第百十一話
御伽学園戦闘病
第百十一話「フェリエンツ/ガーゴイルⅠ」
遡る事工場地帯への遠征時、ニアは素戔嗚とたまたま現場にいた[兎波 生良]と協力して情報を探っていた。そしてフラッグからの手紙を発見しある人物の名を口に出そうとしたところで素戔嗚に刺されショックと出血多量で気を失った。
一週間近くは単純に気を失っていたのだが回復して目を覚ましそうになったところである者が意識だけを引き抜いた。その者とは仮想のマモリビトだ。そしてニアは見知らぬ場所に転送された、そして目の前には見知らぬ女性が立っている。
「やっほー」
「…ここは?私は父さんの手紙を...」
「あーそれに関しては後々説明するね。とりあえずここは君がいた世界とは違う世界、仮想世界。それで私はこの世界の神みたいな存在なの。それで君の意識だけを引っ張ってこっちに持って来た、だから現世では今頃寝たきり状態になってると思うよ」
ニアは少し着いていけていないが一つ分かることは一刻も早く目を覚まし皆に安心してもらわなければいけない、なので帰すようマモリビトに頼む。だがマモリビトは当然拒否した。
ただずっと返さないわけではなく条件を達成したら帰すと言う。
「みんなにはここで強くなってもらう予定なんだけど君は多分無理だからね、だから別に訓練を受けさせる。その過程で達成してほしい目標が幾つかあるからそれを達成出来たら帰してあげる。」
「目標?」
「それは教えない、自然に達成できないと意味ない事だから」
「そうですか。貴女しか帰る方法を知らなさそうですし大人しく従いましょう」
「ありがと。だけどそんな警戒しなくてもいいよ、私はあなたの敵でなく、見方でもなく、かといって中立でもない、君達の事を観察して楽しむ上位存在だからね」
ニアは自分が飼育されている虫のような言われ方をした事に少しムッとしながらも敬語は徹底する、だがいつもより気は楽そうだ。
そしてニアはある場所へ連れていかれる、そこはこれからニアが暮らす場所だ。一軒の小さな家だ。それはファンタジーな見た目をしており内装も異世界のようだ。そして家の中には既に一人佇んでいる、その子は金髪でメイド服、長い髪に可愛らしい顔の少女だ。ニアと同じぐらいの年齢に見えるその少女はマモリビトが何処かに消えてから話しかける。
「初めまして。あなたが[ニア・フェリエンツ・ロッド]ですか?」
「ロッド?私は[ニア・フェリエンツ]ですが」
「あら、まだ知らないんですね…そういう事ですか」
その少女は引っかかっていた何かが解消されたようだ。そして一人気に納得してから自己紹介をした。
「私は元TIS重要幹部の一人、[アリス・ガーゴイル・ロッド]です。ただ今はTISではないので恐れることはありません」
ニアはTISには触れず名前の事に触れる。先ほど言っていたロッドという名がその少女の名にも入っていたからだ。言及されたアリスは顔色一つ変えず遠い親戚だと言い放った、ニアは少し驚く。だがどれほど遠いか聞くと相当離れていたのでほぼ他人みたいなものだと思う事にして心を落ち着かせた。
「そして私はあなたの父親を殺しました」
「え?」
「何年前かは忘れましたがある日唐突に襲い掛かってきたので殺しました」
ニアはもう何も言わなかった。そして話を変え何故そのアリスが仮想世界にいるのかを訊ねる。するとアリスは「あなたと訓練をしないか」とマモリビトに言われたので紀太さんを置いて来ました」と返答する、ニアは大体納得したが紀太と言う人物について聞く。アリスは友人としか答えなかったがニアはどうせろくな奴ではないのだろうと思っていた。
「あ、そう言えば気になってたことがあるんです」
「何かあったんですか?」
「父さんの遺書を読んでいる時声には出せなかったんですけどある名前を目にしたんです、ふりがなも降ってあったので間違いはないと思うんですが見たことがなくて…元TISならわかるんじゃないかと思って」
「名前?なんて書いてなんて読むんですか」
「方角の[南]に那覇市の[那]、[嘴]という文字の苗字で名前は...」
「[智鷹]、[南那嘴 智鷹]でしょう?」
ニアはやはり知っているのだと確信する。そしてそれが誰なのか説明を求めるが頑なに口に出そうとしない、何故なのか聞くとTISを抜ける時に全員佐須魔に注意されるそうだ。だから今名前を言っただけでも殺されかねないとの事だ。だがニアはそこまで説明されるとどこの階級でどんな存在なのか理解してしまう。
「TISのボスであり三獄の一人、ですね」
「私はそれに回答できません」
だが少し笑っている、答え合わせだ。父が遺書に書いた名は三獄の名前だったのだろう、そして今まで名前さえも判明しなかったボスの名は[南那嘴 智鷹]と言う事になった。すぐにでもこの情報を皆に伝えたいと思うがこの世界から抜け出すことは出来ない、ニアは皆に名を届けるため一生懸命になって訓練をすることに決めた。
そして今日はもう寝ようと言う事になった、だがまだ朝のはずだ。そう思っていた瞬間外が一瞬にして夜になった、この世界は地球などの惑星ではないようだ。その証明になるかは微妙だが確かに星の一つや月、太陽さえも無い。
「驚いたかもしれませんがこの世界の夜はそこまで長くありません、早く寝るのがあなたの為ですよ」
そう言ってアリスは一つしかないシングルベッドに寝てしまった。ニアはどこか他の場所で寝ようか考えたが別に同年代ぐらいの女の子なんだしいいだろうと言う事で少し狭いが同じベッドで寝ることにした。
そして翌日。ニアはアリスに起こされた、まだ眠かったがビンタをされて飛び起きた。ビンタの威力が凄まじく寝ぼけていると思ってしまうほどの力だったからだ。だが傷は一瞬にして治った、そういう世界なのだろう。
そして起床したニアはいつものルーティーン通り朝食を作ろうとする、だがアリスが「私たちは意識だけ抜き取られたからお腹は空かない便利な設定だよ」と言って止めた。そう言われると全くお腹が空いていない、ニアは便利だなと思いながらも普段と違う感覚に少し気持ち悪さを感じた。
「じゃあ行きましょう。訓練をしに」
「え?すぐにですか?」
「だってニアちゃんだって早く帰りたいでしょ?私も紀太さんに心配させ長から長引かせたくはないのです」
ニアも理由に納得し訓練場と言われる場所に連れていかれる、そこは普通の平原だった。ただフィールドが広すぎると思っているとアリスは何か唱えだす。
「ドーム展開」
そう言った瞬間にニアたちの周りをドームが囲い込んだ。ニアはこうなるとどうなってしまうのか軽く実験してから準備運動を始めた、アリスは元々知っていたので先に準備運動を済ませていた。そしてニアの準備が完了し始めようとするとアリスが消えた、すぐに位置を探るがどこにもいない。そして数秒後腹部に激痛を感じたと思った瞬間ドームの壁に打ち付けられる。だが傷は瞬時に回復する。
「やはり体術が出来ないんですね。それならまず体術の訓練をしていきましょう」
ニアはそんなこと聞いていなかった。それより今感じた痛みの正体が理解できていなかった、だが次第に思考が追い付いてくる。やはり朝の痛みも真実だったのだろう、この少女は凄まじい身体能力を持っている。
「身体…強化…」
「いいえ?私のこの力は私由来の努力の賜物ですよ」
流石に信じられない、なんせ一度戦った事があるファルのフルパワーでもこんなに痛くなかった。不意打ちと言うのも少なからず関係してきているであろうがそれだけで片付けられる強さではない。ニアは勝てないと悟り模擬戦形式で訓練はやめてほしいと懇願する、アリスは「実力の差がありすぎて得れるものがあまりなさそうですし他の形式やっていきましょうか」とニアの願いを受け入れた。
「ですけど私人に教えるのは苦手なんですよね、感覚タイプなので」
「じゃあどうすれば…」
「大丈夫ですよ。待っていてください」
そう言ってアリスは上を向き何か話しかけている、すると数秒後空中に二人の子供が現れる。その子達は互いの腕に鎖の付いた手錠をつけている、どうにも不便そうだが当事者としてはそうでもないそうだ。そそしてその二人は自己紹介をする。まず少し強気な子からだ。
「あたしは主様のペットの双子のおねえちゃん!強いよ!」
そして次はもう片方の気弱そうな子だ。
「私はペットの弟です、本日はよろしくお願いします」
双子は髪色以外はほぼ同じ見た目をしている。長いロングの髪に頭部に生えている二本の角、そしてローブのような服。姉のほうは赤い髪に赤い瞳、弟のほうは水色の髪に水色の瞳だ。
そして弟は滅茶苦茶可愛い、マモリビトのペットと言っていたから彼女の趣味なのだろうか。そんなこと考えていると訓練を再開するというアリスの声が聞こえてくる。そして双子が手取り足取りみっちりと体の動かし方などを教えてくれている時にアリスは筋トレをしていた。あの超華奢な体のどこにそんな筋肉があるのかと思うほど素早く的確に筋肉に負荷をかけていた。
相当な時間を訓練に費やした、そして夜に切り替わると双子は帰って行ってしまった。
「明日も来てもらえるそうなので頑張りましょうね」
そう言いながらドームをぶち破った。どうにかしてドームを収まらせるのではなくぶち破った。力技でぶち破った。
学園では物をぶち壊すのは教師でも行う日常行為なので特に何と思わなかった。ただその力には関心を示す、そして汗なども出ない等の雑談をしながら家に帰った。
夜になってもやはりお腹は空かない、二人は少し休憩をしてからベッドに入った。昨日と違ってニアより少し図体がデカいアリスが抱き枕のようにギューッと抱きしめてくる。ニアは少し苦しそうにしながらも伝わってくる心音に妙に安心感を抱きすぐに眠りに落ちた。
朝になると二人はほぼ同時に目を覚ました。そして少し休憩をしてから訓練場へ向かう為家を出た。その道中でこんな話になる。
「私の帰りを待ってくれている人がいるので早く帰りたいんですよね」
「紀太さんでしたっけ?」
「はい。ただ信用はしていないので遅くなっても大丈夫だろうとは思っています」
「友達じゃないんですか?」
「はい、勿論大切なお友達ですが人間と言うのは醜い生き物です。貶め、嘲笑し、足蹴にする、それを快感と感じる物です。なので私は誰も信用していません、貴女も、紀太さんも、TISの元仲間も、そして私自身も。誰も信用してはならないんです、人間は皆馬鹿ですから」
ニアはそう語るアリスを見てある感情を受け取った。本人はそんな顔や話し方はしていない、だが伝わってくるのだ。『眼』から。
伝わってきた感情とは大人になる為に必須なモノ、そう『諦め』だ。アリスは何もかも諦めているのだろう、ニアはこの時こう思った。
殺してあげなきゃ
このふとした考えが今後のニアの人生を型取っていくのだった。
第百十一話「フェリエンツ/ガーゴイルⅠ」




