第百十二話
御伽学園戦闘病
第百十二話「フェリエンツ/ガーゴイルⅡ」
二人はドームへ着くと早速展開し双子が来るのを待っていた。その間にもアリスは筋トレをしている、ニアは流石に華奢過ぎないかと聞いてみる。するとアリスは「そう言う呪いです」と答えた。ニアはそれが比喩表現的なものだと思っていたが本当は來花や神が使っている呪いの事なのだ。
「佐須魔さんにかけられている呪いと同じやつですよ」
「佐須魔と同じ?」
「私は元々不治の病を患っていました。そして死ぬと言われていましたがそこで佐須魔さんがこの呪いをかけてくれたんです、この呪いは成長を止めます。なので病気なども悪化しないし治りもしません。なので筋肉もつかないんですよ」
「ですが力はありますよね?」
「TIS内でも屈指の頭脳を持つ[上]の伽耶さんが肉体改造を施してくれました。佐須魔さんの能力と伽耶さんの知能をかけ合わせた結果のこの体です。なのでTISはやめましたがあのお二方には物凄く感謝しているんですよ」
ニアは信じれないと思っていたが目の前には事実怪力のアリスが存在している、信じるしかないのだ。
「ところでニアちゃんの能力は『広域化』と聞いているんですが本当なんですか?」
「はい。ただ複数持ちではないのであまり有効活用できませんね…」
「覚醒は自力?それともマモリビト頼り?それで『覚醒能力』はある?」
質問責めをされるニアだが全く意味が分からず一から説明を求める、アリスはそんなことも知らないニアに懇切丁寧に全てを説明した。覚醒の事、マモリビトの事、覚醒時に与えられる力の事、ニアは少しずつ理解していった。そしてこれが目標ではなくとも習得したいと考えた、ニアの覚醒時の力が『覚醒能力』ならば『広域化』を使うことにより攻撃の幅が広がる。
そんなことを考えていると双子がやってきていた。
「やるぞー!」
「ぞー!」
弟のほうが遅れて言う。ニアは準備運動を一緒にしてからみっちと指導を受けた。やはりこの双子の指導は的確でこの二日でニアは相当な力を手に入れた。あのか弱かったニアが一般男性ぐらいなら投げ飛ばせるぐらいにはなった、だがこれではまだ足りない。アリスには遠く及ばない、ニアは何日も家に帰らずずっと訓練をしていた。そんなある日双子がこう提案する。
「たたかおう!そろそろいいしょうぶできるとおもう!」
「思います!」
だがニアは断ろうとしていた。何故なら体格が全く変わっていないからだ。第二次成長が来ていないものの明らかに力がついている体格ではない、なので勝てるわけがないと言った。だが双子はそれを否定し説明する。
「おまえがこの世界でつけた実力は現世にはんえいされる!だがアルジ様の力により見た目はかわらないって言ってた!」
「言ってました!」
そう言われると何故か自身が湧いてくる、ニアは双子と戦う事にした。だが二対一ではこちらが不利だとハンデをつけようとしたが双子はそれを断った。そしてフォローではないがこう口を開く。
「僕らはまず鎖で繋がれています。そもそも今の貴女なら勝てると思いますよ、僕らに」
「あぁ!かてると思うぞ!」
双子はそう言うと戦闘体勢に入る、ニアも深呼吸をしてから教えてもらった構えをする。そして戦闘が始まった。
先手を取ったのは双子だ、物凄い勢いで突っ込み同時に殴りかかった。だがニアは着いて行けている、前までならもう負けていただろう。訓練の賜物だな、と言わんばかりに片手で一つずつ拳を受け止めた。そして隙だらけの二人の腹部に膝蹴りをくらわせた、そして二人の腹を壁のようにして後ろに跳んだ。
「やっぱり!強い!」
「強い!」
ニアもそれは感じていた。自分で思っていたより強くなっている、だが目標は達成していないと言う事だろう。今なら覚醒できそうだ、ただどうやって覚醒するかなんて知らない。極限まで集中すればいいのかと思っていると双子の弟が助言をする。
「落ち着いて目に霊力を集めてください。そうすれば大丈夫です」
言われた通り目に霊力を集めていく、その間も双子は攻撃をしてくる。だが先程よりも動きやすい、段々と眼が熱くなってくる。そして眼が一気に冷たくなった、その瞬間力が溢れてくる。
その眼は勿論燃え盛っている、赤色に。弟は成功だと言い更に攻撃の手数を増やす、だがニアは覚醒するとほぼ全員に与えられる少しのフィジカル強化によって全て交わすどころか反撃も行った。
「身体強化か!」
「違うよ、あれは全員に与えられる類のやつだよ」
「そうか!じゃあ『覚醒能力』か!」
「そうだと思う。ニアさん!広域化を使う時と同じような感じで霊力を発してください!」
ニアは言われた通り双子に向かって霊力を放った。だが何も起こらない、風ひとつ起こらない。やはり身体強化なのでは無いかとニアが攻撃をしてみる、するといつものスピードと段違いの速さで攻撃力も増した。
そしてここでドームが閉じるのと同時にマモリビトの声がする。
『はいストップ。覚醒おめでとう、一つ目の目標達成だね。でも目標は二つあるから頑張ってね』
そう言って声は消えた。ニアは深呼吸をして心を落ち着かせると赤眼の炎も消えた。ニアはその場に座り込んだ、双子も少し休憩する。互いにいい勝負となった、ニアの能力は身体強化だろうと言う結論に至り双子の役目はここで終わりだと消えて行った。
一人になったニアは仰向けになって寝っ転がった、そしてどうやったらアリスを殺せるのか考えていると本人が覗き込んでくる。そして少しニアの右眼をじっくりと見てから抱きつく。
「一つ目は達成したんですね!お疲れ様です!」
ニアは力強く抱きしめられ息が出来ない、苦しそうにしているとアリスは離してくれる。そして二つ目の目標のことに関して話し始める。
「二つ目の目標は話していいらしいので言いますね、ズバリ私と戦うことです」
「それだけ?」
「はい。ニアちゃんが来てから結構時間が経ちました、現世にいる学園の人達は今頑張って戦闘をしています。そして今、私と戦うなら間に合うかもしれません。」
「何に?」
「父親を殺すのに」
「…いや別に大丈夫。それよりもう少しだけ覚醒時の体の動きに慣れておきたいからあと二日待ってて」
アリスは頷くと家に帰って行った。黄泉の国では絶賛模擬戦中だ、だがニアは父親の事などどうでもいい。今はアリスを殺すことに専念したいのだ。出来るならば今回の戦いで終わらせてあげたい、だが傷は治る。なので今回は実力を測るだけだ。そう思いながら二日間寝る間も惜しんで覚醒の訓練を繰り返すのだった。
そして二日が経った、ニアはドームがある場所で待っている。夜が明け数分後アリスがやってきた。アリスも相当本気のようだ、オーラが違う。
そして二人は軽く準備運動を済ませた後ドームを展開した。そして始まった、戦闘が。
先手を取るのはアリスだ、殴りかかる。だがニアはそれを片手で受け止め右手を握って振り上げる、アリスはそれを見ることもせず足を使って膝蹴りを行う。手を離し後ろに下がる。
「別人ですね…強くなりました。偉いです」
「ありがと、でも負けない」
今度はニアが殴りかかる、アリスは避けれると思っていたが目に負えないスピードで交わせなかった。右頬に大きな傷をもらう、本来なら治るはずなのだが全く治らない。今回は傷が治らないそうだ、ニアはそれなら殺せるのでは無いかと思いやる気が湧いてくる。そんなニアを見て少し怖くなったアリスは口を開く。
「能力者同士の争いは本来短期決戦であるべきです。なので私も本気で行きます」
ニアもそれに応えるように覚醒を引き起こした。もうニアは好きな時に覚醒を起こせるぐらいには強くなっているのだ、流石のアリスでさえも驚く。佐須魔でも三ヶ月以上かかった事を経った二日でこなした、怪物だ。
そしてアリスはそんな覚醒状態のニアに蹴りをくわらせた、だが何かおかしい。抵抗してこないのだ、ただ攻撃を受け入れている。嫌な予感がしたアリスはすぐに下がってどんな攻撃をしてくるか様子を伺う。ニアは突っ込んだ、そしてアリスと全く同じ動きとパワーの蹴りを行った。
「そういう能力ですか」
「うん、『生き写し』。直前に見た相手の行動や能力を完全に再現できる」
「対策はあります、ですがここで使うのはもったいないので終わらせましょう」
アリスはそう言って今までの何十倍にもなるパンチをニアに打ち込んだ。ニアは何が起こったか理解出来ない、こんなの想定外だったからだ。アリスの実力は底を知らない、比喩表現ではなく物理的に底が無いのだ。青天井、ニアはこれを避けるなりすれば生き写しをして勝ち目があったかもしれない。だが強くなった自分に油断しすぎていた、その油断が敗北を呼んだのだ。強者同士の争いは敵の油断や隙を見つけるだけ、それだけの簡単な争いなのだ。
『はい、お疲れ。第二の目標終わり。早速だけど二人を現世に送ります!傷は治るけど力はそのままだから安心してね。それじゃあここで身につけた力を存分に発散するといいよ』
マモリビトの声が途切れたと思ったらそこは現世だった。ニアは状況は把握すると点滴などを全て引き剥がし病室を窓から飛び出した、そして薫と少し話をして禁足地へと向かっている。
着いた、地獄の門だ。それに触れようとすると誰かが背後から話しかけてくる。
「それには触れないでくれ」
エンマだ。そして莉子が触手に捕まっている。ニアはすぐにでも行かせろと促す。莉子はあまりの変わりようにおどき声も出ない。エンマはニアに触れながら門を開いた、その瞬間黄泉の国へと送られる。
ニアが黄泉の国へ来た時全員が感知した、だがそれがニアだと分かったのは五人だけだった。フラッグ、佐須魔、流、紫苑、そしてルーズだ。ニアは走る、跳び、走る。誰もが苦労した道のりを軽々と飛び越えていく。そして宮殿のすぐそばまで来たところで足を止めた、皆にどんな顔を向ければいいのだろうか。自分の父親がこんなことをしているのに、そう思ってしまって体が動かなくなったのだ。皆は失望しているだろう、軽蔑の目を向けてくるだろう。そう思うと背筋が冷え呼吸も乱れてくる。
そんなニアに二人の少年が近づてくる、流と佐須魔だ。ニアはなんと話せばいいか分からず声を詰まらせるのだった。
第百十二話「フェリエンツ/ガーゴイルⅡ」




