「了解」


薫も大まかに状況を把握できたようだ。もう分かるであろう、ゲートの傍に語 汐が立っているのだ。

菊は正面に立っている語 汐に向かって語りかける。


「なんで知ってた」


「言えないな」


「言えば見逃してやるよ、言わなかった殺す」


『降霊術・唱・黒九尾』


当然の様に黑焦狐を呼び出した。だが黑焦狐で攻撃をしようとしている訳では無い、二人はアイコンタクトして襲い掛かった。

だが攻撃をするのではなく突撃したのだ、ゲートに押し込もうとしている。語 汐は全く動じておらず予備動作すら見せない。


「そのまま押し込め!」


黑焦狐は言われずともやっている。語 汐と体が接触した。このまま押し込める、そう思ったその時だった。黙っていた語 汐が口を開いた。


自摸(ツモ)


その瞬間菊、黑焦狐に途轍もない痛みが走る。二人共うずくまり痛みに悶える、思っているより威力が高い。すぐにでも立ち上がって攻撃を再開しようとしたその時通信機から薫の声が聞こえてくる。


「お前らと一緒に影と莉子も攻撃を受けた!気を付けろ、どんな能力か見当が付かねぇ!」


「わーってる。けどな、今引ける状況じゃねぇんだわ。後ろじゃまだニアとアリスがやりあってる音が聞こえる。いつ人が来るか分からねぇ、もう帰る」


菊はそう言いながらロッドの術を発動する事にした。突撃時に使える霊力が少し減るかもしれないが死ぬよりはマシだ、そう思いながら。


女神(にょじん)の血を引く者が一人 我が名は松葉菊 奉霊の名は黑焦狐 先祖の記を辿り()無しとあれば力を頂戴致したい 欲するは念死 与えるは霊魂 力戴く女神(にょじん)の名こそキャラトー・ロッド姫 我の力を信じよ 女神(にょじん)の血を引く我の下に 体を蝕む念を放ちたまえ』


洋ロッド二代目の[キャラトー・ロッド]を召喚した。すると菊の背後に浮遊しているキャラトーが現れた、そしてキャラトーは指を語 汐に向けた。語 汐はその攻撃を避けようとしたが無意味だ。


「残念、これ必中だ」


そう、キャラトーの術は必中なのだ。そして能力、卸術は『蝕臓念(しょくぞうねん)』。必中で解除方法はキャラトーを黄泉に帰す事、それ一つだ。そして毒であり内臓が順番にダメージを負うと言う物だ、穴が空いたり針で刺されているような痛みに苛まれることとなる。

ただ実際には傷は負っていないので根性で動ければ何とかなってしまう。肝臓、大腸小腸、肺、心臓の順でダメージを与える。実際にダメージは負っていないとは言ったもののやはり衝撃は凄まじくショックで死んだりする可能性は充分あるので最強レベルの術だ。


「本拠地の場所を教えろ、そしたら解除してやるよ。お前は無駄に回避しようとしてたよな、ってことはこの術の詳細を知らないだろ。折角だから教えてやるよ、お前は死ぬ」


「良く知らないのはお前の方だろう。ロッド術は最高潮が十五歳、そこからはどんどん劣化していくだけだ。そして二十歳になった瞬間その能力は消失する、そしてお前は奉霊と言う特別な存在を手名付ける事によって何とか術を使っている。

だが私にはそんな小細工は通用しない」


暗槓(アンカン)・霊力操作』


そう言って何かを倒すような動作を見せた後手でソレを右側に払うような動きをした。その瞬間菊、黑焦狐、ラック、礁蔽の霊力操作が妨害された。

操縦組は何が起こったか分からず妨害の効果が切れるのを祈っているが菊は追い詰められていた。そして妨害が終わらない事を悟っていた。


「私も麻雀ぐらいは出来るからそんぐらい分かるんだけどよ…もしかしてだけど能力者とか霊を麻雀の(パイ)にする。そしてそいつらを対象にして鳴いてそいつらに妨害とか攻撃できるんだろ?」


麻雀とは牌と呼ばれる物を十三個持っておきそれを手牌と呼ぶ。次に山と呼ばれる牌が積まれている場所から一つ牌を引き手牌と入れ替えたりその持って来た牌を捨てたりする。そして最終的には"役"と呼ばれる風な形に揃える、するとトランプやUNOなどのようなゲームと同様アガる事が出来る。

そしてその時に揃っている役の数だけ点数が上がって行き最終的に点を一番持っていた人が勝ち、と言うゲームなのだ。

そんな麻雀には『鳴き』と呼ばれる行為がある。その鳴きとは『ポン』『チー』『カン』の三種類がある、少し複雑なのだがポンは同じ種類の牌を二枚持っていて相手がその牌と同じ種類の牌を捨てた時に使える。

その二枚を倒して露出させ相手が出した牌を貰って三枚にして横に置いておくと言う物だ。詳しく書くと長くなるので省略するが簡単に言うと『相手の牌を利用する』と言う風な感じだ。そして語 汐の能力ではチーもほぼ同じ効果であるので省略する。

そしてカンはその四つバージョンとでも考えておけば充分伝わる。


「お前あれだろ、麻雀をうまく落とし込んだ能力だろ」


「そうだと言ったら?」


「まぁさっきの見るにアガッた時にダメージを与えられるんだろう?恐らく何らかの方法で私達を牌に見立てる事が出来るんだろう、そしてその牌を使ってアガッた時にはその人物達にもダメージを与える。って感じだろ」


「よく分かるな」


「舐めんな。んで鳴きは恐らく霊力操作と能力発動の二種類を封じるのにも使えるんだろう。さっき言った通り私達に見立てた牌で鳴くとその鳴きに使用された人物を対象として妨害が発生する、的な感じだろ。

だとしたらめっちゃ厄介だけどな」


「正解だ。とても良い勘だ、TISに入らないか?とても良い待遇を受けれるぞ」


「んなもんいらねぇよ。あと私はお前らの事が大っ嫌いだからな。覚えとけ」


「残念だ。では死んでもらう、私は早く麻雀をしたいのだ。お前らを殺すと言う仕事を終わらせてからな」


語 汐は傍にいたネズミに手をかざす。するとネズミから何かが抜き出される、その何かは手に吸い寄せられた。そして語 汐はそれを確認するといらないものだったのか放り投げた。


「…あーそう言う事か。生物から牌を抜き出すことが出来る。そしてそいつによって牌の種類は決まってる、そしてネズミの奴はいらない牌だったから捨てた。それだけの事か

じゃあよ、何も生物がいなければ何にもできねぇな!」


すぐに黑焦狐を引っ込めた。そして菊自身は防御の構えを取る、完全に時間を経過させるつもりだ。そしてキャラトーの念でじわじわと苦しめて倒す気なのだろう。

だが語 汐は重要幹部と言ってもいい程強い、その人物がそんな見え見えの戦法に乗るだろうか。答えは否、違う方法で攻撃をするまでだ。


「確かに私は生物がいなければ能力は無意味だ。だがそんな事ぐらい容易に想像できるだろう、だったら体ぐらい鍛えるさ。そもそもTISは肉弾戦は出来る様佐須魔様から稽古をつけてもらえるのだ。

だから貴様の時間稼ぎは通用しない」


殴り掛かって来る。思っていたのとは違った行動に菊は少し戸惑い一瞬動きが遅れた、その隙を突き腹部にパンチをかました。

言っていた通りだ、痛みが半端じゃない。今にも倒れ込みそうになるが何とか立って顔を上げる、菊は痛みで少し涙がこぼれていた。


「これで終わりにしよう。私だって痛めつけたい訳じゃない」


思い切り足を振り上げる、だが菊は笑いながら抵抗する。


『降霊術・唱・黒九尾』


黑焦狐を盾にした、黑焦狐の身体はとても強靭なのでちょっとだけ霊力のある蹴りなんてかゆくもない。当たり前の様にくらってから噛みつこうとする、だが語 汐の身体能力も負けておらず噛みつこうとしてきた口を踏みつけて黑焦狐の頭に乗った。


「マジかよ、強いな。ただお前の負けだ。私の時間稼ぎは『蝕臓念(しょくぞうねん)』の為に見えたか?

違うぜ、ニアとアリスがやりあってんだ。来るだろ、こいつが」


そう言い放った菊の頭の上には一匹のポメラニアンが乗っていた。ポメが駆け付けたのだ、ずっと街を探索して皆が何処にいるかを探していたが二人がやりあっている音や霊力を感じ取りやっと菊の居場所もわかったのだ。

ポメは全くの無傷だ、そして能力を使う霊力は大量に残ってる。ならばする事は一つ。


「やれ!あいつを打ち上げろ!!」


ポメは周囲にあった石やコンクリートの破片などを集積した、そして一つの塊にして語 汐に向かって放つ。小さな路地裏なので横には避けられない。塊を避けるには上に跳ぶしかないのだ、仕方なく黑焦狐を踏み台にして高く跳んだ。


「それが目的だ」


菊は黑焦狐を戻してから笑いながらゲートに向かって走る。だが語 汐は空中で体勢を変え菊にのしかかろうとした、だがそれを止めるのがポメの役割だ。塊を菊の頭の真上に移動させた。そうする事によって菊にダメージを与える事が不可能になった。ポメも走り込み菊と同時にゲートに飛び込んだ。


「すぐ閉めろ!!」


基地内に声が響く。薫はヘッドセットをしていたので聞き取れておらずゲートをしめていなかった。語 汐の手が基地内に入って来る、菊の手が掴まれたその瞬間二人以外の時間がスローになる。

翔子が能力を発動して動きをスローにしたのだ。そしてもう一人は半田だ。


「薫の能力を消して!すぐ!」


「分かりました!」


能力を発動しながら薫に触れる。半田の能力は『触れた物の能力発動を封じる』なので触れられた薫は強制的に全能力の使用が中断された、ゲートも閉じられて菊は助かった。

スローから戻るとそこには綺麗に切断された語 汐の腕があった。


「ゲートってこうなるのかよ…」


時間が遅くなった事と半田が触れている事に気付いた薫はヘッドセットを外し後方を振り向く、そして菊が帰ってきているとようやく気付いた。すぐに駆け寄り状態を確認する。


「怪我大丈夫か、何があったか詳しく聞かせてくれ。俺らはラック達をこっちに戻す作業をするから。

生徒会の誰かに言っておいてくれ」


「分かった。んじゃ頑張ってくれ」


菊は部屋を出て行った。そして語 汐の能力など起こった事を全て絵梨花に話した。状況を把握した絵梨花はゆっくり休むよう言って菊をシャワールームに送ってから本室に戻っていた。

その頃には既にエスケープ三人も帰ってきていて霧島に何があったか話していた。探索組は今回は全員帰還した、だが漆は未だ起床せず不安が募る一方だ。

そんな中十九時に本室に全員集められた、薫が話し始める。


「今日の成果は新宿に居ることと大まかな能力だ。本拠地の事は一切手がかりが無い、後二日と数時間しかない。本格的に猶予があるのは明日までだ、それまでに語 汐から情報を引き出さなくてはならない。

そうすると今日の様に少数で捜索などしてられない。なので明日は操縦組以外を全員新宿に置くり込む!!」


仲間ではない紀太やアリスがいて語 汐の詳細も掴めていない状況にも関わらず大胆な行動に出た、だがこれが薫の強い所なのだ。

そんな無鉄砲な戦術さえも全て成功させてしまうのだ。明日で全てが決まる、誰もがそう思っていた。

だが結果は誰も分からないのだ、そう薫も佐須魔も、語 汐自身も。



第百三十話「逃亡」

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