相剋するプライド(3)
隊長機に接近しようとするライバーンに、阻止すべく一機のフェルシムが割り込む。急停止したタイキの背後から組み付こうともう一機が襲った。
「見えてるんだよ!」
「くぅ!」
振り向きざまに手に持たせたビームガンを発射。肩から頭部へと撫でるように銃口を走らせると重粒子ビームが粉砕し、部品をまき散らしながら落ちていった。
「よくも!」
「こっちの台詞だ! 寄ってたかってきやがって!」
背中を見せてしまい羽交い締めにされる。別の一機がブレードを構えて上から迫るのへ足を振り上げながら背後のフェルシムの両手首を握った。
反動をつけて踵を飛ばし、斬りかかってくるアームドスキンの頭部を蹴り砕く。さらにその反動で背後のフェルシムの頭越しに後ろへとまわる。両膝で背中を蹴ると、結果的に極まっている肩を根本から折り取った。
「空中で格闘戦をするか」
「この距離が俺の本領なんでね」
ライバーンは小柄な機体だがパワフル。構造的にもフォルセア機より強度が高そうだ。タイキの持つ、テコの原理を多用した組術を用いれば関節を破壊することは可能。
(リュセがその気になればゲリラ戦は必要ないと言ったのはこれか。アームドスキンの間合いを詰めてくる戦い方は俺には好都合だからな)
しかし、それは敵手も覚ること。包囲は解かないまでも、白兵戦を挑んでこなくなる。どこを向いてもビームランチャーの黒い顎を眺める羽目になる。
(ところがそれは悪手なんだよな)
鹵獲が前提であれば次手に困る状態。
「抵抗するからこうなる」
集団で包囲していることを言っているのだろう。
「そんな難しい注文を付けているのではないだろう? お前たちに機材を提供したのがどの陣営か知りたいだけだ」
「敵国の妨害工作だとでも?」
「見るからにランナじゃない。だから困っている」
(いやに悠長だな。ここにきて交渉か?)
彼は周囲を見回す。
(しまった、足りない! 狙いはリシュ・クルだったか!)
海面すれすれを狙ってきた部隊がいない。引きはがされたのだ。
その部隊で緑の家を拿捕する。それだけでタイキは抵抗できなくなる。一石二鳥である。
「システム、リシュ・クルの位置を!」
『ナビスフィアで表示します』
包囲の一端を目指す。ビームを浴びせられて追い返され、彼は歯噛みする。これではラチが開かない。
「それならぁ!」
「む?」
ライバーンに海面ギリギリを舐めさせる。砲口を向けられたところで重力波フィンの出力をいっぱいにして旋回した。
重力場が海水を巻き上げて水の壁を作る。ビームは壁を突き抜けてくるが照準は曖昧。逆に海水を浴びせられたフェルシムは上昇するしかない。
「ここだ!」
「ぐぅ、抜かせるな!」
デレイフの指示はすでに遅い。ライバーンはソニックブームの尾を引きながら海面を疾駆した。前方には二隻の空母の艦影。
(あの下か?)
どうしてそうなったのかは解らないが、リシュ・クルは空母の下に潜っているらしい。ダジェンやメタリカの艦載戦闘機は遠巻きにし、フォルセア機がランチャーで下を示しているので間違いなさそうだ。
(やらせるかよ!)
潜行すると、緑の船体に威嚇するようにビームランチャーを向けるフェルシム。生徒たちの怯える顔が目に浮かぶ。
「お前らぁー!」
「なに!?」
「先生ぇー!」
怒声と悲鳴が交錯する中、ライバーンがタックルをしてフェルシムをさらう。勢いのまま海面を割ると、別のフォルセア機へと投げつけて衝撃させる。二機はもつれて飛んでいった。
「どいつもこいつもこんなやり方ばかり!」
格闘技といえど組術も競技は競技。正々堂々の精神の中で生きてきたタイキはなおさら怒りを覚えてしまう。
相手がやってるのは戦争なんだから彼の流儀に従う義理はない。そうおかしな手段ではないとは解らなくもないのだ。だが、ダジェン軍のやり方やフォルセアの戦術はどうにも気にくわない。
「いいかげんにしやがれ!」
『そうだぜ。怒れ、怒れよ、タイキ。お前もいいかげん本気になったらどうだ?』
「俺は本気だ、ライバーン! 全力ですべきことをしてる!」
心の声に答える。
『果たしてそうかよ? お前の本気はその程度じゃないはずだぜ?』
「はっきり言えよ!」
『その答えは口に出すようなもんじゃねえ。お前の中に眠ってるもんだ』
戦いの師は彼に優しく諭してくれるようなタイプではなさそうだ。どこに導こうとしているのかも解らないまま、コクピットに彼を縛ろうとする。
(違う。俺のしたいのはこんな泥沼の戦いじゃない。ただ大事な生徒たちを守り抜きたいだけなのに、どうして誰も彼も追いつめようとする。なにが悪いんだ)
理不尽でしかない。国体維持という題目があれば許されるのか? その中ですり潰されようとしている子供の未来はないがしろにされていいのか?
断じて違うとタイキの信条は語る。誰もやらないのなら彼がやるしかない。そのために授かった能力ならとことん使うまで。そのためにリュセルがやってきたなら運命に従うまで。
「来いよー!」
彼は吠える。
「戦って勝つことがあんたのプライドなら、守りたいものを守り抜くのが俺のプライドだー! そのためにならいくらでもこの命懸けてやる!」
「いい気概だ。自分も全力で応じよう」
「撥ねのけてみせる!」
(暴力で応じる姿勢をもう恥じはしない。それは生徒の目から自分を守ることでしかないからな)
熱く燃える意志を、タイキは吐息とともに吐き出した。
次回『相剋するプライド(4)』 「あんたら、もう退くに退けないんだな?」




