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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

意味が分かると怖い話『婚約破棄騒動を演劇にしたら、平民落ちした元王子が劇団の採用面接に来た』

作者: 騎士ランチ

「妹が子供生まれそうで手伝いにいく事になった。サブ、急ですまんが明日の採用面接はお前がやってくれ」


 俺の名はサブ。この劇団の座長補佐をしている。座長補佐といっても実態はほとんど雑用だ。重要な決定はいつも座長がしている。


 だから、俺はまず最初に面接についての段取りを聞く必要があった。


「妹さんが出産するのなら仕方ありませんね。でも、俺明日の面接の事全く分からないんで教えて貰えませんか?」

「ウム。明日の昼、今ぐらいの時間に採用希望者が二人ここに来る。一人はよっぽど変な事言わない限りは採用し、もう一人は何を言っても不採用だ。お前は二人に志望動機や特技とかの当たり障り無い事を聞いておけばいい」

「ナルホド」


 既に合否が決まっている、形式だけの面接なのね。これなら俺でもできそうだが、不採用決定してる子は可哀想だと思った。


「座長、不採用の方の子は何でわざわざ面接するんですか?」

「そいつは元王子だからだ」

「王子ってあの婚約破棄したバカですか?」

「そのバカだ!あいつ、事もあろうにこの劇団の面接に応募しやがったんだ!だからこの機会にじっくり説教してやろうと思ってな!」


 座長は顔を真っ赤にし、右のゲンコツを左手にバシバシ叩きつけながら怒りだす。座長の気持ちは分かる。俺達の劇団は婚約破棄した国を乱したバカ王子を後世まで叩き続ける為に結成されたのだ。俺は王子に直接会った事は無いが、国の次期トップになる予定の男が浮気して婚約者に冤罪掛けて横領までしていたと聞いた時はハラワタ煮えくり返ったものさ。


「という訳で、ワシはそろそろ妹の家に向かわなアカン。サブ、面接中に王子にムカついたら好きなだけ殴っていいぞ。ワシの分も込めてな!半殺しまでなら許す!」


 そう言って、座長は馬車で去っていった。いやー、明日が楽しみだなあ。平民になった王子が今どんな感じかも興味あるし、隙あらば面接官の立場を使って肉体的にも精神的にも殴り放題なのも楽し過ぎる。


 俺はいつもの三倍酒を飲み、一時間風呂に入って酒を抜き、ストレッチをしてぐっすり眠り朝を迎えた。





「シュッシュッシュッ、まだかなまだかな~、シュッシュッ」


 面接当日、俺はシャドーボクシングをしながら元王子が来るのを待っていた。待つ事四ラウンド、身体が温まりきったタイミングでドアがノックされた。


「し、失礼しましゅ。本日面接を希望していたアンドリューです。」

「失礼する!!私が来た!!」


 気の弱そうな小太りで角刈りの青年が弱々しい挨拶と共に入室し、その少し後に新聞や小説の挿絵で見たそのまんまな姿の王子が入ってきた。ターゲットを確認した俺は面接用の長机を踏み台にして王子の顔面にローリングソバットを放った。


「面接にはちゃんとした服で来いやー!後、なんだその挨拶は!」

「あべし!」


 平民落ちした自覚ゼロの王子は、壁に叩きつけられ動かなくなった。


「それでは面接を始めます。アンドリュー君、そこの椅子に座って」

「す、座れませんよ!人が倒れてるんですよ!大丈夫ですかー!」


 アンドリュー君は見た目通り真面目で優しいデブの様だ。王子なんかを心配し、頬を叩いて呼びかけ意識を確認している。俺がアンドリュー君の立場なら、看護するフリをしてニードロップしていた所さんだ。


「アガー!痛い!背中もお腹も痛いー!私が何故こんな目にー!」

「良かった、痛みで苦しんでるだけか」


 王子は軽傷だった事にホッと胸を撫で下ろしたアンドリュー君は俺の前に戻り、しかし椅子には座らなかった。


「アンドリュー君?椅子に座ってくれないかな?座ってくれないとオジサン面接始められないよ」

「いや、座りませんよ?」

「何でぇ?」

「何ではこっちのセリフです!め、面接に着ていく服を間違えただけの彼にローリングソバットするのを目の前にして安心して座れるわけないでしょう!」


 あー、そっか。王子コスのアホがマジ王子と知らないアンドリュー君視点ならそうなるわな。これはウッカリ。面倒くさいが、彼にも說明しなきゃな。


「驚かせて申し訳ない。しかし、そこで倒れているアホは王子なんだよ」

「確かに、劇のメインキャラの王子の格好ですね」

「いや、本当に婚約破棄して平民になった王子なんだわそれ。だから、いくら殴っても問題無い」

「そ、そんなはず無いですよ!だって…、その」

「うん、アンドリュー君の気持ちも分かる。普通は自分を叩く劇団の採用面接に来る訳ないもんな。でも、今日ここに王子本人が面接に来るのは確かな情報で、実際アホがここに来た。俺が殴りたいのは王子だけだから、アンドリュー君は安心して面接を受けてね♡」


 俺が優しく投げキッスすると、アンドリュー君はオドオドとこちらの顔色を伺いながら着席した。よし、王子のせいで予定時刻をオーバーしたが面接スタートだ。


「それじゃあ、面接を始めまーす。まずは自己紹介から行きましょう。俺はここの座長補佐をやってるサブ。サブちゃんって呼んでね。ハイ、次は君の自己紹介ヨ・ロ・シ・ク!」

「は、はい!僕の名はアンドリューです!両親が王宮勤めで、僕も小さい頃から王宮の仕事を多少見ていました。この劇団に入ったら知識を役立てたいです!」

「へー、王宮で働いた事があるのか。アレ?じゃあ婚約破棄したアホ王子は見た事ないの?」

「い、いえ、会ったこと無いです」


 そういえば、元王子は学校はサボり王宮の仕事もサボり卒業パーティまでの間ほとんど遊び回っていたガチクズと小説に書いてあったな。なら、アンドリュー君がこのアホの顔を知らないのも納得だ。


「はい、アンドリュー君の自己紹介は良くわかりました。じゃあ、次。お前もう回復してるだろ?死んだフリしてないで、この椅子に座れよっ!」

「タコス!」


 倒れたままの王子の足をパイプ椅子で叩くと、悲鳴を上げて飛び上がった。


「いーたーいーぞー!おい、面接官!貴様私に何か恨みでもあるのか!身に覚えが無いぞ!」

「お前に無くてもこの国の全国民にはあるんだよ。ハイ、どうせ不合格だけど、自己紹介よろ」


 俺が鼻をほじりながら促すと、アホは立ち上がって無駄に洗練された無駄の無い無駄な動きと共に自己紹介を始めた。


「フッ、誰だと聞かれたなら名乗ってやろう!私はオリバー!幼少より世俗に揉まれ、齢十八の時に過去の名を捨てオリバーの名を国王より頂いたのだ!それ以来、この近辺を拠点として活動していた所さんに、座長殿から劇団に来て欲しいと頭を下げられたのさ!見よ、このきらびやかな衣装を!」

「うるせー!」

「ミギャャャャ!!」


 過去のやらかしをカッコよく脳内変換するお花畑っぷりにムカついた俺は、アホの顔面を容赦なく殴った。


「これは座長の分!」

「ギエピー!」

「これは公爵令嬢の分!」

「ノッキン!ダメージノッキン!」

「これは王様と王妃様の分!」

「あひる!」

「そして、これが歪んだパイプ椅子の分だー!」

「ゲロイム!」


 馬乗りになり何発もパンチを叩き込む。やり過ぎとは全く思わなかった。こいつは、自分が馬鹿にされる為に設立した場所に、当時の姿と言動のまま呼ばれてもいないのにノコノコとやってきたのだ。つまり、先に喧嘩を売ってきたのは向こうであり、俺は火の粉を払っているだけである。


 アホ王子の歯が全部折れ、ぐったりとして動かなくなったのを確認した俺は、拳の血を拭い自分の席に戻った。


「えー、それでは面接を再開します。アンドリュー君の特技は…あ、アンドリュー君居ねえ」


 俺がアホの顔面を破壊している間にアンドリュー君は居なくなっていた。彼にはちょっと刺激が強すぎたのだろうか。まあいい、彼は合格が確定していたんだ。正直、アンドリュー君は人前に出せるルックスでは無いが、歴史的考察や小道具係としてならやっていけるだろう。座長もきっとそっち方面で彼を使うはずだ。その時は改めて歓迎してやろう。


「それじゃあこれにて面接終了〜。さて、後は人生の不合格者を片付けてと」


 黒いゴミ袋にゴミを詰め外に運ぶと、妹の出産から帰ってきた座長と鉢合わせた。


「座長、お疲れ様です。妹さんは大丈夫でしたか?」

「思ったより安産だったよ。で、面接は終わったのかね?」

「はい、王子が舐めた態度だったから即行生ゴミの刑に処しました。座長も一発やっときます?」


 俺はアホ王子の入ったゴミ袋を見せると、座長は華麗なタイキックでゴミ袋をソイヤッと蹴り始めた。


「ソイヤッソイヤッ!いやあ、突然面接の仕事任せて本当にすまんかった。王子の相手は大変だったろう?」

「長く話す程ムカつくのは分かりきってたので、最初から半殺しにしたから俺のメンタルは大丈夫です。でも、もう一人は怖がって途中で帰っちゃいました」

「そうか。ま、彼には明日ワシから謝っておくよ。話は変わるが、君から見て彼はどうだった?」

「ちょっとコミュニケーションに難がありますが、専門的な知識はあるみたいですし裏方ならやっていけるでしょう」


 俺が面接中に思った事を口にすると、座長は頷きながらゴミ袋にハイキックを放った。


「彼は有名なファッションデザイナーの息子でな、両親と共に数多くの作品を世に送り出した天才だ」

「そりゃあ凄い」

「そんな彼が独立してな、何とウチに応募してきたんだよ。断る理由なんて無いだろう?」

「ですよね!」

「だから、サブもオリバー君と仲良くしてやってくれ。ソイヤー!」


 ゴミ袋が耐久力の限界を超えて破れ、オリバーだったものが地面に転がった。


「王子あっちかよ〜」


 未来が真っ暗になった俺は泣いた。

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