第百二十二話
御伽学園戦闘病
第百二十二話「第二の人生」
島全体で霊との交戦が繰り広げられていた。だが門と遠い班は楽勝で結構広い範囲を移動しているのでバッタリ他チームと遭遇する事もあった。ただ鳥神が出た瞬間全員に緊張が走り油断できなくなって来た。
そして学園付近、蒼、菊、漆の三人の班の出来事だ。蒼が未だスイッチが入らず震えている、そんな蒼の元に一人の男が現れた。
「なにしてるのー!!!???」
呪い使い[空傘 神]だ。菊は唐突に現れた神に理解が追い付かずフリーズしている、すると神に何匹ものスズメバチが襲い掛かった。
「大丈夫ですか!?」
神の霊力を感知し周りを警戒していた漆が手下を連れて戻って来た。だが菊は攻撃しないよう制止する、漆は困惑しながらも攻撃を止めた。そして何故学園に来たのか訊ねる。
「んー仕事?俺は詳しくは知らない~だけど学校来れるって思ったから來花に付いてきた~」
「そうか、そんでお前は私達とやる気はあるのか?」
「ん~どっちだろうね~」
「どっちだ、答えろ」
「ん~どっちかと言うと~ある...」
その瞬間蒼が殴り掛かった。工場地たちの時の戦いぶりを思い出しヤらなくちゃいけないと判断したのだ、最悪戦闘になるがスイッチが入ってくれたのはとてもありがたい。蒼はスイッチが入っていない状態だと生徒会でも最弱だがスイッチが入った瞬間重要幹部とも渡り合える程に成長するのだ。
「ってウソウソ!來花に戦うなって言われてるから!!」
焦りながら敵意が無い事を伝える。半信半疑だが納得した蒼は門まで向かう為移動の準備を始める、鳥神が神々しく舞っている場所へと。
「んじゃ行くか、クロ!」
菊が名を呼ぶと黑焦狐が駆け付けた。そして三人を背中に乗せて出発しようとする、だが目の前を神が邪魔して出ようにも出れない。
「退いておけ。僕は速く行きたいんだ」
「じゃあ俺も乗せてって~!」
「菊、良いか?」
「まぁ良いけど毛むしったりするなよ」
「分かった!!!」
神も乗って合計で四人を乗せた黑焦狐は凄まじいスピードで駆け出した。
次は生徒会の者では無い、ある一人の中等部員の子だ。[小田町 美琴]、学園でも数少ない呪い使いだ。そしてTISに狙われていた過去を持っている、その時抵抗した時の代償で片目が見えないのだ。
そんな美琴は今砂浜にいた。避難をするよう島全体に緊急連絡が来たがずっと波のさざめきを聞きながらボーっとしていた。
「避難していないのか」
「…え?何の事?」
美琴は振り向き誰が来たのか確認する、そこには來花がいる。一秒も満たぬ内に戦闘体勢に入った。そしてどう来るか動向を伺う。
「私はお前に危害を加える気は無い。地獄の門が開いた、だから聞きに来たが"アレ"は持っていないな?」
「アレって…『RINFONE』?」
「あぁ。別名[簡易地獄]、しかも初代の地獄だからな。一応聞いておきたかったんだ。持っていないのならば大丈夫だ、何か扱いに困っている呪物があったら引き渡してくれ。私が引き取る」
「無いよ、私だってあの呪いの塊と同じぐらいに強くなったんだから。そこらの呪物なら扱えるよ、RINFONEは流石に無理だけどさ」
「そうか。それなら良かった。私は地獄の門へ向かう。ここも霊が来る可能性があるから学園に避難した方が良い、大井が護っている。それじゃあ私は行く、じゃあな」
來花は背を向け飛ぼうとする、だが美琴が駆け寄り背中から抱き着いた。來花は困惑し引き剥がそうとするが断固として離れようとしない、少し乱暴になってしまうが突き離そうとしたその時美琴が言う。
「私強くなったんだよ、先生に教えてもらった技だけじゃなくて薫に教えてもらったりもしたよ。それでさ…編み出したの。自分の『呪』」
服にうずめていた顔を上げた。美琴は片目を見るだけで感じ取れる殺意を放ちながら唱える。
『呪・斬壇堂』
その瞬間來花の四方八方から大きな刃が飛来してくる。目視できるスピードなので回避は出来るが数が多く少しでも油断したら首が持って行かれそうだ。
ただ反撃は絶対にしない。今は生徒の数を減らしに来たわけでは無い、へまをした者を回収しに来ただけだ。早く行かなければ何が起こるか分からない。佐須魔に何かがあったらTISの命運に関わるのだ、こんな事をしている暇ではない。自身像でも出して逃げ出そうかと思ったその時一人の少女が声をかける。
「美琴さん、一度やめてください」
咲だ。美琴が呪いを発生させた事を感じ取り駆け付けたのだ。
美琴は大人しく呪いを止めた。來花も動きを止めて咲の方を見る。
「久しぶりですね」
「あぁ。どれほど経った」
「一年半程度、でしょうか。兄さんも記憶を取り戻し強くなりました、今は姿をくらませましたが絶対に戻って来てくれます。貴方と、あなた達を殺す為に」
「流は私に勝つことは出来ない、何があろうとな。それが...」
「今更そんな事言う権利はありませんよ。言う事が無いのなら早く行ってください、回収するんでしょう?」
「そうだな。また会おう」
來花はそう言い残し飛び立った。美琴は咲の元へ向かい何故止めたのか聞く、すると咲は斜め下を剥きながら言葉を発する。
「兄さんにやってほしいんです、私は」
「そっか。じゃあ行こう、学園。ここ危ないよ」
「そうですね。行きましょうか」
二人は一緒に学園へと歩き始めた。一方來花は空を飛んでいた佐須魔に話しかけに行く、佐須魔は來花が来た事は分かっていたので顔は向けず鳥神を見つめながら会話を行う。
「大丈夫、今回來花いなくてもなんとかなりそう。それより取りに行った方が良いんじゃない?そのために来たんだろ」
「良いのか?」
「良いから早く行きなって。回収されちゃうよ」
「分かった、気を付けてな」
來花はある場所に向かって飛び出す。その目的地はそう、学生寮だ。それは生徒を倒したりしたい訳では無い。ある少年、[兎波 生良]と会うためだ。
その生良は学園には避難せず学生寮の部屋で一人待機していた。今日が迎えの日だったのだ、誰が来るかは知らなかったが緊張して待っていた。そんな最中地獄の門が開き緊急放送が入った。だが生良は霊と戦えるしここで待機していた方が迎えに来る人が分かりやすいだろうと言う事で待っていたのだ。
実際その狙いは成功し迎えに来た。ノック音が鳴り響く。
「誰…ですか」
そう聞くと男の声が聞こえて来る。
「[兎波 生良]、いるかい?僕は[シウ・ルフテッド]。迎えに来たよ。扉開けても良いかい?」
「は、はい」
すると扉が開いた。そこには白髪で黒のメッシュが入った青年がいた、そしてその隣には片目を包帯で隠している緑髪の女の子も立っていた。
「良かった、無事だったんだね」
「はっはっは!!私とこれから仲間になると言うのにこんなので死んでたら困る!!」
「とりあえず外に出よう。すぐにでも島を出れる、許可は取ってあるからね」
「分かりました。その前にあなたは何の能力を使っているんですか?」
「俺かい?俺は干支神の犬さ、そんでこっちが...」
「私は干支神の辰!!龍だ!!」
そう、迎えに来たのは干支神使いを集めて共に暮らしている者だ。そして最後の干支神使いである生良を引き取りに来た、と言う事だ。
三人は外に出て状況を見る。霊は比較的少ないが下ぐらいの奴が七匹程度彷徨っている。生良が牛を呼び出そうとしたがその前に女の子が降霊術を行う。
『降霊術・神話霊・干支辰』
その瞬間多数の鱗を身に纏い黄色に近い白のひげ、立派な角を携える巨大な緑龍が現れた。そしてその龍が叫んだ、その咆哮は霊力を帯びていて彷徨っている霊を全部殺害した。喰う訳でもなく殺したのだ、その行動を見て生良は少し方向性の違いを感じた。
それもそのはず生良は何匹も霊を持っているので見つけたら喰わせないと全く力が伸びないのだ。
「はいありがと桃季」
「桃季?その方の名前ですか?」
「うん。桃季って呼んであげて。とりあえずその龍に乗って行くよ」
シウが龍に乗ろうとしたその時それを妨害する者が現れた。來花だ。
「行かせないぞ、少し話をしたいんだ」
生良と桃季を後ろに下げシウが前に出る、ここで戦っても勝ち目はないので大人しく話を聞く。來花もその意図をくみ取り口を開く。
「生良を少し貸してくれ、五秒で終わる」
「…嫌だ、と言ったら?」
「致し方ないが少し乱暴な手段になりそうだな」
來花はそう言いながら脅しの為懐からコトリバコを取り出した。シウはここで全員やられるよりは何かあっても救い出せるのでマシだろうと考え生良を渡した。生良は終始怯えていたが來花膝立ちになり目線を同じにしてから手を胸部に当てた。そして一気に霊力を流し込みそれを一気に引き抜いた。
「っ!」
生良はいたがる、シウが駆け付けようとするが生良が大丈夫だと言って止めた。來花は感謝の言葉を述べてから飛んで行ってしまった。
今度こそ駆け寄り何をされたのか訊ねる、すると生良はこう言った。
「馬と虎を…取られた…」
呆然としている。霊を持って行かれたのは初めての体験なのだから仕方が無い事だろう、シウはひとまず移動しながら理由を聞くと言い二人を抱えて龍に飛び乗った。
そして桃季は頭に乗り角を掴んでバランスを取っている。生良は初めて乗ると言う事でシウに抱かれるような形で龍に乗った。そしていざ出発、となったその時だ。
「シウさん、気を付けてくださいね」
教師の元がそこに立っていたのだ。こんな中見送りに来てくれたらしい、時間を取ってはいけないのでもう旅立つことになった。
「短い間でしたがありがとうございました。また会いましょうね、生良君」
「はい、こちらこそありがとうございました。それでは」
生良が言い終わると同時に龍が飛び立った。元は生良のキャリーケースを龍に向かって投げつけた、そのケースは龍が足でキャッチしてそのまま太平洋へと入って行った。
こうして生良は第二の人生を歩み始める事となるのだ、だが今からは地獄が待っている。学園の者は全員分かっていた、そして干支組も例外では無いのだ。その地獄とは何か、そう大会だ。
あと三ヶ月程しか猶予は無い、それまでに生良を鍛え上げなくてはいけないのだ。これからは楽しくも辛い日々が続くだろう、だがそれもまた一興なのだ。
第百二十二話「第二の人生」




