守護者の自覚(2)
「電波通信を発してるのん」
リュセルの報告にタイキは眉をひそめる。
「今更話し合いでもしようってお誘いか?」
「呼びかけてきてるのん」
「受けられるんだよな」
正直に言って無駄な気がする。どうせ引き渡し要求を繰り返すだけ。しかし、生徒たちの前で心の狭い態度をとるのは気が引けるので応じる方向。
「答えろ、ロンダート学園教師タイキ・シビル。そこにいるのは分かっている」
通信パネルの相手はダジェンの軍服をまとっている。
「なんか用か?」
「速やかに浮上し投降せよ。その戦艦を引き渡せ」
「予想どおりの台詞すぎて落胆するぞ」
嫌味くらいは許してもらおう。
「問答無用で攻撃も可能なのだぞ。対艦魚雷には貴様らの宇宙戦艦の航行音をセットしている。一斉発射しても防ぎきれるのか?」
「ほぼ確実だな。なにせ人手も必要としないほどだから」
「はったりもいいところだ。何十本もの魚雷が集中しても耐えられるか?」
まだ異星文明の技術に地星の武器が通用すると信じてやまないようだ。たしかに頭の固そうな年代の指揮官ではあるが。
「試してみろ。それで諦めてくれるならこっちも好都合」
半分は本気である。
「意気がるな、若造」
「若さ故の冒険心なんかじゃないぜ」
「いつもそうだ、貴様ら教師という人種はな」
軍人らしくもなく脱線するのは恫喝が通用しない不満の表れか。指揮官に置くには冷静さが足りないように感じる。
「平和平和とお題目のように唱え、それがどれだけ貴重なものか知ろうともしない」
鬱憤の吐露としか思えない台詞だ。
「誰が守っているから平和が享受できているのか。現実から目を逸らして希望ばかりを語る」
「生徒を前にしているからだ。子供に夢を抱かせずしてどうして大人といえる?」
「そうやって夢だけを吹き込むから若者は我が儘ばかりを言うように育つ。文句だけは一人前で協調性の欠片もない新兵を育てるのにどれほど苦労していると思っているのか」
(そう言うあんたの文句が一番多い気がするんだがな)
タイキは内心思う。
「あんたの言う協調性は自分の命令を遵守する操り人形のことだろ? 部下とちゃんと向き合わないからそう感じる」
響くとも思えないが諭してみる。
「偉そうに御託を並べる。貴様らの癖だ。しかも、それを刷り込むために小細工を弄する」
「ずいぶんな言われようだな」
「事実だからだ。我ら軍人を悪と断じて糾弾する。存在するからこそ戦争が起こるとうそぶく。見下して自分を高潔に見せようとする。常套手段だ」
ここまでくると被害妄想に近い。
マスメディアにそういう傾向が強いのは否めない。彼らが利用するのは知識人とされる専大学校の教授陣だったりする。政府への攻撃の端緒として軍が槍玉に挙げられるのも少なくない。
この指揮官の鬱憤はそういう知識人に向けられたもの。それを広くとらえて教師という括りで見なしているのだ。敵を作ることで自己弁護を補完している。
「俺を責めるのは筋違いじゃないか?」
内心を読みとって指摘する。
「いや、最適だ。貴様は持説に背いて武器を取った。それが貴様らの本性だ。今度は我らが糾弾する番だぞ」
「無茶苦茶だな。好きに言ってろ。俺は生徒が守れれば他になにも求めない」
「マスコミの前で跪いて国民に謝罪させてやる。偉そうなことを言いながらお国を窮地に陥れて申し訳ないとな」
鬼の首を取ったかのような表情。
(いいかげんに気付け。子供たちに見せたくない大人像だぞ。そんなだから尊敬もされないし、歯向かれもする)
哀れに思えてきた。
「悪いが武装解除も投降もしない。手に届く範囲の生徒を守る唯一の手段だからな」
交渉を打ち切るのも潮時だろう。
「これを見てもそう言えるならいいだろう」
「なに!?」
カメラのアングルが変わると指揮官の横が大写しになる。船室の中には他に四人の人物がいた。
「親父! お袋!」
「自分の愚かさを呪え。一国の総理大臣たるお方に、わざわざ名乗って暴言を吐いたんだからな」
哄笑する指揮官の横にはタイキの両親であるゴロクとヤマナの姿。彼の部下らしき二人の兵士が拳銃を突きつけている。
「お前、そこまで……」
奥歯がきしむ。
「国家の安全を脅かす叛逆者に容赦などしない。これは貴様の過ちの報いなのだ」
「自分がなにをやっているか解っているのか? 守るべき国民に武器を向けているんだぞ、軍人が」
「軍人だからこそすべきことがある。一億一千万のダジェン国民を守護するためには数名の犠牲を払わねばならん」
口元に張り付いた笑いは悔しさなど微塵も感じさせない。
「愛国主義者の詭弁だな。どんな場合もやってはいけないことがあるのが解らないか。教師である俺がなにを捨てても生徒を守らないといけないのと同じように、お前は国民に武器を向けてはいけなかったんだよ」
「道理を解らん愚物が吠えるな。今すぐ投降しないと結果は知れてる。さあ、どうするのだ? かわいい生徒に親を捨てる姿を見せるのか?」
「終わってるぞ、あんた」
(だが痛いところを突かれてるのも事実。ここで親父たちになにかあれば生徒はどう思うだろう。自分を責めるんじゃないだろうか)
それは避けたい事態だ。
「親父……」
「間違えるなよ、タイキ」
ゴロクは眼光鋭く彼を見ている。
タイキは父の思いを正確に受け取った。
次回『守護者の自覚(3)』 「守護者の自覚ってやつを見せてやる」




