第百二十六話
御伽学園戦闘病
第百二十六話「部屋紹介」
八月二十八日、夏休みが終わる寸前だった。訓練は昨日で終了となった、生徒全員不思議に思っていた。訓練の疲れを癒す為の休日を取ってくれるのだろうかと一部の者が浮かれていたが実際はそんな事無かった。
前日まで訓練を受けていたメンバーと中等部の一部のメンバーが会議室に集められた。そしてそこには教師全員もいた。
そして普段なら理事長が進行をするのだが今回は違って薫が進行をするらしい。
「今から話す事に一つの嘘も無いし冗談も無い、真剣だ。少し動揺したりショックを受けるかもしれない。だが落ち着いて聞いてくれ」
そう前置きしてから薫は話し始めた。
「約一ヶ月前、俺は能力取締課や他のお偉いさん方と話をした。そして日に日にTISが力を付けている事が問題となったんだ、大会もそう遠くは無い。だがこのままでは敗北してしまうかもしれない、もうTISは何をやるにも充分な力を持っている。だから今年までにねじ伏せなくてはいけない、そう結論が出たんだ。
だが会議をした当時の実力じゃ全く勝てる気がしなかった。だからある計画が立ち上がった、その名も『TIS本拠地急襲作戦』だ」
その瞬間会議室全体がざわつく。ただ数名の生徒はやっぱりかと言う反応を見せる。そしてその一人であるラックがある質問をした。
「それは良いんだけどよ、まさか中等部の奴らにも行かせるのか?」
「あぁ、そうだ。今ここにいる奴らは全員行く事になっている」
「そうか。んでどのメンバーが行くんだ」
「作戦に参加するのは能力取締課の[name ハック][name ハンド]の二名。突然変異体という外で暮らしている非所属の団体の中から[霧島 透][大和田 佐伯]の二名。俺ら教師全員。生徒会全員。エスケープ四人。中等部からは[櫻 咲][コル―ニア・スラッグ・ファル][橋部 虎子][マーガレット・ベロニカ][白石 梓]の五名
これを全員送り込む。ただ死者が必ず出る、TISだって攻め込まれちゃあ手加減はしてくれないだろう。この作戦から抜けたい者がいるならば部屋を出て行ってくれ。誰も文句は言わないだろう」
薫がそう言うが生徒会は全員覚悟を決めたようで誰も席を立つそぶりは見せない。教師も当然出て行く気は無い。中等部員は咲とベロニカ以外の三人は少し怖気づいていたが結局は決意を固めたようでその場に居座った。そしてエスケープだが一人だけ立ち上がった。[ラック・ツルユ]だ。
「…」
ラックは黙って部屋を出て行った。誰も止める事はしなかった。作戦の詳細を話し始めようとしたところで生徒会も一人席を立った。
「はぁ…くだらね」
[松葉 菊]だ。彼女もそれだけ言い残して部屋を去った。
「よし。じゃあ本題だ。まず作戦決行日は本日からだ、と言っても基地に突撃するのは三日後の九月一日だ。
そして今日から二日間はTISの本拠地の場所を特定する作業に取り掛かる」
「え!?もしかして場所分かってないんですか!?」
香奈美がそう訊ねると薫は堂々と言い放つ。
「分からん!…と言うか分かる訳が無いんだ」
皆の頭に?が浮かぶ。薫はTISの本拠地が仮想世界にある事を説明した。その事実が本当か英二郎に確認を取ると首を縦に振った。
ただそうすると一つの疑問が生じる。それは真澄が聞いた。
「分からない筈なのに何故仮想世界にあると言う事が分かったんですか?英二郎だって『TISの呪い』みたいなやつでTISの詳細を喋ったら佐須魔にバレて殺されるはずです。なのに何故仮想世界にあると言う事が判明したんですか」
「タレコミが来た。なんでか知らないけどモールス信号でだ、恐らくTISを抜けた奴がどこかから情報を聞き送って来てくれたんだろう。ただそいつは恐らく死ぬ、ただそいつはこう言った。
『九月一日にTIS本拠地を襲撃せよ。絶対に九月一日だ。本拠地は仮想世界にある、ただどうやって行くことが出来るかまでは不明だ。
だが外で普通に生活している上の奴を発見した。[語 汐]、毎日のように雀荘に通っている茶髪で少し細身のサングラスをかけた男だ。そいつからどうにかして位置を炙り出せ。
失敗は許されない、確実に九月一日に襲撃せよ』
ってな。盗み聞きされたのは少し不愉快だが味方であることは事実だ。そして我々は[語 汐]の居場所を割り出し基地に突撃するのだ」
全員やり方は納得したようだが実質二日間しかない事に不満を覚える、創設からずっと判明していない基地の場所がたった二日で分かる訳が無いと。当然だ、至極まっとうな反応である。
だが薫は自信満々に言い返した。
「だから俺が指揮を執るんだよ。俺の作戦は佐須魔にも通用する。それは四年前、前大会で証明した。勝てはしなかったが何名も生存させてTIS側を数名殺した。そして今の戦力なら俺は勝てると思っている、だから後は俺が全てを動かし場所を特定する。されだけの事だ、絶対に出来るさ」
その場にいる全員前大会を見た事があった。実際まだ生徒会長では無かった薫が指示を出し当時の重要幹部を四名殺害したのは知っている、だがまだ信じきれない。会議室内に少し嫌な雰囲気が漂い始めたその時だ、扉が勢いよく開く。
「今どういう話してんだ」
ラックだ。そしてその隣には菊もいる。
「ラック!!やっぱお前は帰って来ると信じてたで!!」
「は?何言ってんだ、俺は作戦を抜ける為に部屋出たわけじゃねぇよ。こいつを連れて来たんだ」
ラックは菊の頭を指差した。そこには白い毛の塊の様な者がいる。その毛の塊は顔を上げ元気よく鳴いた。
「きゃん!!」
ポメだ。菊もラック一人で少々心配なので共に行っただけなのだ。ポメはラックの頭に飛び移った、菊とラックは席に付いてから軽い説明を求める。
そして薫が今までの流れを説明した。二人共理解した様だ。そしてこう発言する。
「俺はやるぞ。薫の実力は知ってるからな」
「私もやる。あと大会まで三ヶ月だろ?多少の犠牲を払ってでも敵の頭数を減らしておくべきだ」
それに続くように賛同者が出る。
「わいも行くで!」
「勿論僕も行くよ、兆波も翔子も薫も行くのに僕だけ行かないなんて出来ないしね」
「まぁ部屋残った時点で行くって決めてたし俺も行くぞ。流石に二日で見つけられるとは思ってないけどな」
エスケープは全員付いて行くと宣言した。教師は言わずもがななのだが一応付いて行くと言っておく。そして生徒会も、中等部も全員賛同した。
もう引けないのだ。大会までも時間が無い、四の五の言っている暇はもう無いのだ。
「さてお前ら、付いて来てくれるんだな?死ぬ覚悟できてるんだな?あいつらぶっ殺す気あるんだな!?んなら今から始めるぞ!」
そうして会議は終了した。唯一作戦に参加しない理事長は後の事を薫に任せてから部屋を出て行った。そして作戦メンバーも薫の指示を受け部屋を出た。どうやら何処かに作戦の為の部屋があるらしい、薫はただ一つの場所を目指し進み続ける。
学園を出て見覚えのある道を進む、そしてある四人はとても見覚えがある場所で立ち止まった。
「なんでわいらの基地…?」
「お前何言ってんだよ、ここ俺らの基地だったのに強奪したんだろうが」
「え?そうだったか?」
「ホントにクソガキだなお前」
薫はそう言いながらも番号を言う。扉が開きエレベーターに乗り込んだ、ただ人数が多すぎて入りきらないので兵助、兆波、翔子が分割して送る事になった。何故その三人なのか疑問に思いながらも薫とエスケープ四人と一匹、そして菊が乗り込んだ。
礁蔽がいつも通りボタンを押そうとしたが薫が止める。そして薫は閉まるボタンしかないのにも関わらず自分が押すと言ってボタンの前に立った。
「何するんや?」
「このボタン秘密の機能があるんだよ、こうやって三回押してから二秒放置、その後に七回押して今度は五秒放置、最後に二回押して待ってると...」
扉が閉まった。そしてエレベーターが動き始める、普通に基地に行くのかと思っていたらいつもより降下時間が長い。チーンと言う音と共に扉が開いた。するとそこにはいつもと全く違う光景が目に入る。
全体的に薄暗く広い部屋に何台もの大型モニターやPCが置いてある。
「なんやこれ!?めっちゃデカいやん!!」
「これは俺らが作った基地だからな。秘密基地的な要素もあるんだよ。んでここは大分色々な物が揃っている、ちゃんと動くかどうかは一昨日検証したから安心しとけ」
「久しぶりに来たねここ」
兵助が懐かしそうに機械をいじる、兵助にとっては数ヶ月前の事なので感覚を忘れておらずとても手慣れている、一方薫は久しぶりに触ったせいかあまり効率良い作業は出来なさそうな手つきだ。
そしてそんな事をしている内に全員揃った。皆秘密の部屋に大興奮で探索しまくっている。
全員を集め部屋の説明を始めた。まず機械等がある現在いる部屋が本室、基本的にはここで作業をする。そしてその隣にある部屋が寝室、大量の寝具があるのでここで寝泊まりが出来る。次にシャワー室、元々はそんな大人数想定では無かったので三つしかないがシャワーを使える。そして会議室、少し小さめだが会議が出来る部屋だ、奥の方には少し高そうな椅子があって薫が座る場所らしい。
「とまぁこんな感じだ。お前らが思っている以上に広いから自由にしてくれ。もう余裕が無いからここで数日間を過ごす。良いな?」
「トイレは何処ですか?」
トイレの位置も説明した。完全にここで暮らすことが出来る、飯だけは調達すれば完璧だ。
「あ、あと来てるぞ。四人」
薫はそう言って本室に戻る。そして区切られている部屋の戸を叩いた、すると中から四人が出て来た。能力取締課の二人と突然変異体の二人だ。
「よし、来たんだな。じゃあさっさとやるぞ。時間が無い、俺の虫である程度の情報は絞った」
「ありがとう。でも一応自己紹介しといてくれるか?知らない奴もいるはずだから」
「分かった。[霧島 透]、外で暮らしてる。今回の作戦で結構動く事になるからなんか気になる事あるなら言ってくれ」
背が高く内気な感じの青と黒髪の眼鏡をかけている隣の青年が自己紹介をする。
「[大和田 佐伯]…です…よろしくお願いします」
青年はすぐに部屋に戻って行った。そして残りの二人、能力取締課の一人が名乗る。[name ハンド]はもう皆何度も会っていて知っているので省略した。もう一人は基本任務に出ないので皆知らないのだ。
「[name ハック]、能力は『機械を操る』って奴だ。マジで何でもできるからな、何かあるんなら言ってくれ。まぁ基本的にメンドくせーからやらないけどな」
そうして今回参加するメンバーが揃った。早速作戦が開始された、ただ本番はここからだ。数日間に及ぶ一人の男との駆け引き、結末はどうなるのか。
ただどうなっても本拠地に入り込むしか道は無いのだ、どれだけ苦しい状況になったって探り出すしかない。薫はそう心に強く刻んだのだ、話しをしなくてはならないのだ。因縁の相手、佐須魔と。
第百二十六話「部屋紹介」




