第百一話
御伽学園戦闘病
第百一話「バトン」
英二郎は斬りかかる、すぐにフラッグが時空を歪め距離を取るがすぐに対応して追いかけてくる。やはり能力を全て理解している人間と戦うのと中々今まで以上に苦戦を強いられるのはしょうがない事だ。にしても英二郎の反射神経は凄まじい、いやエクスカリバーという人の人智を超越している武具を扱えている時点で人と呼んでいいかはいささか疑問ではあるが今は目の前の男を倒さなくてはいけない。
「死ねぇ!」
英二郎が剣を振るう、すぐに後ろに下がり逃げたはずなのだが肩から血が吹き出す。何故傷を負ったのか理解できず困惑していると英二郎は次の行動を行う、それもまた回避したはずだがやはり血が吹き出す。まさか覚醒能力かと思ったがその説はあり得ない、何故なら英二郎は無能力者だからだ。
そもそもの基盤となる能力が無い者に覚醒能力が与えられる訳が無い。だがそんな事を言ったら何故覚醒しているのかも謎だ、どうちらにせよこの状態でのエクスカリバーは必中なのだろう。避けると言う方法はやめてひたすら攻撃の徹する事に決めた。
「ならば私も!」
フラッグも攻撃を仕掛ける、両者共に攻撃を受けながらも怯まず怖けず狼狽えず手を動かし続ける。だがフラッグが本気を出せるのは少し距離を取っている時だ、こんな近距離で殴っていては負けるのは明白。こんな状態で戦い続けていたら後三分も持たないだろう、少々手荒だがもう戦闘を終わらせる事にした。
「すまない、君は強すぎる。ここまでだ」
フラッグがそう言い放った瞬間英二郎の両腕が消失し落下したエクスカリバーの音が部屋中に鳴り響く、英二郎は眼を見開き自分の腕を確認する。だがどこにも存在しない、消し飛ばされた事を理解すると雄叫びを上げながら体当たりをする。だがフラッグは少しも動かず英二郎のうなじを全力で殴った、英二郎の視界は次第にボヤけていく。だがまだ戦おうとするが心の中では敗北を理解していたのだろう、そ碧炎は姿を消した。
そして炎が消えた数秒後英二郎自身も意識を保てなくなり気を失いその場の倒れ込んだ。
「強かった、凄い男だよ君は」
反応する筈がない英二郎を称賛したフラッグは英二郎の位置を変えようとしたその時フラッグに話しかける者が現れた。
「繋いだぞ、バトン」
顔を上げるとそこには会長達『II』が佇んでいた、すぐに立ち上がり会長達の初撃を待つ。一番最初に動くのは剣士[神兎 刀迦]だ、フラッグにはもう休む暇を与えることはない。バトンを繋ぎ続けるのだ。
一方エンマ達『非所属』はと言うとエンマが羽と大きな触手を出して莉子がそれに掴まっていると言う状態で空から様子を伺っていた。その途中である話が上がる、莉子が質問をしたのだ。
「そういやあんたって何年に死んだの」
「1928年だよ」
「それって…!」
エンマは今までに見せたことの無い哀しそうな顔をして莉子の方を向きながら言う。
「そうだ、能力者戦争真っ最中だ。でも僕の地域は物凄く早く決着が着いた、僕らの勝ちだった。そして一時的に仲良く暮らしていると隣町の奴らが逃げてきた。そしてフェリアを殺そうとしてきたから庇って死んだんだよ」
莉子は嫌な思い出を呼び起こしてしまってごめんなさいと謝ったがエンマはそこまで気にしていない様だ。それより能力者戦争の歴史の伝承を絶やしてはいけないと強く言った。エンマもあの戦争で何十人を殺害した、そんな人間が『閻魔』なんて役割を担って言い訳がないと自分自身でも思っているのだ。
「ただあの戦争でも悪い事だけじゃなかったんだよ。ある一人のかけがえのない友達と出会えた。今も良く話しているんだ」
「でも当時は地獄だったんでしょ?」
「うーん…僕の地域は小さな村だったからそこまでだったけど隣町は結構デカくて一度救援に行った時は酷いものだったよ。飛び散る肉片、悲鳴、黒い煙、もうあんな事はやっていけない」
ただ莉子はTISがいつ一般人に手をかけるか分からず急に第二次戦争が始まっても全くおかしくない、そう心配している旨を伝えてみるとエンマは大丈夫だと安心させる。何故そんな事が言えるのか聞いてみるとエンマはこう答えた。
「全世界でも本当に頭のいい人達は彼らが敵国なんかより脅威なのは理解している。最近彼らは大きな事件を起こさないだろう?あれは謂わば脅しのようなもの、しっかりと実力を見せ付け殺しにかかってきたら返り討ちにしてやると言っているようなものだ。
それなら彼らはゆっくり時間をかけて策を練れるだろう?だから今君達がTISを壊滅させたらどうなるか分かったものじゃない、だからと言って放置していたら君達に危害が及ぶ。まぁ最悪手段だけど僕が片っ端から覚醒させちゃえば戦争もすぐ収まるよ」
「難しいね…私も戦争なんてしたく無い」
「あんなの誰がしたいって言うんだい。自分の業を解放し魂を貪り恐怖と悪印象を植え付ける、酷いよ。もうあんなの懲り懲りだ」
エンマは何度も戦争をしてはいけないと言う。莉子もその表情は語り草から相当辛かった事は理解できる、ただいつ戦争と言う名の銃の引き金が引かれるかはTISの動き次第だ。どれだけ祈っても回避できない事だ、だが祈る事しか出来ないのだ。意味の無い行動でも心を落ち着かせる為に祈るだった。
その時エンマが驚き驚愕しながら呟く。
「流…君…」
「流がどうしたの!?」
「流が…変わった…佐須間も同時に…嘘だろ…」
「どう言う事!?一から説明…」
「すまない莉子ちゃん、僕は説明できない。だけどこれだけは言える…君達には僕でも少し可哀想だと感じる程の地獄が待っている」
そう言い放ったエンマは少し震えていた、莉子は流石に異常事態だと考え会長達に伝えに行こうとしたが今行った所で何かが変わるわけでは無いと考え渋々その場に留まるのだった。
エンマが言った通り生徒会やエスケープチーム、そしてTISにも今までに無い程の苦しみが降りかかる事になる。それはそこまで遠い未来ではない。ただそれは必然と言うべき苦痛、逃げる事は出来ないのだ。
第百一話「バトン」