第百二十四話
御伽学園戦闘病
第百二十四話「閉門」
「エンマか。でもその言い草だとお前が閉めれないのか?」
「う~ん…実は…そうなんだよね!この地獄の門は初代ロッドが作った物だから僕は閉められないの、しかも地獄はマモリビトの特権だからもうマモリビトじゃない初代は地獄の門をいじれないんだよね。
それに地獄系は面倒くさくて製作された時に設定された人物しか干渉できないんだよね、それが"マモリビトの初代ロッド"、そして能力『地獄の門』を所持している者なんだ」
「佐須魔が持ってるのは知ってる、んで蒿里も持ってた。確か世界に三人だけなんだろ?持ってるの、後誰なんだよ。早くしないとラーの霊力が尽きるんだが」
「知らないよ~黄泉のマモリビトは現世の色々を知ってるけどさ、逐一産まれた子の能力をチェックなんてしてられないわけ。持ってる能力でフィルターかけて検索なんてことは出来ないしねぇ…」
「んじゃどうするんだよ」
頭を悩ませていると門にある人物が到着した。その人物は学園の者やエンマに全く触れず地獄の門を観察したりしてから研究に使えそうな物をピンセットでつまみ透明な小袋に入れて行った。
「おい、透もなんか手伝えよ」
「知るかよ、俺はお前らとお手て繋ぐために来たんじゃねぇんだよ。本当にもう少しなんだ、邪魔しないでくれ」
霧島はとても真剣な眼差しでそう言い放った。薫も能力者の研究は多少関与したことがあるのでどれだけ必死にやっているかは理解していた、文字通り命を懸けているのだ。
何かがトリガーとなり死亡事故が起こる可能性だって十二分にある。その場合フラッグの時の様に能力者全体の印象が再び地に落ちてしまうかもしれない。
ただ霧島はそれを起こさない絶対的な自信があるのだ。いや、自身では無いのかもしれない。ある人物への対抗心なのだろう、そう実の姉への。
「俺はやらなくちゃならないんだ…あいつらの為にも…クソ姉貴の為にも…」
「分かった。じゃあ採取が終わったら教えてくれ。それまでは俺達で霊を殺す、終わり次第扉を閉じる。俺らはその為の方法を考えるぞ」
薫がそう指示を出す。だがそれに反発する者が現れた、香奈美だ。やっと正気を取り戻したのだ。
「だが一般人に被害が出る可能性が!!」
すぐに反論する。
「あのなぁ…まず絵梨花と兆波、翔子がいる時点で大丈夫だ。それに加え島全体に生徒会メンバーいるだろ?安心しろって、信じてやれよ」
少し考え込み仲間を信じる事にした香奈美は黙って閉門方法を考える事にした。ただ初めての経験なので誰からも案が出てくることは無い、行き詰ったその時その場に重要幹部並みの霊力がいきなり現れた。
すぐに誰か確認するとそこには一人の少女が立っていた。白いワンピースに黄色い花の髪飾り、全員見た事のある顔だった。だが雰囲気やたたずまいがまるで別人だった、その少女の名は。
「ニア…?」
ルーズが言葉をこぼす。そしてすぐに近寄り肩を掴む、昔ならばそこで振り返って顔を見て微笑んでくれていた。だが今のニアはそんな素振りを見せるでもなくただ地獄の門を眺めている。
「ニア!!!」
紫苑もルーズと同じように近寄り回り込んで顔を確認しようとした、だがニアの視界に入った瞬間振り払われた。
この時点で紫苑はおかしい事に気付いていた。黄泉の国であった時より明らかに力が強くなっている。だが見た目が変わっている訳では無い。
「本当にニアか?」
そう訊ねるが返答は無い。ただずっと地獄の門を眺めているだけだ、そんなニアの姿を見ずとも全て察した霧島が採取を続けながら口を開く。
「[ニア・フェリエンツ・ロッド]、洋ロッドはフェリアで途絶えたがひょっとした事でニアの母親[クレール・フェリエンツ]がロッドの血に目覚めた。と言ってももうロッドであってロッドじゃないみたいなレベルで弱くなってたから変わりは無かった。
だがその娘、[ニア・フェリエンツ]には色濃くロッドの血が継承された。俺は思う事がある、同時期に産まれた一人の少女、元TIS初期メンバーかつ要幹部最強格の一人だった[アリス・ガーゴイル・ロッド]と何か関係があるんじゃないかってな。
どうだ?実際意識が無く寝込んでいた期間に何らかの理由でロッドの力が発動した。大方仮想のマモリビトの仕業だろう。あいつの事だ、ニアとアリスを戦わせようとでも企んでいるんだろう。
まぁロッドの血が継承されたところからは俺の推測でしかない。ただ一つ言えるのは今は[ニア・フェリエンツ]ではなく[ニア・フェリエンツ・ロッド]なんだろうと言う事だけだがな」
そこまで言った所でニアの方を向くため振り向いた、その視界には一杯にニアの姿が映っている。そしてそのニアは霧島に殴り掛かかった、あまりにも速い動きに誰も対応できない。
霧島本人も対応できず身構えた、だが一人の青年がニアの拳を受け止めた。
「そういうことされると困るんだわ、うちのリーダーに手上げられちゃぁな」
そいつは茶髪で黄緑色の瞳、舌の先端と左耳にピアスをしているイケメンだった。突然変異体の一員[関 優樹]だ。
「助かったけどよ…なんで来てんだよ。下手したら絵梨花とか飛んでくるぞ」
「いや俺いた方が良いだろ?こういう情報を俺が一番詳しく残せるんだからよ」
優樹の能力は『完全記憶』だ。能力を発動中に起こった事を全て鮮明に記憶に植え付けると言う能力だ、何があってもその記憶だけは残り続けるのだ。五感全てを記憶するので思い出してしまい嫌な思いをする可能もある、だが研究の為には何かおぞましい物を見る事となっても記録を残さなくてはいけない、そう思ってやってきたのだ。
「ひとまず採取も終わった。俺らは帰る。あんがとよ、助かったぜ」
霧島はそう言いながら浮遊を始めた。そして優樹より一足先に島を脱出していった。優樹も一分程観察して完璧に記憶に残してから同じように浮遊し霧島の元へと向かって行った。
それを見たニアも何処かへ行こうとする。だがルーズが引き留めた。
「ニア!!母さんとフラッグと話をしたんだ、ニアとも少し話したいことがある。いつでもいい、アルデンテ宮殿へ来てくれ!!」
ニアは本当に聞いているのか分からない素振りで何処かに行ってしまった。ルーズは事が済んだようですぐに帰れるようエンマの触手を体に引っ付けた。そしてエンマはルーズが引っ付いた事を確認すると笑顔で手を振りながら地獄の門にダイブしていった。
そして完璧に障害が無くなったので早速閉門作業に取り掛かる事となった、ただ結局どうすれば良いかは分かっていない。
するともふもふ黑焦狐の上に乗っていた漆がある提案をする。
「あのー…礁蔽先輩の能力使えば良いんじゃないですか…?扉閉めれるんですよね?」
薫に電流走る。
「確かに!変な風に思考ロックしてたわ!」
すぐに礁蔽を地獄の門のすぐ傍まで移動させた。礁蔽は首にかけている鍵を手に取る、ただよく考えたら礁蔽の能力は鍵をかける事は出来るが扉を閉めることは出来ない。
「え?どうするんや?」
「…ちょっと待て」
薫がある能力を発動した。すると地獄の門のすぐそばに兆波が転送される。
「うおっ!?なんだ!?」
「良いから扉閉めてくれ、力尽くで」
兆波は正直理解できていなかったが言われた通りフルパワーで無理矢理扉の片方を閉めた。その際バキバキゴキゴキと本来鳴ってはいけない音が鳴っていた。あまりに無理矢理だが何とか閉まった、だが反発するかのように半開きになる。
「うおりゃ!」
礁蔽がすかさず鍵を突き刺そうとする。だが鍵穴が無い事に今更気付いた、だがいちかばちかで扉に鍵を当ててみた。すると地獄の扉は悲鳴の様な甲高い音を立てながら完全に閉じた。
その瞬間礁蔽はフラフラとしてから気絶した。大いなる存在である地獄の扉に対して能力を発動した事により霊力が全て持って行かれたのだろう。
薫がすぐに霊力チョコレートを口にねじ込ませ無理矢理食わせた。すると大分楽そうな顔になりただ寝ている時と同じような状態になった。
「よし。完全に扉は閉じた、残りの霊は生徒会の奴らにやってもらう。ここにいるメンバーは共に学園へ帰還し理事長に報告する!」
その指示に従い数名で学園へと帰還した。そしてすぐに理事長室へ向かう、ノックをし返事が返って来てから部屋に入るとそこには能力取締課もいた。
ライトニングは何処か不貞腐れているようだ。何があったのか聞くと「折角来たのに何もできなかった」との事だ。実際島に来るのは面倒くさい手続きを踏まなくてはいけないので少し可哀そうではあるのだ。
「まぁいいや。それより理事長」
「言わなくとも分かっているよ。良くやってくれたね。ひとまず一件落着だ、元先生から霊を殲滅したとの連絡が入った。完全に終わったよ、今回の緊急事態は。
避難して来た人達も数時間後には部屋に戻れる事になっている。訓練で忙しい中良くやってくれた、改めて言おう。
お疲れ様だった」
その一言を聞くと全員の力が抜けた。そして三日間訓練は休憩となった、全員束の間の休息を楽しむことになるのだ。
今回の件は外に漏れる事は無かった、だが能力者の中ではとても重い事態となったのだ。あのTISが学園でも最強レベルの能力者[樹枝 蒿里]を持って行ったのだ。益々大会でTISを打ち倒すのが困難になって来る、だが元よりそれを見越しての計画だった。
薫が訓練を始める際に行っていたある計画、その詳細を知っているのは今教師と能力取締課、そして突然変異体だけなのだ。
その計画では高度な戦闘が行われる事がほぼ確定している。その為に現在学園の主戦力の強化に励んでいるのだ。
その作戦とは何か?とてもシンプルかつ簡単な目標の答えだ。作戦名はそう、『TIS本拠地急襲作戦』だ。
第百二十四話「閉門」
被害
[軽傷,重傷者]完治
[死者]
[行方不明者]樹枝 蒿里-御伽学園高等部三年生
第六章「地獄の扉」 終




