上陸調査(2)
一見、普通の車に見えたがリュセルが作っただけに特別製だった。気密、水密は十分にあり、上陸は海中発進したライバーンが抱えて陸まで運ぶ形。本当はタイヤのない車も作れるんだそうだが、そんなものは目立って仕方ないので却下されたらしい。
「タイヤのない車とかクストが泣いて喜びそう」
エイマが笑っている。
「未来的だよな、具体的に。だが、案外制御が面倒くさいらしいぞ」
「そうでしょうね。浮揚高度から制動、旋回技術とか、ほぼ摩擦を利用できないんですから簡単じゃないのは僕でも解ります」
「仕組みはすぐ思いついても安全に使うにはいっぱい壁がありそうだもんね」
助手席のザイハが解りやすく解説してくれるので助かる。
「昔のマンガとか当たり前に飛んでたけど?」
「技術が追いつくほど現実の問題が露わになるものだそうですよ」
「ふぅん」
タマテは興味なさげに頷いた。
後部座席でエイマとの間に座るフユキが「面白いね」と微笑むのでおかしな反応もできない。彼の屈託のなさには当てられ気味。
「ところでタイキ先生は顔バレ大丈夫?」
面が割れているとしたら彼だけだ。
「リュセが隅々まで調べてくれたが指名手配はされてなかったみたいだ。警察と軍には手配されているみたいだが」
「そっちだけ気にしとけばいいのね」
「なんでだろう?」
疑問を投げかける。
「不都合なんだろうさ。巷を騒がせている不審宇宙戦艦に乗ってるのがダジェン人だとしたら政府はなにやってるのかって言われるからな」
「危険なのを放置してるって?」
「いや、異星人対策だろう。ダジェンはフォルセアの戦闘によって民間が被害を受けた唯一の国だ。実害を受けた市民はもちろん政府を攻撃したい勢力は不満をくすぶらせてる。そこへ異星人を退けたリシュ・クルに乗ってるのが同国人だったら?」
「旗頭に掲げたいですよね」
ザイハが同調する。
政府にとっては秘匿しておきたい事実だと聞かされる。緑の家にどんな意図があろうが、どこの誰が背後にいようが、メタリヤに逆らえないダジェン政府は受け入れられないだけじゃなく、露見するのも困る。国内に対抗可能な戦力があること自体が問題なのだ。
「という感じで、決して表沙汰にはできないのでしょうね」
ザイハが説明を締めくくる。
「そっかぁ。事実が知れたら、もしかしてぼくたちは英雄扱いされる?」
「一部の人間にはそうかもしれません。でも、危険は今どころではなくなりますよ?」
「どして?」
周囲が敵だらけの、今以上の状況なんて考えられない。
「彼らが欲しているのはリシュ・クルとライバーン、それに使われている技術です。僕たちみたいな子供なんて邪魔でしかない」
「消されちゃう?」
「そこまでいかなくても捕まっちゃうか」
タマテも納得した。
捕まることに変わりないなら現状維持が正解だろう。ましてや民間勢力になど幽閉されればどんな扱いを受けるか分からない。
「それだけじゃない」
タイキがハンドルを握りながら言う。
「俺たちは政府が困る事実を知りすぎた」
「あー」
「この前の先生の両親が人質にされている映像な、あれも残してある。公表すれば世論が動いて解放されるかもしれない」
彼女も「たしかに」と継ぐ。
「でも止めた。あれを公表すれば政府批判、異星人批判の論調が高まってしまう。総理も無視できないほどになって親父たちが解放されたとしよう」
「嬉しくないの?」
「その代わりフォルセアの同盟国であるメタリヤににらまれる。反異星人の国だと思われたら危険分子として処理されるかもしれない。最悪、占領作戦に打って出る可能性も低くない」
ダジェンの周囲はメタリヤ同盟国ばかり。陸続きで侵攻もしやすい。それどころか核ミサイルで脅されただけで降伏の選択肢しかなくなる。
「国内が乱れるのは本意じゃない」
タイキは厳しい顔。
「ましてやそれで犠牲者が出るのは絶対に避けたい。政府は隠したい。俺も表沙汰にはしたくない。そこだけはなぜか共通してるんだよ」
「おかしな話ですよね」
「先生の優しさがダジェンの人を守ってるんだよね」
エイマは完全にタイキ寄り。
「本当は公表したほうが君たちの両親の手掛かりだってつかみやすいはずなんだ。でも、それをしないのは俺の都合。すまないと思ってる」
「んじゃ、仕方ないかな」
「悪いな、タマテ」
(自分の家族をさておいて国民の利益を優先してるのかぁ。ぼくたちのことだけ考えてるわけじゃないんだ)
なにか引っかかるが、正しい選択であるのは彼女にも解る。
「あそこの人たちなんかは本当のことを言えば英雄扱いしてくれるかもしれませんけどね」
「やめとけよ、ザイハ」
車が峠を越えて下り坂にはいるとテントの群れが見えてくる。その向こうに見える街並みは破壊の色がまだ色濃い。彼らの居住地であり被害地区、そしてテントが被災者区画だった。
「着いたら話を聞いてまわろう。中には知り合いもいるはずだ。きっとなにか解るだろう」
「よーし、頑張っちゃうよ。居残り組のみんなのためにも」
「ただし、ひと塊になって行動な。もしものときは先生が守るから」
タイキの声掛けに皆が「はーい」と返事する。
(なにもなければいいけど、なにかあったときのタイキ先生の対応。それを見極めないとね)
タマテはよい返事をしつつそんなことを考えていた。
次回『上陸調査(3)』 「じゃあ、今どこに?」




