ロンダートの災禍(1)
「いぇえーい!」
記念樹の並木の傍らでエイマが手押しの草刈り機を楽しそうに押している。セリナは刈られた雑草が散乱するのを箒で掃き集めていた。
「あんまり散らさないでよ、エイマ」
「ごめーん。でも楽しー」
親友の足は簡単には止まってくれない。諦めの溜息をついて雑草の破片を掃きよせていく。
「まだやってんのか、セリナ姉ちゃん」
コウヤがボールを小脇にしている。
「もう少し。掃除はすんだの?」
「教室だからな。人海戦術」
「邪魔しちゃダメですよ」
ザイハも追いついてくる。
やりだせばキリがない。時間を守るだけだ。
「ほどほどでいいわよ、セリナさん」
ハユミ先生が見回りにきた。
「あとは明日にしましょう」
「はい。エイマ、終わりだって」
「うーい!」
Uターンするとそこにフユキも駆けてきた。
「乗りたい」
「片付けるだけよ。倉庫までだけど?」
「うん」
「ササラも乗る?」
狭い草刈り機の上に二人を乗せていこうとする。さすがにそれはハユミが止める。
「こら、危ないからやめなさい」
怒った顔だが可愛らしいだけ。
「へーい。ダメだって」
「危ないって、フユキ」
こくこくと頷くと名残惜しそうに降りる。
(ちょっと暑いかも)
今日も抜けるような青空が広がっている。夏の気配が濃くなってきたのをセリナは肌で感じていた。
「教えてよ、タイキ先生」
名前に反応して振りかえる。
「校庭で教えられるようなもんじゃない」
「じゃあ、体育館で」
「ぼくもちょっと興味あるかな」
(あれはたしかタイキ先生の担任クラスの子たち。と……?)
見覚えがあるが、四人の学年はばらけているようにも見える。
「お兄ちゃーん!」
眼鏡の少年に幼年の子が走って近付いていく。
「ネリネ。ニッケも」
「あそぼー」
「うーん、どうしよっか……」
校庭のはずれの一角に先生が二人と十二人の生徒が集まっている。タイキを中心とした年もバラバラな集団に奇妙な縁を感じる。
「なんの話ー?」
エイマはなんの垣根もなく話しかける。
「先生に組術を教えてもらう話」
「おー、あたしも乗っからせて!」
「いいけど。ぼく、タマテ」
「あたしはエイマ。よろ~」
親友にかかればあっという間に仲間だ。セリナは苦笑する。
「来る」
ぽつりとフユキが言う。
「え、なに?」
「どしたの、フユキ」
彼は真っ直ぐに上を指差していた。見上げれば紺碧の空に一点の染み。飛行機かと思いきや、それはだんだんと大きくなってくる。
(え? えー!)
顎が落ちるかと思う。
空から降ってきたのは人の形をした巨大な機械だった。
◇ ◇ ◇
稲妻のように光の筋が走る。海に落ちたそれは図太い水柱を立てた。視界を妨げていた霧が収まると、海面からは水蒸気が立ちのぼっている。かなりの高温になっている様子だ。
(な……に!)
タイキは直感的に兵器だと感じた。
「せ……、先生」
クストが袖を引く。
「あれ……。あれがきっと!」
先の光は巨大な人型ロボットが放ったもの。その形は明らかに人を模している。そして若干腰高な形状。昨日、クストと見た荒い映像のそれだった。
「く……」
「異星人だ」
一瞬の迷いに捉われているとクストが断言する。
「異星人のロボットだったんだ!」
「うっそー! 異星人が侵略してきたの? なにそれ、どこの映画?」
「映画じゃない! 侵略でもない!」
(これは!)
よく観察すると形の違う何種類かのロボットが空を飛んでいる。光の筋は互いに撃ちあっている武器が発しているもの。
(戦闘だ。どうすればいい。落ち着け。生徒を守るんだ。なにが正しい)
「狙われているわけじゃない!」
地上に降っているのは流れ弾に過ぎない。
「逃げるぞ! 集まれ!」
「はい! セリナ!」
「あ、あぅ」
呆然自失という生徒もいる。
「落ち着いて。大丈夫だ。襲ってはこない。あっちにみんながいるだろう? 集まって避難するんだ」
「……はい」
「小さい子を助けてやってくれ。走るぞ」
もっと大きな集団になればある程度はパニックも収まる。群れの動物である人間の心理だ。誰かが統率すれば整然と行動できるはず。
「だあぁっ!」
校庭を光の筋が薙ぐ。穿たれた溝が爆発して土を舞いあがらせる。赤熱した粒が散って熱気を吹きつけてくる。横切るように赤く熱せられててらてらと輝く川ができあがっていた。
「しまった!」
他の生徒と合流する術を失ってしまった。彼らと校舎を分断するように土がガラス化した川が横たわる。必然、校舎から逃げだす生徒は反対側へと流れを作っていた。
「タイキ先生!」
半ば悲鳴のハユミの声。
「く。海側に出ます。みんな、走るぞ!」
「ネリネ、走るんだ! 頑張れ!」
「ふぅ、ひっひっ!」
幼年生の子が二人へたり込んでしゃくりあげている。さっきの攻撃で腰が抜けてしまったのだろう。
「クスト、幼三の子を!」
幼年生の子を指差す。
「妹と友達は俺に任せろ」
「お願いします」
「さあ、行くぞ!」
彼は幼年生の二人の少女を両脇に抱えた。皆をうながして最後を走る。ちらりと振りかえって誰も残されていないのを確認した。
(あっちには教師もいっぱい付いている。俺はまずこの子たちの安全を確保すればいい)
そう考えて海側の校門をくぐる。そこには昨日の帰りに見た金髪金眼の少女が待っていた。
「こっちこっち」
「逃げ場所を知ってるのか?」
「うん、こっちなのん」
タイキは手招きする少女を信じて走った。
次回『ロンダートの災禍(2)』 「選ぶのん、タイキ・シビル」




