勇者になりたい
ここは剣と魔法が支配する【世界レイヴレスト・トゥーラ】
人類と魔族がその生存権をかけた戦いを繰り広げて幾星霜、果たしてどれ程の時が過ぎたのであろうか……
そんな事すらも思い出せないほど果てしなく長く激しい戦いが続いていた
無数の人間と魔族の血と死が大地を覆いつくし、人々は〈絶望〉という名の二文字が常に頭をかすめつつも必死で今日を生きていた。
そんなある日の事、魔族のトップ〈魔王グレナガーデ〉は人類に対して一大決戦を挑むべく総攻撃を仕掛けてきたのである
いくつもの国が魔王率いる大軍の前に成す術もなく次々と飲み込まれていった
町は破壊され廃墟と化し兵や王族、一般市民に至るまで皆殺しにされた
魔王軍が通った後は憎悪の炎で何もかもが焼き尽くされすべての物が灰燼に帰した。
もはや人類には絶滅という運命しか待っていないのか⁉と思われた時、一人の男が立ち上がる
その名をカイン・ベルゲンディード。後に〈救国の英雄カイン〉と呼ばれる男である
カインは四人の仲間と共に〈魔王グレナガーデ〉の待つ魔王城へと乗り込んだ
そして凄まじい激闘の末、遂に魔王を倒す事に成功したのである
カインは世界の破滅を防ぎ人類を滅亡の危機から救ったのだ。
だがその代償は大きく、リーダーのカインを含む三人の仲間が魔王との戦闘で命を落とし
残る二人の内の一人も左腕と右足を失うという大怪我を負った
唯一無傷で帰還できたのは十七歳の魔法使いティアナ・エトワールだけという凄惨なモノだった
人々は魔王を倒し世界を救った勇者カインの功績を讃え
この魔王を倒した日を記念日とし【勇者の日】と名付け国民の休日とした
そして人類側で最も大きい国家【ローゼス王国】の居城〈メレス城〉の前に広大な公園を作り
そこに〈勇者カインの銅像〉と〈記念碑〉を立てたのである
それからというものその公園は〈勇者公園〉と呼ばれ人々に愛され続けた
この〈勇者カイン〉の英雄譚は世界中の人が知る事となり、辺境の子供ですら知らない者はいない伝説になる
子供達、特に男の子は皆〈勇者カイン〉に憧れ(自分もいつかは勇者カインの様になりたい)と夢見たのである。
そんな子供たちの一人にレオ・カーマインがいた
レオは戦いとは無縁の辺境の小さな村に母親と住んでいた
幼い頃に父を亡くし女手一つで育ててくれた母と二人暮らし
決して裕福な生活とは呼べなかったがレオも〈勇者カイン〉に憧れ、いつかは立派な勇者になる事を夢見ていた
そんなレオが手紙を右手に握り締め大声で玄関から入ってきた。
「母さん、母さん、聞いてくれよ。受かった、俺〈ボルド教室〉の入学試験に受かったんだよ‼」
合格通知の紙を片手に興奮気味にまくしたてるレオ
満面の笑みを浮かべながら溢れる歓喜を抑えきれず狭い部屋の中を走り回っていた。
「そうかい、おめでとうレオ……」
母はレオを祝福したがどことなく寂しそうな笑顔を見せた。
「何だよ、母さん、もっと喜んでくれよ、〈ボルド教室〉に入るのは本当に大変なのだぜ
入学試験の競争倍率は二十倍を超える難関だし、何といってもあの〈戦士ボルド〉に教えてもらえるのだよ
今からワクワクが止まらないよ‼」
複雑な表情を浮かべている母を尻目にレオは目を輝かせ全身で喜びを表す。
戦士ボルドとは勇者カインと共に魔王と戦った屈強な戦士である
その戦いで左腕と右足を失った為に現役を引退し、後進の育成を目的とした〈ボルド教室〉を開設していた。
だがレオの言う通りこの〈ボルド教室〉に入学するのは至難の業なのである
何せ勇者カインと共に魔王と戦った戦士から直々に教えてもらえるとあって開設一年目から応募が殺到し
厳しい入学試験に合格した者のみが入学を許されるという狭き門なのである
それ故に入学を許された者はいわばエリートと言っても過言ではなかった。
「レオ……ボルド様に教えていただけるのはとても光栄な事だとは思うわ
ただ〈ボルド教室〉は完全寮制だろ?貴方が居なくなると私は一人きりなってしまうから正直寂しくなるよ……
それにそこを卒業したら帝都へ行って最前線で戦う事になるのだろう?母さん貴方が心配でね……」
母子二人きりでずっと暮らしてきた為に息子がいなくなる事に寂しさを隠せない母
そして卒業後には魔族との戦いに身を投じる事になる息子が心配なのである。
「すまない母さん。でも俺どうしても行きたい、人々が平和に暮らせる為には誰かが戦わなくてはいけない
俺がみんなと母さんを守る、勇者カインのようにね」
目を輝かせ希望に満ちた息子の言葉を聞いた母は軽くため息をつきニコリと笑った。
「いつまでも子供だと思っていたけれど、やっぱりあなたも男の子なのね……
そういうところは死んだお父さんにそっくりだよ
じゃあ行っておいでレオ、体には気を付けてね、無理はしないで頑張るのだよ」
「ありがとう母さん。俺は絶対に死なない、必ず勇者カインの様になって帰って来るよ
母さんの自慢になる様な男になってみせるから」
しかし母はゆっくりと首を振った。
「カイン様はとても素晴らしくてご立派なお方だったけれど
魔王と戦い死んでしまわれた……
いいかいレオ。どんな無様でもいいから生きて帰って来なさい
手柄とか自慢とかどうでもいいから、必ず生きて帰ってきて。母さんはそれだけが望みだよ」
心配する母の思いをレオは軽く笑い飛ばした。
「心配性だな、母さんは。今は昔ほど魔族の勢いはないから大丈夫だよ
俺は死なない、そして必ず手柄を立てて母さんに楽な暮らしをさせてやるから待っていてくれ‼」
そう言い残し意気揚々と家を出たレオ。
この時はまだ十四歳。今はまだ怖いもの知らずで夢と希望に胸を膨らませながら、ずっと暮らしてきた実家と母に別れを告げた。
頑張って毎日投稿する予定です。少しでも〈面白い〉〈続きが読みたい〉と思ってくれたならブックマーク登録と本編の下の方にある☆☆☆☆☆から評価を入れていただけると嬉しいです、ものすごく励みになります、よろしくお願いします。