第百十話
御伽学園戦闘病
第百十話「起床、そして別れ」
ルーズは戦闘体勢に入ってからすぐに突っ込む。バフなどは一切かけずに単純な肉弾戦で倒す気だ。フラッグはそんな事はせず歪みを利用して戦うつもりなので後ろに下がって一定の距離を保つ。ただルーズの力が分からないので歪みを発生させて引き寄せる、そして顔をぶん殴った。だがルーズはうろたえず反撃の蹴りをくらわせた。結局吹っ飛んだのはフラッグだけだ。
『動くな』
これぐらいの言霊ならば反動もほんの少しの傷で済む。そしてフラッグは当然動けなくなった、歪みを発生させたところで結果は変わらない。ルーズは言霊を解くか効果切れを待つしか無いのだ。
大人しくルーズの攻撃を受けていると体が動くようになる、すぐに反撃をぶちかまそうとしたがルーズがそれを拳で受け止めてすぐに次の言霊を放つ。
『抵抗するな』
先程よりは代償がでかかったが気にする程でもない。再度攻撃を続ける、ただどれだけ傷をつけてもフラッグは動じず顔色一つ変えない。その顔に段々苛立って来る、ルーズはもう一回言霊を使う。
『身体強化』
そうすると当然ルーズに身体強化がかけられる、そしてその拳は非常に強力なもので殴られたフラッグも少しだけ揺らめく。ルーズは何度も何度も殴りかかるがフラッグはそれ以降全く動きを見せなかった。
どう言う事か分からない、何故か康太は攻撃してこない。タルベは回復役なので分からなくもないが何故康太が攻撃してこないのだろうか。
「何故お前だけで攻撃する」
「うるっせぇよ!黙ってろ!」
その怒りがこもった顔面へのパンチによってフラッグは鼻血を出す。だが動じずただひたすらに攻撃を受け続けるだけだ、ルーズも流石に疲れて来る。それと同時にフラッグへの言霊の効果が切れた。すぐに動きルーズの顎を蹴り上げた。
「甘いな」
「何だと!」
ルーズは反撃に蹴りを入れようとしたが足を掴まれ投げられてしまう。そしてフラッグが追撃のため時空を歪ませてルーズの元まで移動した瞬間後方に謎の霊力を感じた、すぐに振り向くがそこには何もいない。
「どこ見てんだよ!」
ルーズが顔面をぶん殴った。流石のフラッグも尻餅をつく。ルーズは殴るかと思われたが違かった、その隙を使ってある言霊を放つ。
『起きろ』
それは拳に向けた物だった。拳はゆっくりと目を覚ます、代償は大きかったが結果として最強級の人物を復活させた。フラッグは急ながら距離を取る、だが寝起きでも充分強い拳は殴りかかった。
そして更に激しい戦闘が展開される中空中で見守っているエンマはある変化に気づいた。それは現世で起きている。
「起きた、門まで行かないとな」
「え?何が?」
「面白すぎる!本当に久々だこんな楽しいのは」
「だから何が起きたのって!」
「ルーズ君の言霊は拳君だけに効果が起こったわけじゃない、血の繋がりの影響か?それとも彼女が何かからくりを?いやどちらにせよこちらに来るだろう、莉子君も知っているよ。そう」
[ニア・フェリエンツ]
だ。現世の病院、109号室で眠っていたはずのニアが姿を消した。そこまで長い期間は眠っていなかった、実際に眠っていたのは一週間だけだ。残りは意識だけが『仮想世界』に行っていた。そこでマモリビトとある少女と話をして自分の力の事を理解していたのだ。だが今起きた、皆の元に駆けつけるため禁足地へ向かうため服を着替えている。ただその霊力を感じ取った者もいる、薫が駆けつけた。
「ニア!起きたのか!」
「はい、今から行きます」
「どこに行くか分かってるのか?」
「黄泉の国、話をつけてこなくてはいけない。私“も”ここには戻ってこないでしょう」
「は?」
「仮想世界で殺さなくてはいけない少女を見つけました、親戚ではありますが彼女を生かしておくことは出来ない」
「誰の事を言ってるんだ」
「薫先生も名前を聞いた事があると思いますよ。[アリス・ガーゴイル・ロッド]、私[ニア・フェリエンツ・ロッド]として始末しなくてはならないのです」
ニアの表情は明らかに違った、今までのほんわかした空気など感じられない顔つきだ。そして彼女はワンピースを着終わると薫に「それでさようなら」と言い残しすぐに行ってしまった。そのスピードは凄まじく身体強化を施している時のファル程度の速さはあった。薫は理解した、ニアは目覚めてしまったのだと。忌まわしき血族の本性に、ロッドの性に。
第百十話「起床、そして別れ」




