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ゼムナ戦記 英雄の条件  作者: 八波草三郎
第三話

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相剋するプライド(1)

 急速降下するデレイフ・クアンは原住民の空母の甲板上にいるリザードを確認する。有翼機の攻撃をものともせずこちらを見上げていた。


(策があると報告を受けたから降下を遅らせたのにやられっぱなしとは情けない)

 アームドスキン相手に原住民の戦力など当てにはしてはいけないが。

(時間をかけていられないんだよ。さっさと制圧してこの惑星を基地化しないと覚られるかもしれない。こんなとこでランナと交戦してたらいつ管理局が察知するか)


 最悪の事態を避けるために速やかな制圧を進めるのが彼の役目。どこから湧いたか解らないとはいえ、わずか一機のアームドスキンに手こずっている場合ではない。


「ターナ(ミスト)がない意味を忘れるな」

 精密射撃を容易にする。

「分隊は海面すれすれから攻めろ。潜らせるな。追い上げろ」


 海中ゲリラ戦をやられた戦闘データは分析している。二の轍を踏む気はない。空中戦に持ち込む。


「あの二隻には一応当てるなよ。メタリヤとか他の国々との確執は制圧を難しくするぞ」

「了解!」


 甲板上で戦闘に及ぶのはよろしくない。至近弾で追い立てようかと思ったが、呼応するように金色の虫の翅状の機関が閃く。翼を持つ蜥蜴が飛び立った。


「いいぞ。下を押さえろ」

 自ら不利な状況に飛び込む素人臭さをあざ笑う。

「取り囲んで鹵獲する。盾にとって緑の戦闘艦も浮上させるぞ」


 分隊のビームが海面を舐めるように走る。絶対に潜行させないという構え。十機分の弾幕なら十分だろう。

 上空にはデレイフを中心とした十機とそのさらに上に控えの十機。二隻で監視していたが、つれてきたのはドルセセフ一隻分の部隊だけ。それが彼のプライドである。


(これで鹵獲できなければ自分の名も地に落ちる。戦中に降格されるようじゃ終わりだぞ)

 後方に下げられようものならパイロットとして浮かぶ瀬はない。


 リザードが上昇に転じる。機影を追って射線も上がる。追い上げに成功したかと思ったが、急減速した蜥蜴は後方宙返りをした。海面との間に入り込んだ分隊の一機の背に蹴りを入れて水しぶきをあげさせた。


「なにをしている!」


 隙をついて海中に逃げ込まれる危険を察した彼は高度を落として急迫する。エテルギームにブレードを握らせて斬りかかった。


「逃がすものか!」

「逃げるか! お前たちこそさっさとキアズから退去しろ!」

「なに! しゃべれるようになっているだと!?」


 リフレクタを噛んだブレードが表面に紫色の波紋を浮かび上がらせる。半透過の力場の膜の向こうには黄土色の頭部。

 双眸の位置には横に刻み目のような筋が走り、その中央を割るようにレンズ状の真円のカメラアイが浮き出て黒く輝いている。それが余計に蜥蜴を思わせた。


「どうしてそうも早い。背後(バック)にはなにがいる?」

「そんなことはどうでもいい。後ろが気になるなら帰ってくれ。そっちの戦争に俺たちを巻き込むな」


(情況まで把握しているのか)

 渋い顔になる。

(未開の素人かと思えば急に凶暴になる。接近戦の名手に変わった次はこちらの意図まで読んでくるとは。侮れん。速やかに処理しないとなにが起こるか分からない)


 デレイフはリザードの赤く瞬くレンズアイが不気味でならなかった。


   ◇      ◇      ◇


(焦ってるな)

 タイキは相手の動きに焦燥を感じる。


 技術格差のある未開惑星の制圧など造作もないと思ったことだろう。ところが(したた)かなメタリヤに政治交渉に持ち込まれ同盟という穏便な方針転換を余儀なくされる。それどころか技術で凌駕する叛乱分子までどこからともなく現れた。


(いつ露見するか気が気じゃないんだな)

 フォルセアにしてみれば速やかに安定を図りたい。

(となれば、すでに管理局に通報済みなのはバラしちゃいけない。穏便なコンタクトで平穏な同盟関係を築いたと見せなくてはならなくなるからな。そのための強引な浸透作戦に舵切りしてしまう)


 厄介だと思われているうちはまだマシで、速やかな排除を必要と考えるようになると緑の家(リシュ・クル)への風当たりも激しくなる。彼一人ではしのぎきれない。


「意地を張るな!」

 斬撃と同時に警告を浴びせられる。

「そっちの内情も知れているんだぞ、タイキ・シビル! 他は女性一人に子供だというじゃないか。お前一人でなにができる」

「俺の意地なんかじゃない。守るべきは生徒たちの権利もだ。あんたらの同盟という名を借りた占領はそれをないがしろにする。させるわけにはいかないんだよ!」

「野蛮人扱いするな。原住民の生活は保障すると言っている」


 リフレクタの角度をずらして斬撃を流す。その隙に腕を極めようとするが即座に間合いを取ってきた。もう油断はない。


「反論を許さない暮らしなど!」

 未開人と見下されていればそうなるのは明白。

「結局は言論さえも弾圧して自分たちの都合のいいように変えていくつもりだろ? キアズはまだ宇宙に出ていく状態じゃない。放っとけよ」

「導いてやろうという善意が解らんか?」

「俺に負けて執着しているところに、あんたの本性が透けて見えてるんだよ、デレイフ・クアン」


 リュセルが侵入して拾ってきたデータから相手の名前を割り出す。刺激する一手。


「それがプライドだ。劣っているなど我慢ならないっていう考えがあんたを動かしている」

「どこで名を!」

「原住民に見くびられたくないから捕まえるのに躍起になってる」


(冷静になられたら対処が難しくなる。組術の試合と同じ。押したり引いたりの駆け引きは必要)


 タイキはデレイフ機との間合いを気にしつつ位置取りした。

次回『相剋するプライド(2)』 「せめて心配させないようにしないと」

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[一言] ほんやくコンニャクが役立ってますね!
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