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【完結】御伽学園戦闘病  作者: はんぺソ。
第五章「黄泉の王国」
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第百九話

御伽学園戦闘病

第百九話「廃棄された者、手放した者」


これはルーズが五歳の頃の話である。


2001年9月14日

ルーズ達は外で暮らしていた。だが能力者への風当たりが強くなってきたのもありそろそろ島に渡ることも視野に入れる時期となっていた、だが島に行ってしまったらほぼ監禁の様な形となってしまうため一途の希望を潰すことになってしまうのではないかとも考えていて悩んでいた。


「やはり島に入れてあげるのが一番現実的なんだな」


「そうね…だけどそしたらこの子達の未来は潰される…」


そう言うのは二人の母親、フラッグにとっての奥さんである[クレール・フェリエンツ]だ。彼女の能力は『視線』、対象に無数の生命体から監視されている様な幻覚に襲わせることが出来る地味ながら凶悪な能力だ。

二人は二週間ほどずっとその話で会議をしていた。どちらにせよデメリットはある、だがメリットも少なからずある。どうすればいいか悩みに悩んでいる、だが次の船は一週間後だ、しかも手続きや抽選もあるので明日までには決めなくてはならない。そしてその次は半年後、それまでに能力者への扱いがどうなっているかなど見当が付かない。


「やっぱり行くのがいいんじゃない?」


「そうなのだろうが…やはりこの子たちの将来を考えると…」


「まぁ明日までに決まらなかったら島に行きましょう、恐らくそちらのほうがメリットが多いわ」


「そう…だな。とりあえず今日は寝ようか、私は明日仕事は休みだ」


「あら、ほんと?じゃあ久々に豪華なご飯作っちゃおうかしら」


そう言いながら二人はベッドに入っていった。正直今の生活でもやっていける、ここは能力者戦争で勝利し今でも差別が少ないという稀有な地域である。友もいるし仲良くしてくれる無能力者も数名いる、この人達を手放さなくてはいけないなんて中々できたことではない。

だが明日の事件でフラッグは全てを決断する事になるのだった。


同年同月15日

朝起きると既にクレールは起きていて朝食を置いて買い物に出かけていた。フラッグは子供達を起こし一緒に朝食を済ませた、そして丁度十時を回った時だった。皿を洗い終え子供達と遊んでいたフラッグを近所の人が大きな声で呼ぶ。何か嫌な予感がしたフラッグはルーズに待っているよう言い聞かせてからすぐに外に出て行った。その近所の人が指を差す場所には人だかりが出来ていた、すぐに駆け寄り野次馬を掻き分けて見てみるとそこには血を流しながら倒れているクレールの姿があった。


「クレール!!」


駆け寄って脈を確認するがすでに無い。フラッグがどうにか息を吹き返さないかと様々な手を施していると無能力者の男が声を震わせながらある事をフラッグに聞かせる。


「ぼ、僕見たんだ…クレールさんは金髪のメイド服を着た[アリス・ガーゴイル・ロッド]って言ってる女の子に殺されていた!」


「何故止めなかった!!」


「何も力がないん僕にとめれるわけないだろ!」


「それもそうだな…すまなかった…」


その日はその事で持ちきりだった、夕方になって家に帰ると近所の人が二人の相手をしてくれていた。近所の人はフラッグが帰ってくると慰めの言葉をかけてから家を出て行った、フラッグは感謝を言う気力さえ無い。そしてフラフラと椅子に座ってから決めた。


「島に送ろう」


だが島に行くのは二人だけだ。フラッグは行かない、何故行かないか?それは復讐の為だ。[アリス・ガーゴイル・ロッド]を殺すため外に残り足を掴んで殺害に追い込むのだ。フラッグはそう決まるとすぐに抽選に参加した。そしてその日は眠ることにした。


同年同月16日

フラッグは子供達を連れて抽選へ向かう。そして何事もなく抽選会場へと着いた、その場の空気は重いもので皆言葉通り命がかかっているのだ。フラッグは適当に券を引いて番号を見た、すると見事に当たって島に渡れる事が決定した。

すると同時に後方に並んでいる人達が券を渡せとせがんでくる、そんな人を係員が落ち着かせ島に渡る二人は今日引き取ると説明した。フラッグは指示通り二人を受け渡す。ルーズは何か嫌なものを感じ取り泣き出してしまった、ニアは何も分からず固まっている。フラッグは心を痛めながら係員に任せ二人を置いて行った。

フラッグは家に帰るや否やすぐに荷物をまとめ始める、と言ってもほんの少しの形見や私物だけだ。それ以外はすべて処分した、そしてすぐにでも家を解約する手続きを行った。


同年同月21日

今日は船が出港する日だ。フラッグはもう会わないと決めていたはずだがやはり気になってしまい港へ向かった。そこには行くことの出来ない親や家族が見送るために出向いていた、そして船は出港寸前だ。フラッグは二人がどこにいるか探すとルーズもフラッグを見つけたようで叫んで訴えかける。


「おとおさん!なんで!一緒に!」


そう涙ながらに言うルーズを見てフラッグは何とも言えない気持ちになってしまう。クレールを失った悲しみ、犯人への怒り、子供たちを手放す罪悪感、全てが混ざり合い最終的には悲しみが勝ってしまう。最後に見せる顔が泣いている顔なんて嫌だとプライドが働いてしまったフラッグは背を向け歩いて行ってしまった。その姿を見たルーズは捨てられたのだと感じた、自分たちのことなんてどうでもよかったのだと、そう思い込んでしまった。実際は一緒にいたかったがクレールを殺した犯人が許せなくルーズ達は今離れれば大人になる頃には忘れてくれるだろうと考えていたからだ。

そして船は地上を離れて行った、フラッグは惜しい気持ちを抑え込みながら早速情報獲得に動き出すのだった。


2007年8月4日

別れてから六年近くの歳月が経った、フラッグは遂にアリスの居場所を掴んだのだ。場所は日本の静岡県伊豆市、全世界を歪みで飛び回り能力者ということを隠して生活してきてやっとの思いで掴んだ足だ、絶対に逃がすまいと一日だけ休憩を取り明日に復讐を決行することを決めていた。

一方ルーズは十一歳に、ニアは九歳になっていた。二人は小学生寮で一緒に暮らしていた。そしてフラッグの事は全く話さないようにしていた。

ルーズは当時十七歳で生徒会に属していた薫に目をつけられ小さいながら指導を受けて十一歳の中では一番強いレベルには力をつけていた。それも全て父親を殺すためだ、自分たちを捨てこんな人生を歩ませた最大の敵と言える男、フラッグ・フェリエンツを。

ただその時は思ってもいなかった、自分の父親が教科書にも載ってしまうような事件を起こすなんて。


同年同月5日

時刻は七時丁度、緊急ニュースが流れる。静岡県伊豆市で能力者同士の戦闘が発生し街が大きな被害を受けているとの事だ、そして犯人の一人の顔が掲載される。その人物こそがそう、[フラッグ・フェリエンツ]だ、朝のニュースを見ていたルーズは驚き箸を落とす。ただそれに気付いたニアがテレビを見て父親と言う事を知らないようにすぐにテレビを消した。そしてまだ小学生のニアを置いて部屋を出て行く。そして五分程かけて高等部の寮へ向かった、そして薫の部屋を訪ねる。


「ルーズ!やばいことになってる!」


「知ってます!だから来たんです!」


「とりあえずニュース見るぞ!」


ルーズは部屋に連れ込まれた。そして同部屋の兵助と三人でニュースを見る、そして戦闘が終わったと中継されるとそこには血だらけになっているフラッグの死体だけが映っていた。その瞬間ルーズの心の中は二つの感情で支配される。こんなことをしでかした事への怒り、そして復讐できなくなった悲しみの二つだ。


「なんで…なんでこいつはこんなに僕らを苦しめるんだ…」


「分からん…だがやらかしやがった…街が吹っ飛んだ…被害者は何故かゼロだったらしいが…TISが動き出して風当たりが酷くなって来たってのに…最悪だ」


「ごめんなさい、僕があの時殺しておけば…」


「しょうがないよ!とりあえず理事長の所に行こう」


兵助の提案に従い三人で部屋を出た、するとニュースを見たのであろう翔子と兆波が部屋に向かってきていた。薫はすぐに事情を説明し着いてきてもらうことにした。

二人増えて五人で学園まで向かい理事長室に乗り込む、だが理事長の姿は無い。恐らく事情を把握するため職員室にいるのだろう、すぐに職員室に向かうと予想通り理事長がいる。


「理事長!事情は...」


「把握済みだ」


「とりあえずルーズ連れてきちゃいましたけどこれからどうするんですか」


「ひとまず学園とは関係がないことを公表しこの話題は出来るだけ話に出さないこととする。」


「了解です、それじゃあルーズは理事長に色々聞いてくれ!俺らはちょっと基地に行く」


そう言ってルーズを置いて走って行ってしまった。ルーズはとりあえず自分がどうなるのかを理事長に質問する、だが理事長は詳しく答えず「大丈夫だ」としか言わなかった。だがその言葉には妙な安心感があり落ち着くことが出来た。そして今日はひとまず今日は帰るよう促さされニアと一緒に自宅待機との事だ。ルーズは言霊を使い足を速くして物凄いスピードで寮に帰った。そして丁度学校に行く準備をしていたニアに何が起こったか説明して椅子に座った。そして更に募っていく怒りを悟られないように抑え込むのだった。


そしてこの事件を皮切りに能力者への迫害は勢いを増していった、遂には特定の地域で能力者を受け入れたくない、この国から追い出せというデモのような事さえも起きてしまった。

ルーズはこのせいで色々な人が苦しみを伴った事を知っていて尚且つ自分が悪かったと思ってしまっているせいでこんなにも怒りを露わにして戦う意思を見せたのだ。


「やろうぜ、クソ男」


「あぁ、始めよう」


そうして切ろうにも切れない縁、親子での戦闘が幕を開けたのだ。このチームの戦闘から一気に展開は進んでいくことになるのだった。



第百九話「廃棄された者、手放した者」

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