第十一話
御伽学園戦闘病
第十一話「緊急会議」
流はゆっくりと目を開く。少しぼーっとしてからラックや蒿里達は大丈夫なのかと身体を起こす、すると素戔嗚がニカッと笑いながら話しかけてきた
「よぉ」
「素戔嗚!体は大丈夫?」
「大丈夫かどうか心配されるのは流だ、他の奴らは全員怪我が治ったがお前だけなぜか治りが遅いから心配してたんだぞ」
「治りが遅い?何で?」
「我も知らん。だけど蒿里が言うには「霊力が吸われてるみたいで嫌だ」と言っていたな」
「霊力って何?」
「知らんのか、霊力っていうのは妖術や人術を使う時に消費する所謂MP的なものだ。術を使う時以外はほぼ使わない、だからみんな戦闘時になると霊力は回復して戦えるんだ。ちなみに霊力を回復させるには体力を使うしかないから霊力も体力も少ない状態で術を使うと体が危険だ。
霊力が吸われるって言うのは体力が完全に回復しているけど霊力は回復しきっていなかったんだろう。蒿里が二日かけて体力と霊力を回復させたらしいが治りが異様に遅かったらしい、となると流は『霊力が桁違いかそれとも全く無いか』と言う事になる。全くなければ回復するものがないから無駄に回復で使った霊力が吸収されるだけだからな。
だがお前は霊が見えているし降霊術も使える、だから霊力が全くないって言うケースではないと思う。その事をラックと一緒に考えていたんだがどうも答えが出なくてな…」
「そっか。ところであの二人は?」
「光輝と新入りは一番早く起きたラックが見た時にはもういなかったらしい、だが今までと違う点が一つだけあったって言ってたぞ」
流は首を傾げる、素戔嗚は話を続けた。どうやら二人がいたと思われる場所に大量のカラスの羽が落ちていたらしい、菊と話し契約を結んだ動物は弱っていると大量の毛を落とすそうだ。だが毛はすぐに生え変わるらしい。
弱っているカラスを交代させる時に少しだけ見られていない時間が出来るだろうからその内なら自由に動ける、と素戔嗚は言った。
するとテントの入り口が開き眠そうなニアが顔を覗かせた。流が起きた事に驚き目を擦って現実だと理解すると流に「おはようございます」と挨拶をする。
「起こしてしまったか、すまん」
「いえ今から朝ごはん作ろうと思っていて」
「分かった。何か異常があったらすぐに言えよ」
ニアは朝食を作るために離れていった。流がふと目覚まし時計を見ると時刻は早朝五時半だった、五時半ならラックは起きているんじゃないかと聞くと既に起きていて日課の運動をしているそうだ。流はラックに会いにいくと言ってテントを出ていく、素戔嗚はもう一眠りする事にして寝転がった。
「あぁ我はもう一眠りするよ」
朝日が昇り始め綺麗な空だった、少し遠くでラックが動いているのが見えたのでそちらに向かって小走りで向かって行く。すると流に気付いたラックは怒鳴る様な強い口調で流に
「逃げろ!敵だ!」
と言い放った。流はその敵とやらを見てみる、そいつは日本刀を携えている和服の男だった。ラックはさっさと逃げろと言うが流は寝起きの頭と急な敵襲に思考が止まってしまって硬直する。
「人を気にしている場合ではないだろう」
その瞬間ラックの前方にいた男がラックの後ろに移動していた、その刹那ラックの肩から噴き出す血。あまりの速さに流は目で追うことすらできなかった。ラックはすぐに距離を取る。
その男はラックに少しずつ近寄る、助けなくてはと思うが流の体は何トンものおもりが括り付けられている様に重く動かなかった。
「そう怯えるな、別に痛くはないぞ」
男が刀を振り上げラックに向かって振り下ろした。ラックが斬りつけられた、そう思ったと瞬間鉄と鉄がぶつかり合う音がした。そちらを見ると素戔嗚が刀を抜き男が振った刀を受け止めていた。
「[遠呂智]とは昔からの因縁がある、我にやらせてくれ」
ラックはおずおずと蒿里を起こしにいった、流も逃げようと思い振り向くと素戔嗚が流はそこで見ていろと留まるよう命じる。流はその言葉に従ってもう一度振り向き素戔嗚と遠呂智の戦いを見守る事にした。
「惨めな姿を見せたいのか?スサノオ」
素戔嗚は反応せずに刀を地面に突き刺してから二連続で唱える
『武具・草薙の剣』
『|降霊術・武具・スサノオ(こうれいじゅつ・ぶぐ・スサノオ)』
すると地面に突き刺さっている刀がひとりでに宙を舞った。遠呂智と流は何が起こったのか理解できず固まる、だが遠呂智は先程の祝詞で降霊術をしていたのだから刀に霊が宿り動いているのだろうという考えに至った。
遠呂智は雄叫びを上げながら刀を構え素戔嗚に向かって突っ込む、素戔嗚は冷静なまま動かない。遠呂智はその態度に更にイラつき状況を把握せずに突っ込んでしまった。
素戔嗚のすぐそこまで来たところで刀を振り上げる、すると目の前で浮遊している素戔嗚の刀が飛び出して来る、遠呂智は桁外れの反射神経で刀を防御の構えにして斬られる事は防いだ。だが後方に吹っ飛びその衝撃で鼻と口から血を出していた。
「なんだあの威力は!この俺が一瞬で…」
「行くぞ!」
素戔嗚は声を上げ刀に指示を出す、遠呂智は情けない声で話を聞いてくれと懇願した。素戔嗚は話す気があるのならと思い攻撃を止め遠呂智に話す様に言う。遠呂智はホッと胸を撫で下ろしてから質問をする
「お前らがルーズをやったんだよな?」
「違う、間違った情報が伝えられているんだ」
「はぁ?じゃあ俺らは偽の情報のせいでこんな事になってんのか?」
「そうだ」
「なーんだ馬鹿らし、もう帰るわ」
遠呂智は呆れてため息をついた後立ち上がり学園に帰ろうとした、素戔嗚は急いでそれを止め一緒に学園に行っていいかと聞く、遠呂智は「さっさと荷物をまとめろ」と言って再び座った。
すると蒿里とラックがこちらに向かって来た、そして素戔嗚が事情を説明するとやっと帰れると嬉しそうにする。全員テントに戻って荷物をまとめ始めた。一番に流が終わり遠呂智の元へ行き話を持ちかける
「ところで元々かかってた疑惑って何だったの?」
「あぁ…言いにくいんだが会長が酷い有様でな。それをお前らがやったんじゃないかって疑惑がな…」
「やっぱり」
その言葉を聞いた遠呂智は立ち上がって流の肩を掴んで何か知っているなら話せと力強く言った。流はあの日襲われた事、会長の霊が鳥に喰われた事を話した、遠呂智は舌打ちをしながら「鳥神か…」と俯いた。
流が会長はどんな状態なのかを聞くと左手、右目の機能停止、肋骨二本の粉砕骨折、持ち霊の消失。しかも傷は現在いる回復師だと回復できなかったらしく兵助を探し出すしか完治する道は無いらしい。
そんな話をしているといつの間にか全員荷物をまとめて二人の近くに来ていた、ラックがさっさと行こうと言うので遠呂智は立ち上がり歩き始めた。
「しゅっぱーつ!」
蒿里のデカい声に嫌な顔をしながら遠呂智が先導して学園へ歩き始めた。ここから結構遠いので三時間はかかるらしく少し休憩を入れながら学園に行く事になった。
一時間ほど歩いて休憩をする事になった時に遠呂智が訊ねる
「というかお前らじゃないとすると会長とルーズは誰がやったんだ?」
「分からん。だがかなりの強者の犯行だろう」
「でも実際誰がやったんだろうね」
結局誰がやったのかは分からなかった。だが確実に言えるのはルーズが生きているとしたら非常に危険な状態だろうと言うことだ、流はニアの為にも早く探し出さなければと気合いを入れた。
歩き続けて三時間が経った。ちょうど昼の鐘がなった頃に学園が見えてくる。そのまま学園の校門まで歩く、着くと同時に蒿里が大きな声で両手をバンザイにして非常に嬉しそうに叫ぶ
「着いたー!」
「疲れたな…まぁ我は余裕だったがな!」
「疲れた、だが流にとってはいい成長期間だった」
「うん、スペラとも会えたしだいぶ強くなったと思う」
全員疲労が溜まっていた、だが誤解を解かなくてはいけないのでまず理事長室に行けと指示される。全員で理事長室に向かう事にする、その間すれ違った生徒はヒソヒソと話したりジロジロみたりしてくる。
すると遠くから少女が一人走って来る
「ニアちゃん!心配したんだよ!」
「陽さん、お久しぶりです」
「陽じゃねぇか久しぶりだな」
「ラックも久しぶり!」
「この子誰?」
「中等部のやつだ」
他にも何人かが話かけようとしていたが遠呂智が振り払い早く理事長室に行くぞと歩き出す、五人は渋々遠呂智の後ろを着いて行く、職員室を通りすぎてすぐの[理事長室]と書かれた扉をノックした
「入りなさい」
「失礼します」
「遠呂智君ありがとう」
理事長は六十代ほどの外見でなかなか怖い気配を醸し出している。遠呂智は理事長室から出て行った。五人と理事長だけの部屋は妙な空気が漂っている、その空気を壊す様に理事長が口を開く。
「さて、まず君たちには謝らなくてはならない。姫乃君をやったのは君達ではないと途中で判明したにも関わらず生徒会の子達を送り込み怪我をさせてしまいすまなかった。あの子達は会長がやられたと言ったら話を聞かないでそちらに向かってしまってね」
「いや、別に気にしてない」
「そう言ってくれると嬉しい。ところで聞きたいのだがルーズ君の行方を知らないか?」
全員知らないと即答した。理事長も唸る様に黙り込み考え込んでいる、ニアは情報が全く無いと知ると苦虫をかみつぶした様な顔をして拳をギュッと握って俯いた。
すると扉の向こうから女の子の声が聞こえる
「理事長会議の準備が出来ました」
「今行く、さて君たちも一緒に行こうか」
理事長は席を立ち、扉を開けた。ドアの向こうには声をかけたであろう女の子がいる、緑髪でロングヘア、そしてセーラー服を着ている。
「私は先に行く、軽い説明をしながら連れて行ってあげてくれ。頼むよレアリー君」
「分かりました」
理事長は一人で先に廊下を進んでいった。レイリーと呼ばれたその少女は理事長に礼をしてから五人に名乗る
「皆さんはじめまして[フルシェ・レアリー・コンピット・ブライアント]です」
「フ…フルシェ?」
「レアリーと呼んでください。そんな話は置いておきましょう、早速行きましょうか」
その言葉を聞いたラックはそそくさと理事長室から退室した、四人も部屋を出る。全員が出てから扉を閉めたレアリーは先頭で歩き始める、それに着いていく様に歩く五人に会議の説明を始めた
「まず会議というものは基本的に理事長や先生方、そして生徒会の方のみが参加するものです。話題は様々ですが大体は改善案や大きな事件の処理の事などの裏方のことを会議していますね、そしてラックさんは参加されたことがあると思いますのでルールは知っていると思いますが他の方のために説明しますね。
ルールはたった三つです、ルール1『理事長が話し始めたらすぐに黙る』ルール2『暴力を振るったり能力を使ったりしない』そしてルール3『決定権は全て理事長が持っている』これだけです…さて入りましょうか」
と言ったレアリーの正面には大きな扉があった、レアリーは「入ります」と言いゆっくりと扉を開ける、扉の先には丸い机と椅子に座っている生徒会役員、教師そして理事長がいた。
「まずそこの椅子に座ってくれ」
理事長が見ているところには五人用の椅子があった、流たちは一人一人椅子に座る。座ったのを確認して少し息を入れてから理事長は会議を開始した
「まず君たちをここに呼んだ理由は一つ、ルーズ・フェリエンツが消息不明になっている件だ。ルーズ君は君達エスケープチームと遭遇しなんらかの交流をした日に消息を断った、我々としては君達以外に出来る人物はいないと考えている。だから君たちをここに呼んだ、だが君達はルーズ君に関しては何も知らない、そう言ったね?」
「はい、我々はルーズ・フェリエンツの失踪とはなんら関係性がありません」
そう堂々と答えたラックに食い気味で反論する男がいた。[拓士 影]、最初に襲ってきた男だ
「だが君たち以外に出来る人がいるとは思えません、君達が僕と戦い始めた時から菊さんのカラスが君達の追跡を始めたそうですがその頃にはもういなくなっていたらしいですよ」
「じゃあ聞こう、君は我々がルーズと会い別れた数時間後に我々に接触し攻撃を仕掛けてきた。それなら君がルーズを誘拐することも可能だ、しかも影に引き摺り込むことが出来るんだろう?なら誘拐なんて簡単じゃないか」
素戔嗚の反論に影はぐぅの音も出ない様子で黙り込んだ。だがそれに一人の女が突っ込みを入れた
「それはねぇな。手配が間に合わなかったルーズ以外のメンバーには見張りを付けておいた、だからそんな事をしていないというのは私が証明できる」
彼女は[松葉 菊]度々話に上がっている女だ。彼女はタバコを吸いながら鼻で笑う様に反論した、情報が全く無く進展はない。
「それで結局こいつらがやったのか?あ、俺は[駕砕 拳]よろしくな」
「自己紹介は後にしなさい拳」
自己紹介をしたのは[駕砕 拳]高等部一年生ながら生徒会に加入しているエリートだ、身体強化を使い敵を薙ぎ倒す。その威力は凄まじくフルパワー時は何十メートルもの穴を空ける事が出来てしまう程だ。
自己紹介を止めたのは[駕砕 真澄]高等部三年でサポート系の念能力を使う女の子だ。拳の姉であり長女でもある。
「だがルーズを探し出すのはほぼ不可能だと思うぞ」
傷だらけの会長がそう言うとニアは珍しく声を荒げる。だが会長を落ち着くようなだめてから説明する
「菊でも莉子でも、そして影が探しても見つからないなら我々生徒会やこの学園の能力者で探せるものはいない。そうだろう?莉子」
「そうだね…私も本気で探してみたけど何処にもいなかった。菊ちゃんの探知能力と影君の能力で見つけられないなら…まぁ無理だろうね」
そう言ったのは[中谷 莉子]テレポートを使用する事が出来る、頭が切れるので戦闘には不向きな能力を持ちながらも生徒会に加入した天才だ。
莉子にそう言われ莉子の隣の席に座っていたニアは悔しそうに俯いた。その後は少しの間生徒会メンバーによってどうすればルーズを探し出す事が出来るのかを話し合っていた。すると一人の少女が違う話を始める
「ねぇ、お姉ちゃん」
そう生徒会長に言った女の子は[姫乃 水葉]数少ない一年生で生徒会に加入しているメンバーの一人、生徒会長の妹で降霊術に剣術、そして体術も熟す可愛い娘だ。
「なんだ?水葉」
「ちょっと話変わるけどなんでラック達は学園から逃げたの?」
「あ!そうそう!それ忘れてたんだよ!お前らなんで学園から出てったんだ?」
「それにメンバーの紫苑君と礁蔽君がいないようだが、二人はどうしたんだ?」
拳や理事長達に立て続けに質問を投げかけられる。ラックが説明しようとしたが隣に座っている素戔嗚がそれを止め自分が席を立つ
「それは我が説明しよう。まず理事長が言った二人のことですがあの二人は今ラック・ツルユの技術で出来たコールドスリープ装置で睡眠しています。そしてコールドスリープをしている理由は致命傷を受け回復することが出来ない為回復する手段を手に入れるまで体をそのままにしておこうとなったのです」
「ほぅ、だがそれならカルム君に治して貰えばいいのではないか?」
「それは出来ないと判断しました。その理由は…」
素戔嗚は声を一層大きくして迫力を増してから言う
「その理由と言うのは生徒会長、[姫乃 香奈美]が我々を襲ってきたからです!」
一同は唖然とし動揺が見える、拳が大声を出して問い詰めようとしたところで理事長が静かにする様言ってから香奈美に事実かどうかを訊ねる。会長は言葉を詰まらせながら本当だと頷く、だがその後に襲ったと思われる時間帯の記憶が無いと付け足した。理事長が何かに気づいたように考え出す、すると教師の場所から一年を担当している翔子が質問をする
「で、でも学園から逃げたとしてどうする気だったの?島から逃げ出して手段を探すとかは出来ないだろうし…」
「兵助、だろ?」
そう言い放ったのは中等部三年生を担当している教師[華方 薫]だ、彼は大量の能力を使って戦闘をする。頭が切れる上に能力は強いので学園の中でも最強と名高い能力者だ
「生きているかは分からない、だがやってみる価値はあると思った。それだけだ」
「君達が失踪した理由は分かった。話を戻そう香奈美君、君は何故エスケープチームを襲ったんだ?」
香奈美は包帯だらけの顔をしかめながら記憶がなくて分からないと弱々しく言った、教師と理事長、そして素戔嗚と蒿里がそうだろうなと言わんばかりに頷いた。すると会長は深く考え込みため息をついてから呟く
「ついに…動き出したか」
薫がそれに対して答えるように呟く
「TISか」
その言葉を聞いた瞬間生徒会の連中の顔が変わり薫と理事長に何の事か焦りながら聞く、だが薫は
「動き出したとしたらこいつらに戦わせるのは早すぎる。理事長、話すのはやめておいたほうが…」
「いいやこの子達もいずれ巻き込むことになる、遅いか早いかの問題だ」
薫は渋々話す事を承諾した。理事長は今話すことは他言無用と低い声で言ってから一息つく、そこにいる全員が黙り真剣に話を聞く体制になった。そして理事長は重い口を開いてこう言う
「この島の地下にはTISの拠点がある」
フルシェ・レアリー・コンピット・ブライアント
能力/念能力
視界に入った生物の思考が脳内に流れ込んでくる
強さ/サポート系のため不明
第十一話「緊急会議」
2023 4/18 改変
2023 6/4 台詞名前消去