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リサとクロード

〈ボルド教室〉それは各地から厳しい試験をくぐり抜けて来たエリートたちの集まりである


入学者の対象年齢は十二歳から十八歳まで。


昨年開設されたばかりの新設校であり、今期入学のレオは二期生という事になる


ここでは色々な戦闘や戦略、戦術などを学び、卒業して戦場へと赴くことになる


だがここを卒業できるのは卒業試験においてボルドが認可を出した者だけ


つまり〈入学が出来ても卒業できるとは限らない〉という事なのだ


しかも在籍期間が決められており卒業まで最速で三年


いつまでも卒業できない者は七年で強制退学となる厳しい規則がある


だから入学できただけで気を抜く者は誰一人としていない


入ってきた者達は全員がライバル、全員が敵、数少ない卒業の椅子を掛けて常に切磋琢磨していくのである。


「うわ~、凄い建物だな、ウチの田舎じゃこんな立派な建物無かったよ」


入学式の初日、皆が緊張感を漂わせピリピリとしている中で


一人能天気に校舎を見上げて感嘆の声をあげている者がいた、レオである


この雄大で威厳のあるたたずまいは見る者を圧倒するだけの風格すら感じさせる


新設校という事もあるがこの〈ボルド教室〉は国から多額の補助金を受けて設立されたエリート育成機関なのである


その理由は〈勇者カインの仲間であるボルドの功績に配慮した〉という一面もあるが


どちらかといえば〈リーダーシップの取れる優秀な戦士を育成して欲しい〉


という国家の思惑の方が強い。卒業生は自動的に〈国軍少尉〉の階級が与えられ国軍に編入されるという特別待遇


卒業したての若造がいきなり小隊長の地位を得るのである


だからこそ入学も卒業も厳しいのだ。


「ようこそ新入生諸君、私がここの責任者ボルドだ、今期入学した生徒は全部で三十三名


ここに居る全員が卒業できるとは限らないが私は全員卒業させるつもりでやる


皆もそのつもりで付いてきて欲しい、以上だ‼」


入学する全校生徒の前でボルドが短い挨拶を終えた


引退したとはいえギラギラとしたその眼差しは殺気すら感じさせる


黒い短髪でいかつい顔、体には無数の傷跡がある、背はそれほど高くないが


衣服の上からでもわかる筋肉質のムキムキボディはいかにも〈歴戦の勇士〉といった印象を与えた


左手と右足には義手と義足を付けていて足を引きずりながらその場を立ち去る後姿には独特の哀愁を感じさせた。


「凄い、アレが勇者カインと共に魔王と戦った戦士ボルドか……


何かオーラが違う。勇者カインの話が聞きたいな、これから会いに行っちゃダメかな?……」


皆がピリピリしている空気の中でレオだけが目を輝かせていた。


「お前馬鹿か、ここに何をしに来た?」


そんなレオの横から男の声がしたので振り向くとそこには一人の少年が立っていた


褐色の肌に銀色の髪、そして鋭い眼差し、一目でただ者ではないと感じさせるその風貌は他の生徒とも一線を画していた。


「君は?」


「俺の名はクロード・フォン・ウィルヘルム、南の国オスタード共和国出身だ」


「俺はレオ・カーマイン、キスロ公国の北部にあるドネアという村の出身だ、これからよろしく‼」


レオはフレンドリーな態度で右手を差し出すがクロードはそれに応じる事なくレオの顔をチラリと一瞥しフッと笑った。


「今の発言と態度……お前は随分と能天気な奴だな


まあ緊張でピリピリしているだけの奴等よりは余程度胸がありそうだが」


「ありがとうクロード君、これから一緒に頑張ろう。俺は勇者カインみたいになりたくてここに入った


この学校の学費は全て国からの補助で授業料が免除だから俺みたいな貧乏人には正直助かる……


っていうのも理由の一つだけどね」


「フッ、お前正直の上に馬鹿が付くタイプだな、それに勇者カインとは……


随分と大きく出たな。だが残念だが魔族を倒し世界を平和に導くのはこの俺だ、よく覚えておけ」


「わかった、これから競争だね。でもクロード君、かなり強そうだね⁉」


「一応入学試験は総合一位だったからな、この俺が人類を救って〈勇者カイン〉に続く英雄伝説になる


俺と同じ時期に入学したというだけで、後で自慢になるぜ」


「凄いね、クロード君、あの難関の入学試験で総合一位だって⁉」


「ああ、これが入学試験の成績表だ、嘘じゃない事がわかるだろ?」


 そう言ってクロードは入学試験の総合判定用紙をレオに見せつけた。


 【戦闘知識】一位 【戦術論】一位 【近接格闘】一位 【一般教養】一位



 【剣術実技】一位 【身体能力】二位  【総合判定】一位


「凄いクロード君、ほとんど一位じゃないか⁉」


「まあな、本当は全部一位のパーフェクトを目指していたんだけどな


まあそのくらいの目標が無いとここでのやりがいがないし丁度いい。


で、お前はどうだったんだ?」


「いや~クロード君の成績を見た後だと恥ずかしくて見せられないよ」


「俺と比べるからだろ、いいから見せてみろよ」


「うん、笑わないでね……」


レオは渋々ながら成績用紙を手渡す。クロードはそれをそっけなく受け取ると冷ややかな目でそれを覗き込んだ。


『【戦闘知識】百十二位 【戦術論】二百三十位 【近接戦闘】三十五位 


【一般教養】七十八位 【剣術実技】十七位……典型的な脳筋馬鹿か


それにしてもコイツこの成績でよく受かったな……』


クロードはその成績用紙を半ば呆れ気味に見ていた、だが最後の項目を見て愕然とする、


それは 【身体能力】一位 【総合成績】十三位 と書き記してあったからだ。


『馬鹿な……俺の身体能力を唯一超えた奴がコイツだと⁉


しかも他がこれ程酷い成績なのに身体能力だけで総合十三位にまで来たという事は


裏を返せばコイツの身体能力は桁桁違いという事だ……何でこんな馬鹿そうな奴が⁉』


クロードは驚愕の表情を浮かべレオをマジマジと見つめた


先程まで格下と思いナメ切っていた態度とは一変し、明らかに警戒


というより敵を見るような目で睨みつけていた。


「そんなに睨まなくてもいいじゃないか。そりゃあ君に比べたら酷い成績だけど


これでも一生懸命頑張ったのだぜ」


無言のままジッと見つめていたクロードだったが、しばらくしてようやく口を開いた。


「お前、名前は?」

「レオだよ、レオ・カーマインだ、て、いうかさっき言ったよね?」


「ああ、だがさっきはお前の名前を覚える気などサラサラ無かったからな……」


「酷い事をサラリと言うね、クロード君」


「ああ悪い、だがもう二度と忘れん、レオ、レオ・カーマインだな」


「じゃあこれからよろしくクロード君」


「ああ、俺の事はクロードで構わない」


「じゃあ俺の事もレオでいいよ……って、もうレオって呼んでいるね」


フレンドリーな態度で屈託のない笑顔を向けた。


レオは先程から握手の為に出していた右手を最後までひっこめることなく出し続けていた


その手を取りガッツリと握手するクロード


この後二人は良きライバル、そして良き友としてお互いを高め合う事になる。


全校生徒の前でボルドが入学の挨拶を済ませ、各生徒がゾロゾロと自分の部屋へと帰って行く


この〈ボルド教室〉は全寮制であり男子が西側、女子が東側の寮で共同生活を送る事になっていて


それぞれ二人一組の部屋が与えられる決まりである。


「しかしこれから三年も他人と二人一組の部屋で暮らすと思うとゾッとするぜ


いけ好かない奴だったら追い出してやろうかな」


「クロード、それはいくら何でも酷くないかい?これから一緒に切磋琢磨していく仲間じゃないか?」


「まだそんな甘っちょろいこと言っているのかよ、いいかレオ


ここにいる奴等は全員競争相手でライバルだ、ここは学校とはいっても仲良しグループを作る場所じゃない


他人を蹴落とすぐらいの気持ちでいなければいつまでも卒業できないぞ⁉」


「俺はそんな気分にはなれないよ、誰かを蹴落として上がるよりみんな一緒に上がって行けばいいじゃないか


ここに居る全員で卒業できればそれが最高だと思わないかい?


それにしても俺と同室になる人はどんなルームメイトなのかな……」


レオのそんな言葉にやや呆れながらも思わず口元が緩んでしまうクロード


「お前を見ているとやる気満々でここに来た俺が馬鹿馬鹿しくなってくるぜ」


二人がそんな会話をしながら寮へと歩いていると後ろから声をかけて来る人物がいた。


「ちょっと待ちなさいよ‼」


二人はその声に振り向くとそこには一人の少女が立っていた。


「アンタがクロード・フォン・ウィルヘルム?」


「そうだが、お前誰だ。俺に何か用か?」


クロードが警戒した目でその少女をジッと見つめた。


「私の名はリサ……」


リサと名乗る少女は両手を腰に当て、敵意丸出しの眼差しでクロードの方を見つめていた


歳はレオ達と同じぐらい、赤い髪を後ろで束ねていて整った顔立ちに切れ長の鋭い目


ドレスでも着ていればどこかの国の姫君と見間違える程の美少女なのだが


どうやら〈一緒にダンスでも踊りませんか?〉という雰囲気ではない様だ


「アンタが今回の入学試験で総合一位を取った男だと聞いたわ。


私は二位だったの……最初からトップを狙っていたのにアンタのせいでいきなりミソが付いたという訳よ」


「で、俺に恨み言でも言いにきたのか?


生憎だがそんな負け犬のいちゃもんをイチイチ聞いている暇はないのでな、サッサと失せろ」


「随分と辛辣なご挨拶じゃない、でも悪くない返答ね


いきなり因縁をつけて叩きのめす事に躊躇が無くなったわ


アンタみたいな奴なら遠慮なくぶちのめせるもの」


ギラギラとした視線を向けながら〈いつでもいいわよ〉と言わんばかりの態度で構えるリサ


そんな彼女の姿を見てクロードは思わず微笑を浮かべた。


『随分とわかりやすい奴が来たな。そうだよ、こういうヤツらが押し寄せて来るのがこの学校だ


ここで二位のこの女を一方的にぶちのめして俺の実力を示してやる


そうすれば今後俺に歯向かう奴はいなくなるはずだ、その為の見せしめには丁度いい……』


クロードがそんな事を考えていた時、二人の間に割り込む様にレオが立ちはだかった。

 

「止めろよ、二人とも。喧嘩はダメだよ、今日一緒に入学してきた仲間じゃないか⁉」

 

今まさに戦いを始めようかと緊張感が高まっていた中で場違いともいえるレオの言葉に思わず吹き出すクロード


リサも口を開けたまま唖然としてしまう。

 

「ねえ、コイツ何なの、アンタの知り合い?」

 

「まあさっき知り合ったばかりだが知り合いといえば知り合い……」


その瞬間、何か思いついたのかクロードが突然怪しい笑みを浮かべ口を開いた。


「おいそこの女、お前が俺と戦う資格があるか見てやる。今からコイツと戦ってみろ」

 

いきなり〈まずはレオと戦え〉と要求するクロード


唐突ともいえる提案に二人は驚きを隠せないでいる


とりわけレオは仰天し、アタフタと狼狽えてしまった。


頑張って毎日投稿する予定です。少しでも〈面白い〉〈続きが読みたい〉と思ってくれたならブックマーク登録と本編の下の方にある☆☆☆☆☆から評価を入れていただけると嬉しいです、ものすごく励みになります、よろしくお願いします。

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